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第一章 和風カフェあじさい堂
8.とりあえず開店です
「えーっと、じゃあ悠花さんにはフロアの方をお願いしようと思うんだけどいいかな?」
「はい。お客様を席にご案内して、オーダーをとって料理を運んだり下げたりすればいいんですよね」
「うん、そう。厨房の方はこれまでも基本的に俺が一人で回してたから」
「分かりました。手が空いている時は出来ることならお手伝いするので指示して下さい」
「了解。お客さんに何か聞かれたりとか分からないことがあったら言って」
「分かりました。気になることがあったらいつでも言って下さいね」
奏輔が、まじまじと悠花を見てほうっと息をついた。
「何です?」
「いやあ、昨日の感じからもっとぼうっとしとるかと思ったら意外とテキパキしとるんやなと思って」
「そ、そうですか?」
「うん。今まで来たバイトの子らはまず着替えるとこからモタモタしとるっていうか、何したらそんなに時間かけられるんやって思うくらい更衣室から出て来ん子が多くて」
「バイトの子って学生さんですか?」
「うん。この辺の大学生の子がほとんど。求人かけたら最初はびっくりするくらい応募があったんやけど、長く続けてくれる子はなかなかおらんくてなー」
分かる気がする。
このズケズケした話し方に気をとられて今まで気づかなかったけど、奏輔はかなり整った顔立ちをしている。
キリッとした眉に黒目がちの、切れ長の目。
通った鼻筋と引き締まった口元。
短めの黒髪も爽やかでよく似合っている。
若い女の子がここでアルバイトをしようとする志望動機に十分なり得ると思う。
魅力的な異性のいるバイト先となれば、身支度に時間がかかるのも無理はない。
好意を持っている異性の前で少しでも綺麗でありたいっていうのは、古今東西、普遍の女ごころだ。
「言ったことしかやらんのはまあイマドキの若い子やからしゃあないとしても、やること遅いし、間違っとるし、手動かすより口動かしとる時間の方が長いし」
──イマドキの若い子って……あなたもまだ二十代でしょうに。
「それでちょっと注意したらすぐ泣くし、かなわんわ」
それはどうだろう。奏輔の「ちょっと」は世間一般の基準とはかなりずれているような気がする。
そう言えば、さっきのお茶席でもおばさまたちが「バイトの子が続かない」と話していた気がする。
若い子が居ついてくれないから、祖母みたいなご近所のつてを辿って沢野さんみたいな年頃の人にパートに来て貰っていたということだろうか。
「今日のおすすめみたいなのはありますか? お客さんに聞かれることあると思うので」
メニューをぱらぱらめくりながら尋ねる。
「ああ。そやな。今日は定食のメインはアジの南蛮漬けと鶏の照り焼き。パスタは揚げ茄子とベーコンの和風パスタ。あ、でもサーモンが日持ちせえへんからこっちのアボカド丼押してほしいかも」
「了解しました」
「デザートは和三盆ブリュレが結構自信作」
「確かに。美味しそう」
メニューはA4サイズの白い紙にメニューの名前と写真が印刷されたシンプルなものだった。
「これ、写真って石和さんが撮ったんですか?」
「うん。俺がデジカメで撮ったやつやで」
「ふうん」
「何? 何か変?」
「いえ。変じゃないですけど……」
「けど?」
「いえ別に。それよりお店のなか見てきていいですか? テーブルの配置とか。物の置き場所とか一通り見ておきたいので。あ、席は全席禁煙でOKですよね? 電話は鳴ったら取って大丈夫ですか。予約って受け付けてます?」
「あ、ああ。ちょい待って。ええっとまずはこっちから見て貰おうかな」
「はい。あ、メモとペンお借り出来ますか?」
「ええと、じゃあこっちのこれ使って……」
「はい。お借りします」
飲食店のアルバイトなら大学時代に経験がある。
接客の仕事なら百貨店でしっかり叩き込まれたマナーと、外商部のお客様の多種多様なご要望に応えてきた経験がある。
祖母に知り合いのお店のお手伝いをいきなり押しつけられたと思ったからこそ、最初はオドオドしてしまったけれど、これは仕事だと割り切ったら俄然、しゃきっと背筋が伸びて、やりやすくなってきた。
それから開店の時間まで、悠花はレクチャーを受けながら細かくメモをとった。
開店時間の17時になったので、表の準備中の札を引っ繰り返しに行く。
よくあるプラスチックの白い札をくるっと返して「営業中」にする。
(せっかく可愛いお店なんだからこれももうちょっと可愛いものにしたらいいのに。木目調の札にするとか、せめてフォントだけでも毛筆風にしてみるとか)
さっきのメニューもクリアファイルに、ただお皿を真上から撮っただけっていう写真が並んでいたし、店の外観やメニューは素敵なのに、どうにも雑というか愛想のなさが目につく。
奏輔のキャラクターそのままと言えばそのままなんだろうけど、なんだかもったいない気がするが、今日限りのアルバイトの自分が口を出す筋合いでもないだろう。
