2 / 3
教会と老人のくれた本
しおりを挟む
「まいどありー」
肩を落として足早にさっていく男の背に、少女が明るい声が投げかけます。
「やっぱり情報と経験って大切よねー」
少女の情報と経験がどのようなものかは分かりませんが、ポケットのなかの銀貨の数だけの価値があったのは確かなようです。
鼻唄交じりにポケットのなかの銀貨を数えていると、見知った男が目の端に映りました。
先程、マッチを五箱も買ってくれた上客です。
(ちょ、なんで兵士と一緒なのよっ)
少女は本能的に身の危険を感じて近くの建物に飛び込みました。
「まさか兵士を連れてくるとは思わなかったわ。これ以上、いたいけな少女が大人相手にこの商売をするのは危険ね」
少女は外の様子をうかがいながら、今後の身の振り方を思案し始めました。
(軍資金もできたことだし、商売を変えるか……)
「とは言ってもなあ……」
「お嬢さん、何か御用ですか?」
落ち着いた男性の声が少女の思考を中断します。
(誰?)
振り返った少女の視線の先には年老いた神父様がいました。
少女がまじまじと老人の顔を見る。
「どうかされましたか?」
今朝、助けた、行き倒れていた老人のことを思いだしていた。
その老人と好々爺とした神父の顔が重なる。
続いて老人の言葉が脳裏に浮かぶ。
『助けてくれたお礼に特別な知識を君に授けよう』
そう言って渡された一冊の本。
そこには幾つもの見知らぬ道具の作り方や料理、お菓子のレシピが書かれていた。
「神父様?」
「はい、神父ですよ、お嬢さん」
「ここは、教会?」
辺りを見回すと燭台(しょくだい)にはロウソクが灯され、その淡い光に照らしだされた景色は、ここが教会であること教えてくれます。
少女は自分が教会に逃げ込んだのだと、そこで初めて気づきました。
「ええ、教会です。こんな時間にどのようなご用でしょう?」
「怖い感じの男の人に追われて……、慌てて隠れたらここでした。教会とは知りませんでした」
少女はすがるように神父を見上げます。
「怖い感じの男の人?」
「はい、黒っぽい服を着て棒を持っていました」
怯える少女に神父様が優しく語り掛けます。
「棒ですか。穏やかではありませんね。兵士を呼びましょうか? 家まで送ってもらいましょう」
「いえ、大丈夫です。怖い感じがしただけで、追い掛けられたり何かされたりした訳じゃありませんから」
少女はそう言うと、神父様から目を逸らしてささやくように言います。
「それに……もし誤解だったら、相手の人に気の毒だし……」
「なんと優しいお嬢さんだ。ですが、もうこんな時間です。家に帰らないとご両親が心配していますよ」
少女は手にしたバスケットに視線を落とした。
「このマッチを全部売るまでは、家に入れてもらえないんです」
(全部売れたら家に帰らなくても当分暮らしていけそうだけどね)
「もし行くところがないのなら、今夜は教会に泊って行きなさい。温かいスープくらいなら出してあげられます」
「ありがとうございます、神父様。いよいよとなったら頼らせて頂きます」
少女はそう言うと、少し困ったような表情をでつぶやきました。
「その、お願いがあるんですけど」
「お願いですか? 私にできることでしたら力になります」
神父様がほほ笑んだ。
「ロウソクを少し分けて頂けませんでしょうか」
「ロウソク?」
「はい、ロウソクです」
肩を落として足早にさっていく男の背に、少女が明るい声が投げかけます。
「やっぱり情報と経験って大切よねー」
少女の情報と経験がどのようなものかは分かりませんが、ポケットのなかの銀貨の数だけの価値があったのは確かなようです。
鼻唄交じりにポケットのなかの銀貨を数えていると、見知った男が目の端に映りました。
先程、マッチを五箱も買ってくれた上客です。
(ちょ、なんで兵士と一緒なのよっ)
少女は本能的に身の危険を感じて近くの建物に飛び込みました。
「まさか兵士を連れてくるとは思わなかったわ。これ以上、いたいけな少女が大人相手にこの商売をするのは危険ね」
少女は外の様子をうかがいながら、今後の身の振り方を思案し始めました。
(軍資金もできたことだし、商売を変えるか……)
「とは言ってもなあ……」
「お嬢さん、何か御用ですか?」
落ち着いた男性の声が少女の思考を中断します。
(誰?)
振り返った少女の視線の先には年老いた神父様がいました。
少女がまじまじと老人の顔を見る。
「どうかされましたか?」
今朝、助けた、行き倒れていた老人のことを思いだしていた。
その老人と好々爺とした神父の顔が重なる。
続いて老人の言葉が脳裏に浮かぶ。
『助けてくれたお礼に特別な知識を君に授けよう』
そう言って渡された一冊の本。
そこには幾つもの見知らぬ道具の作り方や料理、お菓子のレシピが書かれていた。
「神父様?」
「はい、神父ですよ、お嬢さん」
「ここは、教会?」
辺りを見回すと燭台(しょくだい)にはロウソクが灯され、その淡い光に照らしだされた景色は、ここが教会であること教えてくれます。
少女は自分が教会に逃げ込んだのだと、そこで初めて気づきました。
「ええ、教会です。こんな時間にどのようなご用でしょう?」
「怖い感じの男の人に追われて……、慌てて隠れたらここでした。教会とは知りませんでした」
少女はすがるように神父を見上げます。
「怖い感じの男の人?」
「はい、黒っぽい服を着て棒を持っていました」
怯える少女に神父様が優しく語り掛けます。
「棒ですか。穏やかではありませんね。兵士を呼びましょうか? 家まで送ってもらいましょう」
「いえ、大丈夫です。怖い感じがしただけで、追い掛けられたり何かされたりした訳じゃありませんから」
少女はそう言うと、神父様から目を逸らしてささやくように言います。
「それに……もし誤解だったら、相手の人に気の毒だし……」
「なんと優しいお嬢さんだ。ですが、もうこんな時間です。家に帰らないとご両親が心配していますよ」
少女は手にしたバスケットに視線を落とした。
「このマッチを全部売るまでは、家に入れてもらえないんです」
(全部売れたら家に帰らなくても当分暮らしていけそうだけどね)
「もし行くところがないのなら、今夜は教会に泊って行きなさい。温かいスープくらいなら出してあげられます」
「ありがとうございます、神父様。いよいよとなったら頼らせて頂きます」
少女はそう言うと、少し困ったような表情をでつぶやきました。
「その、お願いがあるんですけど」
「お願いですか? 私にできることでしたら力になります」
神父様がほほ笑んだ。
「ロウソクを少し分けて頂けませんでしょうか」
「ロウソク?」
「はい、ロウソクです」
1
あなたにおすすめの小説
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ママのごはんはたべたくない
もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん
たべたくないきもちを
ほんに してみました。
ちょっと、おもしろエピソード
よんでみてください。
これをよんだら おやこで
ハッピーに なれるかも?
約3600文字あります。
ゆっくり読んで大体20分以内で
読み終えると思います。
寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。
表紙作画:ぽん太郎 様
2023.3.7更新
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる