新撰組の想い人 ～幕末にタイムスリップしたオメガの行方～

第53話

「美味しかったですねー」

　慧は自分の腹をさすりながら満面の笑みを浮かべた。

　次はいつ甘いものを食べれるか分からないから、大福にぜんざい、ようかんや饅頭など店のメニューを一通り食べつくした。

「ああ、そうだな」

　土方は少々引き気味で言う。

　もともと土方はそれほど甘いものが好きではなかった。食べれてもせいぜい饅頭一つくらいで、それ以上は胃もたれしてしまうのだが、慧はまるでブラックホールの様に甘いものを吸い込んでいった。

　驚きを超えて、もはや呆れに近い。

「お前、細い癖に良く食べるんだな……」

「はい、甘いものは無限に食べれます。別腹なんです」
「そうか……」

　土方は頬を掻きながら呟いた。

店に長居しすぎたのか、いつの間にか夕暮れになっている。結局、慧の元いた時代に帰る手がかりは全く見つからなかった。

　しかし、抑制剤のピルは取り戻せたし、甘いものもたらふく食べることができたので良しとしよう。

土方と慧は、夕日を眺めながら新選組の屯所に帰っていた。

と、その時。

　前方から見知った顔の人物が歩いてくる。

「あれ、お菊さんじゃないかい？」

「近藤さん！」

　二人の前に現れたのは数人の隊士を引き連れた近藤だった。

「おう、トシか。何してるこんなところで」

　慧の隣にいた土方を見て、近藤は少し驚いたようだった。

「まさか……逢引きか？」

　二人を交互に見ながら近藤が小声で言った。しかし、慧はすぐさま否定する。

「ち、違いますよ！」

「……慌てているところが、もはや怪しいがな」

　
　近藤はすこし意地悪そうな顔でほほ笑んだ。
　
　慧は二の句が継げなくなり、口を閉ざす。


　確かに、近藤からすればそう見えるのかもしれない。

　しかし、近藤にだけは勘違いされたくなかった。

　自分が思いを寄せているのは近藤なのに、土方と逢引きをする関係だとは思われたくない。

　けれど、何といえば誤解が解けるのかも分からなかった。

　すると、慧の肩を土方がいきなり抱き寄せた。

「近藤さんの言う通り、逢い引きの最中だ。悪いがこれで失礼するぜ」

　そのまま慧は土方に肩を抱かれ無理やり歩かされる。

「ちょっと、やめてください」

　途中、慧がどんなに抵抗しようと土方は慧の肩から手を離さなかった。