女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

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第10話 隊商と盗賊

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 五台の馬車が街道を進んでいた。
 周囲を固める護衛と思しき冒険者は二十五人で全員が騎乗している。

 一見すると隊商のように見える馬車の一団であったが、よく見れば馬車にはそれぞれ異なる商会の紋章が施されていのが分かった。
 五つの行商が安全のために共同で護衛を雇い入れ、一時的に行動を共にしている仮初の集団である。

 馬車隊の後方から中央付近へと早足で進む馬が一頭。騎乗しているのは軽装の革鎧を着込んだ十五、六歳の少女である。
 少女は三台目の馬車と速度を合わせて馬を歩かせると、馬車を操車している三十代後半の女性に話しかけた。

「テレジアさん。夕食、期待していますね」

 少女に気付いたテレジアが優しげな笑みを浮かべた。

「アリシアちゃんが仕留めた鹿だものね、腕によりを掛けて料理するから楽しみにしててね」

「わー、楽しみにしていますね」

 弓の手入れをしていた彼女の眼前に鹿が偶然飛びだしてきたのだが、それでも自身で仕留めた鹿肉が食卓に並ぶのは殊更に楽しみなようである。

「あたしも手伝うから何かリクエストがあったら言ってね」

 テレジアの隣に座っていた十三、四歳くらいの少女がテレジアの向こう側から顔を覗かせた。

「ニーナが料理するの? 大丈夫?」

「酷いな、普段からお母さんの手伝いをしているんだから」

 ニーナはアリシアにそう言うと、テレジアに向かって、

「ね、お母さん。あたしもちゃんと料理できるよね」

 と彼女に同意を強制する。

 その様子にテレジアとアリシアが同時に吹きだす。二人の反応にニーナが頬を膨らませた、その瞬間、前方で悲鳴が上がった。

「馬車を止めて、中に隠れてください! あたしは前方を確認してきます」

 アリシアが馬を駆けさせた瞬間、矢が彼女の肩と脇腹を貫いた。バランスを崩した彼女が駆けだした馬から勢いよく放り出される。

「アリシア!」

「中に入りなさい!」

 叫ぶニーナを抱えたテレジアが彼女もろとも馬車の中へ転がり込んだ。
 それとほぼ同時に喧騒が広がる。

「襲撃だ! 森の中に賊が潜んでいるぞ!」

「戦闘態勢を取れ!」

「応戦しろ!」

「非戦闘員は馬車から出るな!」

 護衛たちの声が響き渡り、行商人たちは悲鳴を上げて自分の馬車の中へと逃げ込む。

「前方に盗賊!」

「後方に盗賊が現れたぞ!」

 馬車隊の前後で同時に声が上がった。

「チッ、囲まれた!」

「馬車を盾にするんだ!」

「矢に気を付けろ! 正確に飛んでくるぞ!」

 飛来する矢の幾つかを剣で薙ぎ払いながらベテランの護衛が仲間たちに注意を促すが、その彼も数本の矢を身体に受けて地面に転がった。
 それでも護衛たちは奇襲に耐えながら五台の馬車を弧の字型に停め、即席のバリケードを築くことに成功した。

 既に護衛の何人かが地面に転がっていたが、それでも容赦なく風切り音を響かせて幾つもの矢が飛来する。続いて馬車に突き刺さる鈍い音が幾つも響き渡る。
 それはテレジアとニーナの馬車も例外ではなかった。

 むしろ、バリケードの真ん中に位置するだけに、他の馬車よりも多くの矢が突き刺さっていた。
 その馬車の中では恐怖に震えるニーナが母親にしがみ付く。

「お母さん」

「大丈夫、大丈夫よ。護衛の人たちがいるでしょ。彼らが守ってくれるわ」

 テレジアのことばに矢を受けて馬から放り出されたアリシアの姿が蘇る。

「嫌ー!」

「ここは安全よ。安全だから何も心配しないで」

 テレジアはニーナを抱きしめながら外の音に耳を傾けた。
 幾本もの矢が馬車に突き刺さる乾いた音が辺りに響く。続いて一瞬の静寂が訪れたが護衛のリーダーが静寂を破った。

「奇襲は失敗だ! 大人しく引き下がれ! お前たちが大人しく退くならこちらも追撃はしない!」

「ふざけんな! 奇襲は失敗したかもしれないが戦いはこれからだぜ! そっちは何人が戦える! こっちは一人もやられちゃいねえぞ!」

 余裕すら感じられる声音で盗賊団の頭目が叫び返した。
 彼の言う通り、護衛は二十五人中すでに七人が戦闘不能状態であった。加えて護衛の中でも最も優秀な魔術師であるアリシアは生死不明の状態である。

 翻《ひるがえ》って盗賊側は四十人全員が健在であった。
 護衛側から盗賊たちの人数は分からなかったが、それでも怪我人の数を考えれば勝算が低いと判断した護衛のリーダーが交渉を申し出る。

