バトル・オブ・シティ

如月久

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牙をむくメガロポリス

5.メガロポリス昇格、そしてヨッシーが消えた

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 翌朝、リョウはスマホの着信音で目覚めた。午前七時五分だった。LINEの発信者は、思った通りヨッシーだった。
<メガロポリス一番乗り。だが、ゲームのルールが変わった。恐ろしい。だが、俺はやらねばならなかった>

 リョウは眠い目をこすりながら、何度もヨッシーのLINEを読んだ。念願の「メガロポリス」に辿り着いたのに、メッセージからは高揚感が全く伝わってこない。逆に悲壮感が漂っている。「恐ろしい」とはどういう意味だ。「やらねばならなかった」という言葉のニュアンスも理解できなかった。この時間に送ってきたということは、また徹夜をしたのだ。文面も何かしらおかしい。リョウは嫌な予感がした。
「とにかくヨッシーに会わねば」
 リョウは寝起きですっきりしない頭に鞭打って、すぐに着替えた。そして、部屋を飛び出し、ヨッシーの部屋に急いだ。あまりに一生懸命走ったので、登校途中の小学生が怪訝な顔つきで、リョウを見た。のんびり歩いたら20分ほどかかる道のりを、10分と掛からずに駆け抜け、リョウはヨッシーの学生アパートに辿り着いた。息を切らしながら、リョウはノックもせずにドアを開けた。
「ヨッシー、もうゲームは止めろ」
 リョウの声は、薄暗い部屋に吸収され、宙を漂った。ヨッシーの部屋には誰もいなかった。
 6畳1間のワンルームは、足の踏み場もないほどに散らかり放題だった。コンビニ弁当の殻やスナック菓子の空き袋、ジュースやお茶のペットボトル、雑誌、新聞、チラシ、そして埃をかぶった教科書―それらが全て床の上に散らばっていた。ヨッシーはもともときれい好きなタイプではなかったが、これほど荒れた状態は見たことがなかった。このゲームを始めてからの、すさんだ生活が偲ばれた。
 リョウは部屋全体に充満した饐えたような匂いにも閉口した。煙草とごみ、汗の匂いなどが入り混じった悪臭。ヨッシーはヘビースモーカーなのだ。山になった灰皿が置かれたテーブルの上には、そこだけ別の世界のようにパソコンが鎮座していた。パソコンは起動されたままだった。
 リョウが恐る恐る中を覗くと、ヨッシーが丹精込めて作り上げた「ヨシダ・シティ」は無残な姿に荒れ果てていた。リョウが不自然に感じたのは、その荒れ方だった。リョウも何度か街を破綻させたことがあるが、破綻した街からは人が消え、抜け殻のようになるのだ。しかし、今の「ヨシダ・シティ」は、ひどく破壊されていたのだ。ビルは崩れ落ち、道路は寸断され、橋があちらこちらで落ちていた。驚いたのは、街の大半が破壊されていたことだけではない。街の名前が「プレミアム・シティ」に変わっていたのだ。
 ヨッシーは「メガロポリス一番乗り」と言っていたではないか。最初に「メガロポリス」になった「ヨシダ・シティ」がなぜ「プレミアム・シティ」に変わってしまったのか。一体、街に何が起こったのか。そして、ヨッシーはどこに行った。
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