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38.藤宮家への侵攻
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事前の連絡通り、ジャケットの下に淡い色合いのコットンシャツ、グレー系のチノパンという、かなりカジュアルな出で立ちで藤宮家に現れた小野塚和真は、玄関先で出迎えた美子と秀明に対して、礼儀正しく頭を下げた。
「初めまして、小野塚と申します。これはつまらない物ですが、宜しければ皆さんでお召し上がり下さい」
どこからどう見ても無害にしか見えない微笑みを浮かべながら、和真が手に提げてきた紙袋を差し出してきた為、美子が笑顔で受け取る。
「まあ、こちらの都合で出向いて頂いた上に、お土産まで頂戴しまして恐縮です。さあ、どうぞ。お上がり下さい」
「失礼します」
軽く会釈してから彼らに背を向けて靴を脱ぎ、上がり込んだ和真は、旧知の人物を振り返って小さく頭を下げた。
「お久しぶりです、社長」
その挨拶を受けた秀明は、軽く顔を顰める。
「それは止せ。義妹達は、俺と美子の桜査警公社との関わりを知らない」
「失礼致しました。初めてお目にかかります、藤宮さん」
「……白々し過ぎて、殴りたくなってきたぞ」
慇懃無礼とも言える一見殊勝な態度に、秀明は軽く凄んだが、相手はそれを平然と受け流した。
「殴りたくても、殴れませんよね? 奥様の前では。実力的にも、そうかもしれませんが」
「お前……」
思わず秀明が相手に詰め寄ろうとしたが、ここで美子が呆れた口調で割って入った。
「あなた、いい加減にして。こんな所で揉めないで頂戴。小野塚さん、こちらです」
「おい」
「はい」
秀明が何か言いかけたが、美子はそれは無視して和真を先導して行った。そして廊下を進んで角を曲がった突き当たりにある襖の前で足を止める。
「こちらになります。どうぞお入り下さい」
「失礼します」
襖を手で指し示してから、美子はそれを開けながら室内の美実に声をかけた。
「美実、小野塚さんがお見えになったわ」
「はい」
そして室内の中央に置かれた大きな座卓の一方に正座していた美実が居住まいを正し、神妙に向かい側に相手が座るのを待つ。そして相手が座ってから、挨拶をしながら頭を下げた。
「本日は家までご足労頂きまして、ありがとうございます。藤宮美実です」
「いえ、こちらこそ、こんな服装で失礼します。小野塚和真です」
「それではお茶を持って来ますので、お二人でお話でもしていて下さいね?」
「はい、分かりました」
そして美子が笑顔で断りを入れて引き下がった為、美実は内心で狼狽した。
(ちょっと待って美子姉さん! いきなり二人きりにしないでよ!? もうちょっと段取りとか、進め方とか教えてくれても! 私、こういうの初めてなのに!)
恨めしそうに美子が消えた襖を眺めている美実を見て、和真はおかしそうに小さく笑った。そして落ち着き払った様子で声をかける。
「それでは、美実さんと呼ばせて頂いても構いませんか?」
「え? えっ、ええ、お好きな様にどうぞ」
唐突な和真の台詞に美実は動揺しながら了解したが、相手は続けて脈絡の無い事を言い出した。
「ところで美実さん、さすが旧家として名高い藤宮家ですね」
「え? あの、それはどういう……」
「家具からして、一つ一つから重厚さが漂ってきます。この本紫檀の座卓などは惚れ惚れしますよ。この縁と脚の、彫り模様の見事なこと」
「はぁ……」
そう言いながら上半身を折り曲げて、座卓の側面から下を覗き込む様にした和真を、美実は呆気に取られて見やった。
(いきなり座卓を誉めるって……。実家が家具屋さんとかなのかしら?)