「依頼主と相談させてくれ!」

 積荷の何割かを引き渡すことで命の保証と残りの積荷を保全する取引である。盗賊たちも欲をかいて命を落としたり怪我をしたりなどしたくないだろう、との判断であった。

「取引はしねえ! 積荷は全部頂く。女も全部頂く。男は全員殺して身包み剥いでやるぜ!」

 頭目が一蹴した。
 その言葉に馬車に隠れていた者たち全員の背筋に冷たいものが走る。

「応戦するぞ!」

「依頼主さん! 死にたくなかったら一緒に戦ってくれよ!」

 護衛のリーダーに続いて年配の護衛が非戦闘員である依頼主たちにはっぱをかけた。護衛たちは非戦闘員と呼んではいたが行商人たちも戦闘経験がない者はほとんどいない。
 護衛と一緒に盗賊や魔物と戦うことなど割と当たり前だったりする。

 行商人やその使用人たちが次々と武器を手に取った。
 テレジアも馬車の中にあった短槍を手にする。

「お母さん、気を付けて」

「ええ、十分気を付けるわ。ニーナ、貴女はここに隠れていなさい。万が一のときはカッセルの街を目指すのよ」

 商業都市カッセル。
 神聖バール皇国、第二の都市。皇国最大の港を有する商業都市である。

 涙を流しながらもニーナが無言でうなずいた。
 その時、馬車の外からは剣と剣が打ち合わさる甲高い金属音が響き、盗賊たちのものと思われる下品な言葉と恫喝するような怒声が轟いた。

「皆殺しにしろ!」

「女は生かしておけよ! 楽しんだ後に売っ払《ぱら》うから傷物にはするなよ!」

「ヒッ!」

 怯える少女を母親が抱きしめる。

「大丈夫よ、ニーナ」

「お母さん……」

「大丈夫、護衛の冒険者さんたちだっているんだから、大丈夫」

「うん」

 ニーナが力強くうなずいたその時、馬車の幌が切り裂かれ、抜き身の剣を手にした二人の盗賊が姿を現した。

「女だ! 女が二人もいたぞ!」

「一人はガキだが、関係ねー」

 次の瞬間、テレジアが突き出した短槍が盗賊のみぞおちを背中まで貫いた。

「グハッ!」

「娘には手を出させないよ!」

「クルト!」

 クルトと呼ばれた腹に槍を突き立てられた盗賊が馬車の中で槍の柄を握ったまま倒れ込んだ。
 短槍が抜けないことにテレジアが思ず声を上げるのと、もう一人の盗賊の声が馬車の中に響く。

「しまった!」

「テメー!」

 盗賊は反射的にテレジアに向けて剣を突きだしていた。突き出された剣が槍を握った女性の胸を貫き、剣先が背中へと抜ける。

「キャー! お母さん!」

 女性の背後にいた少女の甲高い悲鳴が響く。

「やかまし!」

「嫌ー!」

 馬車の中にくずおれる母親に少女が顔を蒼ざめさせた。

「ニーナ、逃げて!」

「嫌ー! お母さん! お母さん!」

「テメーは後回しだ。そこで大人しくしてな」

 テレジアにすがって泣き叫ぶニーナを見て戦力外と判断した盗賊が馬車の外へと飛び出すのと同時に戦場に異変が起きた。
 馬車の周辺に轟音が鳴り響き、大地が抉られ、まるで小さな爆発でも起きたように土煙がそこかしこで上った。

「ヤベーぞ! 魔法だ! 攻撃魔法だ!」

「増援か?」

「何処だ! 何処から撃ってきやがった!」

 圧倒的に有利と思われた襲撃作戦。その最中に突然の魔法攻撃を受けて盗賊たちが混乱する。
 放物線を描いて高速で飛来する攻撃魔法が盗賊と隊商とを引き離すように次々と打ち込まれる。

「チッ! 退け! 距離を取れ!」

「森に姿を隠せ!」

 攻撃魔法を隊商たちへの援軍と思い込んだ盗賊たちが一斉に距離を取った。

 その隙を逃すことなく、盗賊と隊商側との間に空いた空間へ攻撃魔法が続けざまに撃ちこまれる。

 上空から飛来するその攻撃魔法は大地を何か所も抉り、轟音と共に土煙を巻き上げた。

 双方ともに姿の見えない相手からの攻撃魔法に戦慄が走る。

 正体不明の攻撃魔法は隊商と盗賊との戦闘を完全に中断させた。

 ◇

「見えた!」

 身体強化、感覚強化、集中、加速を駆使して疾走していた図南の目に、紗良の魔弾により強制的に距離を取らされた隊商と盗賊の一団が映った。

 視界に捉えてからは一瞬。
 距離を詰めた図南が紗良の魔弾で爆心地のようになった戦場に飛び込む。

「双方、剣を収めろ!」

 図南が割って入るのと紗良の魔弾が止むのが同時だった。

「誰……?」

「盗賊が退いた……」

「いまの攻撃魔法はあの少年なのか……」

 隊商側の人々のすがるような視線と盗賊たちの警戒の視線とが図南に注がれた。

「ヤベーぞ、あの攻撃魔法は……」

「いつでも逃げられるようにしておけ!」
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