文太と真堂丸

だかずお

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~それぞれの闘い~

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ギイッ 

ギイッ

木の階段がきしむ

一歩一歩上にのぼる足音

全身に文字が刻まれた身体 それは顔の至るところまで深く刻まれている。
暗妙坊主は納言の居る最上階につながる階段をほくそ笑み、のぼっていく。
一歩一歩ゆっくりゆっくりと相手が恐怖におののくのを楽しむように。
それはまるでお前達は俺の手中にあると言っているような無言の圧力。

光真組の隊員達は廊下で敵がいつ来るかを見張っていた。

ギイッ
「遂に来たかと思われます」
一同は息をのんだ。

「家のおっかあに優しくしとけば良かったな」ある隊員が言う。

「俺も妻に何か買ってやれば良かったよ」一人は微笑み語る。

「らしくねえ まるで、今日死ぬみたいなこと言うじゃねえか」

「お前逃げろよ」

「馬鹿言え、姫を見捨てるくらいなら死んだほうがましだ」

「あっはっは、だな」

「全力でやるぞ」

「生きろよ」
一番隊長の誠は一番後ろ
姫の部屋の前にて隊員達の会話をすべて聴いていた。

ヒョオォォォー

嫌な風だった
本当に嫌な風だった
不気味で冷たい風の音
とても激しい風が城の中まで流れて吹き込んで来ている。
そんな中、なにかが視界にぼんやりと
なんと、暗い廊下の先の暗闇に立つ人影が見えるではないか。
一瞬その人影に外の光があたり、その姿は、はっきりと映し出された。
恐かった
その暗闇の中奴は笑っていたのだから。
一同が息をのむなか。
「二十ばかしの雑魚じゃ全滅だぜ」
暗妙坊主は刀で首を斬る動作を見せ囁いた。
誠はその男を直視している、初めて目にした。
これが噂に名高い暗妙坊主

ふぅーっ
誠はため息をつき
「お前達 城を出ろ」
なんと誠の隊員達に対する意外な言葉

「たっ、隊長?」

「馬鹿言っちゃいけねぇ」

「どういうことで?」

「お前達じゃ殺されるだけだ」

「あいつと対峙すりゃあ分かりますよ。だが、仮にも我々は光真組の隊員 、姫を見捨て逃げるなど出来ないのを知っているでしょう」

「ああ、知っている」

「なら何故そんなことを」

「姫を生かす為だ」

「おっしゃる意味が分かりません」

「外に出て、真堂丸の向かった烏天狗の城に行き奴の加勢をするんだ」

「何ですと?」

「唯一の望みはそれだけだ」

「急げ」
暗妙坊主はその間
ずっと窓の外を一人眺めニタニタ笑っている、その間、両目はお互い違う所を向いていた。

「隊長一人で大丈夫なんで?」

「ああ、いけっ」

「はっ、はい どうかご無事で」

暗妙坊主は急に振り返り
「あれっ、お前清正だと思ったら違うな、奴は何処だ?」
隊員達が次々に階段を下るのを見て驚いた。
「ああ、逃げた」

「全く俺らの会話、存在すら眼中にないらしいな笑えるぜ」誠が刀を抜く。

「なんだ貴様だけ俺と闘うのか?」

「死ぬぜ」

「どうかな」
男達は互いに向き合い刀を構えた。


城の外
清正と平門の身体には徐徐に斬り傷が増えている。
「こいつら想像以上にすげえ動きしやがる、敵ながらあっぱれだ」
平門には、これをどう切り抜ければいいか思いうかばなかった。
「清正さん、どうします?このままじゃ」
二人は三位一体の攻撃をただ受けるしか出来ない

「平門、俺に案がある」

「何です?」

「俺がいきなり前にでる、そして三人の攻撃を一斉に浴びる お前その瞬間に一人斬れ そしてこの陣形を崩せ」

「へたすりゃ、死にますよ清正さん」

「三人の攻撃、急所を躱わしいっぺんに受け切れますか?」

清正は笑みを浮かべ
「なかなか厳しいな、だがやらなきゃ確実に死ぬ」

天狗達もまた敵の強さに感心していた
「僕達がこれをやってこんなに仕留められないとは、やっぱ隊長達半端ねぇ」

「だが、時間の問題だよ」

「三体二の優位さに助かったよね」

「行くぞ、平門」

ちっ、他に策はないのか?
「死ぬな、死ぬなよ 清正」

清正は一人天狗に向かい飛び出した。

「ああ、やっちゃった 勝負は慌てたら終わり終わり、さようなら清正」

直後
平門の目にした光景は凄まじいものだった。
三人の天狗の刀は清正の身体を三本とも貫通し

「清正ーっっ」平門は作戦を忘れ叫んでいた。

甘かった
無謀だった
清正が死んでしまった・・・・

平門は予想以上に安易に終わった作戦の確実な失敗に悔いた
信頼、尊敬する友の目の前の死により唖然とし、一瞬動きが遅くなったが。
既に自分の持つ刀は天狗に向かっていた。
しかし、それは作戦の主旨を覚えていてそうしたのではない、友を殺された怒り?
いや、友の死を無駄にはさせまいと言う思いから身体は反射的に天狗に向かっていた。

