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第67話
しおりを挟む「本当に、行ってしまうんですか?」
「ああ。また数日で帰ってくる」
数日後、土方はまた遠方へ出向かなければならないという。近頃、攘夷派の行動が活発になっている為であった。
「行って来る」
隊服を正して、部屋を出て行く土方を見守り、慧はまた調理場へと向かった。
それから、事件が起きたのは、土方が留守にして三日ほどたった頃である。
真夜中だった。寝静まった新選組を狙って再び攘夷派の襲撃があったのだ。それも、前よりも数倍人数の多い襲来だった。
「なんだよこれ……」
新選組の屯所は、見るも無残なものだった。火が放たれ、次々に燃え移った建物は崩れ落ちていく。それは、春日が大切にしていた調理場も同じだった。
「消さなきゃ」
幸い、調理場はまだ火が広がっていない。慧は井戸の樽を持って、調理場へと走った。
しかし、火は広がっていく一方だった。けれど、慧はそれでもやめなかった。親切にしてくれた春日の為に、自分には何ができるのか。必死に樽に水を汲んで消火活動にあたっていた。
「慧!」
ふと、名前を呼ばれ振り返れば、土方が立っていた。隊服のところどころに血が付いることから、攘夷派とやりあってきたのかもしれない。
「ここはもうダメだっ、屯所を出るぞ!」
「でもっ」
「言う事を聞け!」
土方は慧の手を強引に掴み、走り出した。
慧と土方が逃げた先はとなみやの通りだった。
「俺には追手がかかっている。お前だけでもこの先に逃げろっ」
「逃げるって言ったって、どこに……」
ここの土地勘はないに等しい。やみくもに逃げたところで、結局道に迷うだけだ。
「い、一緒に行きましょうっ」
「だめだ、お前を巻き込みたくない……」
土方はそう言うと、目を見開いた。まるで、慧の後ろに今までにみたことがないものがあるみたいに、言葉を失っている。
「おい……、慧、後ろ……」
「え?」
慧が後ろを振り向くと、そこには、ネオンの町の景色が広がり始めていた。それは、屯所を逃げ出したあの夜に見た景色と同じもの。
「あ……、これって」
「いたぞっ! 土方覚悟―」
慧がネオンの町を見渡したと同時に、どこかで怒号のような声が聞こえた。
振り向くと、何人かの侍がこちらに一目散に向かってきている。
「逃げましょ! 土方さん」
慧は土方に向き直り必死に訴えた。しかし、土方はネオンの町を見上げ動かないでいる。
「何してるんですか! 早く……」
「俺は、目に見えるものしか信じない」
「え?」
「悪かったな。俺は、お前を信じる。これがお前が来た未来というやつなんだな‥‥。変なやつだとは思っていたが」
こちらに向かって走ってきている侍との距離が段々と縮まっていく。慧は焦って土方の名前を呼んだ。
「土方さん!」
その時だった。慧の襟首を掴み土方は唇を重ねた。
「お前は未来とやらに帰れ」
土方にどんっと、体を押された慧は、ネオンの町の一部に触れた。それと同時に、まるで竜巻に巻き込まれたかのように、目の前の景色が一瞬で消えていく。
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