未だ分からず《人間らしくない人間と人間らしい怪物》

甘党でやる気ないおおかみ

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シトシト嫉妬oh shit

第五話 揺れなくなった海

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東京湾海上 貨物船甲板より

 火災を知らせる警報がまだ鳴り響いている・・・一応、僕がオイルを撒いて炎上させた制御室は消化器を使って鎮火させたから大丈夫・・・なはず。
 クラゲの駆除を完了し、疲れて座り込んでしまいたい気持ちを抑えて長い階段を登り切った。
 まだ霧が晴れず、真っ白なままの甲板へと繋がる扉を開く。外気がかなり冷たかったが、気にせず外に出た。
 貨物船内を駆けずり回って火照った体を冷やすには丁度いい。

「だ、大丈夫ですか!」
「俺達ここです!お姉さん!」

 甲板に出てすぐ、扉の近くで高台となっている場所に隠れていた船員の三人が僕を見つけて声を掛けてきた。どうやら扉が見える位置で待機していたらしい。

「一応大丈夫です・・・本体は倒したので、後は救助を待つだけです。」

 彼らと合流すると、大きくため息をついて適当な手すりに寄り掛かる。
 本当に疲れた・・・まさか運悪く魔獣本体と単身で戦うことになるとは・・・危うく死にかけた。

「傷だらけじゃないですか!?」
「あんな化け物を倒すなんて・・・」
「よく生きてますね?」

 この人達・・・さっきは掴みかかって来たくせに・・・さては、忍法手の平返しを使える輩だな?

「・・・・・・この命、何のために使うかなんて決めてないけど、だからって易々と他者に奪わせるわけにいかないからね・・・」

 人猿がまだどこかで生きている以上、死ぬわけにはいかない。

「え、なんて?」

「何でもないです・・・あなた達は怪我無いですか?」

「え・・・はい。無傷です。あなたのおかげで。」

「それはよかった・・・ふぅ。」

 疲労時特有の頭痛がする・・・未だ霧の晴れない空を仰ぎ見、目を強くつぶって痛みを紛わす。
 何気なく、スーツの裏ポケットに入れておいた手紙を服の上から撫でてみる。
 二時間前、権藤さんが人猿の魔の手から、自分の命に代えて救った女の子から受け取った手紙だった。

「こんな僕でも、権堂さんみたいに・・・他人を助けることは、出来るんだな・・・」

 他人に忌み嫌われ続けてきたこれまでの人生で初めて、自ら誇れることを成し遂げることが出来た・・・と思う。
 命を賭して他人を守ることが。

 今まで、空っぽな自分の代替品として、他人を使って来た行為とは・・・今回の人助けは、何かが違う気がした。

「あの襲って来たスライムは何だったんです?」
「そうそう。あのブヨブヨした奴。ああいう化け物って他にもいるのか?」
「あんたも何か使えるのか?見してくれよ!」

 僕が倒したと聞いて安心したのか、ヤケに興味津々に聞いてくる船員達・・・疲れているからほっといて欲しいんだけれど。
 あれ?そもそもこの人達、他の船員があいつに殺されたことにまだ気付いていないのか?
 こっちとしてはありがたいけれど、察しが悪過ぎない?

「すいません。秘匿するよう言われているのでノーコメントです。」

「なになに?隠さなきゃいけないってことは、あんたは影で活躍する秘密結社の一員って感じ!?」
「なにそれカッケー!お姉さんスゴイな!」
「なあ!俺らも頑張ったら炎を手から出したり出来るようになるのか?」

 うわぁ・・・ウッゼェ。適当に愛想笑いで受け流しておこう。
 どうせ協会が後で彼らの記憶を消すだろうし、冷たい態度を取っても良いよね?

「はいはい・・・そうですねぇ。」

 しっかし・・・本体を倒したのに霧が一向に晴れない。まだあのゼラチン野郎の能力が残っているのか?

