Life1の死霊使い!~前世の嫁を召喚したつもりが別人だった件~

るろ

文字の大きさ
4 / 7
第一章 冷たき生に、死の花束を――

第4話 カレン

しおりを挟む
「ほら、早く服を着てくれ。目に毒だ。
 サイズの心配はいらない。僕は華奢だからな……お前でも、余裕をもって着られるはずだ」

 あえて、ぞんざいな口調を選んだ。
 必要なのは思いやりではない。距離だ。
 この女に――自分の内側の揺らぎを、悟られないための。

 そんな胸中など知る由もなく、彼女はむっと唇を尖らせた。

「イズヒト様。
 もう少しだけ、愛のある接し方ってものを、覚えてくれませんか?」

「哀なら、もう十分に込めたつもりだが。
 ……まだ足りないのか。困った奴だな」

「ち~が~い~ま~す~!」

 変態少女は頬を朱に染め、ぷりぷりと怒りながら、投げ渡された服に腕を通した。

 ――失敗した。

 白いTシャツという選択は、明らかに判断ミスだった。
 サイズには想像以上の余裕があり、布地は彼女の身体を拒むどころか、むしろ素直すぎるほど従っている。

 その結果がどうなるかなど、考えるまでもない。

 ……透けている。
 色々と。

 別に、気遣う必要などない相手だというのに。
 それでも僕は、無意識のうちに視線を逸らしていた。

「と、とりあえず……今日はそれで我慢しろ」

 声が、わずかに上ずる。

「後で、お前の服は適当に見繕ってくる。
 だから――その……変な動きをするな」

 言い終えてから、自分が何を警戒しているのか分からなくなり、内心で舌打ちした。

「わあ、イズヒト様が選んでくださるんですか? 嬉しいです。
 たとえドブネズミの毛皮でも、一生大切にしますね! ……あ、私、もう死んでるんでした」

「もう、どこから突っ込めばいいんだ……」

 額に手を当て、心臓の奥から息を吐き出すように溜め息をつく。
 考えるな。考えるほど、精神が削られる。

 そのまま、指先で軽く合図した。

「お前、ちょっとこっちに来い」

「はい? 何でしょうか」

「……」

「……?」

 少女は素直に歩み寄り、僕の目の前で立ち止まった。
 いや、確かに呼んだのは僕だ。
 それは事実だが――

 来いと言われて、ここまで詰めてくる奴があるか。

 視界いっぱいに広がる顔。
 吐息が、わずかに混じる距離。

 耐えきれず、声が跳ねた。

「近すぎるだろ!? お前、距離感が完全に壊れてるぞ!
 初対面なのに名前呼びして、週末のランチに誘ってくる奴と同じ詰め方だ!」

「え? すみません、何を言っているのかよく分かりません」

「なんで僕が変なこと言ってるみたいな顔をするんだあああ!」

 少女はきょとんと目を瞬かせ、心底不思議そうに首を傾げる。

「イズヒト様が私をお側に呼ぶなんて……てっきり、“そういうこと”が始まるのかと」

「……一体、何が始まるって言うんだ」

 問い返した声には、怒気よりも疲労のほうが勝っていた。

 こいつには、どうやら一般常識というものが根本から欠け落ちているらしい。
 現世の尺度をそのまま当てはめて、真面目に相手をしてはいけないタイプだ。

 だからこそ――今、やるべきことがあった。

 僕は無言で、少女の額を指ではじいた。

「あだっ」

「少し離れろ。現世での最低限の常識は今から渡しておいてやる。
 全部を教える気はないから、分からないことは自分で調べて、考えろ」

 少女は額を両手で押さえたまま、きょとんとした表情でこちらを見る。

「あ、ありがとうございます……?」

 疑問形で礼を言われたのは初めてだ。

 僕は小さく息を吐き、指先で魔術式を組み上げる。
 人差し指に、青白い蛍火のような光が宿った。

 ――よし。
 これくらいの魔術は、まだ問題なく使えるらしい。

 僕はその光を、もう一度デコピンする要領で、赤くなった少女の額に触れさせた。

「これからお前と、どう生活するか考えないとな」

「イズヒト様、私は『お前』じゃなくて、アーイシャです」

