古都奈良の和風カフェ あじさい堂花暦

橘 ゆず

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第二章 さっぱり夏豚汁

17. さっぱり夏の塩豚汁

  二時にお昼のお店を閉めてから、夕方の営業が始まる五時半まで。
 お昼の営業の片づけと、夜の準備をする。

 洗い物と店内の掃除が終わったら三時頃一度、私は家に帰って一時間半の休憩をとる。
 この点でも祖母の家の離れを借りられて本当に助かっている。

 近いのはもちろんだけれど、休憩の度に実家に戻って母にあれこれ言われるんじゃ全然気が休まらない。

 四時半少し前にもう一度、出勤すると店内はお出汁と醤油の煮えるいい匂いに包まれていた。

「こんにちはー。奏輔さん。お疲れさまです」
 勝手口から声をかけると、中から奏輔さんの
「おかえりー。お疲れさん」
 という声がかえってくる。

「おかえり」と言われるたびに少しくすぐったい気持ちになる。

 お昼の間、奏輔さんは休憩をとりつつも夜のメニューの準備をしている。
 
 あじさい堂の夜は、三種類のメインメニューから一品、汁物を一種類、それに値段に応じて小鉢やデザートがつくセットメニューがメインになる。

  今日のメインは、夏野菜の揚げ浸しと、アジの南蛮漬け、ゴーヤと夏野菜の味噌マヨ炒めの三品だった。

 汁物は、豆腐とネギのお味噌汁と、もう一品は豚汁。
 
 こんな真夏に豚汁? と思ったけれど、奏輔さんの作るそれには定番の大根、人参。里芋の他にオクラとトマトが入っていた。

「味付けは味噌じゃなくて、出汁に塩と生姜汁、あとは薄口しょうゆちょっと垂らして仕上げに粗びき胡椒」

 大根の皮をスルスルと剥きながら奏輔さんが説明してくれる。

「へえ~。珍しい。私食べたことないです」
「夏にはさっぱりして結構いけるで。こういう暑い時こそ熱いもの食えって言うしな」

 確かに、エアコンが欠かせない最近の夏はうっかりしていると冬より体が冷えてしまうことがある。

 ぽかぽかの汁物は夏バテ防止にも良さそうだ。

「あ、お花、ここに置いてもいいですか?」
「おう。ありがとう」

 奏輔さんの許可をとって、祖母の家で借りてきた花器に活けた花をカウンターの隅のレジの横に置く。

 ひまわりをメインにブルーのデルフィニウムと白のカーネーションをあしらった夏らしいアレンジだ。

 外商時代にお客さまの奥さまがやっているというフラワーアレンジメントの教室に、勧められて断れずに通っていたのが思わぬところで役に立った。

「おお。可愛いやん。それ。悠花さんが活けたん?」
「はい。下手でお恥ずかしいんですけど」

「ええ、綺麗に出来とるやん。ああ、それも謙遜か」

「いや、そうじゃなくて……ああ、もう」
「まあ、ええやん。そういう控えめなとこも悠花さんのええとこなんやし」

「そうですか……」
「そうですよー」

 さらっと言って奏輔さんは、鼻歌まじりに揚げびたしに入れる茄子を切っている。

 奏輔さんのこういう言いたいことを言って、マイペースなのにもだいぶ慣れてきたけれど、面と向かって照れるようなことを平気で言ってくるのにだけはまだ慣れない。


 五時になったので、私は表の準備中のプレートを営業中に引っ繰り返した。

 これは前の白いプラスチックのプレートから、百円均一のショップでみつけた木目調の札に書道の段もちの祖母に筆で書いて貰ったものだ。
 
 同じく気になっていたメニュー表は、ネットで手作りアルバムセットというのをみつけて木目調の表紙に黒の台紙のものを選んで注文し、そこに和紙風の紙に和風のフォントで印刷したメニューと名前を張りつけてみた。

 どちらも些細なことだけれど、奏輔さんはとても喜んでくれて常連のお客様にも評判が良かった。

 そういった一つ一つのことが、自分がここにいてもいいという保証を貰えたようでとても嬉しかった。
感想 1

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みんなの感想(1件)

hikaruko
2020.11.29 hikaruko

暖かくて、ホッコリしてて、今後の展開が楽しみです。
メニューの写真や、お店の感じを ドンドン二人でアレンジして、もっと もつ 和カフェが 人気になって、仕事に、恋に、前向きになっていったら、良いのになぁ~。って、思いながら、読ませてもらっです!

次の更新!
お願いします~☺️

2020.11.30 橘 ゆず

感想ありがとうございます!

奏輔さんはちょっとヒーローとしては難ありですが(^^;)
言いたいことをあんまり言えない悠花といいコンビになってくれたらと思っています。
今後とも良かったらよろしくお願いいたします。

解除

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