「そういえば・・・」

 戸黒さんに教わった「気配」があのクラゲには感じ取れなかった。人間以外にもあるって聞いていたんだけど・・・最後まであいつの気配は不鮮明なままだった。
 もしあいつが水道管に潜伏して、僕に気づかれないで移動することを徹底していたら、確実に殺されていただろう。あいつが獰猛な性格で助かった。

「なあ、霧はいつ晴れるんだ?」

 ハイテンション、ハイテンポで僕に質問を浴びせ続けていた一人が不安そうに辺りを見回す。

「確かに。いつまで待てばいいんだ?」
「ていうか、船もまだ動いてるんだよな。エンジン動いてる訳でも無いのに。」

 それもそうだ。
 本体を倒したというのに状況に全く変化が無い・・・何かがおかしい・・・何かを見落としている?

「そういえばお姉さん・・・」

 その「見落としている何か」・・・すなわち、「核心」を的確に突いたことを、冴えない船員がさらりと口にした。
 驚くほど的を射た発言であるのに、彼はその質問がどれだけ重大な意味を持つモノであるのか、全く理解していなかったけれど。


「あの化け物は何体いたんですか?」


「・・・・・・は?」

 僕は彼の質問の意味がしばらく理解出来なかった。

「え?だって、ゲームとかファンタジー小説なんかでも、スライム系の敵は集団で襲ってくるのが常識じゃあないですか?」

「・・・・・・」

 僕はたった一体を倒したことに無意識に慢心し、完全に見落としていた・・・可能性を。

「まさか・・・」

 まだこの霧が晴れず、船が移動し続けているのは・・・

 ギギ・・・ギギギギギギ・・・

 嫌な予感は的中し、遙か彼方・・・霧の向こうから不自然な異音が響き渡る。

「なんだこの音?」
「あの方向は・・・積み荷を載せていた場所?」

「まさか・・・あのクラゲに気配を感じれなかったのは、奴に気配が無かったんじゃなくて、周囲に同じ気配が密集し過ぎて判別出来なかったから?」

 異音が消えて暫くして・・・奴らは現れる。

 白い霧を掻き分けて、四角い黒い影が・・・出現する。
 一つだけでは無い・・・どんどん増えて行く。

「あの浮かんでいるの・・・何だ?」

 じわじわと影が濃くなり・・・距離を詰められて・・・その正体が、僕達にも次第に判別出来るようになる。
 和気藹々と僕を取り巻いて騒いでいた三人の笑顔がじわじわと恐怖に歪められて・・・消え去った。

「・・・?」

 宙を浮かんでこちらに近づいてくる影の正体は、甲板に積まれていたコンテナだった。赤、青、黄・・・バリエーション豊かな直方体の箱がゆっくりと、僕達の頭上目掛けて移動してくる。
 コンテナを空中に浮かせ、支えているのは、それらを包む大量の水だった。

 さらに目を凝らすと、水の中に無数の黄色い明かりが浮いている・・・・・・発光するクラゲの群体だ。

 その数は数えるのも馬鹿らしい。

「・・・コンテナってどれぐらいの重さがありましたっけ?」

 あんぐりと口を開け、空中に浮かぶコンテナを見上げたまま微動だにしない三人に問いを投げかけてみる。
 聞いたところで意味の無い、むしろ聞けば心が折れてしまいかねない愚問であったけれど。

「中身が入っていない状態で・・・一つ、二トン・・・」

 うん。
 あんなの上から落とされたらミンチになる。

「落ち着いて、焦らずに船内に避難して下さい。ペシャンコになるよりは・・・」

 僕が昇り上がった階段に続く扉を指して三人を誘導しようとした・・・が、さらなる絶望が底から這い上がってきた。

 ゴボッ・・・

 辟易するほど耳にした、汚い水音が扉の奥から聞こえた。

「おいおい、八方塞がりじゃないか・・・」

 階段を上って姿を現したのは制御室で焼き殺したはずのクラゲだった。あれとは別の個体だろう。クラゲは最初から複数いた・・・いや、クラゲは最初から群れで行動していたのだ。
 テレビで見たクラゲのニュース。海水浴日和の晴天なのに客がいないビーチ、漁業関係者が苦笑いして持ち上げる破れた網、取水口が詰まって水を供給出来ない工場・・・

 何故忘れていたのだろう?

 クラゲの大量発生はあまりにも有名な話ではないか・・・何故、今までその可能性を考慮していなかったのだ僕は?

