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副団長ジュスト2
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「ジュストは会ったことなかったっけ。家庭教師のジスラン先生」
(ジスラン――あいつか!)
ヴィレールの城館に遊びに行った時に、一度だけ見かけたことがある。
緑がかった長い黒髪と眼鏡が特徴の、いかにもインテリという雰囲気を醸し出していた優男だ。
それなりの爵位の家門だった気がするが、ルネから話題が出ることもなかったためすっかり記憶から抜け落ちていた。
「……で、そのジスランとやらが何だって?」
嫌な予感が胃の奥からせり上がってくるのを感じながら、ジュストは続きを促した。
「授業で先生からここの仕組みを教えてもらった時に、俺は一人では出せない体質だって言われて……今までは先生にマッサージをしてもらってたんだけど、これからどうしたらいいかな、と……」
始めから一人で達することができないなんて、聞いたことがない。
陰茎を刺激して得られる以上の快楽を意図的に何度も植え付けでもしない限り、あり得ないはずだ。
「一人でできないって、どういうことだよ」
「その、腹の中を刺激してもらわないと、上手く達せなくて……」
頭を鈍器で殴られたような衝撃に、ジュストは思わずこめかみを押さえた。
「あ、いや、最初はできてたんだけど、段々できなくなっていった、が正しい」
つまりジスランという男は、純粋なルネを「マッサージ」と称して言葉巧みに騙し、徐々に腹の中を突かないと達せないような身体に作り変えたのだ。
ルネの中を刺激するのに一体何を使ったのかなど、想像したくもない。
信じがたい事実に、血液がふつふつと沸騰していくのが分かる。
初めて会った時からずっと特別に想っていた。
愛おしいからこそ、大切だからこそ、触れたくても触れられなかった。
それを、自分の知らないところで、どこの誰とも知らない男がルネの身体を暴いていたというのか!
嫌だ。信じたくない。
それなら俺は一体何のために、この気持ちに蓋をしてきたんだ――!
「……ジュスト?」
返答がないことを訝しんだルネが、不安そうにこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫か。顔色が悪い」
「あ……いや……」
「やっぱり驚くよな……。先生にも、心配をかけるから家族には言わないほうがいいって言われてたんだ。先生にマッサージを任せれば問題はないからって」
人間とは不思議なものだ。
怒りが限界を越えると、かえって冷静さを取り戻すらしい。
この先何があろうとも、ジスランへの憎しみが消えることは決してないだろう。
世界中のどこにいようが探し出して、ルネに触れた部分を全て切り刻んでやりたい。
だが、どれほど怒りを滾らせようとも、所詮ジュストは部外者だ。
ジスランについては一度ルノーに書簡を送り、ヴィレール家に対処を任せるしかないだろう。
それよりも、今ジュストが優先すべきなのはルネだ。
ルネはジュストを信頼し、家族にも言えなかったことを相談してくれたのだ。
ルネが宿舎住まいになってから二週間が経過している。
焦りと不安が日に日に増大しているのだろう。
ルネの信頼に応えるため、このマグマのよう怒りを一度鎮めなければならない。
腹の底から湧き上がってくる怒りを喉元でどうにか押し込めると、ジュストは組んでいた足に肘をついて掌で顔面を覆った。
表情を隠しでもしないと、まともな会話ができそうにない。
「驚くには驚いたが……その、お前はどうすべきだと考えてるんだ」
ジュストは必死に冷静を装い、低い声で問いかけた。
「宿舎を離れられない以上、マッサージしてくれる相手を見つけるしかないと思ってる。ジスラン先生みたいに、二人でマッサージするのが好む人もいるみたいだから、そういう人を見つけたいんだけど……どうやって探せばいいか分からなくて」
再び頭に血が昇っていくのを感じ、ジュストはゆっくりと息を吐き出した。
ジスランの卑劣な手口も、それにまんまと引っかかった鈍感すぎるルネにも腹が立つ。
ルネは被害者だ。
すべてジスランという男が悪い。
だが、知らなかったとはいえ、男のものを受け入れて快楽を得ていたのだと思うと、怒りを抑えることができなかった。
(その上、別の相手を探すだと!?)
