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第三章 初めての陸地

◇11 貿易大国・ラモストエリス国

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 昨日、ヴィンスとキスをしてしまった。

 いや、ヴィンスにキスをされてしまった、が正解か。

 そのせいで昨日は一睡も出来なかった。明日、どんな顔してヴィンスと会えばいいのか全く分からない。

 どうしよう、どうしようと布団の中で考えているうちに、朝が来てしまった。


「……あ、あの、その、おはよ……」

「はよ」


 ……おいちょっと待て。ヴィンス、ケロッとしてるぞ。え、動揺してるの私だけ?

 まぁいきなりされて何事もなかったかのようにおやすみって別れたけどさ。ヴィンスは何も思ってないわけ?

 あ、まぁ、ヴィンスは私のことどう思ってるのか分からないし……女ったらしかもしれないし……

 と、とりあえず平常心で行こう、うん、平常心!

 ということで朝ごはんを作るためにキッチンに逃げ込んだ。何作ろう、和食行きたいところだけれど、もう醤油とかなくなりそうなんだよね。あとお味噌も。味噌汁、やめたほうがいいかな。

 まぁ、このあと国に寄るから買い物出来るし……でもその国に醤油とかあるか分からない。ヴィンスも和食関係のものは知らないものがいくつかあった。

 ただヴィンスが知らないだけかもしれないし、この世界にはないものなのかもしれない。そこは考えものだ。

 という事で、今日は洋食にしましょう。




「わぁ! 見えてきた!」

「あれが貿易大国、ラモストエリス国だ」


 船橋の水晶の通りに船を進め、ようやく目的地の国が見えてきた。

 の、に……


「……え、マジ?」

「まぁ、そりゃそうなるな」


 近づくにつれて、陸地から向かってくる船が数隻。もしかしなくても、私達に用があるってことだよね。


「入港許可が出てないし、どこの船かも全く分からない。となると、得体の知れない船を国の中に入れるわけにはいかなくなるって事」

「いやいやいや待て待て待て、じゃあこれどうなるのさ」

「ん? まぁ何とかなる」

「そんなんでいいの!?」

「俺が何とかするから、ナオは合わせてくれるだけでいい」




 なぁんて言われたのが約数時間前。

 そして、私達は何故かこんな所にいる。


「いやぁ、あんなに素晴らしい船が港に入ってきた時は本当に驚きました」

「我が日本王国自慢の船ですからね」


 お偉いさんの、屋敷の客間である。

 あれから、すんなりとラモストエリス王国に入ることが出来た。あれ? と思いつつヴィンスに付いてきたわけだけど……

 この屋敷は、ここの港を管理しているお偉いさんの邸宅。ヴィンスは副船長、私はクルーの一人としてここに来ていることになった。

 だけど、まさか我が故郷である日本が日本王国となってしまうとは思いもしなかった。


「して、船の補給と聞きましたが」

「まぁ、こちらにも少々事情がありまして」

「事情、ですか」

「ここだけの話……実は、我々は航海が終わり自国に帰る所だったのですが……帰れなかったのです」

「帰れなかった、とは?」

「あまり、言いたくはないのですが……自国がなくなってしまって」


 ヴィンスの話はこうだ。

 我々が航海から帰ってきた時には、もう自国がなくなっていた。国が燃えた跡が残っていただけだった。我々がいない間に誰かが攻めてきて、自国が堕ちたと生存者が教えてくれた。

 他の生存者を探し回ったけれど、見つかったのは数人だけ。一体どこがこの国を攻めてきたのか、そういった情報は得られずここにいるのは危険だと生存者を連れて自国から離れた、という訳だ。


「我々日本王国は島国で、本当に小さい国です。国民も数千人しかいませんから。ほら、あまり耳にしないでしょう?」

「確かにそうですな。ですが、あんなに立派な船を作れるほどの技術を持った国でしょう?」

「以前、我々の国に移住者が入国してきたんです。彼らは、沢山の知識を我々に与えてくださり、あんなに立派な船を作ることが出来たんです。ですが、自分達の素性などは明かしませんでした。今、彼らが生き残っているのかも分かりません」

