天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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隊長アダン3

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 団長と部下という関係から何の進展もないまま、半年あまりが経過していた。

 騎士の仕事は華やかに思われがちだが、二人一組の巡回と要所の警備が主な職務だ。

 午前、午後、夜間のシフト制で、それ以外の時間は基礎体力づくりに加え、剣術や体術、乗馬と厳しい訓練が待っている。

 ルネは団長の職務に加え、王子たち――特に第一、第三王子に気に入られたようで、護衛を名目に何かにつけ呼び出され、更に多忙な日々を送っている。

 顔を見られるのは運よく訓練の時間が重なった時か、食事の時くらいしかない。
 そして相変わらずルネの隣にはジュストがいる。

 その立場を羨みながらも表に出さぬよう努めていたアダンに、ようやくチャンスが巡ってきた。
 ジュストが、長兄の結婚式のため休暇を取り領地に戻ることが発表されたのだ。

 前々から決定している予定であっても、防犯上の観点から団長と副団長の行動についてはすぐに共有されないことが多い。
 アダンたち団員が今回の帰省を知ったのは、ジュストが発つ数日前のことだった。

 グラック伯爵領は、王都からヴィレール公爵領を通過した先にある。
 馬車で片道五日間、馬を乗り継いで駆けても三日間の距離だ。
 つまり、ジュストは最短でも一週間は不在になるのだ。

 団員たちがにわかに浮き足立っている中、アダンはジュストに呼び出された。

 夜の宿舎は薄暗い。
 その薄闇に立つジュストは見るからに不機嫌そうな表情で、腕を組んでアダンを睨みつけている。
 子どもが見たら恐怖で震えあがりそうな形相だが、不機嫌の原因を知っているアダンにとっては大して恐ろしいものではなかった。

「既に聞いていると思うが、式典のため領地に戻ることになった」
「グラック卿がご結婚されるとか。おめでとうございます」
「何かめでたいものか! クソッ、兄上の奴、間が悪すぎる……!」

 慶事を前にジュストが苛立ちを露わにしているのは、騎士団の定例宴会と重なってしまったせいだ。

 定例宴会とは、立場上街の酒場に気軽に立ち寄ることのできない団員たちのガス抜きのために設けられた、伝統的な酒宴だ。

 場所こそ宿舎の食堂ではあるが、大いに羽目を外して飲んでよい日として年に数回、閑散期または大きなイベントの後に開催されている。

 夜勤の者は参加できないなど、業務に差し障りのないようにいくつかルールが定められているため、団員たちは安心して酒に溺れることができる。

 予定ではジュストが出発する数日前に開催されるはずだったのだが、城下で偶発的に起こった事件の後処理などで延期となり、元から決まっていた特別休暇と重なってしまったのである。

 無論、ジュストが焦っているのは酒が飲めないからではない。
 ルネのそばにいられないからだ。

 ルネが団長に就任してひと月が経過した頃、歓迎会を兼ねた宴会が開催された。
 酒を一滴でも飲めば真っ赤になりそうな儚げな見た目とは裏腹に、ルネの飲み方は豪胆だった。
 言葉を選ばずに言うなら、酒癖がよろしくなかった。

 多くの者にとって、もちろんアダンにとってもそのギャップは魅力の一つとして映った。

 酒が回って眠そうにしている様は可愛らしさと妖艶さが同居していて、男たちを大いに刺激した。
 運良く酔ったルネに寄りかかられた団員は口元を緩めながら、心配するふりをして腰に手を回そうとする。
 そんな不埒な手を堂々と叩き落とすことができるのは、ジュストだけだ。

