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夏休み編

ソコはオトナなんですね・・・

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「ひまつぶしにつきあえ」と言って、いきなりぼくをベッドに押し倒してきたのは、幼なじみのキイちゃんだ。

 キイちゃんはひきこもりだ。
 なぜだか突然、この世のすべてがおもしろくなくなって、せっかく一緒に入った高校も不登校のまま夏休みを迎えていた。

 キィちゃんの担任に頼まれてプリント類と課題を持って、おとなりのキィちゃんの部屋をたずねてみれば、これである。

 いきなりベッドに押し倒されて、ぼくにはワケがわからない。

「ひまつぶしって、何すんの……?」

 部屋の蛍光灯のあかりを背にしたキイちゃんの顔は、薄暗くてよく見えない。

 唇になまぬるい何かが触れる。
 それがキイちゃんの唇だということに気がつくまで数秒を要した。

 息苦しさにキイちゃんを押し退けようとしても、まるで岩が乗っかったように動かない。
 ひきこもりで青白い顔をしているくせに、何でこんなに力があるんだろう? いや、たんにぼくが非力なだけか?

 事実、180センチをゆうに超えるキイちゃんに比べ、ぼくは170センチに届くか届かないか。この差はわりと大きい。

 キイちゃんの舌がぼくの腔内に入るとれろれろと動き回り、最終的にはぼくの舌に蛇のようにからまった。
 ぢゅうっ、とつよく吸われると、舌先に甘いしびれが走った。

 キイちゃんとぼくの唾液が混じり合ったそれを、ぼくは嫌悪感もなく飲んでいたけれど、急にはた、と我に返った。

 ――これって、ぼくのファーストキスじゃない?

 ぼくはキイちゃんの胸板を叩いた。
 キイちゃんは不満げな顔をしながら唇を離した。赤く染まった頬と唾液まみれの唇がやけに艶かしい。

「なんだよ?」
「ひ、ひまつぶしって、もしかして、これ?」

 キイちゃんが何を今更、と言った顔でうなずく。

「ぼく、初めてなんだけど」
「オレもだよ」
「出来るの?」

 キイちゃんはさあ? と首をかしげる。

「出来なかったら出来なくても、オレは全然かまわねぇよ」

 ほんとにひまつぶしなんだな……。

 ぼくはむかしからこの幼なじみに甘いという自覚がある。だから、キイちゃんがいいんならいいや、と思った。

 幼なじみが久しぶりに自分から行動を起こすことに――こういうことは想定外だったけれども――、ぼくなりにうれしかったのかも知れない。
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