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3章
出会いは計画的に。
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「カオル!ようこそ、コペンハーゲンへ」
どんな雑踏の中でも、聞き分けられるこの声。
長身で人目を引く容姿の男が、郁に向かってにこやかに手を振っている。
(ラース!?? 会うのは明後日じゃなかったっけ。あれ、いや、なんでいるの。心の準備してないし!)
かろうじて、スーツケースは握りしめていたが、郁はその場から動けなくなってしまう。
そのかわり、サングラスを外したラースが、郁に近寄ってきた。
「あ、ラース•ニールセンさん。は、はじめまして。伊原郁です。メールでは何度かやり取りしていましたが、お会いするのはこれが初めてですね。こ、これからよろしくお願いします……」
「郁、どうぞよろしく。長旅でお疲れでしょう?もともとお会いする予定は明後日ですが、旅程は聞いていたので、初日の挨拶がてらディナーをご一緒にできればと思って、ここで待っていたんです。今日は駅の人出が多いので、すぐに出会えて良かったです」
表向き初対面同士のはずだが、人懐っこく話しかけてくる様子に、ますますテンパってしまう。
「ええ、そうですね。主要駅なので、沢山の人出だなと思いました。わざわざ迎えに来ていただいて…。しかもディナーまでお気遣いありがとうございます」
「いえいえ、予定あったかもしれないのに、僕が勝手におしかけちゃいました。それと、僕の名前は呼び捨てで構いません。ラースと呼んでください。これから、ずっと長いお付き合いになるんですから。そして、僕はちゃっかり郁って名前で呼んでるけどね」
「ええ、すでに俺の名前を呼んでくれていて、緊張していましたが、気持ちが解れてきました。それじゃあ、これからはラースさんとお呼びします。よろしくお願いします」
ラースには美辞麗句を並べて挨拶をしたが、郁のキャパシティはとうに超えていた。
(え、え、え!? このままディナーコースに突入なの?俺は、さっさとホテルにチェックインして、部屋着に着替えてグダグダするつもりだったのに…! 仕事の話ならまだ良いけど、食事しながら何を話せばいいのかわからない……!)
うー、想定してたスケジュールと心を整える予定が大幅に狂わされた……
心のなかで頭を抱えている郁だが、その一方でラースは念願のナマ郁に会えて、嬉しくてしょうがなかった。
自分がにやついていないか、心配になる。
『会うのは初めてじゃないくせに、郁はかわいいな~。緊張してるのか、おどおどしてるし。しばらく話を合わせてあげよう。あぁ、やっぱりかわいい……』
郁に対して、初めの接し方は気をつけなければいけない。けれど、ふたりでいられる時間は限られている。
「うん。こちらこそ。さっそくだけど、そのスーツケースを僕の車のトランクにいれよう。今日、僕は車で来ているから助手席に座ってね、郁。今日は僕の行きつけのお店にご案内するよ」
紳士的に、丁寧に。だけど、一歩踏みこんで。
どんな雑踏の中でも、聞き分けられるこの声。
長身で人目を引く容姿の男が、郁に向かってにこやかに手を振っている。
(ラース!?? 会うのは明後日じゃなかったっけ。あれ、いや、なんでいるの。心の準備してないし!)
かろうじて、スーツケースは握りしめていたが、郁はその場から動けなくなってしまう。
そのかわり、サングラスを外したラースが、郁に近寄ってきた。
「あ、ラース•ニールセンさん。は、はじめまして。伊原郁です。メールでは何度かやり取りしていましたが、お会いするのはこれが初めてですね。こ、これからよろしくお願いします……」
「郁、どうぞよろしく。長旅でお疲れでしょう?もともとお会いする予定は明後日ですが、旅程は聞いていたので、初日の挨拶がてらディナーをご一緒にできればと思って、ここで待っていたんです。今日は駅の人出が多いので、すぐに出会えて良かったです」
表向き初対面同士のはずだが、人懐っこく話しかけてくる様子に、ますますテンパってしまう。
「ええ、そうですね。主要駅なので、沢山の人出だなと思いました。わざわざ迎えに来ていただいて…。しかもディナーまでお気遣いありがとうございます」
「いえいえ、予定あったかもしれないのに、僕が勝手におしかけちゃいました。それと、僕の名前は呼び捨てで構いません。ラースと呼んでください。これから、ずっと長いお付き合いになるんですから。そして、僕はちゃっかり郁って名前で呼んでるけどね」
「ええ、すでに俺の名前を呼んでくれていて、緊張していましたが、気持ちが解れてきました。それじゃあ、これからはラースさんとお呼びします。よろしくお願いします」
ラースには美辞麗句を並べて挨拶をしたが、郁のキャパシティはとうに超えていた。
(え、え、え!? このままディナーコースに突入なの?俺は、さっさとホテルにチェックインして、部屋着に着替えてグダグダするつもりだったのに…! 仕事の話ならまだ良いけど、食事しながら何を話せばいいのかわからない……!)
うー、想定してたスケジュールと心を整える予定が大幅に狂わされた……
心のなかで頭を抱えている郁だが、その一方でラースは念願のナマ郁に会えて、嬉しくてしょうがなかった。
自分がにやついていないか、心配になる。
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郁に対して、初めの接し方は気をつけなければいけない。けれど、ふたりでいられる時間は限られている。
「うん。こちらこそ。さっそくだけど、そのスーツケースを僕の車のトランクにいれよう。今日、僕は車で来ているから助手席に座ってね、郁。今日は僕の行きつけのお店にご案内するよ」
紳士的に、丁寧に。だけど、一歩踏みこんで。
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