ジュストが幼馴染としてすべきことは、それはマッサージではなく性交であり、お前は騙されていたのだと真実を告げることだ。
そして一人で自慰ができるように導いてやるべきだ。
頭では分かっている。
だが、そうすれば自分がルネを抱く機会は永遠にやってこない。
ルネの身体に染みついているのが、卑怯な糞野郎のモノだなんて、到底許せるはずがない。
どす黒い感情がジュストの胸に渦巻く。
「――俺がやってやろうか」
気付けばそんな台詞が口からこぼれ出ていた。
「え?」
「お前のマッサージ。俺がやってやるよ」
「え、でも……」
ジュストの言葉が予想外だったのか、ルネは紅玉のような瞳を大きくまたたかせた。
「何だよ、俺じゃ不服だってのか」
「……そうじゃない。ただ、ジュストにはいつも甘えてしまってるから、これ以上は申し訳」
「うるせえ。俺がいいって言ってんだろーが」
自身の願望を優先してしまった罪悪感を悟られないよう、ルネの髪を乱暴な手付きで搔き乱す。
ルネはそれを照れ隠しだと思ったのか、ボサボサの髪でふふっと笑った。
「じゃあ、よろしく頼む」
――そうして、想い人と身体を繋げる喜びと興奮と、愛撫一つで快感を拾う身体に作り変えられていた怒りに震えながら、ジュストはルネを抱いたのだった。
それからは定期的に関係を持った。
ルネからは言い出しにくいだろうと、折を見てジュストが声を掛けることがほとんどだったが、誘えば必ず承諾してくれるのをいいことに、少しずつ頻度を上げていった。
ベッドの上のルネは快楽に正直だ。
自分からねだるような真似はしないが、とろけた瞳と甘い声が全てを物語っている。
行為の最中は恋人同士にでもなったような錯覚に陥るほど、二人は互いを求め合った。
一方で、この関係を誰にも知られないよう、ジュストは人前では細心の注意を払っていた。
騎士団のトップ二人が出来ていると思われることは、組織にとってはマイナスでしかない。
指示や判断に私情を挟んでいると思われたり、業務の打ち合わせを逢引きだと勘繰られたりすることは、積み重なれば団長への不信に繋がりかねない。
それだけではなく、ルネが男を受け入れられる性質だということが知れ渡れば、ルネを抱けるかもしれないという想像がより現実味を帯びてしまう。
当然、マッサージのことを知られるのは論外だ。
ただでさえ無防備だというのに、マッサージという衝撃の事実を知ってしまった今、誰であってもルネと二人きりにはさせたくない。
ある程度の距離を保つ必要があると同時に、ルネの身も守らなければならない。
考えた結果、ジュストは自らの一方的な想いをそれとなく周囲に知らしめることにした。
副団長とグラック侯爵家という立場を利用し、ルネに近付く者は徹底的に排除する。
人前ではルネとの接触を控えることで、触れるのを許されていない立場であるという印象を作る。
そうすれば不満はジュストに集まるだろうし、ジュストを嫉妬に狂った必死な男だと思ってくれれば御の字だ。
結果、作戦は功を奏し、一部で二人は恋人ではないかという噂はあるものの、酒の席で冗談半分で語られる程度にとどまっていた。
今日までルネが団員たちに襲われずに済んだのは、全てジュストの暗躍のおかげといっても過言でないと自負している。
だからこそ、宿舎を空けるこの一週間が不安でしかたがなかった。
(ジスラン――あいつか!)
ヴィレールの城館に遊びに行った時に、一度だけ見かけたことがある。
緑がかった長い黒髪と眼鏡が特徴の、いかにもインテリという雰囲気を醸し出していた優男だ。
それなりの爵位の家門だった気がするが、ルネから話題が出ることもなかったためすっかり記憶から抜け落ちていた。
「……で、そのジスランとやらが何だって?」
嫌な予感が胃の奥からせり上がってくるのを感じながら、ジュストは続きを促した。
「授業で先生からここの仕組みを教えてもらった時に、俺は一人では出せない体質だって言われて……今までは先生にマッサージをしてもらってたんだけど、これからどうしたらいいかな、と……」
始めから一人で達することができないなんて、聞いたことがない。
陰茎を刺激して得られる以上の快楽を意図的に何度も植え付けでもしない限り、あり得ないはずだ。
「一人でできないって、どういうことだよ」
「その、腹の中を刺激してもらわないと、上手く達せなくて……」
頭を鈍器で殴られたような衝撃に、ジュストは思わずこめかみを押さえた。
「あ、いや、最初はできてたんだけど、段々できなくなっていった、が正しい」
つまりジスランという男は、純粋なルネを「マッサージ」と称して言葉巧みに騙し、徐々に腹の中を突かないと達せないような身体に作り変えたのだ。
ルネの中を刺激するのに一体何を使ったのかなど、想像したくもない。
信じがたい事実に、血液がふつふつと沸騰していくのが分かる。
初めて会った時からずっと特別に想っていた。
愛おしいからこそ、大切だからこそ、触れたくても触れられなかった。
それを、自分の知らないところで、どこの誰とも知らない男がルネの身体を暴いていたというのか!
嫌だ。信じたくない。
それなら俺は一体何のために、この気持ちに蓋をしてきたんだ――!
