天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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お風呂上り小戦争4

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「その、こうすれば温かいと思って。嫌だったら言ってください」
「嫌ではないけど……」

 きっとルネはアダンの行動を不可解に思いながらも、純粋な親切心を無下にできないとでも思っているのだろう。

 ルネの無防備さと人の良さに付け込んでいると分かっていても、腕の中の幸福を手放したくなくて、アダンは抱き寄せる腕に力を込めた。

「……あの、団長。次の非番の日、一緒に城下に出掛けませんか?」

 団長が非番の日には副団長が代理の役割を担うという職務の都合上、ルネとジュストは休日が重ならないよう設定されている。

 あらゆる面で劣勢な現状において、アダンがジュストを出し抜くのはこの手しかない。

 アダンの胸に頭を預けていたルネは、アダンの言葉にゆっくりと顔を上げた。

 至近距離でこちらを見上げてくるルネの破壊力たるや、恐ろしいものがある。
 その美しい顔が僅かに曇ったのを見て、アダンは慌てて言葉を重ねた。

「悪いけど――」
「あっ、王立図書館はどうですか? 俺、探してる本があって!」

 アダンは断りの口上を紡ごうとしているルネの声を強引に遮った。

 ルネが休日になると書庫に入り浸るほど本の虫なのは、騎士団員なら誰もが知っている。
 どうにか食いついてくれと願っていると、ルネは宝物を見つけた子どものようにパッと瞳を輝かせた。 

「え……いいの?」

 アダンの知る限り、ルネは業務以外で城の外に出たことはない。
 多少なりとも興味を示してくれると思ってはいたが、想定外の可愛らしい反応に思わず口元が緩む。

「はい。俺も用があるので、一緒に行きましょう」

 実際は用事などないし、さして読書が好きなわけでもないが、ルネと一緒にいられるならどんなに場所だろうと構わない。

「……うん。ありがとう、アダン」 

 花が開くような柔らかい笑顔に、愛おしさが込み上がる。
 どうにも堪らなくなって、アダンはルネの細い腰をぐっと引き寄せた。

「団長……」

 好きだ。
 言葉を呑み込む代わりに、愛しい人をもう一度腕の中に閉じ込めた。

 暖めるというなけなしの大義名分があるとはいえ、上司と部下という範囲を逸脱している行動を、ルネは一体どう思っているのだろう。

 問わない限り知る術はないが、かといって問う勇気はない。
 今はただ、この幸福を享受していたい。

 抵抗されないのをいいことに、アダンはルネの首筋に唇を押し当てた。

 くすぐったかったのか、ルネはかすかに身体を震わせたが、アダンを押しのけることはしなかった。

 このまま肌を吸い上げたい――沸き起こった強い衝動をどうにか堪えることができたのは、アダンの耳がこちらに近付いて来る足音を捉えたからだ。

 ジュストに見つかれば面倒なことにしかならない。
 名残惜しく思いながらも、アダンはルネの身体をそっと離した。

 ほぼ同時に扉の開く音がして、二人はそろって入り口の方に顔を向けた。

「近い」

 ジュストは大股でこちらに向かって来るなり、アダンの後襟を掴んでルネから引き剥がした。

 アダンからルネを隠すように二人の間に割ったジュストは、「ほら」とルネに下着を差し出す。

「ありがとう、ジュスト」
「あの下着は奥の方にしまっておいた。二度と付けようだなんて思うなよ」
「……そうする」

 ジュストとしては捨ててしまいたかったのだろうが、流石に贈り物を勝手に処分することはできなかったようだ。

 ルネが頷いたのを見てから、ジュストはこちらを振り返った。

「行くぞ」
「え?」
「俺たちがいたらこいつが着替えられないだろ」
「あ、はい……では団長、失礼します」

 ジュストならアダンだけ追い出して自分は留まりそうなものなのに。
 違和感を覚えながら、アダンはルネに一礼してからジュストと共に脱衣所を後にした。

 廊下に出ると、ジュストは何も言わずに階段の方へと歩き出した。

 ジュストの冷ややかな背に居心地の悪さを感じながら、数歩遅れてジュストの後ろを付いていく。

 階段の先にある食堂から、かすかに談笑が漏れ聞こえてくる。

 このまま共に四階まで上がるのは非常に気まずい。
 適当に理由を見繕って食堂に立ち寄ろうかと考えていると、先を行くジュストが足を止めた。

「おい」

 振り向いたジュストはアダンの想像通り、冷え切った表情をしていた。

「お前にルネは守れない。さっさと諦めろ」
「なっ――」
 
 無遠慮な物言いに苛立ちが込み上がる。
 ジュストが先立って脱衣所を出たのは、アダンに釘を刺すためだったらしい。

 ここで挑発に乗るわけにはいかない。
 アダンは拳を握りしめ、ジュストの目を真っ直ぐに見据えた。

「お言葉ですが、副団長だって外務卿の件を知らなかったじゃないですか」
「……アレの対処はしておく」
「彼はジャルディノ公の弟ですよね。格上の家相手にどうやって」
「ルネの父上、ヴィレール公に書簡を送る」

 レニエ王国で、ミュラトール王家に次ぐ格式を持つ三大公爵家は、巨大な権力を持つにもかかわらず、諸外国の貴族と比べ良好な関係を築いている。

 ミュラトール王家への忠誠心が強いことと、それぞれが他家を出し抜く必要がないほどの財を有していることが主な理由と言われている。

 ヴィレール公からジャルディノ公へと話が伝われば、流石の外務卿も行動を慎むだろう。

「……でも、それは副団長自身の力じゃない」
「人脈も立派な力だ。お前に同じ真似ができるのか」
「それは……」

 ジュストの言う通り、伯爵家の三男にすぎないアダンには、公爵家との縁も伝手もない。
 悔しいが、外側からルネを守る力はないのは紛れもない現実だ。

 だが、諦めるつもりは毛頭ない。
 ましてやアダンがどれだけ欲しても得られない、幼馴染という贅沢な立場にあるジュストに指図されるのはごめんだ。

「確かに、俺には人脈も権力もありません。でも、副団長に何を言われても、諦めるつもりはありませんから」

 研ぎ澄まされた剣のように鋭く凍てついた表情のジュストを、負けじと睨みつける。

 アダンがジュストに勝てるものは何一つない。
 だからこそ、ルネを想う気持ちだけは押し負けるわけにはいかない。
 
「……私闘が禁止されてることを幸運に思うんだな」

 ジュストは忌々しげに舌を鳴らしてから、踵を返した。
 トントンと階段を上る足音が、次第に遠ざかっていく。

 私闘が許されていたとしたら、アダンはもう幾度もジュストに殴られていたことだろう。
 だが、どれほど殴られていたとしても、この気持ちが揺らぐことはない。

 一人廊下に残されたアダンは、自分の両手をじっと見つめた。
 お世辞にも綺麗とは言い難い、ごつごつとした男の手だ。

 この手で堂々とルネを抱きしめたい。
 そのためには、次のデートを必ず成功させなければ――。

 まずは休日を交代してくれる人を探すべく、アダンは食堂へと足を向けた。


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