天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

文字の大きさ
11 / 48

副団長ジュスト1

しおりを挟む
 ジュストは焦っていた。

 兄の結婚にかかる式典と披露パーティーが終わるやいなや、ジュストは責務は果たしたとばかりにグラック領を後にした。

 それほど急ぐ必要があるのかと皆驚いていたが、家族と団らんする時間があるなら一秒でも早く王都へ戻りたかった。

 今更急いだところで意味はないと分かっている。
 それでもジュストは、馬を急かさずにはいられなかった。

 これほど強い焦燥に駆られているのは、ルネがあまりにも鈍感で無防備だからだ。

 ――あの日受けた衝撃は忘れもしない。

 腸が煮えくり返り、今すぐ相手を切り裂いてやりたい強い衝動。
 ルネに気付かれぬよう必死にこらえているが、今でも思い出すだけで気が狂いそうになる。




 あれは、ルネが団長に就任して二週間と少しが経過した頃だった。

 まもなく日付が変わるという時間帯に、ルネがジュストの部屋を訪ねてきた。
 ルネの方からこの部屋にやってくるのは初めてのことだ。
 そろそろ寝ようと思っていたところだったが、断る理由のないジュストは少し表情の固いルネを部屋に招き入れた。

 二人掛けのソファに掛けるよう促し、自身もその隣に腰を下ろす。

「どうした、こんな夜中に。眠れないのか?」
「……眠れない、わけではないけど」

 歯切れが悪いということは、言い出しにくい内容なのだろう。
 ジュストはルネの緊張をほぐすため、別の話題に切り替えた。

「そういやルノー殿から俺にも書簡が来てたぞ。ルネは大丈夫か、困ってないかって、お前に関する心配がびっしり」
「兄上……お忙しいのに心配をかけてしまって、不甲斐ないな」
「あの人が心配性なだけで、お前はよくやってるよ」

 ポンポンと頭を撫でると、ルネはちらりとこちらを見上げた。
 
 恐ろしいほど美しい上目遣いに、背中がぞくりと粟立つ。

 数年ぶりに再会した幼馴染は、元からの美しさに磨きがかかっただけでなく、危うげな色香を漂わせるようになっていた。
 しかも本人は自身の外見に無頓着ときている。

 ルネの父であるヴィレール公も、そんなルネを男所帯に放り込むことを非常に心配していたのは記憶に新しい。

 長年の付き合いがあるジュストだからこそ、ルネが何の気なしにただこちらを見上げているだけだと分かるが、深夜に部屋を訪ねてきて意味ありげに見つめられたら、勘違いをしてしまう男は多いだろう。

 ジュストの心情など知らないルネは、床に視線を落とした。

「……よくやってるように見えるなら、それは皆のおかげだ」

 ルネは自身の能力を把握しており自己評価は決して低くないはずだが、自分よりも回りを立てるきらいがある。
 自分が努力するのは当たり前で、それが結実すると、努力する環境を整えてくれた周囲に感謝する。

 もしかすると、過剰に保護されることへの負い目を無意識のうちに感じているのかもしれない。

「いや、たまには自分自身を褒めてやれよ。周りが支えてくれるのは、お前を団長として慕ってるからだろ」

「反発を覚悟していたが、温かく迎えてもらって本当に感謝している」

 団長として、だけでないのがジュストの目下の悩みの種だ。

 初めこそルネの外見ばかりに目が行き、良く思っていない者もいたが、団長として一番必要な剣の腕を見せつけたことで、批判の声はすぐに消えていった。

 その代わりにルネへ向けられているのが、下心を含んだ視線だ。

 少し長い後ろ髪から覗くうなじや、ジャケットを脱いだ時の腰のラインや尻に向けられる視線には密やかな欲がこもっている。

 当然ルネは全く気が付いていない。
 ジュストがさり気なく追い払っているが、四六時中張り付いているわけにはいかない。

 どうにか自衛してもらいたいが、彼らの下心を証明するのは難しく、ルネは団員を疑うことを厭うだろうことを考えると、具体的な注意ができずにいた。

 風呂を一人で使わせるよう強引に取り決めたり、部屋は必ず鍵を掛けろと声を掛けることがせいぜいだ。

「ま、ヴィレール公爵家に逆らおうとする奴はいないだろ。あんまり気負いすぎるなよ」
「……そうだな。大切なのは職責を果たすことだ。それには、皆や家の力も頼りにさせてもらおう」
「――俺は?」
「え?」

