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お風呂上り小戦争2
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「廊下に人気はあるか聞きたくて」
前回あれだけの騒ぎになったにもかかわらず、人がいなければタオル姿で部屋に戻ろうと考えていたようだ。
こんな姿を誰かに見られようものなら、またあれこれと妄想され夜のお供にされてしまうというのに。
一度穿いた下着を身に付けたくない気持ちは分かる。
特に今日はこの季節にしては温かく、団長を含めた騎士団員は皆、訓練で汗まみれになっていた。
だからといってこの格好でうろつくのは、獣の群れに兎を放つようなものだ。
「えっと……まだ食堂に結構人がいるので、その格好で出るのはよろしくないかと」
「そうか……」
ルネは微かに眉尻を下げながら、小さく息を吐き出した。
ルネの安全を思えば、諦めて元の衣服を着て部屋に戻るのが最善で最短だ。
だが、それでは碌に会話もできないまま終わってしまう。
「あの、よければ着替えを取ってきましょうか? 俺が部屋に入っても構わないなら、ですけど」
アダンの提案が意外だったのだろう。
脱いだ衣服の入った籠に視線を向けていたルネは、弾かれたように顔を上げた。
「部屋に入るのは全然構わない。けど……そこまでしてもらうのは」
「俺、少しでも団長のお役に立ちたいんです!」
強気に出なければ断られてしまうと焦ったアダンは、ルネが言い終わらないうちに声を張り上げた。
どさくさに紛れてぐっと顔を近付け、ルネの両手を握りしめてみる。
こちらを見上げる美しい面差しと鼻腔を擽るシャンプーの香りに、心臓がけたたましく拍動するのを感じながら、アダンはルネの返事を待った。
「……じゃあ、頼もうかな」
アダンの圧に負けたのか、受け入れた方が面倒がないと思ったのかは分からないが、ルネはアダンの申し出を受け入れた。
「本当ですか? ありがとうございます!」
気を許されたのが嬉しくて思わず礼を述べると、ルネは深紅の宝石のような瞳をふっと和らげた。
「何でアダンが礼を? ……やっぱり、アダンって面白い」
贅沢を言えば頼りになると思ってほしいところではあるが、ルネの印象に残ったのならこの際何でも構わない。
「えっと、このままじゃ風邪引いちゃいますし、パパっと取ってきますね!」
「ありがとう、アダン。着替えはソファの上に置いてあるから」
準備まではちゃんとしたんだけど、と零しながら、ルネは脱衣籠の中から部屋の鍵を取り出してアダンに手渡した。
「はい! 行ってきます!」
アダンは鍵を受け取ると、勢いよく脱衣所を飛び出した。
多少強引だったとはいえ、鍵を託してくれたのは信用してくれている証拠だ。
にやける口元を押さえながら、アダンは宿舎の階段を一気に駆け上った。
日頃の鍛錬の成果で息は上がってはいないが、四階まで上りきったところでアダンは足を止めた。
さて、ここからが問題だ。
廊下の最奥にあるルネの私室に行くためには、ジュストの部屋の前を通過しなければならない。
ルネとの二人の時間を邪魔されたくはないアダンにとって最大の難関だ。
普通に歩けば足音で勘付かれてしまう。
かといって音を忍ばせるのは、やましい気持ちがあると証明しているようなものだ。
ルネの部屋を前に胸が高鳴っているのは事実だが、信用を裏切る真似をするつもりはない――少しばかり空気を吸い込むくらいのことはしてしまうかもしれないが。
それはともかくとして、ルネからの正式な頼み事である以上、堂々とした態度でいるべきだろう。
決意を固めたアダンは廊下の奥に向かって足を進めた。
夜の宿舎にコツコツと響く靴の音にアダンは緊張を走らせたが、ジュストが部屋から出てくる気配はない。
無事にルネの部屋の前まで辿り着いたアダンは、細く息を吐き出した。
鍵を開け部屋の中に足を踏み入れると、かすかにベルガモットの香りが漂ってきた。
ルネがいつも付けている香油の匂いだ。
香水の類には詳しくないが、爽やかな中にも気品や甘みを感じられ、ルネによく似合っていると思う。
ルネ自身が好んでいる香りなのだろうか。