「なんで俺達がこんな目に・・・」

 誰かが震える声で口にした訴えは、コンテナが落下した轟音で無慈悲にかき消された。

 ズドンッッッッッッッ!!!ギャギャギャギャギャギャギャ・・・

 鼓膜が破れたんじゃないかと疑ってしまうほどの破砕音・・・衝撃で揺れる船体・・・落下の勢いが死に切らなかったのか地面を引っ掻いて横滑りするコンテナ・・・

「クッソ・・・あの扉以外に船内に入れる場所は!?」

「え、あ・・・右舷の方にも・・・」

「そこまで全力で走って!」

 コンテナが雨のように降る船上を疾走する・・・一歩間違えればぐちゃぐちゃの肉塊に早変わりだ。

 釣りの撒き餌みたいに・・・・・・ゾッとする話だ。

 その後、クラゲや魚に喰われて塵も残らない。

「ウワアアアアアアアアアアアアア!!!」

 誰かが死の恐怖に耐えきれず悲痛な叫び声を上げる。

「いくらでも叫んで良いから絶対に立ち止まらないでください!」

 激励するが、コンテナの落下音で彼らに聞こえているのか分からない・・・クラゲ共め。妙にずる賢い理性を持ちやがって・・・

「ウオッ!?」

 ギギギギギギギギギギギ・・・

 今度は、船の軋む音と共に地面が右舷側に大きく傾き始めた。

 海の中に残ったクラゲの群体が、水を操作して船体を片側だけ押し上げているのだろう。
 傾いたことで、落下した後、・・・

 避けたはずのコンテナが後ろから押し寄せて来た。

「待て待て待て待て・・・マジで死ぬ!」

 船橋の影に三人と共に隠れてやり過ごす・・・多くのコンテナは船の各所に衝突して跳ね、海に転がり落ちていった。逃げ遅れていたら僕達も今頃、落下したコンテナと一緒に、海の藻屑と化していただろう。

「入り口まであと少しです!」

 走りながら空中を伺う・・・クラゲの群体は船内で戦った個体と同様に動きが遅く、まだ遙か頭上に浮いたままだった。
 船内に逃げ込むまでの余裕はありそうだ・・・船内に逃げても捕まるのは時間の問題な気がするけれど。
 地面が傾いて走りにくい中、壁伝いに死に物狂いで進み続け、やっとのことで右舷側の扉に辿り着く・・・

 まさにその時

「あっ」

 ガクン・・・と、船体が傾く速さが急に加速した。
 その弾みに、船員の一人が足を滑らせて転び、扉の周りに作られた鉄パイプの柵を超え、そのままコンテナが落下した海に向かって滑り落ちる。

「クソッ!」

 すかさず僕も手すりを乗り越えて飛び降りる。転覆してもおかしくないほど傾いた船上を疾走して、滑落する船員になんとか追いつき、その体を左腕で抱えると、落下するスピードを落とすためにナイフを地面に突き立てる。

 ギャギャギャギャギャギャ・・・ドゴンッ!

 ナイフと船体との衝突で、手首と肩にかかるとてつもない負荷を無視してなんとか速度を落とすも、船員を庇って、船の縁に取り付けられた柵に背中から激突してしまった。

「ガハッ・・・」
「ウグッ・・・」

 息が出来ない・・・衝撃で視界がチカチカする・・・耳鳴りがして二つの呻き声のどちらが自分の発したモノなのか分からない・・・駄目だ。これで終わりじゃ無い。ここからまた上に戻らないと・・・

「ゲホッ・・・立てます・・・か・・・」

 なんとか息を吹き返して立ち上がり、船員の腕を取る。

「あ、れ・・・」

 なんとか船橋に向かって歩み出したというのに、彼が、気付いてはいけないモノに気付いて勝手に絶望し、足を止めてしまった。
 震える指で、柵の向こう側を指して座り込んでしまう。

「・・・・・・」

 海の青さすら隠してしまう、白い霧が・・・

 

