Jet Black Witches - 4萠動 -

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第18話 G−LOC 〜 帰国直後ⅻ

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 ジンがいた場所付近を向くと、そこには透明な何かに覆われた楕円形のような領域があった。そしてそれに包まれるように、まだ気を失ったままのV国諜報員2名の他に、ソフィアは愛娘の確かな姿を見つける。

 その透明な何かには、いくらか取り除いたのだろうが、まだまだ沢山残る剥き出しの爆発の破片が痛々しく突き刺さっていた。

 そんな娘の姿を瞳に映すソフィアは、頬を激しく揺らし始める。今は意識はなくとも、生きて、5体満足でそこにいてくれた嬉しさ。自分ではどうにもできなかったジンの危機を救ってくれた感謝の気持ち。

 止めどなく涙が溢れかえり、一歩ごとに速さを増して、ソフィアは駆け込むように辿り着くと、覆う肉厚の柔らかそうなシールドを捲って、マコトを抱きしめる。

 その肢体の全身を見渡すと、マコトの目は涙にまみれ、開いた口からも唾液が溢れて、首も手足も、おそらくすべての関節が力なくダランとしている状態で、そんな悶絶した愛娘の姿はただただ痛々しくソフィアの目に映った。想像を絶したであろう苦痛を察して、ソフィアは「痛かったのね……ズズッ」と瞳を揺らす。

 今はあまり息をしていないが、まだ時間はほとんど経過していない。そして何よりしんの鼓動から弱々しいが生きていることがわかる。「すぐよ。今癒やすわね」と癒やしを掛け始めながら、ソフィアはマコトの全身を診始める。

 と、すぐにソフィアはその異常さに気付き、急ぎ涙を拭って目を見張る。

「ななな、なに? いったい何をすればこんな姿に?」

 感傷に浸っている場合ではないことを胸に刻むと、ソフィアは自身の打ち震える心を強引に抑え込み、両手のひらでその両頬を強く叩く。

 バシーーン!

 マコトは、息絶え絶えの状態だけではない。顔面は蒼白。それ自体もかなり異常だが、それよりも何よりも、手足がはち切れそうなほどに酷く腫れ上がり、激しく内出血している状態だった。そこへジンが所感を加える。

