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脳筋戦法
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ヤムトが助けにきたということは、前方の敵は片付いたのだろう。
振り返ると案の定、乱雑に転がった死体たちの中に立つルシッドは落ち着いた様子でヨールの回復魔法を受けていた。
奇襲を受け負傷こそしたが、結局ヤムトとルシッドの二人は五体の動く死体を一蹴していた。
死体はどれも大きく損傷している。そこまで壊さなければ動きを止めなかったのだろう。
背面の防衛を全うできなかったオレは、自分の非力さを歯がゆく思い、溢れ出てくる悔し涙をこらえることができずにいた。というのはもちろんウソで、これだけ強いのにどうしてさっさと前方の敵を片付けて後方の助けに来てくれなかったのだろうと、恨みがましい気持ちを込めて二人の姿を交互に見た。
「なんだ」
オレの目線を受けてルシッドが訊く。
「いや、二人とも流石に強いなと思ってさ」
「よく言う。貴様こそゾンビどもを一太刀で軽々と両断していただろう」
「あれはなんていうか、手を借りた猫がドラえもんだったみたいな感じだ」
聞き返すどころかルシッドは頷きもしない。オレの言葉を理解しようなんてつもりは元々ないのだろう。
まあ訊かれたところで説明なんてできないが。
ともあれ、これで一応危機は去ったことになる。
「死体使いの変態がいるんだな」
現状確認の意味を含めて、オレはそう言った。
「そうらしい。野盗たちの正体は死霊魔術師の警護兼、アンデッドの材料として魔術師に雇われた傭兵なのだろう。死体になってまでこき使われることに同意などはしてないだろうが」
そう言ったルシッドの声には特になんの感情も込められていない。
恐怖はもちろんのこと、傭兵たちに対する憐れみもなさそうだ。
「死体が相手じゃ生命感知は効かねえ」
言って、ヨールは肩をすくめてみせた。
「どうする?」
か細い期待を込めてオレは訊いた。万が一にもルシッドが引き返すという選択をしてくれれば僥倖だ。
「レミック、残りの魔力はどんな感じだ?」
ルシッドが訊くと、レミックは眉根を寄せた。
「まだまだ大丈夫って答えたいところだけど、実際のところあまり余裕はないわ。大きな魔法ならあと二回ってとこね」
ここまでレミックはけっこうな数の魔法を使っている。これでまだ魔力が残っている事こそ驚嘆に値するのだ。
しかめっ面でさえ美しいことと、魔力のキャパが大きいことはエルフの特権だ。
だがその特権をもってしても、ここから先に攻め入ることは難しいのだ。もう引き返すしかない。
期待を込めてルシッドが口を開くのを待った。ところが、発せられた言葉を聞いて、オレはハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
「ヨール、後ろに下がってレミックを守ってくれ。
オレとヤムトとカズが先を行くから、お前たちは少し間を空けて来るんだ」
「い!?」
言葉が出ない。オレは口をパクパクさせた。
呼吸を忘れていることに気付いて慌てて息を吸い込む。そしてむせる。
盛大に咳き込んでから、オレはようやく言葉を取り戻した。
「け、契約と違うんだが」
クエスト参加の勧誘を受けた時、ルシッドにはレミックの盾になれといわれていた。
それだってもちろん危険な任務ではあるが、それでもいつゾンビが襲い掛かってくるかもしれない暗闇の中で先に立って進んでいく事と比べれば随分とマシだ。
いまさらそんな役をやれだなんて契約違反も甚だしい。
「生命力感知が効かない以上、ヨールが先をいくメリットがあまりない。
それにどの敵もほとんど一撃で倒したお前の剣技は完全に前衛向きだ」
オレを前で戦わせるという戦法を覆すつもりはないらしい。オレの剣の実力に関して大きな誤解をしているようだが、それを否定する言葉が思い浮かばない。
すがるような気持ちで振り返りヤムトを見た。
「もう敵が背後から襲ってくる可能性は低い。
前方から来る敵を三人で殲滅していけば、それがレミックとヨールの盾になるというわけだな」
獣人はどこか嬉しそうに頷く。
「な、なあ。こいつらやけに動きが素早くなかったか? それにゾンビのクセに剣の腕も凄かったし」
敵の手強さを強調するためにそう言ってみた。
これで「やっぱり引き返そう」とはならないだろうが、オレみたいな弱者を前衛に立たせるという愚策は考え直してくれるかもしれない。
いや、事実このゾンビたちの強さには驚いたのだ。
オレの知ってるゾンビといえばノロノロと歩いて生者とみれば噛み付いてくるようなホラー映画のモンスターだった。まあそのイメージも今や古いのかもしれないが。
「そりゃ死にたての死体だからな。
関節や筋肉も柔軟だし、生きていた頃の身体の使い方の癖もまだ建材なんだろう」
肩をすくめたヨールが、何でもない様子でそう言った。
どうやらこの世界のゾンビはそういうものらしい。
ということは死んで時間が経ったゾンビの方が弱くなるということか。それならつい先ほど死んだばかりのこいつらよりも強いゾンビはもういないということになる。
「ヨールは回復魔法を頼む。レミックはいざという時に備えて魔力を温存しておけ」
ルシッドがいうとエルフとハーフリングはこくりと頷いた。