「冗談はそのぽんこつ頭だけにしてくれ。僕がお前をアーイシャと呼ぶことは、絶対にない」

「じゃあ、現世での新しい名前を下さい。イズヒト様みたいな!」

 心なしか、嬉々とした表情まで浮かべている。
 だが正直なところ、こんな奴の名前などどうでもよかった。

 とはいえ――アーイシャ“もどき”と呼ぶのは、最愛の妻に対してあまりにも不敬だ。
 その一点だけが、僕の口を縛っている。

 僕は吐き捨てるように言った。

「じゃあ、ポチでもタマでも好きな方を選べ」

「酷い! 拾われたペットだって、そんな適当に名付けられませんよ!?」

「もはやお前も、ぽんこつも、とんこつも大差ないよ」

「もっと、すたいりっしゅに!」

 ――果たして、意味が分かって言っているのか。

 仕方ない。
 ならばせめて、こいつに相応しい“名前”を与えてやろう。

 僕はわざとらしく顎に手を当て、考えるふりをしてから告げた。

「じゃあ……アーヘラだ。
 アーヘラ・アルクス。どうだ」

「わあ、格好良さげですね。どんな意味なんでしょう」

「ああ……“踊る娼婦”だよ」

 その瞬間、僕の足元に大穴が開いた。
 床は抉られ、立ち上る白い煙の渦に巻かれるようにして、僕は奥歯をカチカチ鳴らしながら身を震わせるしかなかった。

 恐る恐る少女を見やる。
 床に差し向けた右手のひらから、柴色の稲妻がピリピリと音を立てて空気を裂き、霧散していく。

 ――無詠唱で発現可能な初級魔術、【雷砲トゥエルノン】。
 本来は貫通力のない痺れ玉に過ぎないはずだが、この威力と速度は尋常ではない。
 心臓が喉元まで飛び出るかと思った。思わず身を引き、床の熱を踏みしめながら、わずかに震える手を握りしめる。
 もしもほんの数センチでも角度が違えば――今、死んでいたかもしれない。

 凍てつく瞳で、少女は僕に微笑みかける。

「あは。イズヒト様、もう一度言って欲しいなあ」

 言葉の端に潜む無邪気さに、僕は思わず声を荒げた。

「いやいやいやいや違う違う。君にはもっと、暴力的な――じゃない、女の子らしくて可憐な名前が必要だろ?」

「あ、今の何だか良い響きです!」

 ひぃっ――と、思わず漏れた声は、かつての眷属も耳を疑うほどの腑抜けっぷり。
 両手で身を守る仕草は、まるで自分を抱きしめるようで滑稽極まりない。
 突然指を差されたものだから、再び魔術でも放つのではと、本気で死を覚悟した。

「良い、響き……?
 暴力的ってところ? 殺人衝動に目覚めちゃったの?」

「違いますよ。
 女の子らしくて“可憐な”って言ったじゃないですか」

「言った」

「良い感じです」

 少女は腰に手を当て、満足げにふんぞり返った。
 ――可憐とは、何だ。
 指先ひとつで人の心臓に風穴を開けかねない、このバイオレンス少女が可憐だというのか。
 あっははは。せめて名前の前に「殺戮兵器」とでも冠してやらなければ、世界に対して不誠実だろう。

 とはいえ、そんな本音を口に出せるほど、僕は命知らずではない。

 僕はまるで、機嫌を損ねれば即座に消される下っ端のように、へらりと笑って平手を擦った。

「そうだ。
 僕は君に――“カレン”って名前を付けたかったんだ」

「本当ですか?
 どんな意味でしょうか」

「可愛らしい、とか。愛らしい、って意味だよ。
 うん。君にぴったりだ」

 ――そんなわけがあるか、モンスターめ。

 少女はその新しい名前を身体で理解しようとでもするように、くねりと身をよじらせた。

「ふわ~、可愛らしいだなんて……もう、イズヒト様~!」

 今は、これでいい。
 僕がこいつの手綱をどうにか握り続けられるのなら、きっと――普通の生活も成り立つはずだ。

 そして、その時が来たなら。
 必ずお前から力を取り戻し、今度こそ、正しくあの世へ送り返してやる。

 これから僕、イズヒトと、
 殺戮兵器カレンとの――
 魔術競技専科での学園生活が、静かに始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

処理中です...