「おそらくG-LOCという状態だと思うんだ」
「Gロック? それは何?」

――<解説>――
―― 頭から足の方向にGがかかるとき、血液は下肢へと移動する。
―― 
―― G:重力加速度(単位 m/s²)。単位時間あたりの速度の変化率のこと。
―― ・1秒間にどれだけ速度が増すかを表す。
―― ・常に重力がかかる地球の重力加速度を基準に通常の静止状態が1Gとなる。
―― 
―― 人間には心臓があり常に血液を体中に送り出し回収するポンプの働きをする。
―― 
―― 垂直方向に強いGがかかるとき、血液は手足、その末端へと溜まる。
―― ・Gがかかり続けると、心臓に血液が戻らない状態、
――  即ち心臓から送り出す血液もなくなるため、脳に血液がいかなくなる。
―― 
―― この状態が継続し、脳血流が低下して失神を招く状態をG-LOCという。
――  (G-LOC:G-induced loss of consciousness)
――  ・この状態は大変危険で、ときに死に至ることもある。
―― 
―― その手前に起こる症状には以下があり、G-LOC回避の判断兆候ともなる。
―― 
―― グレイアウト:脳血流低下によって視覚障害が現れる現象。
――  ・視野の色彩がなくなり灰白視症グレイアウトと呼ばれる。
―― 
―― ブラックアウト:さらに進行すると、網膜血流が遮断されて視覚を失う現象。
――  ・黒視症ブラックアウトと呼ばれる。
―― 
―― これらの現象はきわめて重大な事故につながりかねない。
―― このため、その防止策として戦闘機のパイロットでは
――  ・下腹部から大腿部を圧迫する「耐Gスーツ」を装着する。
――   これにより、下肢への血液貯留を抑えることが可能となる。
――  ・高Gのかかる負荷時間を5秒以内とする。
―― などの方法がとられる。
―― 
―― ちなみに航空機が宙返りループする場合のGは4~5G程度。
――  ・訓練されたパイロットでなければブラックアウトする可能性は高い。
――  ・それ以上の高Gは訓練されたパイロットでも耐Gスーツなしでは困難。
――  
―― 国内のジェットコースターなどでは最大4Gを超えるものも存在する。
――  ・瞬間最大とはいえ、心臓に不安がある場合、乗らない勇気も重要。
―― 
―― またジェットコースターではない、回転系のアトラクションでも、
―― 高Gではないが、延々とGがかかり続けるものも存在する。
――  ・この場合も、心臓に不安がある場合、乗らない勇気も重要。
―― 
―― 前述のG-LOCの起こるメカニズムからも想像できるように
―― 1.5~2G程度の低いGでも、長時間継続すればG-LOCは起こる。
―― 
―― そして60度のバンク角で水平旋回する場合のGは2Gとなる。
――  ・前述のとおり、高Gでなくとも、延々と旋回し続けるのは危険を伴う。
―― 
―― また、F-15などの戦闘機の最大Gは9Gと言われている。
――  ・そしてそれを駆使する戦闘機パイロットは耐Gスーツありでも
――   8G超過は危険領域となる。
―― 
―― なお、高Gの戦闘行動などは航空機は推力を失い自ずと危険域を脱する。
――  ・しかしF-15などの超高出力エンジンは延々と推力を維持する。
――   そんな超高Gに絶えうる時間は人間である限り、2桁の秒数は厳しい。
――   即ちパイロットが自らの意思で回避しなければ1分と経たずに
――   その人生の幕を下ろすことになる。かなりシビアな世界とも言える。
―― 
――<解説終わり>

「簡単に言うと、Gで血が下がって脳に血が行き渡らない状況だと思う。だが、放っとけば最悪死に至るかなり危険な状態だと思う」

 何もかもが急かされる今の状況を鑑みてか、G-LOCへのソフィアの問いに、ジンはざっくりの説明で返す。「死」というワードはソフィアの旨に強く刻まれ、その顔つきも真剣度を増すが、今は状況理解が必要なため、さらに尋ねる。

「つまり……今の急務としては、血液を心臓まで戻す必要があるってこと?」
「まぁ、そうなんだけ……ど……」

 気が急いて仕方ないソフィアはジンの返事に食い気味に疑問をぶつける。

「いえ、これ、どうやったらそんなことができるの? 内出血しているってことは血管から漏れ出してるってことでしょ? 医者でも難しいんじゃ? やるとしたら戻るまで待つしかなさそうだけど、そんな悠長に待ってたら命の危険も。それかマコちゃに障害残ったりするんじゃ……ああ、病院なら輸血ができるのか。でもここにはそんな……」

 一頻り、早口で自論を展開するソフィアだが、ソフィアの知見や能力に期待していたジンだったから、現状打開の糸口を掴めないことがわかり、ジンは肩を落とす。

「そう。そこなんだ。ソフィアでもどうにもできないってことか。一体どうすれば」

 愛娘、マコトを救える時間的猶予はそれほど残されていない。生きてはいるが、脳がほとんど動いていない状況。それは放置すれば命を落とし、対処したとしても時間が経過すれば計り知れない障害を残す可能性を秘めていた。当然諦める選択はないから、二人は躍起になって思考を凝らし続ける。

