新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

文字の大きさ
65 / 69

第64話

しおりを挟む





 慧の体から力が抜け落ち、手足がだらんと垂れた。



「おいっ」



 慌ててその体を支えた土方は、慧の体温が異常に上がっていることに気づく。



 土方は慧の額に手を当てた。



「こいつ、熱がある」


「そんなはずは……」


 沖田も慧の側により、頬に手を当てた。


「かなりの高熱ですね」



 息が絶え耐えになっている慧の顔を見つめながら沖田が呟いた。


「早く……、寝かせた方がいいですね」


「ああ」



 慧の体を持ち上げた土方は、急いで寝床へと運ぶ。


「お前、気づいてたか? 熱があったこと」
「いいえ、まったく」



 沖田は、手拭いを樽の上でしぼり、慧の額へとのせる。



「体を少し……、乱暴に扱いすぎたのかもしれません。反省してます」



「いや、それは俺もだ。どうも、こいつといると加減がきかなくなるんだ」



 土方がそう答えると、「分かります」と沖田が頷いた。



 二人が見下ろす男の顔は赤く染まり、苦しそうに呼吸を繰り返している。


 土方と沖田は二人して首を傾げた。



「この男は一体何者なんだ」と。









 土方も沖田も、ここまで一人の人物に執着したのは初めての事だった。



 けれど、その相手のことについて、知っている情報はほとんどない。分かっていることと言えば名前くらいだ。



 苦しそうに呼吸を繰り返す慧を見つめ、男たちはため息をついた。







   

 手のひらに伝わる温もりで、慧は目を覚ました。



 体がだるく、頭が痛い。視界もかすかに歪んでいる。



(あれ……ここどこだ……?)



 天井を見る限り、ここは元いた地下室ではない。光が入り込み、全体的に視界が明るい。ここに至るまでの記憶を必死に手繰り寄せている時だった。




「起きましたか?」



 上から降ってきた声に顔を傾けると、すぐ側に沖田がいた。



「えっ……なんで……」



「あなた、熱を出して倒れたんですよ」



「熱……?」



「あなたが勝手にここを抜け出したからといって、無理をさせすぎてしまいましたから」




 沖田の言葉を聞き、慧は意識を手放す以前の記憶を思い出した。



 途端に顔に熱が集まり始める。



「それよりも、手を離してもらっていいですか? このままでは、何をするにも不便ですから」




 沖田にそう言われ、視線を下に持っていくと、なんと、慧が沖田の手を掴む形で握りしめてしまっていた。



「えっ、あ、……すみません」



 寝ている内に何故か沖田の手を握ってしまったようだ。すぐに手を離すと、沖田は笑って樽につかっている手拭いを絞った。



「体を拭きましょう。そのままでは気持ちが悪いでしょうから」



「えっ、いいですっ、そんな」




 襟元に伸びてきた沖田の手を慌ててはらい、慧は首を横に振う。



「いいから」



 しかし、沖田に強引に押し切られてしまった。



「熱を出している貴方をいじめるほど、私は性格が悪くはありません」



 慧の着物を脱がせながら、沖田は優しい手つきで慧の体を拭く。




「華奢ですよね、慧さん」
「え?」




「ああ、土方さんから教えてもらいました。あなたの本当の名前……。それから記憶をなくしていることも。そうとは知らず、すみませんでした」




 沖田の謝罪に慧は目を丸くした。沖田が、こんな風に下からものを言って来るなんて想像もつかなかったからだ。











 それから、慧の熱が収まるまで沖田は慧の面倒を見た。その間、決して慧に手を出してくることはなく、食事の補助や風呂に入れない慧の体を丁寧に拭き上げてくれた。


 そして、何日か共に過ごすうちに、沖田の方から話しかけてくることも増えた。今日の天気や、隊士たちの話。外に出れない慧にとっては沖田の話がとても面白く、時代が違う人々の暮らしは、驚きや発見が多かった。





 一方、土方の方は中々姿を見せない。それとなく沖田に土方の事を聞いてみると、どうやら土方は遠方に行っているらしく、しばらく帰ってこないのだという。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

処理中です...