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実戦指導4

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 レオンはスケルトンウォリアーの戦いを食い入るように観察していた。
 スケルトンウォリアーを先頭にして洞窟の奥に進んだ一行は更に5体のゴブリンとの遭遇戦に突入していた。
 スケルトンウォリアーは長い槍の中程を握り、槍の長さそのものの回転軸に自分の身体を置き、切っ先と石突きを有効に活用して3体のゴブリンを相手にしていた。
 相手が距離を取れば握りを変えて槍の長さを最大限に使って刺突する。
 その動きはまるで舞っているような印象すら窺える。
 レオンはその動作を一瞬たりとも見逃すまいと瞬きすらせずに見ていた。
 一方レナの方はといえば、2体のゴブリンを相手に立ち回っている。
 普段のレナの実力を持ってすればこの程度の相手、とっくに黒こげか、氷漬けか、風に切り刻まれていただろう。
 しかし、今回のレナは自分自身に魔法不使用の枷を掛けているため、2体のゴブリンにですら苦戦しているようだ。
 以前の訓練時に比べればその体捌きは各段に向上しており、杖の先端を駆使してゴブリンを牽制しているが決定的な一撃を加えられずにいて、それを見抜いたゴブリンには余裕すら見える。

「ショートソードは使わないのでしょうか?」

 ゼロが疑問に感じたようにレナは腰に帯びているショートソードには手を掛けずに杖のみで戦っている。
 敵である女魔術師が自分達に苦戦していることを悟ったゴブリン達は下卑た笑みを浮かべながらレナに飛びかかる、しかし、その状況こそがレナが待っていた瞬間だった。
 魔術師であるレナの戦いの基本は魔法戦であり、近接戦闘を行うのは魔力切れ等の理由で魔法が使えない危機的な状況下で自己防衛のために行うもので、積極的に前衛に出るためではない。
 今まさに2体のゴブリンは目の前の魔術師の格好をした女は魔法が使えないのだと思い込み、一気に襲いかかってきたのだ。
 レナはゴブリンとの間合いを測ると杖を持ち替えて切り札を抜いた。
 レナの杖には細身のレイピアが仕込まれており、それを抜き払ったレナは体を捌きながらゴブリンの胸をレイピアで貫き、即座に剣を抜くともう1体のゴブリンを刺突した。

「見事です。しかし、仕込み剣とは予想外でした」

 ゼロが感心している間にスケルトンウォリアーも残りのゴブリンを制圧していた。

「こんなものですか。レオンさん、参考になりましたか?」

 レオンは真剣な表情で頷く。

「よく分かりました。自分の身につけるには実戦を繰り返す必要がありそうですが・・・」

 レオンの声に彼のパーティーメンバーも頷く。

「確かに、レオンには前衛を引き受けてもらわなければならないからね。僕達もしっかりとサポートするから、一緒に経験を積んでいこう」

 カイルの言葉にルシアとマッキも同意する。
 その様子を見ていたゼロは

「さて、これから貴方達は経験を積んで強くなっていくことで意見が一致したわけですね。早速その機会が訪れますよ」
「えっ?」
「さっきの戦闘の騒動に気がついたゴブリンがこちらに向かっています」

レオン達は顔を見合わせるが、その間にゼロは

「お疲れ様でした。戻れ」

スケルトンウォリアーを還してしまい、更に笑顔を浮かべながら

「後は貴方達に任せますよ」

とレオン達に告げた。
 その間にも洞窟の奥からはゴブリンの鳴き声や足音が近づいてくる。
 1体や2体の数ではない。

「さて、私は傍観させてもらいますが、レナさんはどうしますか?」

 ゼロはレナを見た。
 レナは少し考えてからレオン達に向き直った。

「私は一応戦闘に参加しますけど、魔法は使わないし、積極的には前に出ません。取りこぼしがあったら引き受けます」

とレオン達の背後に控える。
 レオンは頭を切り替えた。

「元々は俺達が受けた依頼だ!後は俺達で片付けるぞ!前衛は俺が務める。後方の備えは必要ないからルシアとマッキが中衛、カイルが後衛だ。ルシアは状況に応じて前に出てくれ!ただ、乱戦になったとしても絶対に俺には近づかないでくれ」

 レオンの号令により4人は即座に態勢を整えた。
 レオンは槍を洞窟の奥に向けて構える。
 一撃目は刺突攻撃を狙っているようだ。
 その間にもゴブリン達の声は近付いており、いよいよその姿が見え始める、その数は10体は下らなそうだ。

「来たぞ!みんな油断するな!」

 レオンは殺到して来るゴブリンの先頭に狙いを定め、その間にマッキは短弓を連射してレオンの狙いの外にいるゴブリンを仕留めてその数を減らす。
 3体目を射抜いたところで双方の距離が詰まった。

「レオン、今!」

 マッキの声にレオンが即座に反応して飛び出し、先頭を走るゴブリンを正面から貫き、更にその真後ろにいたゴブリンをも串刺しにした。
 更に力にものをいわせて2体のゴブリンを串刺しにしたまま槍を薙いで、後続のゴブリンを怯ませる。
 その瞬間を見逃さずにルシアが洞窟の側壁を蹴って三角跳びに飛び出し、怯んで立ち止まったゴブリンの顔面に蹴りを打ち込んだ。
 カイルは前方にいたゴブリンと後方のゴブリンの間に障壁の魔法を展開してゴブリン達を分断して援護する。
 ゴブリンの残りは11体、障壁の内側に3体、分断されて後方に残るゴブリンが8体だ。
 レオンは串刺しにしたゴブリンに足を掛けて槍を引き抜き、再度刺突体制を取って前に出た。
 槍の長さを最大限に使い更にもう1体のゴブリンを葬り、その間に残りの2体はルシアが片付けた。
 これで残るは障壁の外にいる8体、レオンは槍を持ち替えて乱戦に備え、ルシアは一旦後方に下がる。