「なるほど……でしたら、貴方方をこの国で保護いたしましょうか。きっと国王陛下もこの話を聞けば快く受け入れて下さるはずです」

「いえ、こんなに豊かな国なんだ。我々がいてはご迷惑がかかってしまいます。ですからすぐに出航するよう船長から言われていますのでご心配なく」

「ですが、」

「我々はこれから船長の知り合いのいる国に向かうつもりですから、補給さえさせてくだされば十分です」

「そうですか……でしたら、この国にいる間は安心していられるようこちらも尽力いたします」

「お気遣い、恐縮です」


 何という演技力。俳優を目指したら大スターになれると思う、うん。

 今、私は男装をしている。ここに来る前、ヴィンスと約束をしたのだ。


 1、船長が女性の私で、クルーが二人だけだという事を気付かれない事。

 2、船に上がらせない事。


 私達は生存者たちを船に待機させて代表で来たという設定。だけど船は男の仕事らしいから、私が女だとはバレてはいけない。

 と言っても、今私の船には生存者が乗ってる設定ではあるけど、生存者を荷物係にするだなんてって考えるだろうし。

 そしてもう一つ、船に搭載されている自動管理システムと自動防御システム、魔法道具、そして栽培スキルがバレてしまうと怪しまれてしまう。普通ではそんなもの存在しないものだからだ。

 それがバレてしまえば何が何でもこの国に留めさせられて最悪船をぶん取る所まで行くかもしれない。


「それで、お願いがあるのです」

「お願い、ですか」

「これを」


 ヴィンスが取り出したのは片手で持てるくらいの布袋。その中に入っていたものは、塩だ。


「航海中に手に入れたものです。我々には所持金があまりありませんので、これを引き取ってくださいませんか」

「これは、塩ですかな。ですが、私の知る塩とは色が違う様な……」

「それは特別に作られた塩だそうです。幸いにも、途中で手に入れる機会がありましたので、航海の途中に物々交換で貰ったんです」


 国の皆が喜ぶと思ったんですけど、ね。と悲しさを入れつつ微笑んだヴィンス。その顔を見たお偉いさんは、同情してくれた様子。いやぁ、流石大スター。


「それと、もう一つ」


 今度出してきたのは、ちょっと赤めの黒いものが入った瓶。


「ぶどうジャムです」

「ぶどうの、ジャムですか。聞いたこともありませんな。ですが色は赤ワインのような色に似ていますね」

「ぶどうと言えば、そのまま食べるかワインにして飲むかが一般的ですが、我が日本王国では独自の製法でジャムとして国民にも親しまれてきました。
 もしワインが苦手な方でも、そのまま食べる以外にジャムで楽しめますからね。パンでも、スコーンでも、多様な使い方が出来ますから」

「なるほど、ちょうど私の妻もワインが少し苦手でしてね。試食する事は可能ですかな」

「えぇ、試食用もご用意していますのでどうぞご試食ください」


 と、ヴィンスが小さい瓶を出した。お偉いさんは、使用人にパンを持ってくるようにと伝え、あと妻も呼んでくるよう言っていた。あら、試してくれるのね。

 連れてこられた奥様らしい女性は、うん、美人だ。マジで美人。これは男性の視線を全部一人占め出来そう。ヴィンスは……ストライクいった? ニコニコしてるけど、営業スマイル的な笑顔ではある。

 そうして用意されたパンに、ヴィンスが用意した試食用のジャムを付けて食べると……


「んっ!?」

「ん~♡」


 まぁ、大絶賛だった。こんなに美味しいものがこの世にあったとは、とか。言い過ぎな気もするんだけど。

 だってこれ、私が持ってたシリアルの中に入ってたレーズンを栽培して採取したぶどうで作ったものだし。しかも私ど素人なんですけど。我が日本王国独自の製法だか何だか知らないけれど、ただ検索して見た通りに作っただけなんですけど。

 なんか、複雑っちゃ複雑だな。


 その後、購入させてほしいと言われ、持ってきていた5つのぶどうジャムの瓶を売った。なんか、すっごい営業上手な大スターの俳優に見えた。

 見習ったほうがいいのか、これ。出来る自信はないけれど。

 そんな事を思いつつ、ありがとうございました、とお偉いさんの屋敷を出たのだ。

 いただいた袋の中身は、ずっしりと金色のコインが何十枚も入っている。よくある異世界のお金のようなものだ。一体いくらなのだろうか。


「こんなに貰っちゃっていいのかな」

「十分だ。思った以上に売れて意外だったけど。それだけナオの腕がいいって事だ」

「褒めても何も出ませんよ」

「そうか? 俺はナオの料理好きだけどな」


 イケメンにそんなどストレートに褒められると……照れるな。


「……凄い演技力でしたね」

「そうか? これくらい朝飯前だ」


 ……凄腕の詐欺師のようだった。まぁいいや、これで大体は買えそうだし。一体日本円でいくらなのか、それに相場だって分からないし。まぁヴィンスがいれば大丈夫かな。

 けど、心残りが一つ。

 実は、ぶどうジャムを入れていた瓶。あれ結構私気に入ってたんだよなぁ。お気に入りで集めてたやつなのに。まぁ、しょうがないっちゃしょうがない。まだ船にあと二つあるから別にいいけど。

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