天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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挿話 ルネの休日1

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 騎士団員には原則的に週に一度の休日が設けられている。
 
 交替制のため人により曜日は異なっているが、職位が同等以上であれば休日を交換することも可能だ。

 団員たちは城下町に遊びに行ったり自室でゆっくり過ごしたりと、思い思いの休日を過ごしているようだ。

 団長であるルネにも、等しく休日が与えられている。

 ルネは業務に慣れるまで休みは不要だとジュストに申し出たが、団長が休まないと他の者も休日を謳歌できないと却下された。

 ジュストの主張はもっともだ。
 ならばせめて有意義に使おうを考えた結果、思いついたのは城下町の視察くらいだったが、一人で出歩くなと再びジュストに反対されてしまった。

 外出にジュストの許可が必要なわけではないが、心配をかけてまで行きたいかと言われれば、そこまででもない。
 必要な物資は母や兄から送られてくるため、特に買いたい物もない。

 職務の都合上、副団長のジュストとは休日が重ならないため共に出かけることはできないし、休日の団員に付き添いを頼むのは申し訳ない。

 悩んだルネが最終的に辿り着いたのが読書だった。
 王城内に、図書館と呼んでも差し支えないほど立派な書庫があるのを思い出したのだ。

 城下には王国随一と謳われる王立図書館があると聞いているが、王城内の書庫も蔵書数は相当なものだ。

 王族以外立ち入り禁止の奥の部屋を除き、王城に務める貴族であれば基本的に自由に利用できる。 
 貴族の付き添いがあれば、城内に従事する平民も使用可能と聞いている。

 毎日通っても数十年は読み切れないほどの本に囲まれながら、文字の海に多れる時間はルネにとって至福のひと時となった。
 
 騎士団長に就任して三か月が経過した現在でも飽きることなく、休日になると一日中書庫に入り浸っていた。

 今朝も軽めの朝食を食べ終えたルネは、その足で書庫へと向かった。

 エントランスを抜け、大階段を上って左に曲がった場所に書庫はある。
 ルネは入り口を守る衛兵に挨拶をしてから、大きな扉に手を掛けた。

 扉を開いた瞬間、入り口付近のカウンター内に座っている司書の男性――コームと目があった。

「ルネ様、こんにちは!」
「こんにちは」
「今日は何をお探しですか? お手伝いしますよ」

 コームはガタンと椅子を鳴らして立ち上がると、カウンターテーブルから出てルネの元まで小走りでやって来た。

 ルネの知る限り司書は二人いるが、交代勤務のため書庫内にいるのは常に一人だ。

 利用者はさほど多くないとはいえ、大量の蔵書の管理や保全、人の出入りを記録など、多岐に渡る業務を司書は多忙だ。

 それにも関わらず、いつも笑顔で応対してくれるコームには頭が下がる。

「ありがとう、コームさん」
「ルネ様に名前を覚えてもらえるなんて光栄です!」

 コームは興奮気味に握り拳を作った。
 ルネより十歳以上は年上だと思うが、子どものように大袈裟にはしゃぐ姿が微笑ましく映り、ルネは自然と笑みを浮かべていた。

「エリサルデ王国関連の本を探しているんだけど。歴史書じゃなく文化や生活様式に詳しいものだと助かる。……コームさん?」

 我を忘れたようにルネの顔を凝視していたコームは、ハッと慌てて背筋を伸ばした。

「はッ、はい! ご案内します!」
「ありがとう」
 
 ゴミか何かついてたのだろうかとルネは自分の顔に触れてみたが、特に何もなさそうだ。
 
 不思議に思いながら数歩先を行くコームに視線を移すと、耳の端が真っ赤に染まっていることに気が付いた。
 もしかしたら、発熱のせいでぼんやりしていたのだろうか。

 ルネはコームを呼び止めようと肩に手を伸ばしかけたが、いつかのジュストの言葉を思い出し、手を下ろした。

 アダンの熱をおでこで測った時、場合によっては相手を不快にさせる行為になりうるとジュストが教えてくれたのだ。

 あの時のアダンは不快とはまでは思わなかったようだが、酷く慌てふためいていたのを覚えている。
 同じ過ちを繰り返さずに済み、ルネは胸中でジュストに感謝した。

「こちらになります」

 異国の歴史書や文化に関する書籍が並んだ棚の前で、 コームは足を止めて振り返った。

「ありがとう。……コームさん、具合が悪かったら無理せず医務室に行った方がいい」
「え?」
「顔が赤い。熱があるのかも」

 ルネが指摘すると、コームはなぜか身体をぎくりと強張らせた。

「い、いえ! 大丈夫です! では失礼します!」

 コームは軽く頭を下げると、そそくさと入り口の方へと戻っていった。
 
 慌てている理由は分からないが、機敏な動きから察するに体調が悪いというわけではなさそうだ。

 安堵したルネは、案内してもらった棚から目ぼしいタイトルの本を何冊か手に取った。

 所狭しと並べられた棚の間を通り抜け、窓際へ向かう。