「よし!いいぞカイル」

 レオンの合図でカイルは障壁を消した。
 障壁が消えたことでレオンは8体のゴブリンの相手をすることとなり、ゼロやスケルトンウォリアーに教わったとおりに槍の回転軸の中央に自分の体を置いた。
 先のスケルトンウォリアーには及ばないが、元来は槍を得手としてきただけあって、複数のゴブリンを相手にどうにか渡り合っている。
 たまに槍の切っ先が洞窟の岩肌を掠めてしまうのは今後の課題だろう。
 レオンの背後に回ろうとするゴブリンはルシア達の援護によりそれを許されずに撃退される。
 連携について見れば見事の一言である。
 レナも後方に控えていたが、結局は出番がないまま残りのゴブリンは殲滅された。

 辛うじてゴブリンを撃退したレオン達だが、度重なる緊張と初めての実戦に疲労が蓄積している様子だった。

「見事です。初めてでここまで戦えれば上等です。さあ、ゴブリン達はあらかた片付いたでしょうからもう一踏ん張りです。奥に進みますか」

 ゼロはレオン達に明るく声をかけた。
 しかし、レオンが首を振る。

「俺達の力でこれ以上進むのは危険です」
「おや?ではどうしますか?ここで少し休みますか?」

 レオンの言葉にゼロが意外そうな表情を浮かべる。
 その様子を見たレナは

(ゼロってば、白々しい)

呆れ顔だった。

「いや、一旦洞窟の外まで後退します。洞窟の出入口を監視できる場所で野営して体力を回復してから再度潜った方がいいです」
「もう少しじゃないですか?それでも後退するのですか?」
「はい、安全策を取ります」

 レオンの決断に他のメンバーも同意を示す。
 ゼロは笑って大きく頷いた。

「それでいいのです。大切なことは退き際の見極めです。まだ大丈夫、もう少し行ける、というところで踏みとどまって慎重に判断する。これが出来なければ長生きできませんよ」

 ゼロが考える冒険者の基本であった。
 現に「もう少し」の判断を誤って前に進み、命を落とした冒険者は数知れない。
 特に駆け出しの冒険者に多い失敗だ。
 一度は失敗したとしても退くことが出来れば仕切り直すことができるのである。
 その後、一旦洞窟の外まで撤退した一行は出入口近くで野営して回復を図り、翌日に再度潜ることとした。
 洞窟の外とはいえ安全ではないが、閉鎖空間で緊張を保ちながら休むよりはましなのである。
 見張りを怠らなければ緊急時には即座に散開して戦闘態勢を取れるし、脱出も容易だからだ。
 野営地にてゼロはレオン達にそれらのことを説明した。
 そしてゼロは最後に伝えた。

「とは言ってもです、冒険者の仕事において絶対なる正解というものはありません。刻一刻と変化する状況下で次々と突き付けられる選択肢を選び取って生き残る。それの繰り返しで経験を積み上げて自分達の道筋を作っていくんです。そして、時と場合によっては自分の限界を超え、自らの命を賭して挑まなければならないことも多々あります。それでもです、命掛けの状況下においても自分達の命を拾うためにあらゆる手段を講じなければならないのです」

 ゼロの経験に裏打ちされた言葉をレオン達は真剣に聞き入っていた。
 レオン達は翌日まで交代で見張りをしながら体力の回復を図った。
 翌朝になり再度潜ることになったが

「ここからは俺達4人で行ってきます。ゼロさん達がいると甘えてしまいそうで自分達のためにならないので」

レオンは自分達だけで潜ると申し出た。
 ゼロは頷いた。

「では貴方達だけでお願いします。私とレナさんはここで待ってます。私達は同行しないので全ての危機は自分達で切り抜けてください」
「分かりました」

 隊列を組んで洞窟に入った4人を見送ったレナはゼロを見た。

「4人だけで大丈夫?私だけでも一緒に行った方が良かったんじゃない?」

 レナの問いにゼロは肩を竦めながら笑う。

「大丈夫ですよ。もう洞窟内にゴブリンは居ませんし、残っているのはゴブリンと共存というか、互いに気にもしないスライムや魔鼠がいるだけですよ」
「そこまで確認済みなの」
「はい、昨夜は暇だったのでスペクターに見てきてもらいました。細かく言えば残りはスライム4体と魔鼠が8体だけです」
「呆れた。夜の間にそんなことしてたの?」

 結局は全てゼロが確認済みであり、敢えてその情報をレオン達に伝えなかっただけであった。
 その後、ゼロの言ったとおりの魔物を掃討して洞窟内の探索を終えたレオン達は無傷で戻ってきた。
 しかし、その様子は緊張により疲労に満ちている。
 ゼロはレオン達を見渡した。

「本来この手の巣穴の掃討依頼の場合は中の魔物を殲滅した後は、外に出ていて討ちもらした魔物がいないかどうか一晩位は様子を見た方がいいのですが、今回は昨夜一晩様子を見ているから大丈夫でしょう。依頼達成の報告をしてもいいと思います。初めての冒険、お疲れ様でした」

 ゼロの言葉を聞いたレオン達は緊張が途切れたのかその場にへたり込んだのだった。
 その様子を見たゼロは

「さあ、まだ油断してはいけませんよ。ギルドに戻って依頼達成の報告をするまでは終わりではありませんからね」

 4人に対して最後の発破をかけ、その後一行は帰還の途についたのだった。
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