あの時の答えあわせを

江藤 香琳

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3章

モヤモヤとした気持ち

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ふたりでいられる時間は限られている。

ラースにとっては、いまこの時も、砂時計のようにサラサラと時間が過ぎていく。


「さっそくだけど、そのスーツケースを僕の車のトランクにいれよう。今日、僕は車で来ているから助手席に座ってね、郁。今日は僕の行きつけのお店にご案内するよ」

ラースは、郁から大きなスーツケースを受け取り、心持ち足早に駐車場に向かう。

「あ、はい。ありがとうございます。普段から通っているお店に連れて行ってもらえるなんて、楽しみです」

予想していなかった突然の出来事に驚きつつも、ラースの後についていく。

「僕は自分の好きなテリトリーに、他人を立ち入らせたくない性分なんだけど、郁にはなんだか僕のことを知ってほしいって思ったんだ。それこそ、これから一緒に仕事をしていくわけだしね。今から行くところは、カジュアルなところだから、郁も気兼ねなく過ごせると思うよ」

ラースは、郁が自分の後を付いてきているか振り返りながら、にこやかに話しかける。

そんな中、突然ラースと出くわし、郁はキャパオーバーしていた。

何年経ってもなお、ラースの全てに惚れ惚れしてしまう自分がいるのを実感していた。

ラースの後ろをついて行きながら、郁はじっくりラースの姿を眺める。

学生時代よりも肩幅が広くなり、しなやかな筋肉がついている。デンマーク人男性は平均身長が高いが、その中でもラースは身長が高く、ひときわ目立つ。身長170cmの自分とは、もしかしたら15cm近く身長差があるかもしれない…。

けれど、くせっ毛でゆるくウェーブのかかった金色の髪に、薄緑色の瞳は昔と変わらない。

いまはもう、国内外でも有名人になってしまったからか、サングラスをかけていることが多いようだけれど、できればそのままの姿をずっと眺めていたい。

それに、ラースのプライベートな空間に立ち入れる喜びがじわじわと湧いてきていた。

長いこと忘れていた、胸がツンと苦しくなるような感覚が襲ってくる。

僕のこと知ってほしいとか、そんなこと言われると好きが溢れちゃうじゃんか。
この、人たらしめ。
ゴシップ誌から、あれやこれやを知ってるんだぞ……

「恋愛」感情となると、モヤモヤとした感情が湧き出てくる。

昔といまは違うし、これから仕事仲間としてやっていくのに、公私混同しそうな自分が怖い。

(相手はノンケなんだから、なにが起こるわけでもないのに……)

必死に恋愛感情を押し留め、素知らぬ顔でラースの車の助手席に乗り込んだ。

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