 窓の近くは日光を避けるため書架はなく、広い通路になっている。 

 ルネは壁に沿って配置されているソファの一つに腰を下ろすと、早速本の表紙をめくった。

 エリサルデ王国の書籍を選んだのは、この先ルネが関わる国だからだ。
 
 四か月後に、年に一度の王家主催の舞踏会が開催される。

 ルネは一度も参加したことがないが、近隣諸国の王族や一部の高位貴族も招待される、大規模な舞踏会と聞いている。

 王族の警備は王の私兵である近衛兵の担当だが、会場全体の警備は宮廷騎士団の役目だ。

 諸国の歴史については家庭教師から教わったが、対応に失礼がないよう細かな文化や生活様式の違いなども頭に入れておきたい。

 仕事の延長で選んだ本だったが、本の虫であるルネはすぐに文字の世界に没入していった。





 どれくらい時間が経ったのだろうか。
 
 入り口の扉が開いた音、誰かの話し声、近付いてくる足音――それらを頭の隅で把握しつつも、ルネは本から目を離すことができなかった。

 ルネがようやく顔を上げたのは、手元の本に影が差してからのことだった。

「随分熱心だね、ルネ」
「殿下……!」

 ルネは急いで立ち上がると、「ご無礼をお許しください」と頭を下げた。

 ルネが慌てたのも無理はない。
 目の前に現れたのが、レニエ王国の第一王子にして王太子のマリユスだったのだから。

「そんなに畏まらないでいいよ。隊服じゃないってことは、休日なんだろう。貴重な休みを邪魔したのは私の方なのだから」
「寛大なお心に感謝いたします、殿下」
「だから、堅くならないでほしいんだけどなあ」

 マリユスの言葉を受け、ルネは顔を上げた。

 眉尻を下げて笑うマリユスの背後に人影はない。
 後ろに控えているはずの従者の姿が見当たらず、ルネは辺りを見回した。

「……殿下、お一人ですか?」

 王族が過ごす重要な場所を守る近衛兵、城内の出入り口を守る一般兵に加え、宮廷騎士団が警邏しているレニエ王城内の守りは固い。

 とはいえ、王太子が供を連れず歩き回るのは些か不用心だ。
 
「皆が小うるさいからここに逃げてきたんだけど、ルネがいて幸運だったな」

 悪戯っぽい笑みを浮かべたマリユスは、数歩近づいて距離を詰めてきた。
 ルネより少し背の高いマリユスの碧眼が、意味ありげにこちらを覗き込む。
 
 窓から差し込む光が王族の象徴である金の髪に反照し、その眩しさにルネは思わず目を細めた。

 マリユスを含む三人の王子とは、週に二回の剣の稽古で顔を合わせているが、二人きりで会話をするのは今日が初めてだ。 

 本職である剣の腕で王子達に劣るとは思わないが、前任の団長と比較すれば経験不足や指導力の低さは否めない。
 だが、マリユスは不満を漏らすことなく素直に従ってくれている。

 第二王子であるマティウスはルネを信用しておらず、反発的な態度を向けられているが、その方が余程自然だと思ってしまうほど、マリユスは初めからルネに好意的だった。

 初めて会ったのは叙任式の前日に招待された晩餐会だったが、矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えあぐねているルネに、さりげなく助け舟をだしてくれたのをよく覚えている。

 城内ですれ違った時も、マリユスの方から積極的に声を掛けてくれることが多い。 

 聡明で品行方正、剣の腕が立ち、美しい婚約者を持つ完璧な王太子――それがマリユスの世間での評判だ。
 ルネもまた、噂通りの印象を持っていた。

 マリユスがルネに親切であるのは、引きこもり同然だったルネが団長という要職を全うできるよう、王太子として配慮してくれているからなのだろう。

 今も畏まる必要はないと気遣ってくれているが、相手は王族だ。
 どの程度まで気安く接していいのか、人付き合いの経験が少ないルネには判断が難しい。

 返答に迷っていると、マリユスはソファに置かれたままの本に視線を向けた。

「何の本を読んでたの?」
「エリサルデ王国の文化史です」
「せっかくの休みだっていうのに、ルネは本当に真面目だね」
「いえ。興味深い内容が多く、ページを捲るたびに胸を躍らせています」

 そうだ、とマリユスはにやりと口角を上げると、先程までルネが座っていたソファに腰を下ろした。

「ルネ。私がエリサルデについて教えてあげようか」
「ご厚意に感謝いたします。しかし殿下、従者の方が探してらっしゃるのでは」
「昨日からずっと働き詰めなんだ。ちょっとくらい休憩したって罰は当たらないよ。ほら、おいで」

 マリユスは足を大きく広げると、ポンポンと自らの太腿を叩いた。
 ここに座れという意味であるのは分かったが、その理由が分からず、ルネは首を傾げた。

「殿下?」
「嫌なの?」
「……嫌、というわけではないですが」
「じゃあおいで」

 なおも困惑していると、マリユスは痺れを切らしたのかルネの腕を掴んで、強引に自身の足の間に座らせた。

「あの、殿下」
「ん? ほら、どこまで読んでたの?」
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