そして和真は、唖然としている美実には気付かれない様に手を伸ばし、天板の裏に貼り付けられていた小さな機器を、注意深く引き剥がして回収する。それから再び上半身を起こした和真は、悪びれない笑顔で更なる要求を繰り出した。
「それで、出向いて早々恐縮ですが、お庭を拝見させて頂けますか?」
「……はい。どうぞこちらに」
内心では(何なんだろう、この人?)と疑念を覚えたが、美実はおとなしく立ち上がり窓際へと移動した。そして障子を引き開けて、縁側に出ながら背後を振り返る。
「こちらになります」
「ああ、やっぱり話に聞いていた通り、見事な和風庭園ですね」
「それほど大げさな物ではありませんが……。あの、何を……」
何故か和真が縁側に出ず、両手を上に伸ばして鴨居に手をかけた状態で、全身を軽く伸ばしているのを見た美実は面食らったが、相手はそのままの体勢で苦笑しながら言葉を返した。
「え? ああ、すみません。実家の庭と趣が似ているもので、ついリラックスし過ぎてしまいました。今では滅多には戻りませんが、帰省する度にこんな事をしているもので」
「そうですか」
そう言いながら、和真は鴨居の縁に設置されていた、先程と同様の小型のマイクを手の中に回収したが、そんな事は想像もできなかった美実は不思議そうに相手を眺めた。
(益々意味不明。変わった人ね。実家が造園業とかなのかしら?)
そうこうしているうちに庭を眺め終えた和真と共に室内に戻ると、周囲をぐるりと見回していた彼が、何を思ったか床の間に向かって足を進めた。
「そういえば、この部屋に入った時から気になっていたのですが、その掛け軸は越路美舟の作品では無いですか?」
「え、ええ。一番上の姉が越路さんと知り合いで、頂いたと聞いていますが……」
「そうでしたか。いやあ、幸運だな。こんな所で予想外に、越路美舟を見られるとは」
「はぁ……」
近寄ってしげしげと鑑賞しながらも素早く視線を走らせた和真は、困惑気味の視線を向けてくる美実に怪しまれない様にさり気なく手を伸ばし、掛け軸の下部に下がっている、陶製の風鎮の下部に取り付けてあった小さな物を、器用に片手で取り除いた。更に先程回収した物を含めたそれらを、手前の花を活けてある水盤の中に静かに沈める。そして広がっている葉の陰に沈んだそれらをチラッと見て、和真はほくそ笑んだ。
(社長、なかなか上手く隠して設置していましたが、その道のプロを相手に、通用すると思わないで頂きたいですね)
そこでお茶を持参した美子が戻り、襖を開けながら声をかけてきた。
「失礼します」
お盆を手にして座敷に入った美子は、二人が揃って床の間の前に居たため、不思議そうに声をかける。
「あら、どうかされましたか?」
「いえ、まさかこちらで越路美舟の作品を見られるとは思っていなかったので、つい興奮してしまいまして」
照れくさそうに詫びた和真を見て、美子はお茶を座卓に置きながら鷹揚に頷いた。
「まあ、そうでしたか。それの価値が分かって頂けて嬉しいですわ。どうぞお気になさらず、ゆっくりご覧になって下さい」
「ありがとうございます」
そして一礼して再び座敷を出た美子だったが、廊下を挟んで反対側の部屋に入ると、秀明が何やら悪態を吐いていた。
「……ちっ! どこまでムカつく野郎だ!」
「あなた? どうかしたの?」
お盆片手に近付きながら尋ねると、秀明は手元の箱型の機器に繋いであるヘッドフォンを耳から外し、忌々しそうに彼女を見上げながら答える。
「あの野郎……。俺が予め仕掛けておいた盗聴器を、全部沈黙させやがった」
「さすが、その道のプロね……」
やっぱり人畜無害なのは見かけだけみたいだわと、美子が思わず遠い目をすると、若干腹を立てたまま秀明が言いつける。
「少ししたら、新しい茶を持って行って、様子を見て来い」
「分かったわ」
それに一応素直に頷きながらも、美子は(別に家の中で変な事をする筈もないのに、心配性ね)と心の中で密かに呆れた。
その頃、暫く掛け軸を堪能した和真は、元通り座布団に座ってから、謝罪の言葉を口にしていた。
「美実さん、すみません。一人で興奮してしまって」
しおらしく頭を下げる和真に、美実は軽く手を振りながら笑って答える。
「お構いなく。最初から変に気を遣われるより、こちらもリラックスできましたから」
「それは良かった。じゃあ見合いらしく、お互いの話でもしましょうか。美実さんは、私の職業についてはご存知ですか?」
そんな風に唐突に振られた話題に、美実は正直に答えた。