「……ジュスト?」
返答がないことを訝しんだルネが、不安そうにこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫か。顔色が悪い」
「あ……いや……」
「やっぱり驚くよな……。先生にも、心配をかけるから家族には言わないほうがいいって言われてたんだ。先生にマッサージを任せれば問題はないからって」
人間とは不思議なものだ。
怒りが限界を越えると、かえって冷静さを取り戻すらしい。
この先何があろうとも、ジスランへの憎しみが消えることは決してないだろう。
世界中のどこにいようが探し出して、ルネに触れた部分を全て切り刻んでやりたい。
だが、どれほど怒りを滾らせようとも、所詮ジュストは部外者だ。
ジスランについては一度ルノーに書簡を送り、ヴィレール家に対処を任せるしかないだろう。
それよりも、今ジュストが優先すべきなのはルネだ。
ルネはジュストを信頼し、家族にも言えなかったことを相談してくれたのだ。
ルネが宿舎住まいになってから二週間が経過している。
焦りと不安が日に日に増大しているのだろう。
ルネの信頼に応えるため、このマグマのよう怒りを一度鎮めなければならない。
腹の底から湧き上がってくる怒りを喉元でどうにか押し込めると、ジュストは組んでいた足に肘をついて掌で顔面を覆った。
表情を隠しでもしないと、まともな会話ができそうにない。
「驚くには驚いたが……その、お前はどうすべきだと考えてるんだ」
ジュストは必死に冷静を装い、低い声で問いかけた。
「宿舎を離れられない以上、マッサージしてくれる相手を見つけるしかないと思ってる。ジスラン先生みたいに、二人でマッサージするのが好む人もいるみたいだから、そういう人を見つけたいんだけど……どうやって探せばいいか分からなくて」
再び頭に血が昇っていくのを感じ、ジュストはゆっくりと息を吐き出した。
ジスランの卑劣な手口も、それにまんまと引っかかった鈍感すぎるルネにも腹が立つ。
ルネは被害者だ。
すべてジスランという男が悪い。
だが、知らなかったとはいえ、男のものを受け入れて快楽を得ていたのだと思うと、怒りを抑えることができなかった。
(その上、別の相手を探すだと!?)
ジュストが幼馴染としてすべきことは、それはマッサージではなく性交であり、お前は騙されていたのだと真実を告げることだ。
そして一人で自慰ができるように導いてやるべきだ。
頭では分かっている。
だが、そうすれば自分がルネを抱く機会は永遠にやってこない。
ルネの身体に染みついているのが、卑怯な糞野郎のモノだなんて、到底許せるはずがない。
どす黒い感情がジュストの胸に渦巻く。
「――俺がやってやろうか」
気付けばそんな台詞が口からこぼれ出ていた。
「え?」
「お前のマッサージ。俺がやってやるよ」
「え、でも……」
ジュストの言葉が予想外だったのか、ルネは紅玉のような瞳を大きくまたたかせた。
「何だよ、俺じゃ不服だってのか」
「……そうじゃない。ただ、ジュストにはいつも甘えてしまってるから、これ以上は申し訳」
「うるせえ。俺がいいって言ってんだろーが」
自身の願望を優先してしまった罪悪感を悟られないよう、ルネの髪を乱暴な手付きで搔き乱す。
ルネはそれを照れ隠しだと思ったのか、ボサボサの髪でふふっと笑った。
「じゃあ、よろしく頼む」
――そうして、想い人と身体を繋げる喜びと興奮と、愛撫一つで快感を拾う身体に作り変えられていた怒りに震えながら、ジュストはルネを抱いたのだった。
それからは定期的に関係を持った。
ルネからは言い出しにくいだろうと、折を見てジュストが声を掛けることがほとんどだったが、誘えば必ず承諾してくれるのをいいことに、少しずつ頻度を上げていった。
ベッドの上のルネは快楽に正直だ。
自分からねだるような真似はしないが、とろけた瞳と甘い声が全てを物語っている。
行為の最中は恋人同士にでもなったような錯覚に陥るほど、二人は互いを求め合った。
一方で、この関係を誰にも知られないよう、ジュストは人前では細心の注意を払っていた。
騎士団のトップ二人が出来ていると思われることは、組織にとってはマイナスでしかない。
指示や判断に私情を挟んでいると思われたり、業務の打ち合わせを逢引きだと勘繰られたりすることは、積み重なれば団長への不信に繋がりかねない。
それだけではなく、ルネが男を受け入れられる性質だということが知れ渡れば、ルネを抱けるかもしれないという想像がより現実味を帯びてしまう。
当然、マッサージのことを知られるのは論外だ。
ただでさえ無防備だというのに、マッサージという衝撃の事実を知ってしまった今、誰であってもルネと二人きりにはさせたくない。
ある程度の距離を保つ必要があると同時に、ルネの身も守らなければならない。
考えた結果、ジュストは自らの一方的な想いをそれとなく周囲に知らしめることにした。
副団長とグラック侯爵家という立場を利用し、ルネに近付く者は徹底的に排除する。
人前ではルネとの接触を控えることで、触れるのを許されていない立場であるという印象を作る。
そうすれば不満はジュストに集まるだろうし、ジュストを嫉妬に狂った必死な男だと思ってくれれば御の字だ。
結果、作戦は功を奏し、一部で二人は恋人ではないかという噂はあるものの、酒の席で冗談半分で語られる程度にとどまっていた。
今日までルネが団員たちに襲われずに済んだのは、全てジュストの暗躍のおかげといっても過言でないと自負している。
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