「あー、こうなっちゃ終わりだね」

「光真組 敗れたり」

「あっけなかったね、次は君で終わり、さようなら」

三人の刀は一斉に平門に向くはずだった。

「何っ?」

「抜けない」

「今だ、やれ」
清正は急所をさけ、自身の身体で刀を抜けないよう押さえ、更に二本の腕で相手の腕を掴んだ。

「さっすが」平門は笑い

「天狗よ、よく聞け この男が光真組二番隊隊長、 清正だ」と言い放ち 天狗を叩き斬った。

一人の天狗はそのまま地面に倒れ落ち、直ぐ様平門は相手の反応を見た。

「あっ、あっああ」

「あいつ、死んだか?」

「みたいだね」

「さすがの烏天狗の子も、兄弟を殺され怒ったか」と清正が言った。

「別に」
天狗の子は清正から刀を抜き
「これで、二対二か。でも正確に言えば、二対一と半死人 ってところだね」

清正は地面に片足をついた。

「清正大丈夫か?」

「ああ、まだいける」


一方、赤い鳥居の所

烏天狗は天狗の里に生まれた。
本来天狗は凶暴でもなく優しい種族だった。
人間との外見も違う彼らは、人目につかぬよう、隠れて静かに生きていた。
だが、そんな中に産まれたのが、この烏天狗だった。
他の天狗の赤い肌の色でもなく、天狗と人が混ざった様な出で立ち。
そう彼は天狗でも人間でもなかった。
里の天狗達に嫌われ、人間にも嫌われた彼の残された道はすべてに対する復讐の思いしか残らなかった。
当たり前に大切にされ育った人間にはこの気持ち分かるまい、天狗は人間に隠れて暮らす、だが儂はどうだと言うのだ。
その天狗からすらも隠れて暮らせと言うのか?
馬鹿め ふざけるな
それから、烏天狗は己を磨き強くなった、誰にも隠れる必要のないほどに。
そんな中、出会ったのが鬼道千閣と言う大帝国をつくった男だった。

「俺について来い烏天狗よ、そうすればお前が欲しいものすべてを与えてやる。もう、誰からも隠れんでいい」

そこから、烏天狗は白い刃と恐れられる大帝国の十の幹部の一人になったのだ。
その刃は今まさに真堂丸の頭上で牙を向かんとしている。

それは凄まじい速度
とらえた 「死ね」
確かに気配は全く感じなかっただが
唯一完全に隠せないもの、殺気
殺気が立ち、刀を振りかざすまでの間
それは真堂丸が刀をかわすのに充分な時間だった。

「ちっ」

真堂丸の視線が自身の脳内にまで入ってきた。
感じるそれは、まるで凶暴な猛獣を相手にしている様な視線。
天狗は真堂丸に間合いに入られ危険を感じ、咄嗟にあの葉を振りかざした。
物凄い突風が起こる。

その頃、しんべえはようやく立ち上がる事ができるようになり
「いっいまの内だ逃げよう」

「んっ?何だこの突風?」

ヒョオオオオー
実は余談だがこの時の時刻の風こそ、暗妙坊主が階段をのぼり出現した時のあの風だったのだ。

「まっ、まさかこの風やつの風じゃ」しんべえはぞっとした「化物めっ」


文太は城に全力で走り自分にどう時間が稼げるか?
それと一山の事を思っていた。
突如後方で感じる、凄まじい風の音。
すぐに分かった、烏天狗の風。
真堂丸どうか無事で。
文太は全力で城に向かった。

キィン キィン キィン
その風の中、二人は刀を交じらせ
風にのまれながら二人は斬り合っている。

「楽しいな、こんな強い男がいたとはな」

キィン キィン

両者は身体全体で刀に力を込めぶつかり合い睨み合った。
だが、突風がすぐに態勢をくずさせる。

「この風の中、お前は儂のつくりだすこの真空波を避けられるかな?」

次々に刃になった風が真堂丸を襲う
「風にのまれる中、何処まで避けられるか見ものだな」

はなっから避ける、つもりはなく
真堂丸は次々にその真空波に真っ向から向かい斬り崩していった。

「なんとっ、何の躊躇もない判断力、こいつは手強い」

しんべえが逃げようとした時
上空から二つの影が。
着地したのは、真堂丸と烏天狗

「ひぃぃぃぃぃいっっ」
しんべえはまた失禁し、地面に座りこんだ。

「らーららららー」烏天狗は突然歌いそして踊り始め、真堂丸はそれを黙って見つめている

「分かるか?この気持ち これは歓喜の舞いだ」

「己を倒せるやも知れぬ程の奴に出会えて感じる、死」

「闘いの中にこれを感じさせる相手に出会うのは久しぶりだ。 だが、これこそ儂を興奮させるフハハハ」
いかれてやがる、しんべえはガクガク震えている。

突然舞いは終わり。
真剣な顔をした烏天狗
「さて次で決めようではないか」

「本気でいく」

「ああ」
烏天狗の刀は真堂丸にまっすぐ向いた。
なっ、なんだよこの緊迫感
只ならぬ雰囲気と空気をしんべえも感じた。

あっ

ああ

次で決まる

ああ
次でどちらかがこの世からいなくなっちまうんだ。






しんべえは彼らのすぐ背後にある、死を感じ何とも嫌な気分になった。
俺には考えられねぇ、生と死のやりとり、なんて奴等なんだ・・・
二人のすぐ後ろに死神が大きくはっきりと見えた。

本当に今動いてる目の前の肉体が、もう二度と動かなくなるんだ、このすぐ後に。
これが闘い しんべえは生まれてはじめて目の当たりにする命のやりとり、その緊張感に嗚咽した。

この直後に
人間が死ぬんだ・・・・・

「行くぞ」

「ああ」

ヒュウウウウ
静かな風が流れ
両者は同時に飛び出した


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