「あの……、釣書では『桜査警公社』勤務となっていましたが、不勉強で。ネットで調べても、何故か情報が出ていなくて、存じ上げていないんです。申し訳ありません」
「分からなくて正解です。それは我が社の担当者が、ネット上から我が社に関する情報を悉く排除していますから、知らなくて当然ですから」
「え? どうしてですか? それに、どうやってそんな事を?」
恐縮して頭を下げた美実だったが、和真が笑って応じた為、慌てて頭を上げた。すると和真が微笑んだまま説明を始める。
「我が社は法人個人を対象にした各種特殊調査と、私的な要人警護を主な業務にしています。それで社員の顔や名前、所属人数、業務内容に至るまで、外部に対して徹底的な情報封鎖をしておりまして。情報管理部が二十四時間体制で、社内の機密保持の管理をすると同時に、外部に情報が出た場合の削除や消去を担っているんです」
「そうなんですか。何かコンピューターの専門家がゴロゴロいそうで凄いですね……。でも世間に知られていないと、仕事の依頼がこないんじゃ無いですか?」
素朴な疑問を口にした美実だったが、和真はそれにも笑って答えた。
「過去の依頼者からの紹介で、経営は十分成り立っていますから」
「かなり特殊な職場みたいですね」
物騒な所は口にせず無難な説明をしてきた和真に、美実はあっさり納得して確認を入れた。
「要するに……、探偵とボディーガードを足して二で割った感じの所ですか?」
「足して二で割ると言うよりは……、足して二乗でしょうか?」
苦笑混じりに和真がそう口にした途端、美実が好奇心丸出しで座卓越しに身を乗り出してくる。
「うっわ! 凄いハードで濃い感じ! 良かったらもう少し、お仕事の話を聞かせて頂けません!?」
「妙齢の女性が聞いて、喜んで頂ける話かどうか分かりませんが……。美実さんがお望みなら、業務に支障の無い程度で、幾らでもお話ししますよ?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
その美実の食いつきっぷりに笑いを堪えながら、和真はそれから比較的穏便な事例の数々を具体的な社名や人名を伏せた上で、次々と語って聞かせた。
「初めまして、小野塚と申します。これはつまらない物ですが、宜しければ皆さんでお召し上がり下さい」
どこからどう見ても無害にしか見えない微笑みを浮かべながら、和真が手に提げてきた紙袋を差し出してきた為、美子が笑顔で受け取る。
「まあ、こちらの都合で出向いて頂いた上に、お土産まで頂戴しまして恐縮です。さあ、どうぞ。お上がり下さい」
「失礼します」
軽く会釈してから彼らに背を向けて靴を脱ぎ、上がり込んだ和真は、旧知の人物を振り返って小さく頭を下げた。
「お久しぶりです、社長」
その挨拶を受けた秀明は、軽く顔を顰める。
「それは止せ。義妹達は、俺と美子の桜査警公社との関わりを知らない」
「失礼致しました。初めてお目にかかります、藤宮さん」
「……白々し過ぎて、殴りたくなってきたぞ」
慇懃無礼とも言える一見殊勝な態度に、秀明は軽く凄んだが、相手はそれを平然と受け流した。
「殴りたくても、殴れませんよね? 奥様の前では。実力的にも、そうかもしれませんが」
「お前……」
思わず秀明が相手に詰め寄ろうとしたが、ここで美子が呆れた口調で割って入った。
「あなた、いい加減にして。こんな所で揉めないで頂戴。小野塚さん、こちらです」
「おい」
「はい」
秀明が何か言いかけたが、美子はそれは無視して和真を先導して行った。そして廊下を進んで角を曲がった突き当たりにある襖の前で足を止める。
「こちらになります。どうぞお入り下さい」
「失礼します」
襖を手で指し示してから、美子はそれを開けながら室内の美実に声をかけた。
「美実、小野塚さんがお見えになったわ」
「はい」
そして室内の中央に置かれた大きな座卓の一方に正座していた美実が居住まいを正し、神妙に向かい側に相手が座るのを待つ。そして相手が座ってから、挨拶をしながら頭を下げた。
「本日は家までご足労頂きまして、ありがとうございます。藤宮美実です」
「いえ、こちらこそ、こんな服装で失礼します。小野塚和真です」
「それではお茶を持って来ますので、お二人でお話でもしていて下さいね?」
「はい、分かりました」
そして美子が笑顔で断りを入れて引き下がった為、美実は内心で狼狽した。
(ちょっと待って美子姉さん! いきなり二人きりにしないでよ!? もうちょっと段取りとか、進め方とか教えてくれても! 私、こういうの初めてなのに!)
