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目覚めと帰還

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 治療院に入院して6日目の早朝、ゼロが目を覚ました。
 まだ日が登っていないのか、元々室内が暗いのか、残された右目を開いてみても視界がぼやけて周囲の様子がよく見えない。
 それでも、ベッドの右側に誰かがいる気配を感じる。
 うっすらと見えるのは、濃い紫色のローブ、椅子に腰掛けて本を読んでいるらしく、目を覚ましたゼロに気づいていない。

「・・・うっ・・あ」

 声を掛けようとするが、舌が喉に張り付いたような感覚で呻き声を出すのが精一杯だった。

「・・・ゼロ?」

 ベッドの傍らにいたレナがゼロの声に気が付いて振り向いた。

「・・うっ・・」

 返事をしようとするも声が出ない。
 身体も自由に動かないのだ。
 レナは吸い飲みでゼロの口内を潤した。

「・・・すみ・せん」

 やっとの思いで言葉を発したころには徐々に目が慣れてきてレナの表情が見えてくる。

「私のことが分かる?見えている?」

 そう言って覗き込むレナの顔を残された右目で真っ直ぐに見る。
 眠っていないのか、レナの目はわずかに赤らんでいた。

「どの位、意識を?ドラゴン・ゾンビは?」

 ゼロの問いにレナは北の鉱山での結末を伝えた。
 避難民は無事に避難できたこと、ドラゴン・ゾンビは聖騎士団等によって撃退されたことを聞いたゼロはほっとした様子だった。

「多少の被害は出ましたが、結果として、よかった、でいいですよね」

 ゼロの言葉をレナは憮然として聞いていた。

「よかったって、貴方は左目を失ったのよ。それに、身体だって元どおりになるかどうか分からないのよ。そのことを理解しているの?」
「まあ、仕方ないですよ。命を拾えただけで良しとします」

 一瞬だけ、レナは怒りと悲しみが混ざったような表情を浮かべたが、直ぐに諦めたような顔をした。

「貴方には言いたいことが山ほどあったけど、止めておくわ。約束どおり生きて帰ってきたのだから許してあげる」
「それはどうも。レナさんのおかげで命が助かりました。命の恩人です」

 レナはゼロの左目付近に手を添えた。

「私は貴方の左目を潰した。一生癒えることのない傷を刻んだのよ」
「そうして貰わなければ私はドラゴン・ゾンビの餌になっていました。だから命の恩人です」
「・・・もういいわ。今はもう少し休みなさい。目を覚ますまでそばにいてあげるわ」

 レナの言葉を聞いたゼロは再び眠りについた。

 ゼロが再び目を覚ましたのはその日の夕刻だった。
 眠りにつく前に告げられたとおり、ベッドの傍らにはレナが寄り添っていたが、もう1人、仕事を終えて駆けつけたシーナもゼロを覗き込んでいた。

「・・・ゼロさん、わかりますか?」
「すみません、シーナさん。ご迷惑をおかけしました」

 シーナの瞳が潤んだが、涙がこぼれることはなかった。
 涙を流すかわりに精一杯の笑顔を見せた。
 そしてレナと目配せをして2人で声を揃えて口を開いた。

「「おかえり」なさい」

 ゼロが意識を失っている間、交代でゼロに寄り添っていた2人はこの迎えの言葉だけは抜け駆けせず、一緒に伝えると決めていたのだ。
 ゼロはゆっくりと身体を起こした。

「ただいま戻りました」

 ゼロは多大な代償を払いながらもドラゴン・ゾンビとの戦いから帰還した。
 これからのことはこれから考えなければいけない。
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