高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん

文字の大きさ
14 / 44
異世界の居場所

騎士団

しおりを挟む
 騎士団からの急な受注で、インドルとはあまり話ができなかった。

「精霊に訊いておくけど、答えが必ず返ってくるとは限らないからね」

 そう言い残して行ってしまった。

 期待していたので少し残念……。精霊だったら何か分かると思っていたのに。

 正門から町に出ると、マロンが走って来た。

「タクトくん! よかった……無事だったんだね……!」
「マロンさん! あれ、宿は?」
「それどころじゃないでしょ! とにかく怪我もないみたいだね……」

 マロンは俺の腕にしがみつくと、ほっと胸をなでおろした。
 本当に心配してくれていたみたいだ。

「どうしてタクトくんを連れて行ったのかしら……うちの宿への嫌がらせ……? でも、城に連行するなんて初めてだわ」

 スカウトされて現隊長ぶっ飛ばして、騎士団の申し出を断ってきた、なんて言ったら宿を追い出されるかな……。
 リアクは嫌なやつだったけど、俺を相手にしてても得られるものはないだろうし、口約束だけど宿には手は出さないって言ってたからな。

「い、いやー。なんか、人違いだったみたいですよ」
「ええっ、そうなの? もう、人騒がせな奴らね!」
「それより、トロ店長は怪我していないですか?」
「平気平気! やられ上手だから。いま、裏門のほうでタクトくんが出てこないか待っているはずよ」

 そうして三人で宿に戻ると、今日使用される予定だった仕入れの箱が山積みになっていた。この世界に冷蔵庫なんていう文明の利器はない。消費しないと食材はダメになる。
 働こうとする俺にトロもマロンも休むよう気遣ったが、夕方の酒場だけ開店してもらうよう頼んだ。でないと、俺が罪悪感で押し潰されそうだ。

 俺を大切にしてくれるトロとマロンに出会えて本当によかった。これから先、もしも彼らの生活を脅かすような者が現れれば、そのときは絶対に俺が守る。


 騎士団しか昇ることを許されていない、城の最上階の軍略会議室にて──。

 ガイア帝国を中心とした地図が、大きな台座の盤上に広げられていた。
 白銀の鎧の騎士たちが囲む中に、リアクも末席ながら参列する。

 突然、ドンッと拳を台座に叩きつける者がいた。その男は赤い瞳で地図を睨む。

「共和国だとぉ……一国じゃ弱ぇから、手を組んできやがったか! 雑魚が!」

 苛立ちを募らせるのは、一人だけ真っ黒な鎧を身にまとった、赤髪のダンケルクだ。

「ダンケルク様、それだけではなく、共和国のやつらは我がガイア帝国にスパイを放っているそうですよ……。敵国の捕虜が私の拷問でやっと口を割りました……クックックッ……」

 騎士が集まる中、鎧ではなく灰色のチュニックをきた男が不気味に笑う。

「ロトン。そのスパイ、誰か分かったんだろうな?」

 ダンケルクは眉間にシワを寄せたまま、ロトンと呼んだ男に目をやる。

「その捕虜は知りませんでした。そして、死んでしまった……。もっと捕虜を連れてきていただかないと……。まぁ、大体の目星はついていますが……クックックッ」

 まどろむようなロトンの細い目は、騎士たちを一巡してリアクをじっと捉える。

 重苦しい殺気の波に、リアクの額からふつふつと汗が浮き出てきた。

(ま、まずい……。ハッタリだ落ち着け!)

 気持ちを切り替えたリアクは、いつもの冷笑を湛えた涼し気な表情に戻る。

 リアクは共和国側のスパイだった。
 
(何十年という時と、血反吐を吐く思いをして、やっと中枢の騎士団に入り込んだんだ! こんな序盤でボロを出すわけにはいかない! 仲間を殺戮してきたコイツらの弱みを握るまでは、絶対に耐えてやる!)

 ロトンは腰に装着したサイドポーチから、手投げナイフを取り出す。手練の騎士たちに緊張が走った。
 そのうちの老騎士がロトンを指差して、注意した。

「おい、忘れているようだがここは軍略会議室だぞ。刃を見せるなど、無礼……」

 老騎士が見ていたロトンの姿は、突然煙のように消えた。
 次の瞬間に、老騎士の前に座するロトン。音もなかった。

「あなたこそ、私の『暗殺者』のジョブをお忘れなきよう。私は騎士ではありません。私はただ、裏切り者に制裁を与えるだけです……クックックッ……」
「うっ……」

 細長い腕が伸びていて、老騎士の喉元にナイフの切っ先があてられていた。

「あなた、目で追えてなかったでしょう……?」

 ナイフでもてあそぶように老騎士の肌を撫でると、ロトンはダンケルクに顔を向ける。

「こんな弱い騎士は殺していいですか?」
「だめだ、地図が血で汚れて面倒だ。あとにしろ」

 ダンケルクの答えに、老騎士は顔を真っ青にして膝から崩れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜
ファンタジー
 神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。  巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。  千年間も。  それなのに主人公は鍛錬をする。  1つのことだけを。  やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。  これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。  そして、主人公は至った力を存分に振るう。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...