 霧自体が光っているわけではない。

 明かりの正体はもちろん、クラゲの発光。

 獲物の場所を周囲の仲間に伝達する能力でもあるのだろうか?全てのクラゲがこの船に集まって来ているようだ。
 勘弁して欲しい。

「・・・早く立て。動かなかったら死ぬぞ。」

 もう敬語を使ってやる余裕も無い。

「もう無理だよ・・・俺達はここで死ぬんだ・・・」

 完全に心の芯が折れたのか、涙をボロボロと零して蹲ってしまう。

 ゴポッ

「・・・クソゲーだろ本当。」

 いくらクラゲの移動速度が遅いと言っても、時間をかけ過ぎた。
 コンテナを落下させて来たクラゲの群体に、船上への降下の時間を許してしまった。
 船内に逃げ込めた他の二人には目もくれず、確実に仕留められる僕達を包囲しに近づいて来る。

「追い込み漁かっつーの・・・漁師であるはずの人間が、今は獲物になっているけれど・・・」

 逃げ場が無い。絶体絶命だ。

「あ・・・うわ・・・駄目だ・・・」

 すでに生きることを諦めた船員が何を思ったのか、僕の足下に惨めに縋り付いて来た。

「・・・何のつもり?」

「頼む・・・あんな化け物に生きたまま喰われるなんて嫌だ・・・」

「・・・・・・」

「俺を殺してくれ・・・殺して下さい・・・」

「・・・・・・」

「そのナイフで首を・・・」


「黙れダンゴムシ」


「・・・は?」

 地面に丸まって、生きることを諦めていた虫が地面にこすりつけていた頭を上げて僕を見上げる。

「いや、違うな。これじゃあダンゴムシに失礼だ。彼らだって賢明に生きているんだから・・・訂正しよう。黙れカス。」

「・・・・・・」

「自ら死に向かう生物に何の価値があるんだ?『生物』の定義は『生きる』『物』だろう?」

 拳銃に弾を装填してリロードし、這い寄ってくるクラゲに照準を合わせる。

「生きようとする意思の無い『物』は『生物』じゃ無くてただの『ゴミ』だと思うんだよね。」

「・・・・・・」

「だから早く立ってよ。ゴミになりたくないでしょ?」

「・・・あんた、怖くないのか?」

「そりゃ怖いさ。でも・・・まだ終わってもいないのに勝負を降りるなんて・・・」



 そんなの・・・だよ。



「ふふふ・・・彼の言う通りだよ、ゴミカス君。」

 と、突然、不気味な含み笑いと共に声が聞こえた。

 次の瞬間、空を覆っていた霧が吹き飛んで穴が開いたかと思いきや、目も眩む白い閃光がクラゲの群体目掛けて落下した。凄まじい轟音が空気を揺らし、衝撃で周囲に立ちこめていた霧が四散する。

「・・・・・・雷?」

 風が吹き止み、四散した霧が再び辺りを覆い出す・・・霧と同時に、吸い込むと胸焼けしそうな、ゴムの焼けた匂いが辺りに漂う。
 雷で船の表面が溶けたのだろう。

「へぇ・・・この騒動の元凶は大量発生したクラゲの魔物か。珍しいこともあるもんだねぇ。」

 雷に落ちたと思われる地点に立っていたのは、黒い三角帽子に濃い青のマントを羽織った、金髪の女性だった。
 黒ストッキングの上に履いた、薄茶色の厚底ブーツでグリグリとクラゲの死骸を踏みつけて、加虐的に笑っている。

「・・・・・・魔女?」

「ん?そうだよ?魔女だよ?」

 あっさりと肯定して、彼女がこちらに振り向く。
 クラゲの死骸から足をどかすと、右手に持った杖をカツカツと鳴らして、傾いた地面を僕の目の前まで降りてくると、綺麗な緑の瞳で僕の身体を上から下までじろじろと観察する。

「君が噂の新人君?」

 顎に左手を添え、小首を傾げてそういう魔女。その素振りで後ろに束ねた三つ編みが揺れる。

「えっと・・・はい。三藤玄と言います。」

 この人が戸黒さんや、鬼打さんが言っていた、処理班のメンバー?

