バトル・オブ・シティ

如月久

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1.闖入者

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「あなたたち、どなた」
 突然掛けられた背後からの声に、リョウとジャニスは飛び上がるほど驚いた。街づくりに熱中して、パソコン画面に釘付けになっていたので、その女性がヨッシーの部屋のドアを静かに開けたのにも気付かなかったのだ。女性は
代くらいで、身長は150センチ程度で高くないが、体格は良かった、つまり、少し太り気味だ。肩に派手な色使いのショールを羽織っていた。
「吉田君はどうしたの。今の時間は学校でしょう。男女2人で他人の部屋にこもっている時間じゃないわよね」
 おばさんは、ボロボロのTシャツに短パンというリョウのラフな服装や肌の露出部分が多いジャニスの開放的すぎる格好も気に入らない様子で、リョウとジャニスを交互にジロジロと見ている。だが、おばさんが訝るのも当然だ。今の二人に、このおばさんを納得させる答えを返せるはずはなかった。
「僕たちは吉田の大学の友人です。今朝、学校に行く前に誘いに寄ったら、いなかったので…」
 リョウは苦しい言い訳をした。
「吉田君を待つ間、ちょっとだけ大学の課題をパソコンで片付けていただけです」
 ジャニスも作り笑いをしながら、同じように言い訳をした。
「そうなの…」
 派手なショールのおばさんは、「信じられないわ」というような表情で、語尾を微妙に延ばしながら言った。
「ところで…」
 今度はジャニスが質問した。
「失礼ですが、どちらさまですか。吉田君の知り合いですか」
 おばさんは分厚い胸を張って答えた。
「ここのアパートの大家よ。最近の学生は、時々喝
 2人は声を合わせて相槌を打った。
「それじゃ、最近の吉田の様子はどうでした? 何か変わったところはなかったですか」
 おばさんは首を傾げた。
「そうねえ。吉田君は…、そうそう、何でも来週までに仕上げなきゃならない大事なレポートがあるんだとか言って、先週くらいからずっと部屋にこもってたわね。何日か徹夜もしてたみたい。顔色が悪かったので、根を詰めないで、たまには散歩でもしないと、体壊すわよって言ったんだけど」
「そうですか…」
 リョウがかなり落胆した表情をしたので、2人が親しい友人だということをかろうじて理解したのだろう。おばさんは警戒心を解き、「大丈夫、帰ってきたらすぐに連絡するように言っておくから、2人は学校へ行きなさい」と言った。最初の時とは違ったやさしい口調だった。
 リョウとジャニスは目を見合わせた。
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