 そんな苦境、緊迫する重々しい空気の中、ふとシエラが口を開く。

「あのー、それ、私なんとかできるかもです」 
「え? どうやって?」

 ソフィアは差し込まれた言葉に驚き、その方法をせっつくように尋ねる。必死な形相のソフィアだったから、シエラは怯みがちに答える。

「あ、説明するのは難しいのと今はそう猶予はなさそうな気がするから、実際にやりながらでいいですか?」
「そ、そうよね……」

 まだ、シエラが為そうとすることの詳細は見えてこないが、今はその可能性に縋る思いで、ソフィアは落ち着きを取り戻しつつ、シエラのやり方を暗に促す。

「それに私の場合は流れを整えるだけなので、うまくいったところからソフィアさんの治癒の力を施してもらえると……」

 すると、シエラの返す言葉は、説明には不十分な内容ではあるが、この会話からこれから行うことに繋がるイメージの取っ掛かりを掴めた気がするソフィアは、顔の曇りがやや晴れる。

「そ、そうなのね。でもなんとなくだけど、何をしたいかは少しわかった気が……早速お願いね」
「はい!」

 シエラはマコトの心臓付近から下肢へ向かうあたりに手をかざし、その手のひらの向きを微妙に変化させる。すると血液にそっと流れる弾みのような力が加わるのか、滞りを見せていた血管がじんわりと活動を始める。

 この状態はあまりに軽微で表面にはまだ何も表れないが、透過的にマコトの身体を診ていたソフィアはその初動の変化に気付く。

「ほぉぉぉ……」っとソフィアは感嘆を零すが、周囲にいるジンたちにはよくわからずイルやヴィルジールとともに顔を見合わせ首を微かに横に振る。しかし、よくわからずとも、ソフィアたちの反応が良い傾向のものだとわかるから、施術部と互いの目線を交互に見合わせ黙って頷きを交わしながら、仄かな嬉しさを滲ませ黙って動向を見守る。何故かそこには妙な一体感が芽生えているのだった。

 続けざまにシエラは、僅かずつだが、素早く絶え間なく、そして細かく満遍なく、下肢の方向に部位をずらしていく。

「なるほど。そういうことね。でもシエラさん、あなた凄いのね」
「いえ。私にできることは流れを整えるくらいなので」

 そうして部位は下半身に移行する。ここからが内出血で腫れ上がっている部分だ。そこから心臓にかけて、既に戻りの血液が活動を開始しているから、それにより吸い出されるように内出血で漏れた血液も血管へ戻ろうとするのか、僅かずつだが内出血の痛ましさもやや和らぐ色合いへの変化を見せ始める。

「こ、これは! なるほど。こうやって滲み出た血液も戻ることが可能なのね」
「はい。でもここからが肝心なところだと思います。私が整える血液の流れが負の圧力で吸い上げる方向にあると思いますが、一度内部で出血して滲み出た血液はうまく元に戻れないと思うからです。ここでソフィアさんの癒やす力が必要だと思うんです。ここが多分重要なところ。ソフィアさんの出番です」

「うん。たぶんわかってる。私の力で毛細血管の末端側から……」
「はい。私にはその力がないし、当然やったことがないから想像でしかないのですが、羊飼いが羊を追い立てて集めていくような感じで……」

 ソフィアは毛細血管の毛細の末端側を可能な限りきめ細かく捉えイメージし、その細かな部位ごとにピンポイントで血管の元方向へ追い立てるように癒やしをかけていく。

「うん。そうね。そういうことね」
「はい。癒やす行為が僅かずつでも戻す効果を期待できるなら、私の引き戻す勢いと相まって、ソフィアさんの追い戻す流れがうまく機能するんじゃないかと思うんです。毛細血管はあまりにも無数にあるから難しそうですが、そんなこと、できますか?」

 もう既に部分的にかけた癒やしの影響変化を捉え、その微妙なかけ具合を試行錯誤で調整を進めているソフィアだった。問題は如何にその部位だけに絞った癒やしとできるかのようで、そこを間違うと血液の退路を遮断してしまうことにも繋がると、やりながら学んでいく。

「おぉぅ! なるほど。完全に理解したわ。うん。できそうよ。治癒の力が及ぶとき……確かに血をもどそうとする動きが僅かだけど見て取れるわ。うんうん羊飼いの導く役ね。上手いことをいうわね」
「いえ……」

