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死に向かう覚悟

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 ゼロ達と魔王軍の戦いは熾烈を極めていた。
 吶喊したオメガがこじ開けた魔王軍の隙間に数百のスケルトンウォリアーをねじ込んで傷口を広げながら進み、アンデッドが倒れて数が減れば次々と召喚して更に強引に前進する。
 しかしながら魔王軍の抵抗も激しく、前線のアンデッドを突破したり、回り込んだ魔物達とゼロやリンツ達が直接戦闘に入っており、吶喊したオメガもゼロ達の状況を見て後退してきてゼロの護衛に入っていた。
 リンツやリックスも迫り来る魔物を相手に必死に戦っている。
 アンデッドが彼等を守りながら戦っているため戦死者は出ていないが、包囲された中で非常に厳しい戦闘を繰り広げていた。

「野郎共!生きるも死ぬもどっちに転ぼうが胸を張って受け入れられるかどうか、ここが正念場だ!」

 リンツの声に男達は奮起して戦っている。
 しかし、ゼロ達が敵陣に食い込めば食い込むほどその周囲は敵の魔物に埋め尽くされ、見方を変えればゼロ達が敵に包囲されているようにも見える。
 実際にゼロ達の前進速度は目に見えて遅くなっていた。
 それでもゼロ達は前進を止めない。
 最早、どちらが優位なのか分からなくなってきている。
 一見すると圧倒的に数が多く、ゼロ達を完全に包囲している魔王軍が優位に見える。
 しかし、損耗で見ると、数百の損害を出している魔王軍に比べてゼロ達の損害は皆無である。
 スケルトンはバラバラに吹き飛ばされても直ぐに元通りになって戦線に復帰するし、復元もできない程にされてもゼロの召喚術により冥界の狭間に返されて直ぐに再召喚されるのでタリクの軍団は倒しても倒しても次々と現れるアンデッドを相手に果てのない戦いを強いられているのだ。

 戦いの現状に軍団の指揮を執るタリクは危機感を感じてはいないが、その苛立ちは最高潮に達していた。

「あの程度の虫けらに何をてこずっていやがる!」

 言いながら目の前にいたオークを殴り飛ばした。
 運悪く犠牲になったオークは頭を粉砕されながら吹き飛ばされ、その先にいた数体のオークを道連れにする。

「オーガとトロルは前進しろ!奴等を突き崩せ!」

 タリクは温存していた巨人達数十体を前進させた。
 魔王軍の軍団を指揮するタリクとゴルグだが、この2人の軍団は魔王軍の先陣を切り、数で押し潰す戦術を取るのに特化した軍団であるため保有する魔法戦力は少なく、そのほとんどを先の砦攻防戦で失っていた。
 それでも数と力で戦うその軍団は驚異的である。
 前進したトロル、オーガ達がスケルトンウォリアーの防御壁に突っ込み、瞬く間に突破した。
 その突破した箇所からオークやコボルドが流れ込む。
 ゼロ達の足が完全に止まった。

「主様!」

 魔王軍の右翼後方で魔法による援護に徹していた魔法部隊を率いるバンシーは援護攻撃を中止して魔王軍団を回り込みゼロの下に飛んだ。
 ゼロの周囲にはゼロを守ろうとしたアンデッド達が集まり、ゼロとリンツ達を囲い込んで防御を固める。

「さて、少しばかりキツくなってきましたね」

 ゼロは周囲を見回す。
 大型のトロルやオーガはバンシーが指揮する魔法部隊で牽制して押し戻し、それ以外の魔物はスケルトンウォリアーの大盾が受け止めている。
 ゼロも光熱魔法を行使したいところだが、アンデッドの召喚に魔力を使うために無駄にはできない。
 目的の敵将はまだ遥か先にいるが自分達は包囲されている。

「こりゃあ、いよいよ覚悟を決める時か!」
「ここまでしぶとく生き延びてきたが、それも最後ってやつだな」

 リンツやリックスが腹を決めている。
 他の連中も同じ覚悟のようだ。

「死んでアンデッドになるのも面白いぜ!」
「そうなったらみんなでまた戦おうぜ!」
「骨になっても俺を忘れんなよ」
「俺は知的だから幽霊になって魔法部隊だ」
「何言ってやがる。お前の頭でスペルなんて覚えられねえじゃねえか!お前はバンシーの姉ちゃんの尻に敷かれたいんだろうが!」

囚人部隊の俺達が大声で笑った。
リンツがゼロに向かって叫ぶ。

「ゼロ!こうなったら俺達のことは構うな!アンデッドに俺達のことを守らせなくていい!お前は好きに戦ってくれ」
「リンツさん、何を言いますか」
「ここまで足手まといの俺達の我が儘に付き合ってくれてありがとうよ。ここまでやれば俺達の罪の一端位は拭えただろうからな」

 ゼロは敵将の位置を確認する。
 まだ数百メートル先だが損害を考慮せず、守りを捨てて突き進めば届く。
 ゼロも覚悟を決めた。

「これから全員で突撃します!敵将の首を取るまでは絶対に止まりませんし、振り向きません。倒れた者は捨て置き、その屍を盾にして、踏み越えて進みます!」
「「応!」」

 ゼロは槍と剣を装備したスケルトンウォリアーを大量に召喚した。

「マイマスター。私が先陣を務めます」

 オメガが恭しく膝をつく。

「私はどこまでも主様のお側にいます」

 バンシーがゼロの背後に立つ。
 そして3体のスケルトンロードがゼロの前に立った。

「皆、頼みます」

 そしてゼロはバンシーと3体のスケルトンロードを見回す。

「これよりバンシーをアルファと名付けます。スケルトンロードはそれぞれサーベル、スピア、シールドと名付けます。適当な名付けですみませんがこれが私の皆に対する報いです」

 ゼロに名付けられたバンシー改めアルファが両手で顔を覆って感涙にむせび泣く。
 サーベル、スピア、シールドの3体は軍隊式の敬礼で答えていた。

 ゼロは剣を翳して大盾を揃えているスケルトンウォリアーを左右に開いた。

「さあ、行きます!ここから先、私達の前にいる全ての敵を排除して敵将の首を取ります。私達の前に立ちはだかる者は悪魔であろうと神であろうと全てを倒して進みます!」

 ゼロは剣を振り下ろした。

「オメガ!行きなさい!全軍突撃!」
「「「おおーっ!!」」」

 男達の雄叫びと共にゼロと数百のアンデッド、囚人部隊が駆け出した。

 砦を出て騎士団とゴルグの軍団の戦場を迂回しながらゼロの援護に向かっていたレナ達にもゼロ達が包囲され、突撃を始めた様子が見て取れた。

「突撃した?あのバカ!もう少し待ちなさいよ!」

 レナは走りながら舌打ちした。

 ゴルグに向かって突撃を敢行している騎士団を指揮しているイザベラとアランの目にも遥か遠くで突撃を始めたゼロ達の様子が見えた。

「無茶をしますわね、あのおバカネクロマンサーは。でもタイミングはバッチリですわ」
「いいタイミングだ、うまく行けば同時に敵将を討ち取れるぞ」

 2人は自ら先頭に立ち突撃の速度を上げた。
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