そう思いながら悠花は、メモ帳をエプロンのポケットにしまった。
「はい。お客様を席にご案内して、オーダーをとって料理を運んだり下げたりすればいいんですよね」
「うん、そう。厨房の方はこれまでも基本的に俺が一人で回してたから」
「分かりました。手が空いている時は出来ることならお手伝いするので指示して下さい」
「了解。お客さんに何か聞かれたりとか分からないことがあったら言って」
「分かりました。気になることがあったらいつでも言って下さいね」
奏輔が、まじまじと悠花を見てほうっと息をついた。
「何です?」
「いやあ、昨日の感じからもっとぼうっとしとるかと思ったら意外とテキパキしとるんやなと思って」
「そ、そうですか?」
「うん。今まで来たバイトの子らはまず着替えるとこからモタモタしとるっていうか、何したらそんなに時間かけられるんやって思うくらい更衣室から出て来ん子が多くて」
「バイトの子って学生さんですか?」
「うん。この辺の大学生の子がほとんど。求人かけたら最初はびっくりするくらい応募があったんやけど、長く続けてくれる子はなかなかおらんくてなー」
分かる気がする。
このズケズケした話し方に気をとられて今まで気づかなかったけど、奏輔はかなり整った顔立ちをしている。
キリッとした眉に黒目がちの、切れ長の目。
通った鼻筋と引き締まった口元。
短めの黒髪も爽やかでよく似合っている。
若い女の子がここでアルバイトをしようとする志望動機に十分なり得ると思う。
魅力的な異性のいるバイト先となれば、身支度に時間がかかるのも無理はない。
好意を持っている異性の前で少しでも綺麗でありたいっていうのは、古今東西、普遍の女ごころだ。
「言ったことしかやらんのはまあイマドキの若い子やからしゃあないとしても、やること遅いし、間違っとるし、手動かすより口動かしとる時間の方が長いし」
──イマドキの若い子って……あなたもまだ二十代でしょうに。
「それでちょっと注意したらすぐ泣くし、かなわんわ」
それはどうだろう。奏輔の「ちょっと」は世間一般の基準とはかなりずれているような気がする。
そう言えば、さっきのお茶席でもおばさまたちが「バイトの子が続かない」と話していた気がする。
若い子が居ついてくれないから、祖母みたいなご近所のつてを辿って沢野さんみたいな年頃の人にパートに来て貰っていたということだろうか。
「今日のおすすめみたいなのはありますか? お客さんに聞かれることあると思うので」
メニューをぱらぱらめくりながら尋ねる。
「ああ。そやな。今日は定食のメインはアジの南蛮漬けと鶏の照り焼き。パスタは揚げ茄子とベーコンの和風パスタ。あ、でもサーモンが日持ちせえへんからこっちのアボカド丼押してほしいかも」
「了解しました」
「デザートは和三盆ブリュレが結構自信作」
「確かに。美味しそう」
メニューはA4サイズの白い紙にメニューの名前と写真が印刷されたシンプルなものだった。
「これ、写真って石和さんが撮ったんですか?」
「うん。俺がデジカメで撮ったやつやで」
「ふうん」
「何? 何か変?」
「いえ。変じゃないですけど……」
「けど?」
「いえ別に。それよりお店のなか見てきていいですか? テーブルの配置とか。物の置き場所とか一通り見ておきたいので。あ、席は全席禁煙でOKですよね? 電話は鳴ったら取って大丈夫ですか。予約って受け付けてます?」
「あ、ああ。ちょい待って。ええっとまずはこっちから見て貰おうかな」
「はい。あ、メモとペンお借り出来ますか?」
「ええと、じゃあこっちのこれ使って……」
「はい。お借りします」
飲食店のアルバイトなら大学時代に経験がある。
接客の仕事なら百貨店でしっかり叩き込まれたマナーと、外商部のお客様の多種多様なご要望に応えてきた経験がある。
祖母に知り合いのお店のお手伝いをいきなり押しつけられたと思ったからこそ、最初はオドオドしてしまったけれど、これは仕事だと割り切ったら俄然、しゃきっと背筋が伸びて、やりやすくなってきた。
それから開店の時間まで、悠花はレクチャーを受けながら細かくメモをとった。
開店時間の17時になったので、表の準備中の札を引っ繰り返しに行く。
よくあるプラスチックの白い札をくるっと返して「営業中」にする。
(せっかく可愛いお店なんだからこれももうちょっと可愛いものにしたらいいのに。木目調の札にするとか、せめてフォントだけでも毛筆風にしてみるとか)
さっきのメニューもクリアファイルに、ただお皿を真上から撮っただけっていう写真が並んでいたし、店の外観やメニューは素敵なのに、どうにも雑というか愛想のなさが目につく。
奏輔のキャラクターそのままと言えばそのままなんだろうけど、なんだかもったいない気がするが、今日限りのアルバイトの自分が口を出す筋合いでもないだろう。
そう思いながら悠花は、メモ帳をエプロンのポケットにしまった。
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