天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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副団長ジュスト1

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 ジュストは焦っていた。

 兄の結婚にかかる式典と披露パーティーが終わるやいなや、ジュストは責務は果たしたとばかりにグラック領を後にした。

 それほど急ぐ必要があるのかと皆驚いていたが、家族と団らんする時間があるなら一秒でも早く王都へ戻りたかった。

 今更急いだところで意味はないと分かっている。
 それでもジュストは、馬を急かさずにはいられなかった。

 これほど強い焦燥に駆られているのは、ルネがあまりにも鈍感で無防備だからだ。

 ――あの日受けた衝撃は忘れもしない。

 腸が煮えくり返り、今すぐ相手を切り裂いてやりたい強い衝動。
 ルネに気付かれぬよう必死にこらえているが、今でも思い出すだけで気が狂いそうになる。




 あれは、ルネが団長に就任して二週間と少しが経過した頃だった。

 まもなく日付が変わるという時間帯に、ルネがジュストの部屋を訪ねてきた。
 ルネの方からこの部屋にやってくるのは初めてのことだ。
 そろそろ寝ようと思っていたところだったが、断る理由のないジュストは少し表情の固いルネを部屋に招き入れた。

 二人掛けのソファに掛けるよう促し、自身もその隣に腰を下ろす。

「どうした、こんな夜中に。眠れないのか?」
「……眠れない、わけではないけど」

 歯切れが悪いということは、言い出しにくい内容なのだろう。
 ジュストはルネの緊張をほぐすため、別の話題に切り替えた。

「そういやルノー殿から俺にも書簡が来てたぞ。ルネは大丈夫か、困ってないかって、お前に関する心配がびっしり」
「兄上……お忙しいのに心配をかけてしまって、不甲斐ないな」
「あの人が心配性なだけで、お前はよくやってるよ」

 ポンポンと頭を撫でると、ルネはちらりとこちらを見上げた。
 
 恐ろしいほど美しい上目遣いに、背中がぞくりと粟立つ。

 数年ぶりに再会した幼馴染は、元からの美しさに磨きがかかっただけでなく、危うげな色香を漂わせるようになっていた。
 しかも本人は自身の外見に無頓着ときている。

 ルネの父であるヴィレール公も、そんなルネを男所帯に放り込むことを非常に心配していたのは記憶に新しい。

 長年の付き合いがあるジュストだからこそ、ルネが何の気なしにただこちらを見上げているだけだと分かるが、深夜に部屋を訪ねてきて意味ありげに見つめられたら、勘違いをしてしまう男は多いだろう。

 ジュストの心情など知らないルネは、床に視線を落とした。

「……よくやってるように見えるなら、それは皆のおかげだ」

 ルネは自身の能力を把握しており自己評価は決して低くないはずだが、自分よりも回りを立てるきらいがある。
 自分が努力するのは当たり前で、それが結実すると、努力する環境を整えてくれた周囲に感謝する。

 もしかすると、過剰に保護されることへの負い目を無意識のうちに感じているのかもしれない。

「いや、たまには自分自身を褒めてやれよ。周りが支えてくれるのは、お前を団長として慕ってるからだろ」

「反発を覚悟していたが、温かく迎えてもらって本当に感謝している」

 団長として、だけでないのがジュストの目下の悩みの種だ。

 初めこそルネの外見ばかりに目が行き、良く思っていない者もいたが、団長として一番必要な剣の腕を見せつけたことで、批判の声はすぐに消えていった。

 その代わりにルネへ向けられているのが、下心を含んだ視線だ。

 少し長い後ろ髪から覗くうなじや、ジャケットを脱いだ時の腰のラインや尻に向けられる視線には密やかな欲がこもっている。

 当然ルネは全く気が付いていない。
 ジュストがさり気なく追い払っているが、四六時中張り付いているわけにはいかない。

 どうにか自衛してもらいたいが、彼らの下心を証明するのは難しく、ルネは団員を疑うことを厭うだろうことを考えると、具体的な注意ができずにいた。

 風呂を一人で使わせるよう強引に取り決めたり、部屋は必ず鍵を掛けろと声を掛けることがせいぜいだ。

「ま、ヴィレール公爵家に逆らおうとする奴はいないだろ。あんまり気負いすぎるなよ」
「……そうだな。大切なのは職責を果たすことだ。それには、皆や家の力も頼りにさせてもらおう」
「――俺は?」
「え?」

 ルネのためにしていることを恩に着せるつもりは毛頭ないが、 有象無象とひと括りにされるのは少しばかり腹が立つ。
 子どものようだと思いながらも、ジュストはわざとらしく不機嫌な顔を作ってみせた。

 そんなジュストの態度をどう受け取ったかは分からないが、ルネは真剣な眼差しで見つめ返してきた。

「もちろん、誰よりも頼りにしている。今日もジュストにしか相談できないと思って来たんだ」

 ルネが頼るのは自分のほかいない。
 それは、決して実ることのない想いを寄せているジュストの心の支えだった。

 貴族の男子である以上、好きな人と結ばれることも、家から逃げ出すこともできはしない。
 ならば、一番近くで支えられる存在でいたい。
 行き場のない感情を抱えたジュストがどうにか見つけた着地点だ。

 言葉にしてもらったことに満足したジュストは、足を組んで気安い雰囲気を作り出した。

「おう。遠慮なく話してみろよ」

 ジュストの構えすぎない態度に安堵したのか、ルネはようやく表情を少しだけ緩めた。

「ありがとう。その……ジュストは、マッサージってどうしてる?」
「マッサージ?」
「だから、ここの……」

 ルネは少し気恥ずかしそうに、自身の下腹部に白い指先をあてた。

(ああ、自慰のことか)

 大方、ルネに品位のない言葉を教えたくないルノーあたりがそう表現したのだろう。
 思いもよらない質問とルネのしぐさに内心動揺したものの、ジュストは平静を装って見せた。

「どうって……適当に済ませてるけど」 
「そう、か……そうだよな」

 しゅんと顔を曇らせたルネに、ジュストの動揺はますます深まった。
 ジュストの返答に満足していないことは分かったが、どんな回答を求めているかはさっぱり分からない。

 だが、ルネに対して分かったふうな態度でやり過ごしたくはない。 

「……お前はどうしてんの」

 ジュストは疑問をストレートに口にして、ルネの出方を窺った。

「その……一人ではできなくて」
「……は?」
「あ、先生いわく、珍しい体質なだけで病気ではないから心配はいらない」

 一人でできないのが自慰を指すとすると、誰かに手伝ってもらっていたということか。
 その先生って奴に?
 そもそも先生とは誰だ?
 珍しい体質とは?
 分からないことがあまりに多すぎて、ジュストの脳内は混乱を極めた。 

「……先生って誰だよ」 

 まず確かめなければならないのは、先生とやらの存在だ。
 ルネの言葉から推測すれば、その先生がルネの「一人ではできない自慰」に関わっているのは間違いない。

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