天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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お風呂上り小戦争3

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「お断りします。俺が頼まれたことですので」
「あァ!?」
「こ、これはプライべートの話ですから、副団長の命令を聞く必要はないはずです!」

 業務外とはいえ上官に逆らうのは望ましくないが、間違ったことは言っていない。
 恐ろしい形相に身の危険を覚えながらも、アダンは必死に言い返した。

 だが、ジュストも自分の主張の横暴さは理解していたのだろう。 
 忌々しそうに舌を鳴らすと、諦めたように大きく息を吐き出した。

「……俺も行く。これは譲れない」

 ルネとの時間を邪魔されるのは残念だが、断ったところで勝手についてくるだろうし、上官命令だと権力で以て追い払われなかっただけマシだと思うべきだろう。

「……分かりました、一緒に行きましょう。それより副団長、この下着なんですけど――」





「おい、ルネ! 何だこれは!」

 ジュストは部屋にあった下着を手に取るなり血相を変えて部屋を飛び出し、ルネの待つ脱衣所へと駆け込んだ。

 数秒遅れてアダンが脱衣所に入ると、ジュストは例の下着をルネの眼前に突き付けていた。

 ジュストが怒りと動揺を露わにしているのは、ソファに準備してあった下着が非常に煽情的な形状だったからだ。

 黒い布地に赤い刺繍が施された下着は、女性用と見紛うほどレースがふんだんに使われている。

 その上、布地は前側にしかなく、それぞれの頂点から出ている紐を腰骨の辺りで結んで止める仕様になっている。
 つまり、下着を穿いても尻が丸出し状態になるという危険な代物だ。

 アダンが見たルネの下着は至って普通のものだったし、ジュストの様子からしてもこの種の下着を常用しているということはなさそうだ。

「少し前に外務卿から頂いたんだ」
「はぁ!? あのクソジジイ! てか、そんな話聞いてねえぞ」
「いちいちジュストに報告する義務はないだろう。それで、これがどうかしたのか」

 ルネは深紅の瞳を不思議そうに瞬かせた。
 想像通りではあるが、なぜジュストが怒っているのかまるで理解していないようだ。

 父親ほどの年齢である外務卿が年甲斐もなくルネに執心しているのは、騎士団内でも有名な話だ。

 アダン自身も、外務卿がルネの尻を撫でる場面を目撃したことがある。

 隊長職とはいえ一介の騎士に過ぎないアダンは、割って入ることも抗議をすることもできず、憤りと軽蔑だけが心に残ったことを鮮明に覚えている。

「どうかした、じゃねえだろ! これを着る意味を本当に分かってんのか」

 事を荒立てないためいやらしい手に耐えているのだと思っていたが、下着を贈るという下心しかない行動の意味に気付いていないとなると、ジュストが声を荒らげるのも致し方ない。

「レースがくすぐったそうだし、訓練中に紐が解けたら気が散りそうだし、俺も進んで着たいと思ってるわけじゃない。でも、会う度に付け心地を聞かれるから、一度くらい穿いてみないと申し訳ないだろう」

 ルネは怒気を発しているジュストに臆することなく、的外れな返答を淡々と言ってのけた。

 呆気にとられたのか、ジュストが二の句を継げないでいると、ルネは小首を傾げながらジュストを真っ直ぐに見上げた。

「……駄目だった?」 

 この美しい顔でじっと見つめられたら、大抵の男は胸を高鳴らせるだろう。
 その上、白い首筋を惜しげもなく見せつけられては、その声に何の色が乗っていなくても、甘くおねだりされているように見えてしまう。

「……ッ!」

 もしかして、ルネは自分の容姿の良さを分かっていて、わざとやってるのではないだろうか。
 そう勘繰りたくなるくらいルネの仕草は効果覿面で、ジュストの激しい怒気は一瞬にして昇華されていった。

「だ、駄目に決まってんだろう! 着るな! 絶対に着るな! 外務卿なんざ適当にあしらっておけ」

 怒気を削がれたジュストは、少し上擦った声で子どものように怒鳴り散らすと、気恥ずかしさを誤魔化すようにルネから視線を逸らした。 

「あしらうって……そんな訳にはいかないだろう」 

 ルネはルネで口の悪いジュストに対し、呆れたように溜息を吐き出した。

「でもまあ、返答の仕方を変える必要はあるか」
「……例えば?」
「うーん……然るべき時のため大切に取っておきます、とか」
「却下だ」
「何で」
「何でもだ」

 二人はアダンの存在など忘れたように――いや、最初からいなかったかのように、会話を進めている。

 ルネに頼まれたのは自分なのに、話の主導権をすっかりジュストに握られてしまっている。
 このままでは駄目だ。

「――あの、団長!」

 焦燥に駆られたアダンは、声を張り上げて二人の間に割って入った。

「えっと、とりあえず、先に着替えた方がいいかと思います!」

 ルネは自分がタオル一枚しか纏っていないことをたった今思い出したように、はっとアダンを振り返った。

「確かにアダンの言う通りだ。あ、でも下着が」

 外務卿から贈られた下着は、ジュストが怒気を込めて握り潰している。
 これを穿くという選択肢がないとなると、諦めて一度着た下着を穿くか、誰かが新しい下着を取りに行くかのどちらかしかない。

 先程はソファに着替え一式が準備してあったが、別の下着を持ってくるとなるとクローゼットや引き出しを開ける必要がある。
 中には貴重品の他、手紙などの見られたくない物もあるかもしれない。

 そういった想像もできない配慮に欠けた男だと思われたくないため、先刻のように前のめりで名乗り出ることはできなかった。

 だが、ルネの役に立ちたい気持ちも捨てられない。

「差し支えなければ、俺が」 
「――俺が行ってくる」

 遠慮がちなアダンの声を遮ったのは、ジュストの短い一言だった。
 異論は認めないとでも言いたげな、強い口調だ。

 ジュストはルネに軽く頷いて見せてから、意味ありげな視線をアダンへと向かた。

 ルネのことなら何でも把握しているというアピール、または牽制なのだろうか。
 あるいは単純にアダンをルネの部屋に入れたくないのかもしれないし、上長として機密事項を守るための判断かもしれない。

 理由は分からないが、こちらを見下すような視線ははっきり言って腹立たしい。

 だが、ジュストが名乗り出てくれたのは、却ってアダンにとっては僥倖かもしれない。
 短い時間とはいえ、ルネと二人きりになれるまたとないチャンスではないか!

「ありがとう、ジュスト」
「おう」

 ジュストはルネの髪を撫で付けると、アダンを鋭く睨みつけてから脱衣所を出ていった。
 妙な真似はするなという警告のつもりなのだろうが、ご丁寧に従う義理などアダンにはない。

「あの、団長。先にこれを」

 この機会をどう生かすか頭を巡らせながら、アダンは先程持ってきた寝間着の白いシャツをルネに差し出した。

「ありがとう」

 ルネはアダンからシャツを受け取ると、すぐに袖に腕を通した。
 身体がすっかり冷えてしまったのだろう。

「すみません。もっと早く気付いてお渡しするべきでした」
「いや、大丈……アダン?」

 ルネが驚いたように呼びかけてきたのは、アダンがルネの身体を引き寄せ、腕の中に閉じ込めたからだ。

 ほとんど衝動的な行動だった。
 だが、抱きしめたルネの身体は想像よりも冷え切っていて、自分の行動はあながち間違っていないのではないかとアダンを強気にさせた。
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