女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

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第8話 スキルの検証(2)

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 拓光の告げたスキルは次のようなものであった。

【名 前】 不知火拓光
【H P】 300
【M P】 700
【加 護】 電光石火(常時発動:速度 +20% 任意発動:速度 +100% ※MP 100/10分)
【スキル】
錬金術   10/10(最大値)
変身魔法  10/10(最大値)
栽培     3/10
採取     3/10
索敵     4/10(※MP 1/分)
土魔法    1/10

「すぐに死にそうですね」

 拓光のステータスを聞いての紗良の第一声がそれであった。

「いや、死なないから、そう簡単に死なないから。だいたい、お前らを基準にしないでくれ。生産職なんだから、HP30とか50で、残りを全てMPに振ったっておかしくないんだからな」

「では、なぜHPに300も振ったんですか?」

「以前、階段から落ちて死んだことがあったんだ」

 切なそうに拓光が告白した。

「それは……、ご愁傷様です」

 しんみりとしたところで、今度は図南が感想を述べた。

「何がしたいのか分からん」

「生産だよ、生産! 見てわかるだろ!」

「それは分かるけど、どうやって素材を集めるんだ?」

「姫プレイで生産職をやろうとしていたからなー。基本、戦闘や素材集めはチヤホヤしてくれる取り巻きにお任せのつもりだった」

「プレーヤーが男だと分かっていて貢ぐヤツがいるのか?」

「いるぞ。俺は他のゲームでもそうやって姫プレイをしている」

 得意げな拓光とは対照的に若干引き気味の図南と紗良は、関わり合いになるつもりがないとばかりに突き放す。

「何だか凄い世界だな……」

「あたしには理解できない世界です」

「理解してもらおうとは思ってねえよ」

 拗ねる拓光に図南が心底不思議そうな顔で聞く。

「ところで拓光。錬金術を最大値にしたのは分かるんだけど、変身魔法を最大値にしたのは何でだ? というか、そもそも、変身魔法で何をするつもりだったんだ?」

「たまには男のキャラに変身したり、別の女性キャラに変身したりして楽しもうと思ったんだ」

 図南と紗良が思いっきり不審な目を向けると、

「お前とその変身能力を組み合わせると悪用しか思い浮かばないんだが……」

「不知火さん、あたしに変身したら容赦なく魔弾を撃ち込みますからね」

 即座に拓光が抗議の声を上げる。

「いやいや、待ってくれ。二人とも俺をどんな目で見ているんだよ」

「どんな、って言われも、なあ、紗良」

「あたしにだけは絶っ対にっ、変身しないでくださいね」

 右手に魔力をまとわせた紗良が拓光ににじり寄る。

「しない! 絶対に闇雲には変身しない! 誓う!」

 身の危険を感じたのか、顔を引きつらせた拓光が紗良の前で両手を合わせて拝むようにして頭を下げた。

「変身してみたらどうだ?」

 図南の言葉に紗良と拓光の叫び声が重なる。

「図南!」

「正気か!」

 鬼の形相の紗良を見た図南が慌てて取り繕う。

「違う、違う! 適当な誰かに変身したらどうか、って言いたかったんだ。そう、たとえばアイドルとかどうだ?」

「嘘じゃないでしょうね?」

 いつになく厳しい口調の紗良に、図南がコクコクとうなずいた。

「アイドルだな、よし、アイドルに変身しよう。図南、誰かリクエストあるか?」

 図南もこの状況でリクエストをするほど朴念仁《ぼくねんじん》ではなかった。
 むしろ強い口調で興味のないことをアピールする。

「特にない。アイドルとか興味ないからな!」

「そうか、そうだよな」

 紗良にリクエストを求めるわけにもいかず、通学途中の広告で目にしたアイドルを思い浮かべた。
 すると、特撮の映像のように拓光の体形がみるみる変化する。

「嘘だろ……?」

「うわ! 本当に変身しちゃった」

 制服はそのままに、毎日のようにテレビで見かける可愛らしい少女の姿へと変わっていく。
 時間にして、わずか数秒。

「俺、変身したのか?」

 涼やかな声が流れた。
 それはテレビでよく聞く声。

 拓光は自身が発した少女のような声に驚き、すがるように図南へと視線を向ける。

「落ち着け、落ち着いて聞いてくれ」

 図南は半ば自分に言い聞かせるように言った。

「お、おう」

「名前は知らないが、テレビでよく見るアイドルの顔と身体になっている。女の子らしい服を着たら多分、見分けがつかないんじゃないか……」

「どこからどう見ても、可愛らしい女の子にしか見えませんし、見た目に合った可愛らしい声です」

 紗良も変身した拓光を食い入るように見つめていた。

「身体が小さくなって、胸が大きくなっている?」

 拓光が膨らんだ自身の胸にそっと触れた。

「おお! 柔らけー」

「お前、いくら自分の身体だからって……」

「最低です!」

 咎《とが》める二人に耳を貸さず、緩んだズボンとトランクスのウエストを引っ張って中を覗き込んだ。

「女だ!」

 拓光が発した歓喜の声に、

「紗良だっているんだぞ!」

 図南の非難する声が重なり、頬を染めた紗良が無言で視線を逸らせた。

「悪い悪い」

 悪びれる様子もなくそう言うと、続けて数人の女性アイドルに変身するが、どれも服装さえちゃんとしていれば本物と見分けがつかないほどの変身だった。
 だが、二人を本当に驚かせたのは姿形だけの変身ではなかった。

「女性のもの真似、とても上手ですね……」

 女性アイドルに変身した拓光の言葉遣いや仕草に、紗良が呆れとも感心ともつかない表情を浮かべた。

「うふふふ。ありがとう、紗良ちゃん。でも、まだまだよ」

 図南から見ても中学時代のクラスの女子生徒よりも女性らしいが、本人は納得していないようだ。

(いや、十分過ぎるだろ)

「まだまだなのか?」

「本番は、こ・れ・か・ら」

 美少女アイドルに変身した拓光が人差し指を立ててウィンクした。
 図南と紗良、二人の背筋に怖気《おぞけ》が走る。

「それ、やめろ」

「普通の女子高生はそんなことしません」

 わざとらしくこめかみに指をあてる図南とジト目を向ける紗良に、

「反省」

 美少女姿の拓光がテヘペロと舌をだして、小さな拳で自分の頭を軽く叩いた。

「やめろって!」

「はーい」

「さっきから女にばかりに変身するんだな」

「何が悲しくて男に変身しなきゃらんのだ」

 急に素の口調に戻った。

「まあ、いいけどな」

「でもさ、これで異世界も少しは楽しくなるな」

 拓光が妖しげな笑みを浮かべた。

「お前、能天気だな」

「だって、リアル姫プレイができるんだぜ」

「本気か?」

「もちろん!」

 美少女アイドル姿の拓光が得意げにサムズアップした。
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