 かなり神経を使う作業となるが、愛娘の未来を閉ざさないために、かつてないほどの集中力を発揮しながらミクロなピンポイント癒やしを矢継ぎ早に進めていく。

「そうね。膨大な数の毛細血管なんてまったく認識できないけど、うまく意識しながら丁寧に治癒させていけるなら、細胞が治癒する勢いは滲み出た血液も戻す効果がありそうに思えてきたわ。それに完全に戻らなくてもその数が減らせるだけでも回復にはプラスになりそうね」
「はい。仰る通りです。さすがはソフィアさんです。私と違っていろんな知識があるからか、理解が早くて助かります」

「あら~……でも」

 謙遜とともにソフィアを褒め称えるシエラ。ソフィアも普通ならおだてられれば気も緩みがちとなるが、今が正念場と、気合を入れ直し、それよりも感謝の念が強く勝るシエラの功績に短く褒め返す。

「そんなことはないわよ。凄いのはシエラさん、あなたよ。じゃあ続けましょ!」
「はい!」

 そうして、下肢、特に足の太ももから下のパンパンに腫れ上がった状態は徐々に引いていき、それに追従するように、次第にマコトの顔色もいつもの肌色へと、血色を取り戻していく様子を実感する。

----
 
 ときは車爆発直前に遡る。

 ソフィアは、異変の初動を感じ取りジンを探し始めたその直後、その異質な空気はマコトの意識を揺り動かし、パチリとまぶたを開くと即座にこぼれる言葉……「パパ?」

 と、すぐにソフィアとマコトはジンの姿を捉える。

「いた! ジン」「パパ!」

 共に意識を失い今現在のジンの行動の子細は知らない二人だが、得体の知れない焦燥感に肝を冷やしながらも、一瞬のちに捉えることができた安堵の混じる声で二人はそう叫ぶ。

 が、叫んだ次の瞬間、ジンの姿の向こう側に一閃の光が走り、収束する。

 カッ!!

 ソフィアは離れた位置のその様相を、理由わけもわからぬまま見過ごすことしかできなかった。

 しかし、マコトは、半日少し前の出来事でもある、ジンとともに交わした空戦でのやり取りや、ひりつく敵の攻撃に晒された数々のホットな経験と、何よりも別行動で自分が目を離した隙に、ジンを失いかけた記憶がマコトを鮮烈なまでに突き動かす。

―― もうあんな思いはイヤだ!

 考えるより先に、マコトはジンに降りかかる何かから護るべく手を突き出しオーラを展開する。冷静に考えれば堅固なシールドかもしれないが、今の状況は少し離れた位置で何かが破裂しそうな予感がしたこともあり、無意識に柔らかな楕円形の塊として向かわせた。堅固なシールド状態では空気抵抗に阻まれることと、それを感じたからこその流線型なのだろう。

 そして今既にそれは起こってしまったこと、即ち、光放たれたこの瞬間は既に遅きに失している、そう感じたマコトは自らも動かす。以降はマイクロ秒の粒度のなかで、激しく奮闘するスローモーションのようなマコトの様相だ。

―― 間に合わない! 自身も動いて後押しするしか……

 この瞬時の判断で、マコトは自ら纏うオーラごと移動させる力を付与し、先行する流線型のオーラをさらに加速する。

―― グゥゥッ、Gが半端ない。ぅぅぅ……ブラックアウトしそう……ダメだ……負けるな!

 特に0からの加速は凄まじいGを帯びる。短時間とはいえ瞬間最大30Gを超える負荷がマコトを襲う。

―― そういえばGスーツが必要って言ってた。
―― 足が痛い……締めなきゃ……でも間に合わない?
―― ……だけど緩めちゃだめ……
―― もっと加速しないと間に合わない……もっと……もっと……