「そんな傷だらけになっても諦めずに他人を守り続けるなんてスゴイね!先輩として誇らしいよ!」

「・・・・・・え?」

 魔女が向日葵のように笑って、僕の肩をポンポンと叩く。どうやら、雰囲気からして、僕への嫌みを言ったわけでは無いらしい。

「それに皮肉も面白いからグッド!遠くからでも聞こえたぜ!地面に情けなく蹲った人に『ダンゴムシ』だなんて!アッハハハハ・・・良いねえ。君がいればもっと楽しいことになりそうだ!」

 七谷さんから戸黒さんと気が合う大親友だと聞いていたから、てっきりあの人と同じ、大人しい性格をしているのかと勝手に思い込んでいた・・・戸黒さんと正反対で、ずいぶん明るい人だ。

「ていうか、こんな話している暇無いですよ。クラゲが・・・」

「船上の奴らは全部焼いたし、女子トークする時間ぐらいありそうだけど?」

 驚いて彼女の後ろを覗き込むと、二、三十体はいたはずのクラゲが全て焼き焦げて黒い染みとなり、汚く地面にこびり付いていた。

「・・・・・・あの数を一瞬で?」

「あ、ごめん。やっぱ君の言う通り、その暇は無いみたい。」

 シュゴッ!!!

 背後でやけにクラゲの光が強くなったかと思ったら、爆音と共に水の塊が衝突して来た。
 船内で戦った個体に使われた、鉄をも切り裂く水の刃が僕の背後から飛んで来たのだ・・・

 しかし、僕達の身体が切り刻まれることは無く、まるで見えない壁に阻まれたかのように、水の刃は空中で弾けた。

「もう・・・邪魔だなあ。とりあえずこいつら殺すか。」

 うんざりした調子で・・・まるで、面倒な宿題をとりあえず終わらせてから遊ぶことにしよう、とでも言うかのように、魔女が軽く語る。
 海から浮上してこちらへと迫って来る、視界を埋め尽くすほどのクラゲの大群に全く臆する気配を見せず、僕の横を通り過ぎて、鉄柵の上に軽やかに飛び乗る。

「・・・・・・青海波?」

 見たことのある有名な和文様が、先程まで無地だったはずのマントの表面に浮かび上がっていた。

「お? 博識だね。この文様、知ってるんだ。」

 三重の半円を綺麗に敷き詰め、まるで海の波のように見える文様が白地の生地に青く輝く・・・

 あれ?さっきまでそのマント、紺に近い青色していなかった?

「そのマント、もしかして・・・」

「そうだよ。戸黒の羽衣と同じ素材。私と戸黒が中学の頃に共同で開発したんだぜ!」

 『紫陽花』・・・魔力の込め方で色が変わる布。僕が普段着せられているパーカーと同じ素材だ。

「そうですか・・・あと、その模様、やっぱり日本の着物や風呂敷じゃないとしっくり来ませんよ。」

「あ、やっぱり?だよねぇ・・・マントに青海波は似合わないよねえ。」

 彼女は、残念そうに苦笑いすると、杖の先をクラゲの大群に突きつけた。

「返すよ」

 マントに描かれた青海波が一層強く輝き、飛び散った水が動画を逆再生したかのように杖の先に渦を巻いて集まる。

 集まった水が、クラゲの群体と同様に、気持ち悪いほど多数の、六芒星を基調とした複雑な紋様を正円で囲んだ文様を形成して・・・

 そう、まるで・・・

 御伽噺おとぎばなしで魔女が使う魔法陣のようになって・・・

 次の瞬間、空気のキャンバスに描かれた大量の魔法陣・・・文様が激しく明滅し、陣を構成していた海水が勢いよく、それぞれの文様から砲弾のように発射された。

 豪快に大量の水がぶつかり合い、バラバラに砕けたクラゲの体が水飛沫と共に海へと落ちて行く。

「・・・・・・あなたの能力は・・・」

 最初は雷を使ってクラゲを焼き殺していたのに、今、この瞬間は水をクラゲに勝る勢いで操作していた。
 状況に応じて、能力を使い分ける戦闘スタイル・・・この戦い方はまるで・・・