脳筋作戦があっという間に固まっていくのを、オレは黙って見ていることしかできなかった。
振り返ると案の定、乱雑に転がった死体たちの中に立つルシッドは落ち着いた様子でヨールの回復魔法を受けていた。
奇襲を受け負傷こそしたが、結局ヤムトとルシッドの二人は五体の動く死体を一蹴していた。
死体はどれも大きく損傷している。そこまで壊さなければ動きを止めなかったのだろう。
背面の防衛を全うできなかったオレは、自分の非力さを歯がゆく思い、溢れ出てくる悔し涙をこらえることができずにいた。というのはもちろんウソで、これだけ強いのにどうしてさっさと前方の敵を片付けて後方の助けに来てくれなかったのだろうと、恨みがましい気持ちを込めて二人の姿を交互に見た。
「なんだ」
オレの目線を受けてルシッドが訊く。
「いや、二人とも流石に強いなと思ってさ」
「よく言う。貴様こそゾンビどもを一太刀で軽々と両断していただろう」
「あれはなんていうか、手を借りた猫がドラえもんだったみたいな感じだ」
聞き返すどころかルシッドは頷きもしない。オレの言葉を理解しようなんてつもりは元々ないのだろう。
まあ訊かれたところで説明なんてできないが。
ともあれ、これで一応危機は去ったことになる。
「死体使いの変態がいるんだな」
現状確認の意味を含めて、オレはそう言った。
「そうらしい。野盗たちの正体は死霊魔術師の警護兼、アンデッドの材料として魔術師に雇われた傭兵なのだろう。死体になってまでこき使われることに同意などはしてないだろうが」
そう言ったルシッドの声には特になんの感情も込められていない。
恐怖はもちろんのこと、傭兵たちに対する憐れみもなさそうだ。
「死体が相手じゃ生命感知は効かねえ」
言って、ヨールは肩をすくめてみせた。
「どうする?」
か細い期待を込めてオレは訊いた。万が一にもルシッドが引き返すという選択をしてくれれば僥倖だ。
「レミック、残りの魔力はどんな感じだ?」
ルシッドが訊くと、レミックは眉根を寄せた。
「まだまだ大丈夫って答えたいところだけど、実際のところあまり余裕はないわ。大きな魔法ならあと二回ってとこね」
ここまでレミックはけっこうな数の魔法を使っている。これでまだ魔力が残っている事こそ驚嘆に値するのだ。
しかめっ面でさえ美しいことと、魔力のキャパが大きいことはエルフの特権だ。
だがその特権をもってしても、ここから先に攻め入ることは難しいのだ。もう引き返すしかない。
期待を込めてルシッドが口を開くのを待った。ところが、発せられた言葉を聞いて、オレはハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
「ヨール、後ろに下がってレミックを守ってくれ。
オレとヤムトとカズが先を行くから、お前たちは少し間を空けて来るんだ」
「い!?」
言葉が出ない。オレは口をパクパクさせた。
呼吸を忘れていることに気付いて慌てて息を吸い込む。そしてむせる。
盛大に咳き込んでから、オレはようやく言葉を取り戻した。
「け、契約と違うんだが」
クエスト参加の勧誘を受けた時、ルシッドにはレミックの盾になれといわれていた。
それだってもちろん危険な任務ではあるが、それでもいつゾンビが襲い掛かってくるかもしれない暗闇の中で先に立って進んでいく事と比べれば随分とマシだ。
いまさらそんな役をやれだなんて契約違反も甚だしい。
「生命力感知が効かない以上、ヨールが先をいくメリットがあまりない。
それにどの敵もほとんど一撃で倒したお前の剣技は完全に前衛向きだ」
オレを前で戦わせるという戦法を覆すつもりはないらしい。オレの剣の実力に関して大きな誤解をしているようだが、それを否定する言葉が思い浮かばない。
すがるような気持ちで振り返りヤムトを見た。
「もう敵が背後から襲ってくる可能性は低い。
前方から来る敵を三人で殲滅していけば、それがレミックとヨールの盾になるというわけだな」
獣人はどこか嬉しそうに頷く。
「な、なあ。こいつらやけに動きが素早くなかったか? それにゾンビのクセに剣の腕も凄かったし」
敵の手強さを強調するためにそう言ってみた。
これで「やっぱり引き返そう」とはならないだろうが、オレみたいな弱者を前衛に立たせるという愚策は考え直してくれるかもしれない。
いや、事実このゾンビたちの強さには驚いたのだ。
オレの知ってるゾンビといえばノロノロと歩いて生者とみれば噛み付いてくるようなホラー映画のモンスターだった。まあそのイメージも今や古いのかもしれないが。
「そりゃ死にたての死体だからな。
関節や筋肉も柔軟だし、生きていた頃の身体の使い方の癖もまだ建材なんだろう」
肩をすくめたヨールが、何でもない様子でそう言った。
どうやらこの世界のゾンビはそういうものらしい。
ということは死んで時間が経ったゾンビの方が弱くなるということか。それならつい先ほど死んだばかりのこいつらよりも強いゾンビはもういないということになる。
「ヨールは回復魔法を頼む。レミックはいざという時に備えて魔力を温存しておけ」
ルシッドがいうとエルフとハーフリングはこくりと頷いた。
脳筋作戦があっという間に固まっていくのを、オレは黙って見ていることしかできなかった。
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