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立合い
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「これ、フライドチキンじゃなくてフライドコカトリスっすね」
ハンクが言った。
それからひと口大の肉を摘まんで、口に放り込む。
「熱っ!」
悲鳴を上げつつも、はふはふと息を吐いて執念深く肉を冷ます。少しして咀嚼に移るや否や「美味いっ!」と叫んだ。
「鶏肉なんかくらべものにならないっすよ、コレ。柔らかいのにすごく旨味があるっす」
ハンクが感動の言葉を連呼しているのは、調理中には頑として味見することを拒否していたからだ。
食事の時間になってから他の皆と感動を共有したいということだったらしい。
もちろん他の面々も口々にフライドコカトリスの味を褒め称えた。
誰の顔も晴れやかそうに見えた。それもそうだろう、城壁修復の工事は全て終了したのだ。
モア鳥の衝突によって綻びた積み石は、今やつるりと綺麗な面が行儀よく並んでいる。
一羽丸ごとではないが大量のコカトリスの肉を調理してヘトヘトなオレとハンクにも、やりきった感はあった。
オレは木箱の上に腰を下ろして尾のヘビ部分の肉を串に刺して炙った物に舌鼓を打っていた。
コカトリスは部位によって全く食味が違う。そしてさばき方や調理法もまた変わってくる。このヘビ部分は小骨こそ多かったがそこを上手く避けて捌くと、淡白なのにほろほろと柔らかい極上の食味をしていた。そこでオレはフライではなくローストすることにしたのだ。
オレの前に人影が立った。
顔を上げるとルシッドだった。
「どうしたんだ?」
食事中にルシッドがオレのところに来るのは初めてだった。何か用があるのだろうか。
「ヤムトの三連撃を受けきったというのは本当か?」
前置きもなく唐突にそんなことを訊く。
オレの日本人的な感性からすると、こういう無骨なノリというのは落ち着かない。
「いや、受けたというか、たまたま運良くあたらなかっただけだぞ」
「剣でか?」
「まあ、そうだ」
そこでルシッドはオレの足元に一本の棒を放った。工事で使用した木材の端材だ。ちょうど片手で握れる太さで、長さはショートソードぐらいある。
ルシッド自身も同じような棒を手に持っている。
「オレと立合え」
「なんだよ突然。こんなものまで用意して」
当たり前だがそんな物拾う気にはなれない。
「別に真剣でも構わんぞ」
ルシッドはニコリともせず睨みつけてくる。
とても正気とは思えない。オレもルシッドも鎧など着ていないのだ。
ルシッドの黒く染められた麻の服はかなり厚手ではあるが、真剣に対してはなんの防御力も持たないだろう。
「オレは棒でも剣でもやりたくなんかないんだって」
「腰抜けは変わらずか」
「いい気分で飲み食いしてる時にチャンバラをしないと勇敢さを示せないってんなら、オレは腰抜けで構わんよ」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、ルシッドの持った棒の先がオレの横っ面に打ち込まれた。
とっさにのけぞって躱す。
間一髪。だがこれはオレの体勢を崩すための攻撃だ。真の狙いは次だ──そう読んだオレは、そのまま木箱の後ろへと倒れ込む。
背中を丸めながら後方でんぐり返りの要領で落ちる。
ルシッドが木箱に跳び乗ってくれば、その瞬間を狙って木箱を蹴飛ばそうと考えたのだが、ルシッドは追撃をしてこなかった。
「もう一度言う。オレと立合え」
オレの胸元へ木の棒が放り投げられた。
それをキャッチしてから、オレは立ち上がった。
「一戦だけだ。お前が何を期待してんのかは知らない。だけどこれがどんな結果になっても、チョッカイかけてくるのはもうやめにしてくれ」
こんな理不尽に喧嘩を吹っかけてくるなんて、ルシッドは完全にイカれている。
冒険者ギルドのナンバーワンに勝てるはずもないが、ここで断っても問答無用で血祭りにあげられるだろう。しかもそれでこいつが納得するとは限らない。
とりあえず決闘の体裁は整えつつ、大きな怪我だけは避けるよう努力するしかない。
オレが構えるのを待ってたとばかりに、強烈な突きがきた。
狙いはオレの喉元。
意外な攻撃だ。この世界では剣は主に叩き切る道具であり、刺突に使われる事は稀だ。
木の棒だからこのように使っているというわけではなさそうだ。
それほどに錬度が高く、気迫と力のこもった突きだった。
オレは立てた棒をガイドとして、左半身になって突きを躱した。
そのままの動きで踏み込み、相手の腕の下に沿って棒を走らせ、右脇下に斬り込む。
さすがといおうか、ルシッドは目にも止まらぬ速さで棒を返すとオレの一撃を難なく弾く。信じられない反射速度だ。そして足の運びが的確だ。
攻撃を防ぐと同時に、ルシッドはほぼ腕が交差するほどの距離に間合いを詰める。
直後オレの棒の下をかいくぐるような角度から一撃が飛んでくる。
この攻撃を予測はしていた。が、とても棒では対応はできない。
咄嗟にルシッドの腿のあたりを蹴飛ばした。
足裏で突き飛ばすような蹴り──いわゆるヤクザキック。
偶然タイミングがかち合ったらしく、ルシッドがぐるんと横転した。
これはチャンスだ。と、思ったところで、左脛に強烈な痛みが走った。