恨めしそうに美子が消えた襖を眺めている美実を見て、和真はおかしそうに小さく笑った。そして落ち着き払った様子で声をかける。
「それでは、美実さんと呼ばせて頂いても構いませんか?」
「え? えっ、ええ、お好きな様にどうぞ」
唐突な和真の台詞に美実は動揺しながら了解したが、相手は続けて脈絡の無い事を言い出した。
「ところで美実さん、さすが旧家として名高い藤宮家ですね」
「え? あの、それはどういう……」
「家具からして、一つ一つから重厚さが漂ってきます。この本紫檀の座卓などは惚れ惚れしますよ。この縁と脚の、彫り模様の見事なこと」
「はぁ……」
そう言いながら上半身を折り曲げて、座卓の側面から下を覗き込む様にした和真を、美実は呆気に取られて見やった。
(いきなり座卓を誉めるって……。実家が家具屋さんとかなのかしら?)
そして和真は、唖然としている美実には気付かれない様に手を伸ばし、天板の裏に貼り付けられていた小さな機器を、注意深く引き剥がして回収する。それから再び上半身を起こした和真は、悪びれない笑顔で更なる要求を繰り出した。
「それで、出向いて早々恐縮ですが、お庭を拝見させて頂けますか?」
「……はい。どうぞこちらに」
内心では(何なんだろう、この人?)と疑念を覚えたが、美実はおとなしく立ち上がり窓際へと移動した。そして障子を引き開けて、縁側に出ながら背後を振り返る。
「こちらになります」
「ああ、やっぱり話に聞いていた通り、見事な和風庭園ですね」
「それほど大げさな物ではありませんが……。あの、何を……」
何故か和真が縁側に出ず、両手を上に伸ばして鴨居に手をかけた状態で、全身を軽く伸ばしているのを見た美実は面食らったが、相手はそのままの体勢で苦笑しながら言葉を返した。
「え? ああ、すみません。実家の庭と趣が似ているもので、ついリラックスし過ぎてしまいました。今では滅多には戻りませんが、帰省する度にこんな事をしているもので」
「そうですか」
そう言いながら、和真は鴨居の縁に設置されていた、先程と同様の小型のマイクを手の中に回収したが、そんな事は想像もできなかった美実は不思議そうに相手を眺めた。
(益々意味不明。変わった人ね。実家が造園業とかなのかしら?)
