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第一部 過去の罪
タヱの思惑
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「話があるのだけれど」
ある日の夜、タヱは徳重の部屋を訪れた。
「こんな夜更に、何か用ですか」
文机の前に座り、読んでいた書物から視線をそらすことなく、徳重は母に問いかける。
いささか德重の顔には、母をうとましく思う色がにじんでいた。おそらくこうしてタヱが息子の部屋を訪れては愚痴や小言をこぼしていくのは日常茶飯事らしい。
今日も面倒な話を聞かされるのかと思うと、正直、憂鬱な気持ちになる。それも昨日話したことを今日も繰り返すなど、同じ話を何度もするのだから困ったものだ。
すでに日付が変わった午前二時。今から母の相手をすると、床に入るのは何時になるだろうか。
タヱは徳重の側に座った。仕方がなく德重は読んでいた書物を閉じる。
「美夜子のことだよ」
母の言いたいことを察した徳重は、またそのことか、と辟易とする。
美夜子のことでタヱが相談を持ちかけてきたのは、これが初めてではない。
「あの子は障がいのある子ではないのかい? 顔つきだって、あきらかにおかしい」
徳重は腕を組み、無言のまま難しい顔で頷いた。
もちろん徳重もそのことを気がかりに思っていた。
自分の娘が障がいのある子かもしれない。そう思った瞬間から、德重も歌子と美夜子を避けるようになった。
以前は毎日のように歌子の部屋を訪れた德重だが、今では足が遠のき再び愛人たちの元へ入り浸っている。
「いいかい徳重、由緒ある四ヶ所の家に、厄介者が産まれたとなると世間体が悪い。そんな子はこの家に相応しくないってことはわかるだろう?」
「では、どうしろと」
タヱの瞳の奥に冷たい光がちらりと過ぎる。
「それを私に聞くのかい? 徳重、おまえなら私の言ってる意味が理解できると思ったのだけれど」
タヱの鋭い視線が德重を射貫く。その口から出た言葉はあまりにも非情なものであった。
「あの子は四ヶ所家にはいらない子なんだよ。徳重、これ以上は何も言わないよ。いいね? 家の体面を守るため。わかったね。あんたは四ヶ所家の当主だよ」
くどいくらい何度も念を押す母親を、德重はうんざりとした面持ちで軽く受け流した。
ある日の夜、タヱは徳重の部屋を訪れた。
「こんな夜更に、何か用ですか」
文机の前に座り、読んでいた書物から視線をそらすことなく、徳重は母に問いかける。
いささか德重の顔には、母をうとましく思う色がにじんでいた。おそらくこうしてタヱが息子の部屋を訪れては愚痴や小言をこぼしていくのは日常茶飯事らしい。
今日も面倒な話を聞かされるのかと思うと、正直、憂鬱な気持ちになる。それも昨日話したことを今日も繰り返すなど、同じ話を何度もするのだから困ったものだ。
すでに日付が変わった午前二時。今から母の相手をすると、床に入るのは何時になるだろうか。
タヱは徳重の側に座った。仕方がなく德重は読んでいた書物を閉じる。
「美夜子のことだよ」
母の言いたいことを察した徳重は、またそのことか、と辟易とする。
美夜子のことでタヱが相談を持ちかけてきたのは、これが初めてではない。
「あの子は障がいのある子ではないのかい? 顔つきだって、あきらかにおかしい」
徳重は腕を組み、無言のまま難しい顔で頷いた。
もちろん徳重もそのことを気がかりに思っていた。
自分の娘が障がいのある子かもしれない。そう思った瞬間から、德重も歌子と美夜子を避けるようになった。
以前は毎日のように歌子の部屋を訪れた德重だが、今では足が遠のき再び愛人たちの元へ入り浸っている。
「いいかい徳重、由緒ある四ヶ所の家に、厄介者が産まれたとなると世間体が悪い。そんな子はこの家に相応しくないってことはわかるだろう?」
「では、どうしろと」
タヱの瞳の奥に冷たい光がちらりと過ぎる。
「それを私に聞くのかい? 徳重、おまえなら私の言ってる意味が理解できると思ったのだけれど」
タヱの鋭い視線が德重を射貫く。その口から出た言葉はあまりにも非情なものであった。
「あの子は四ヶ所家にはいらない子なんだよ。徳重、これ以上は何も言わないよ。いいね? 家の体面を守るため。わかったね。あんたは四ヶ所家の当主だよ」
くどいくらい何度も念を押す母親を、德重はうんざりとした面持ちで軽く受け流した。
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