 戸黒さんのよう

「私の魔法は、『記号の象徴する事物を支配する』っていうモノなんだ。さっきの青海波は海を象徴するからね。海水を支配下に置いたんだよ。」

 細い鉄柵の上にバランスを一切崩さずに直立する魔女・・・マントが海風にはためき、その下に隠されていた白いシャツと薄茶色のショートパンツが見えるようになる。

「さっき使った魔法陣は・・・説明が難しいな。うーん・・・まあ、見た通り、私ってば魔女の家系でね?昔話に出て来る、まじない紋様だとか、魔法陣だとか、守護の意味を持つ模様の、本当の力を引き出せるわけよ?」

「・・・・・・」

おもての世界でオカルトマニアがやってる魔法陣やら、服やアクセサリーに装飾している文様も、本のちょっぴりは効果があるんだけどね・・・私達みたいな、本物の魔法使いじゃないと上手く使えないんだよねー・・・」

 ああいうのって一応効果あるんだ・・・

「あ、そうそう・・・君、私の能力を戸黒と似てるだと思ったでしょ?まあ、布の色や模様を変えて戦う戦闘スタイルは確かに同じだけどね・・・」

 僕が呆気にとられていると、魔女はマントを青海波から元の無地に戻し、左手の人差し指で空中に何かを描くような仕草をする。

「ハガル」

 彼女がよく分からない言葉を呟くと、アルファベットの「H」に似た記号が水色に発光して霧に浮かび上がる。

「・・・それは?」

「これ?霧を表す古代文字だよ。この霧、鬱陶しくてさぁ・・・とりあえず見晴らしを良くしようと思って。」

 水色に光る記号を中心に船を囲んでいた霧が外側に押し出される。

「うわ・・・この数は・・・」

 霧に遮られて見えなかったクラゲの群体の全体像が明らかになる。
 分かっていたことだが、海は霧が晴れたというのに、青さを取り戻していなかった。クラゲの白い身体とその身体から発する黄色の光が、ギッシリと海面を埋め尽くす。
 おそらく、僕達がいる右舷側だけでなく、船の左舷も同様にクラゲで埋め尽くされているはずだ。

「うっわぁ・・・気ッ持ち悪う・・・」

「地面に落ちた飴玉にたかる蟻かよ・・・この数、大丈夫なんですか?」

 恐る恐る、魔女に聞いてみる。
 この人が戸黒さんと張り合うことが出来るほど強いことは容易に想像出来るが、数百体、数千体もの魔獣を一人で相手にするのは厳しいのではないかと・・・疑ってしまう。