倒れながら薙ぎ払ったルシッドの一撃が、オレの脛に決まっていた。
もしも真剣だったらオレが片足になっていたやつだ。
ハンクが言った。
それからひと口大の肉を摘まんで、口に放り込む。
「熱っ!」
悲鳴を上げつつも、はふはふと息を吐いて執念深く肉を冷ます。少しして咀嚼に移るや否や「美味いっ!」と叫んだ。
「鶏肉なんかくらべものにならないっすよ、コレ。柔らかいのにすごく旨味があるっす」
ハンクが感動の言葉を連呼しているのは、調理中には頑として味見することを拒否していたからだ。
食事の時間になってから他の皆と感動を共有したいということだったらしい。
もちろん他の面々も口々にフライドコカトリスの味を褒め称えた。
誰の顔も晴れやかそうに見えた。それもそうだろう、城壁修復の工事は全て終了したのだ。
モア鳥の衝突によって綻びた積み石は、今やつるりと綺麗な面が行儀よく並んでいる。
一羽丸ごとではないが大量のコカトリスの肉を調理してヘトヘトなオレとハンクにも、やりきった感はあった。
オレは木箱の上に腰を下ろして尾のヘビ部分の肉を串に刺して炙った物に舌鼓を打っていた。
コカトリスは部位によって全く食味が違う。そしてさばき方や調理法もまた変わってくる。このヘビ部分は小骨こそ多かったがそこを上手く避けて捌くと、淡白なのにほろほろと柔らかい極上の食味をしていた。そこでオレはフライではなくローストすることにしたのだ。
オレの前に人影が立った。
顔を上げるとルシッドだった。
「どうしたんだ?」
食事中にルシッドがオレのところに来るのは初めてだった。何か用があるのだろうか。
「ヤムトの三連撃を受けきったというのは本当か?」
前置きもなく唐突にそんなことを訊く。
オレの日本人的な感性からすると、こういう無骨なノリというのは落ち着かない。
「いや、受けたというか、たまたま運良くあたらなかっただけだぞ」
「剣でか?」
「まあ、そうだ」
そこでルシッドはオレの足元に一本の棒を放った。工事で使用した木材の端材だ。ちょうど片手で握れる太さで、長さはショートソードぐらいある。
ルシッド自身も同じような棒を手に持っている。
「オレと立合え」
「なんだよ突然。こんなものまで用意して」
当たり前だがそんな物拾う気にはなれない。
「別に真剣でも構わんぞ」
ルシッドはニコリともせず睨みつけてくる。
とても正気とは思えない。オレもルシッドも鎧など着ていないのだ。
ルシッドの黒く染められた麻の服はかなり厚手ではあるが、真剣に対してはなんの防御力も持たないだろう。
「オレは棒でも剣でもやりたくなんかないんだって」
「腰抜けは変わらずか」
「いい気分で飲み食いしてる時にチャンバラをしないと勇敢さを示せないってんなら、オレは腰抜けで構わんよ」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、ルシッドの持った棒の先がオレの横っ面に打ち込まれた。
とっさにのけぞって躱す。
間一髪。だがこれはオレの体勢を崩すための攻撃だ。真の狙いは次だ──そう読んだオレは、そのまま木箱の後ろへと倒れ込む。
背中を丸めながら後方でんぐり返りの要領で落ちる。
ルシッドが木箱に跳び乗ってくれば、その瞬間を狙って木箱を蹴飛ばそうと考えたのだが、ルシッドは追撃をしてこなかった。
「もう一度言う。オレと立合え」
オレの胸元へ木の棒が放り投げられた。
それをキャッチしてから、オレは立ち上がった。
「一戦だけだ。お前が何を期待してんのかは知らない。だけどこれがどんな結果になっても、チョッカイかけてくるのはもうやめにしてくれ」
こんな理不尽に喧嘩を吹っかけてくるなんて、ルシッドは完全にイカれている。
冒険者ギルドのナンバーワンに勝てるはずもないが、ここで断っても問答無用で血祭りにあげられるだろう。しかもそれでこいつが納得するとは限らない。
とりあえず決闘の体裁は整えつつ、大きな怪我だけは避けるよう努力するしかない。
オレが構えるのを待ってたとばかりに、強烈な突きがきた。
狙いはオレの喉元。
意外な攻撃だ。この世界では剣は主に叩き切る道具であり、刺突に使われる事は稀だ。
木の棒だからこのように使っているというわけではなさそうだ。
それほどに錬度が高く、気迫と力のこもった突きだった。
オレは立てた棒をガイドとして、左半身になって突きを躱した。
そのままの動きで踏み込み、相手の腕の下に沿って棒を走らせ、右脇下に斬り込む。
さすがといおうか、ルシッドは目にも止まらぬ速さで棒を返すとオレの一撃を難なく弾く。信じられない反射速度だ。そして足の運びが的確だ。
攻撃を防ぐと同時に、ルシッドはほぼ腕が交差するほどの距離に間合いを詰める。
直後オレの棒の下をかいくぐるような角度から一撃が飛んでくる。
この攻撃を予測はしていた。が、とても棒では対応はできない。
咄嗟にルシッドの腿のあたりを蹴飛ばした。
足裏で突き飛ばすような蹴り──いわゆるヤクザキック。
偶然タイミングがかち合ったらしく、ルシッドがぐるんと横転した。
これはチャンスだ。と、思ったところで、左脛に強烈な痛みが走った。
倒れながら薙ぎ払ったルシッドの一撃が、オレの脛に決まっていた。
もしも真剣だったらオレが片足になっていたやつだ。
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