着飾ることにこだわりがなさそうなため、何となく選んだ物を使い続けているだけかもしれない。
(……香油一つとっても、俺は団長のことを全然知らないな)
酒の勢いと勘違いで身体を重ねただけで、上司と部下という立場から一歩も抜け出せていない。
本人のいないところから漂う香りに、厳しい現実を突き付けられたような気がした。
(いや、これから一つずつ知っていけばいい――)
弱気が頭をもたげそうになり、アダンは首を大きく左右に振った。
今はとにかく、ジュストに気付かれる前に早くルネの元に戻らなければ。
アダンの部屋の倍はある広々とした室内には、立場ある団長に相応しい豪奢な調度品が並んでいる。
とはいえ、これでも王城の一室と比べれば質素な部類に入るのだろう。
奥の壁に沿ってベッドが置かれているが、入り口近くのランプと壁面の常夜灯しか灯っていない室内は薄暗く、あまりよく見えない。
ベッドを確認してどうするんだ、と自身を戒めたアダンは、長方形のローテーブルを挟んで置かれている、二対の大きなソファに目を向けた。
そのうちの一つに衣服が畳んでおいてあるのが目に入り、アダンは足早にソファに近付いた。
「えッ!? これは――」
思わず声を張り上げてしまったのは、置いてあった下着がとんでもない形状だったからだ。
綺麗に畳まれた寝間着用の白いシャツとズボンの上にある下着らしきものを、恐る恐る摘まみ上げようとした、その時――。
「――不法侵入と窃盗の罪で除名処分だな」
「ひえッ!?」
突然背後から低い声が聞こえ、アダンは再び大声を上げた。
「ふ、副団長!? いつの間に」
「お前が部屋に入った時から」
室内に気を取られていたとはいえ、背後に立つジュストの気配に全く気付くことができなかった。
こちらを睨みつける冷淡な瞳は、騎士というより暗殺者のようだ。
そんなことは口が裂けても言えないが。
「ふ、不法侵入じゃありません! 団長から着替えを持ってきてと頼まれたんですから!」
預かっている鍵を見せつけると、ジュストは苛立たしげに瞳を歪めた。
「チッ、あいつはまた……。事情は分かった。俺が持っていくからお前は下がれ」
殺気を孕んだ鋭い視線に、アダンの額に冷や汗が滲んだ。
だが、ここで引くわけにはいかない。
前回あれだけの騒ぎになったにもかかわらず、人がいなければタオル姿で部屋に戻ろうと考えていたようだ。
こんな姿を誰かに見られようものなら、またあれこれと妄想され夜のお供にされてしまうというのに。
一度穿いた下着を身に付けたくない気持ちは分かる。
特に今日はこの季節にしては温かく、団長を含めた騎士団員は皆、訓練で汗まみれになっていた。
だからといってこの格好でうろつくのは、獣の群れに兎を放つようなものだ。
「えっと……まだ食堂に結構人がいるので、その格好で出るのはよろしくないかと」
「そうか……」
ルネは微かに眉尻を下げながら、小さく息を吐き出した。
ルネの安全を思えば、諦めて元の衣服を着て部屋に戻るのが最善で最短だ。
だが、それでは碌に会話もできないまま終わってしまう。
「あの、よければ着替えを取ってきましょうか? 俺が部屋に入っても構わないなら、ですけど」
アダンの提案が意外だったのだろう。
脱いだ衣服の入った籠に視線を向けていたルネは、弾かれたように顔を上げた。
「部屋に入るのは全然構わない。けど……そこまでしてもらうのは」
「俺、少しでも団長のお役に立ちたいんです!」
強気に出なければ断られてしまうと焦ったアダンは、ルネが言い終わらないうちに声を張り上げた。
どさくさに紛れてぐっと顔を近付け、ルネの両手を握りしめてみる。
こちらを見上げる美しい面差しと鼻腔を擽るシャンプーの香りに、心臓がけたたましく拍動するのを感じながら、アダンはルネの返事を待った。
「……じゃあ、頼もうかな」
アダンの圧に負けたのか、受け入れた方が面倒がないと思ったのかは分からないが、ルネはアダンの申し出を受け入れた。
「本当ですか? ありがとうございます!」
気を許されたのが嬉しくて思わず礼を述べると、ルネは深紅の宝石のような瞳をふっと和らげた。
「何でアダンが礼を? ……やっぱり、アダンって面白い」
贅沢を言えば頼りになると思ってほしいところではあるが、ルネの印象に残ったのならこの際何でも構わない。