「安心して待っててよ新人君。大船に乗ったつもりでね・・・って、もう貨物船に乗っているか。」

 魔女が杖を徐に空へと振り上げると、霧を象徴するらしい、「H」の形をした水色の記号が呼応して、空高く上昇して行く・・・


「単一の物質で満たされた空間は私の独壇場さ。」


 フワリと・・・僕の眼前を、青い火の粉が横切った。

「・・・・・・触れても熱くない?これは・・・今、先輩が書き出していたのと同じ記号?」

 青い火の粉は先程彼女が使った記号と同様、「H」の形をしていた。

「私はさっきの記号一つで大体、狭いバスタブ一個分くらいは霧を操れるわけだけど・・・」

 二つ目の記号が一つ目の記号と同様に、上空へぷかぷかと浮かんで行く。

「さらに同じ記号を、支配した物質で描いたら・・・どうなると思う?・・・それを無限に繰り返したら?」

 二つ、三つ、四つ・・・次々と同じ水色の文様が霧から生産され、風に乗って渦を巻き、天高く昇って行く。

「こういうのなんて言うんだっけ?芋づる式?」

 魔女が真面目な顔で言う。

「ネズミ算式です。」

「ああ、それそれ。ネズミ算式って言いたかった。」

 ・・・・・・意外と間抜けである。

 気付いたときには、クラゲの白い光がかき消されて気にならなくなってしまうほどに、水色の光が全てを飲み込んでいた。

 数千、数万に及ぶ古代文字が宙を乱舞する。

 まるで、青い火災旋風を中から見上げているようだった。

「綺麗・・・」

 自然にその言葉が口から漏れ出ていた。

「ありがとう・・・そんな綺麗って言うほどかい?」

「ええ。川の畔にいる蛍みたいです。」

「何でさっきから執拗に虫を例えに出すの?蛍に例えられるとなんかなあ・・・」

「え?ダンゴムシで喜んでいたので、てっきり虫好きなのかと・・・」

「やめて?何その間違った気遣い!?聞いていた通り、大分変わった感性を持っているね君?」

 魔女は大袈裟に驚いたリアクションをして戯けて見せ・・・本当に楽しそうに笑っていた。

「じゃあ仕上げに入ろうかな!」

 彼女のかけ声と共に、竜巻と読んで差し支えないほど巨大に膨れ上がった古代文字を頭上に集中させる。
 巨大な球体と化した古代文字の塊が素早く平面に並べ替えられ・・・大量の、ある・・・子供でも知っている、世界的に有名な模様を形作る。


「凍りつけ」


 魔女が白い歯を向きだにして笑い、空に掲げていた杖をおもむろに振り下ろす。

 辺りを包んでいた青い光が一層明るさを増し・・・


「・・・・・・?」

 六角形の、規則正しく並べられた文様が・・・まさしく、その名前通り、雪のようにふわふわと、空中から降りて来る。

 静かに・・・やんわりと、落下する。

 風に揺られて右往左往しながら、おぼつかない様子を見せながら・・・水色に発光する、『雪の結晶』の記号が・・・本物の雪のように、海に・・・クラゲに、落ちる。


 静寂から一転・・・


 ミシミシミシミシ・・・ギギギギギギギギギ!


 記号が落ちた海面が、ピシピシと音を立てて凍り付く。

 雪の結晶が生み出された船を中心に、氷が海を飲み込んで行く・・・大量のクラゲを巻き込んで。

 水が氷に変化する独特な音が・・・氷同士がせめぎ合って生じる音が・・・悲鳴のような、下手な歌のように聞こえて・・・五月蠅い。

 船がグラグラと揺れて、思わずふらつく。

 何故か、雪の結晶が船上の僕や船員、魔女に落ちる気配は・・・無い。海の上に・・・クラゲの上に、的確に一つ一つ落ちて行く。

 あれほど猛威を振るっていたクラゲが、圧倒的な力でねじ伏せられる。

「すっげぇ・・・」

 開いた口が塞がらない。

 海の凍結はまだ続く・・・雪の結晶が、まだ霧に包まれていて、表面が見えない領域にまで風に流されて到達し、氷の広がりがどこまで続くのか確認することは、出来なくなった。










 しばらくの間、ミシミシと震える船体の上で、雪の結晶がシンシンと海に降る光景を茫然と眺めていたのだが・・・

「あちゃあ・・・やり過ぎた。戸黒と鈴城さんに怒られそう。」

 魔女が口を開いた。
 あざとく舌を出して、後ろ髪を撫でる。
 霧の湿った質感とは異なる、肌を刺すような冷気が、凍った海から船上にゆっくりと流れて来た。

「まあいいや・・・さて、私達のやりとりについて行けなくて黙り込んじゃってるそこのダンゴムシ君以外に、まだ救助しなきゃいけない人はいるの?」

「え・・・あぁ。二人船内に残っているはずです。」

「その二人を連れて早く帰るよ。もうすぐ霧が晴れて、通信も回復するだろうし、一件落着だね。」

 僕が彼女の力に圧倒されていることも露知らず、凍り付けの海に固定されて傾いたままの船体をあっけらかんとした態度で、船橋目指して登る彼女は・・・

「あ、そうそう!まだ自己紹介してなかったね。」

 なんの偶然か、クラゲが消えたことで霧が引いて、その間から太陽が顔を覗かせ、スポットライトのように彼女を照らし出した。


「私はルーン・スライゴー」


 魔法名は『失われし秘術ウィッチ・オリジナル


 この世界の原初始まりの一族にして、本物と呼べる魔法使いの最後の生き残り。

 原初であり終点で

 始まりであり終わりで

 純血にして孤独な


 最後の魔女ラストウィッチ

 

「君の先輩だよ!これから宜しくね!」


第五話終
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