天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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副団長ジュスト3

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 ジュストの兄ジェロームの結婚式は、ジュストが副団長に就任する以前から決まっていた予定だった。

 グラック領までは馬車だと五日間、馬を乗り継いで単騎で駆けても三日間の距離がある。
 式の前日に到着し、式が終わってすぐ発ったとしても一週間はかかる。

 ただでさえ不安だというのに、帰省と定例宴会が重なってしまったのは不運としか言いようがない。

 ルネは酒が好きだ。
 見た目に反した豪快な飲みっぷりは見ていて気持ちがいいが、酔って誰かにもたれかかったり、さり気なく触られても気付かないのは大問題だ。
 
 隊長の一人であるアダンに任せてはきたが、ジュストの不安は尽きない。

 アダンもまたルネに心を奪われた一人だが、身体目当ての者とは違いその感情は本物だ。
 ルネを真剣に想うからこそ、 酔いに付け込むような卑怯な真似はしないだろう。

 だがそのアダンも酔ってしまえば、正常な判断はできないかもしれない。
 何せルネ自身が迂闊極まりないのだから。

 定例宴会は昨晩のことであり、もし何かが起こっていたとしても今更どうしようもない。

 それでも早く確かめたかった。
 おかえりと出迎えてくれるルネの顔を見て安心したかった。

 ジュストは足で馬に合図を送り、日の沈みかけた街道を駆け抜けた。



「あ、副団長、おかえりなさい!」
「早かったですね」

 宿舎に入ると、ロビーで談笑していた団員たちが声を掛けてきた。
 夜勤以外の者はみな勤務を終え、束の間の自由を過ごしている時間だ。

「ああ。団長は?」

 階段の上の睨みつけながら問う。

「まだ王城から戻られてないようです。外務卿と来月の舞踏会の打ち合わせをされているのかと」
「……そうか」

 王家主催の舞踏会は年に一度、暑さが和らいできたこの時期に開催されている。

 かねてから親交のある諸外国の王族や有力貴族も招待されているため、外務卿から警備についての指示や注意事項を確認しているのだろう。

「俺が不在のあいだ、何か問題はなかったか」
「ええ、特にはありません!」
「……宴会も何事もなかったか」
「副団長がいらっしゃらないことで皆少し羽目を外していましたね。団長もかなり酔っていましたが、アダン隊長が早めに団長を連れ帰ったので、業務への影響はないかと」

 アダンの名に、ジュストの形の良い眉がピクリと痙攣をしたが、幸い団員たちには気付かれなかったようだ。

「そうか。ご苦労だった」
「いえ、副団長もお疲れ様です!」

 ジュストは挨拶代わりに片手を上げ、ロビーを通り過ぎた。
 そのまま階段を上り、四階に向かう。
 目指すはアダンの部屋だ。

 とにかく、少しでも早く何もなかったことを確認したい。
 騒めく胸中を宥めながら、ジュストは早足で階段を駆け上がった。

「アダン隊長、いるか」

 ココン、と焦ったようにノックをすると、すぐに扉が開きアダンが現れた。

「……いらっしゃると思ってました。どうぞ」

 来訪を予期していたかのようなアダンの態度に、ジュストは確信した。
 自分の嫌な予感が当たってしまったのだと。

 ジュストは部屋の奥にあるベッドを視界に入れないよう、慎重に足を踏み入れた。

 数歩下がって立ち止まったアダンを、射抜くように睨みつける。
 アダンは一瞬怖気づいた表情を見せたが、すぐに飴色の瞳に決意を宿らせた。

「俺、団長と寝ました」
「――てめえッ!」

 ジュストは反射的にアダンの胸倉を掴み上げていた。 
 アダンは動揺することなく、腹の据わった面差しでジュストの目を真っ直ぐに見据えた。

「もちろん同意の上です。嫌がることなんてしていません」
「ふざけるなよ! あいつが酔っているのをいいことに騙すような真似をしたんだろうが」
「そ、それは……そういう面もありますが、本当にいいのか何度も確認しましたし、団長はちゃんと「俺」と認識して受け入れてくれました」
「勝手なことを……!」

 今すぐアダンの顔面を殴り付けたい衝動をどうにか抑え込む。

 騎士団内での私闘はご法度だ。
 発覚すれば団長が仲裁に入り、両方の言い分を聞いた上で処分を下すことになっている。

 ここでアダンを殴ったとて怒りは解消しないし、説明に窮するのは他でもない自分だ。

「――チッ……だから他人にあいつを任せたくなかったんだ」 

 ジュストは忌々しげに舌を鳴らしてから、胸倉を掴んでいた腕を下ろした。

「……あの、副団長」

 襟元を正しながら、アダンが遠慮がちに呼びかけてきた。

「団長は本当にアレをマッサージだと思ってるんですか? 何かの隠語とかじゃなくて」

 マッサージという言葉にジュストは内心やっぱりな、と苛立ちを強めた。

 詳細など知りたくもないが、恐らく酔ったルネを介抱しているうちに下心が我慢できなくなり、身体に触る言い訳としてマッサージしてやるとでも言ったのだろう。

 そしてルネがどこまでも許すものだから、最後までするに至った。

 腹の底から怒りが煮えたぎってくるのを感じながら、ジュストは再び舌打ちをした。

「……あいつが身体を許したと勘違いするなよ。お前だから抱かれたんじゃない」
「それって……」

 明確に言葉にしてやる気などさらさらないが、否定しないことで十分伝わっただろう。

 疑いが確信に変わったアダンは、信じられないといったように言葉尻を震わせた。

「分かっていると思うが、このことは他言無用だ。誰かにバラしたらお前をバラす」
「い、言わないですよ! こんなことが知れたら、有象無象が団長を狙うに決まってますから」
「……そういうこった」

 アダンがルネと寝たことも、ルネを守る気になっていることも、何もかもが腹立たしい。

 あの時アダンに任せなければこんなことにはならなかったのだろうか。
 いや、誰に任せても恐らく同じ結果になっただろう。

 むしろアダンの開き直った態度を見ると、身体目当ての相手の方がよかったとさえ思えてしまう。

 アダンはこれまで以上に熱心にルネに言い寄ることだろう。
 ルネもマッサージという秘密を共有したアダンには、無意識のうちに気を許すに違いない。

「次があると思うなよ。あいつの世話は俺の役割だ」
「……それは同意しかねます。これって個人の問題ですよね。団長の同意があるのなら、副団長にどうこう言われる筋合いはないと思います」
「……言うじゃねえか」
「俺、本気ですから」

 一触即発の雰囲気に、部屋の温度が一気に急降下する。

 腹立たしいが、アダンの言葉は正論だ。
 ルネと恋人同士でない以上、ルネがアダンのマッサージを望めばジュストに止める権利はない。

 だが、権利があろうとなかろうと、嫌なものは嫌だ。

 自分より少し背の高いアダンを睨みつけると、アダンも負けじと睨み返してくる。

 その時、張り詰めた空気を割くように、部屋の前を控え目な足音が通り過ぎていった。

「……団長が戻られたみたいですね」

 アダンが独り言のように呟く。 

 一体自分はどうすべきなのだろう。
 早くルネに会いたいと思っていたはずなのに、今は顔を見るのが少しばかり怖い。
 口を衝けばルネを傷付ける言葉を吐いてしまいそうだからだ。

 それでも行かねば、胸に宿る怒りを昇華する術はないのだろう。

「……筋合いがどうだろうが、お前に次はない。俺がさせねえから」

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