「えっと、このままじゃ風邪引いちゃいますし、パパっと取ってきますね!」
「ありがとう、アダン。着替えはソファの上に置いてあるから」
準備まではちゃんとしたんだけど、と零しながら、ルネは脱衣籠の中から部屋の鍵を取り出してアダンに手渡した。
「はい! 行ってきます!」
アダンは鍵を受け取ると、勢いよく脱衣所を飛び出した。
多少強引だったとはいえ、鍵を託してくれたのは信用してくれている証拠だ。
にやける口元を押さえながら、アダンは宿舎の階段を一気に駆け上った。
日頃の鍛錬の成果で息は上がってはいないが、四階まで上りきったところでアダンは足を止めた。
さて、ここからが問題だ。
廊下の最奥にあるルネの私室に行くためには、ジュストの部屋の前を通過しなければならない。
ルネとの二人の時間を邪魔されたくはないアダンにとって最大の難関だ。
普通に歩けば足音で勘付かれてしまう。
かといって音を忍ばせるのは、やましい気持ちがあると証明しているようなものだ。
ルネの部屋を前に胸が高鳴っているのは事実だが、信用を裏切る真似をするつもりはない――少しばかり空気を吸い込むくらいのことはしてしまうかもしれないが。
それはともかくとして、ルネからの正式な頼み事である以上、堂々とした態度でいるべきだろう。
決意を固めたアダンは廊下の奥に向かって足を進めた。
夜の宿舎にコツコツと響く靴の音にアダンは緊張を走らせたが、ジュストが部屋から出てくる気配はない。
無事にルネの部屋の前まで辿り着いたアダンは、細く息を吐き出した。
鍵を開け部屋の中に足を踏み入れると、かすかにベルガモットの香りが漂ってきた。
ルネがいつも付けている香油の匂いだ。
香水の類には詳しくないが、爽やかな中にも気品や甘みを感じられ、ルネによく似合っていると思う。
ルネ自身が好んでいる香りなのだろうか。
着飾ることにこだわりがなさそうなため、何となく選んだ物を使い続けているだけかもしれない。
(……香油一つとっても、俺は団長のことを全然知らないな)
酒の勢いと勘違いで身体を重ねただけで、上司と部下という立場から一歩も抜け出せていない。
本人のいないところから漂う香りに、厳しい現実を突き付けられたような気がした。
(いや、これから一つずつ知っていけばいい――)
弱気が頭をもたげそうになり、アダンは首を大きく左右に振った。
今はとにかく、ジュストに気付かれる前に早くルネの元に戻らなければ。
アダンの部屋の倍はある広々とした室内には、立場ある団長に相応しい豪奢な調度品が並んでいる。
とはいえ、これでも王城の一室と比べれば質素な部類に入るのだろう。
奥の壁に沿ってベッドが置かれているが、入り口近くのランプと壁面の常夜灯しか灯っていない室内は薄暗く、あまりよく見えない。
ベッドを確認してどうするんだ、と自身を戒めたアダンは、長方形のローテーブルを挟んで置かれている、二対の大きなソファに目を向けた。
そのうちの一つに衣服が畳んでおいてあるのが目に入り、アダンは足早にソファに近付いた。
「えッ!? これは――」
思わず声を張り上げてしまったのは、置いてあった下着がとんでもない形状だったからだ。
綺麗に畳まれた寝間着用の白いシャツとズボンの上にある下着らしきものを、恐る恐る摘まみ上げようとした、その時――。
「――不法侵入と窃盗の罪で除名処分だな」
「ひえッ!?」
突然背後から低い声が聞こえ、アダンは再び大声を上げた。
「ふ、副団長!? いつの間に」
「お前が部屋に入った時から」
室内に気を取られていたとはいえ、背後に立つジュストの気配に全く気付くことができなかった。
こちらを睨みつける冷淡な瞳は、騎士というより暗殺者のようだ。
そんなことは口が裂けても言えないが。
「ふ、不法侵入じゃありません! 団長から着替えを持ってきてと頼まれたんですから!」
預かっている鍵を見せつけると、ジュストは苛立たしげに瞳を歪めた。
「チッ、あいつはまた……。事情は分かった。俺が持っていくからお前は下がれ」
殺気を孕んだ鋭い視線に、アダンの額に冷や汗が滲んだ。
だが、ここで引くわけにはいかない。
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