 ジンを襲う爆発物の放つ初弾の光は鳴りを潜め、今本弾であるエネルギーが炸裂しようとする直前だった。

―― 意識が……よく見えないけど……あ、この人影はたぶんパパ。
―― 手前に飛び込んでる。
―― まだ無事だ。
―― 良かっ……あ、次の光が……間に合えっ……

 先行していた流線型のオーラがジンの横を通過する。

―― そこで広がれ! パパを護るように……

 マコトのオーラはやや柔らかい円状に広がると、そこで空気をはらみ、なおかつ爆発物の放つエネルギーでやや押し返される。

―― 良かった。
―― そのままパパを護って……
―― 痛い……目も見えなくなってきた……
―― うまく行ったかな? ……
―― 今度こそ守れたかな……
―― このオーラ……今、パパの横? たぶん。
―― なら、大丈夫だった?
―― 良かっ……うげっ

 ドンッ

 それはマコトが自身の展開したぶ厚い柔らかいシールドにぶつかった音だった。

 ジンは横目に見えたマコトの姿に驚き、そのままぶつかった柔らかいシールドごと、爆発で押し返される。

 シールドに押し返される形で、倒れているV国諜報員に覆いかぶさることが叶ったジンは、すぐに向きを変え、マコトを抱き寄せる。

「マコト!」

 ジン自身もシールドに護られたとはいえ、その前に小さいがさまざまな飛散物を背中に受けている。そのダメージは小さくなく、意識が遠のく。なんとかマコトを抱き寄せながら。

…………

 ほんの1、2秒のことだが、意識を飛ばしていたジンは、状況はまだ終わっていないまでも、爆発時の喧騒ほどではなくなっていたことを肌で感じながら、ゆっくりと意識を取り戻す。腕の中に抱えるマコトを抱きしめ、その姿を確認する……と、自身が助かったこと、いやまたも愛娘に命を救われたことを自覚する。

 それはマコトの状態が酷すぎたからだ。

「マコト! 大丈夫か? マコト?」

 マコトは顔面蒼白でほとんど息をしていない。そればかりか腕や足が内出血でパンパンに腫れ上がった状態で、明らかに尋常ではないことがわかるため、ジンはマコトを揺らすことはなく、声だけで呼び覚まそうと試みた。

「これは一体! そういえばさっきの瞬間。あの短い一瞬でマコトがしてくれた、というのなら、これはとんでもないGをくぐり抜ける必要があるはず……」

「話で聞いたことしかないが、これはおそらくG-LOC。そうなら危険だぞ!」

 そう言いながら、辺りから聞き覚えのある声が聞こえだすことに気付く。

「あ! ジ、パパ! 居た! 見つけた! ちょっと待っててね」

 見つけてくれたのはイルだった。そして少し離れたところにはソフィアの声。ジンは今しなければならないマコトへの対処で、周りの助力も得られることを知って少し落ち着きを取り戻す。

「はっ! 惚けている場合じゃない! マコトの一大事だ。時間がない! ソフィアはどこ? あ、そうだった! ソフィアは記憶がまだ……」

 こんなときに頼れる存在なはずのソフィアだが、記憶を失っていては知恵も力も満足に揮える状態にないことをジンは思い起こす。

 イルもソフィアの記憶が戻ったことをそこに居なかったジンはまだ当然知らないはずだと思い返すと、教えたくて仕方ない衝動に駆られるが、一息おいて嬉しげに話し出す。

「へへん! ソフィーの記憶なら戻ったよ? それもたぶん完全にね」
「え? ほ、ほんとか? 良かったぁ……え? 完全ってどういうこと?」
「あ、まぁその辺りは説明すると長くなるし、直接話せばきっとわかるはず。ソフィーのところへ行こっ? たぶん昔の記憶まで全部だと思うし、もうキレッキレだよ?」
「え? あ、ああ、わかった」

 ソフィアの記憶回復は嬉しいことで、今のマコトの回復にも絶大な力を発揮してくれることが期待できるから重ねて嬉しすぎることだが、イルの言葉に引っかかりを憶えながらひとまず理解した旨を返すジン。

 そうしてイルに連れられ、ジンはソフィアにマコトの一大事を告げる。
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