 ルネのためにしていることを恩に着せるつもりは毛頭ないが、 有象無象とひと括りにされるのは少しばかり腹が立つ。
 子どものようだと思いながらも、ジュストはわざとらしく不機嫌な顔を作ってみせた。

 そんなジュストの態度をどう受け取ったかは分からないが、ルネは真剣な眼差しで見つめ返してきた。

「もちろん、誰よりも頼りにしている。今日もジュストにしか相談できないと思って来たんだ」

 ルネが頼るのは自分のほかいない。
 それは、決して実ることのない想いを寄せているジュストの心の支えだった。

 貴族の男子である以上、好きな人と結ばれることも、家から逃げ出すこともできはしない。
 ならば、一番近くで支えられる存在でいたい。
 行き場のない感情を抱えたジュストがどうにか見つけた着地点だ。

 言葉にしてもらったことに満足したジュストは、足を組んで気安い雰囲気を作り出した。

「おう。遠慮なく話してみろよ」

 ジュストの構えすぎない態度に安堵したのか、ルネはようやく表情を少しだけ緩めた。

「ありがとう。その……ジュストは、マッサージってどうしてる?」
「マッサージ?」
「だから、ここの……」

 ルネは少し気恥ずかしそうに、自身の下腹部に白い指先をあてた。

(ああ、自慰のことか)

 大方、ルネに品位のない言葉を教えたくないルノーあたりがそう表現したのだろう。
 思いもよらない質問とルネのしぐさに内心動揺したものの、ジュストは平静を装って見せた。

「どうって……適当に済ませてるけど」 
「そう、か……そうだよな」

 しゅんと顔を曇らせたルネに、ジュストの動揺はますます深まった。
 ジュストの返答に満足していないことは分かったが、どんな回答を求めているかはさっぱり分からない。

 だが、ルネに対して分かったふうな態度でやり過ごしたくはない。 

「……お前はどうしてんの」

 ジュストは疑問をストレートに口にして、ルネの出方を窺った。

「その……一人ではできなくて」
「……は?」
「あ、先生いわく、珍しい体質なだけで病気ではないから心配はいらない」

 一人でできないのが自慰を指すとすると、誰かに手伝ってもらっていたということか。
 その先生って奴に?
 そもそも先生とは誰だ?
 珍しい体質とは?
 分からないことがあまりに多すぎて、ジュストの脳内は混乱を極めた。 

「……先生って誰だよ」 

 まず確かめなければならないのは、先生とやらの存在だ。
 ルネの言葉から推測すれば、その先生がルネの「一人ではできない自慰」に関わっているのは間違いない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

なんか違う? と思ったら兄弟の中で自分だけ人間だった話

日色
BL
逞しい兄弟たちと仲良く暮らしていたアーシュ。 でもなんか自分だけ、いつまで経っても背は高くならないし、牙が大きくならないし、兄様たちの血も美味しく感じられない。 なんか違うかも、おかしいかも。と思っていたら、実は自分だけ人間だと知り…… 吸血鬼(兄複数)×人間(アーシュ10歳)のお話です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

宮廷乙女ゲームの元恋人、親友、先輩は聖女の兄を逃さない

猫吉大福
BL
病弱な少年は幸せな生涯に幕を下ろした。 貴族として生まれた少年はヒロインで悪役令嬢の兄として生まれた。 悪事を働き、全ての罪を双子兄に着せて失踪した家族。 ヒロインは聖女としての力を覚醒させて宮廷に守られている。 処刑間近の時、助けてくれたのは懐かしい顔のあの人だった。 宮廷乙女ゲームに悪役転生した少年は、龍王子・聖騎士団長・災厄魔導士から求愛を受ける。 救えなかった人生、今度こそ君を守るよ。 王子・騎士団長・魔導士×悪役運命の少年執事 この世界は月読みによって支配されている。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

処理中です...