「お前なら俺が何を危惧しているかわかるはずだ」
「……はい」

 ジュストという保護者がいなければ、酒で羽目を外した者が大胆な行動に出ないとも限らない。

「隊長の中ではお前を一番信用している。ルネ……団長を、よろしく頼む」

 信用といえば聞こえはいいが、ようは臆病で生真面目なアダンなら何かする可能性は低いと踏んでいるのだろう。

 アダンとて男だ。好機さえあれば攻める気概は持ち合わせている。
 普段はジュストによってその好機が踏み潰されているにすぎない。

 とはいえ、酔ったルネにつけこむ卑怯な真似をするつもりはない。
 もちろん性的な願望はあるが、親密になるのが前提の話だ。

 騎士団の中でルネと親しいといえるのはジュストだけで、残りは皆同じような距離感だ。
 まずは、その他大勢から頭一つ抜け出したい。

 その機会がようやく巡ってきたのだ。
 堂々とルネの世話を焼く、焦がれていたあの役割が自分のものに――。

 じわじわと湧き上がる喜びを悟られてはいけないと、アダンは懸命に表情を引き締めた。

「……はい! お任せください、副団長」



 決意を胸に宴会に臨んだアダンだったが、考えることは皆同じらしい。

 ルネの近くの席を勝ち取った者達は、普段よりも前のめりでルネに話しかけている。

 いくらジュストが不在とはいえ、堂々と不埒な真似をする者はさすがにいない。
 そのかわりに、せめてお近づきになりたいと考えた団員が、ルネに代わる代わる酒を注いでいく。

 ジュストのように団員たちを睨みつけることはできないアダンは、ルネを取り囲む団員たちを注意するが、「今夜くらいいいじゃないですか」と流されてしまう。
 ならばルネを窘めるしかない。

「団長、少し飲みすぎじゃないですか」

 親しくなる前に酔い潰れて寝てしまったら、せっかくの機会が台無しだ。
 椅子をこちらに傾けたルネは、ビールが並々と注がれた自分のグラスをアダンに押し付けてきた。

「じゃあ、アダンも飲めばいい」
(こ、これは間接キス……!)

 断る理由がないアダンは、渡されたグラスを一気に飲み干した。
 いつもの百倍美味しい気がするなどと考えていると、ルネは満足げな笑みを浮かべながらアダンの手からグラスを取り返した。

 その空いたグラスに別の団員が酒を注ぎ、ルネが飲み干す。
 それを窘めればアダンにグラスが渡されるという悪循環が発生し、結局はアダンも普段よりかなりの量を飲まされることとなったのだった。



 それから一時間も経たないうちに、ルネはアダンに凭れかかり寝息を立てていた。
 かなりの量を飲んだにもかかわらず眠気がこないのは、肩に感じる重みと温もりに心臓が狂ったように拍動しているからだろう。

「アダン隊長もだいぶ酔ってるようですし、団長は俺がお部屋まで運びましょうか?」

 そろそろお開きにするかと考えていた時、あからさまな下心を含んだ声が頭上から降ってきた。
 顔を上げると、やはり声の主は欲を隠しきれない様子でルネの寝顔を覗き込んでいた。

「いや……副団長に直接頼まれているから、団長は俺が運ぶ」

 ジュストの名は効果覿面で、男は残念そうに去っていった。

 そろそろ頃合いだろう。
 他の隊長に宴会の仕切りを任せ、ルネを両腕に抱きかかえたアダンは、羨望の眼差しに気付かない振りをしながら食堂を後にした。

 薄暗い宿舎の階段を転ばぬよう一段一段、慎重に上っていく。
 腕の中で寝息を立てているルネを見ていると、あたかも恋人同士であるかのような錯覚に陥ってしまう。
 お互いに隊服ではなく白いシャツと黒いズボンという軽装なのも、プライベートな雰囲気を醸し出し、アダンの妄想を後押ししてくる。

 このまま自分の部屋に運んで、酔っているルネを優しくキスで起こして、それから――。

(何を考えているんだ、俺は!)

 ありえない妄想に下半身がうずき始め、アダンは慌てて首を大きく左右に振った。

「ん……」

 振動で眠りが浅くなったのか、ルネは少し身動いでからアダンの胸元に額を擦りつけてきた。
 飛び上がりたいほど嬉しい反面、欲を抑えなければいけない今のアダンにとっては素直に喜べない状況だ。
 甘えるような仕草は毒でしかない。

(勘弁してくれ……)

 抱きかかえる腕に力を込めながら、アダンはどうにか宿舎の四階まで上りきった。
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