そうこうしているうちに庭を眺め終えた和真と共に室内に戻ると、周囲をぐるりと見回していた彼が、何を思ったか床の間に向かって足を進めた。
「そういえば、この部屋に入った時から気になっていたのですが、その掛け軸は越路美舟の作品では無いですか?」
「え、ええ。一番上の姉が越路さんと知り合いで、頂いたと聞いていますが……」
「そうでしたか。いやあ、幸運だな。こんな所で予想外に、越路美舟を見られるとは」
「はぁ……」
近寄ってしげしげと鑑賞しながらも素早く視線を走らせた和真は、困惑気味の視線を向けてくる美実に怪しまれない様にさり気なく手を伸ばし、掛け軸の下部に下がっている、陶製の風鎮の下部に取り付けてあった小さな物を、器用に片手で取り除いた。更に先程回収した物を含めたそれらを、手前の花を活けてある水盤の中に静かに沈める。そして広がっている葉の陰に沈んだそれらをチラッと見て、和真はほくそ笑んだ。
(社長、なかなか上手く隠して設置していましたが、その道のプロを相手に、通用すると思わないで頂きたいですね)
そこでお茶を持参した美子が戻り、襖を開けながら声をかけてきた。
「失礼します」
お盆を手にして座敷に入った美子は、二人が揃って床の間の前に居たため、不思議そうに声をかける。
「あら、どうかされましたか?」
「いえ、まさかこちらで越路美舟の作品を見られるとは思っていなかったので、つい興奮してしまいまして」
照れくさそうに詫びた和真を見て、美子はお茶を座卓に置きながら鷹揚に頷いた。
「まあ、そうでしたか。それの価値が分かって頂けて嬉しいですわ。どうぞお気になさらず、ゆっくりご覧になって下さい」
「ありがとうございます」
そして一礼して再び座敷を出た美子だったが、廊下を挟んで反対側の部屋に入ると、秀明が何やら悪態を吐いていた。
「……ちっ! どこまでムカつく野郎だ!」
「あなた? どうかしたの?」
お盆片手に近付きながら尋ねると、秀明は手元の箱型の機器に繋いであるヘッドフォンを耳から外し、忌々しそうに彼女を見上げながら答える。
「あの野郎……。俺が予め仕掛けておいた盗聴器を、全部沈黙させやがった」
「さすが、その道のプロね……」
やっぱり人畜無害なのは見かけだけみたいだわと、美子が思わず遠い目をすると、若干腹を立てたまま秀明が言いつける。
「少ししたら、新しい茶を持って行って、様子を見て来い」
「分かったわ」
それに一応素直に頷きながらも、美子は(別に家の中で変な事をする筈もないのに、心配性ね)と心の中で密かに呆れた。
その頃、暫く掛け軸を堪能した和真は、元通り座布団に座ってから、謝罪の言葉を口にしていた。
「美実さん、すみません。一人で興奮してしまって」
しおらしく頭を下げる和真に、美実は軽く手を振りながら笑って答える。
「お構いなく。最初から変に気を遣われるより、こちらもリラックスできましたから」
「それは良かった。じゃあ見合いらしく、お互いの話でもしましょうか。美実さんは、私の職業についてはご存知ですか?」
そんな風に唐突に振られた話題に、美実は正直に答えた。
「あの……、釣書では『桜査警公社』勤務となっていましたが、不勉強で。ネットで調べても、何故か情報が出ていなくて、存じ上げていないんです。申し訳ありません」
「分からなくて正解です。それは我が社の担当者が、ネット上から我が社に関する情報を悉く排除していますから、知らなくて当然ですから」
「え? どうしてですか? それに、どうやってそんな事を?」
恐縮して頭を下げた美実だったが、和真が笑って応じた為、慌てて頭を上げた。すると和真が微笑んだまま説明を始める。
「我が社は法人個人を対象にした各種特殊調査と、私的な要人警護を主な業務にしています。それで社員の顔や名前、所属人数、業務内容に至るまで、外部に対して徹底的な情報封鎖をしておりまして。情報管理部が二十四時間体制で、社内の機密保持の管理をすると同時に、外部に情報が出た場合の削除や消去を担っているんです」
「そうなんですか。何かコンピューターの専門家がゴロゴロいそうで凄いですね……。でも世間に知られていないと、仕事の依頼がこないんじゃ無いですか?」
素朴な疑問を口にした美実だったが、和真はそれにも笑って答えた。
「過去の依頼者からの紹介で、経営は十分成り立っていますから」
「かなり特殊な職場みたいですね」
物騒な所は口にせず無難な説明をしてきた和真に、美実はあっさり納得して確認を入れた。
「要するに……、探偵とボディーガードを足して二で割った感じの所ですか?」
「足して二で割ると言うよりは……、足して二乗でしょうか?」
苦笑混じりに和真がそう口にした途端、美実が好奇心丸出しで座卓越しに身を乗り出してくる。
「うっわ! 凄いハードで濃い感じ! 良かったらもう少し、お仕事の話を聞かせて頂けません!?」
「妙齢の女性が聞いて、喜んで頂ける話かどうか分かりませんが……。美実さんがお望みなら、業務に支障の無い程度で、幾らでもお話ししますよ?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
その美実の食いつきっぷりに笑いを堪えながら、和真はそれから比較的穏便な事例の数々を具体的な社名や人名を伏せた上で、次々と語って聞かせた。
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