43 / 44
反逆の徒
最終決戦
しおりを挟むダンケルクの大剣と、エンバーが生み出した光の剣がぶつかる。
「!?」
剣と剣がぶつかり合うと、赤いカケラが飛び散った。
王宮で戦った時のように大剣は溶けず、形を保ったままだ。
よく見れば光沢のある鉄ではなく、分厚い黒石で岩石特有の穿孔があった。赤熱して砕けたのはほんのわずかで、それらは流星のように火花を散らして落ちる。
「激レアの武器を手に入れた甲斐があったぜ」
また、ぼんやりとダンケルクの姿が霞む。
死角に注意し、ダンケルクの突きに反応して構えた。しかしそれはフェイントだった。
「タクト! 上だっ!」
ガンッ!
ダガーが剣の腹に当たり鈍い音を立てた。横やりにダンケルクは赤の瞳を燃やし、ギールを睨む。
空中で身動きできないダンケルクを俺は下で待ち構えた──が、片耳のイヤリングが微かに煌めく。
「うぐっ!」
声を出して倒れたのはギールだ。
ダンケルクの剣先がギールの脇腹を刺していた。
「ギール!」
俺は集中射撃の狙いを変えて撃ち込んだ。
しかし、翡翠のイヤリングがまた怪しく輝くと、ダンケルクは忽然と姿を消し炎の弾丸は空を裂いた。
「時操騎士の能力じゃない……」
時間を止めたときに発生する残像がなく、移動する距離が長い。
風の人柱だったマーリーが以前言っていた。召喚という転送魔法は風の魔法に近いものがあると。
瞬間移動──これが、ガイア王を倒した力なのか。
「よっしゃあ! ギール撃破!」
ダンケルクは再び祭壇に立って姿を現す。
満面の笑みで子供のように奇声をあげて喜ぶ姿に、ゾッとするものを感じる。
「あとは裏ボスのタクト、貴様だけだ!」
「……!」
朱色の墨汁を垂らすかのように、残像が迫ってくる。
光の剣を向けるが容易にフェイントを入れられ、視界の外に残像がちらつく。
「くっ!」
早すぎる。
俺は剣の達人でもないし、明らかにダンケルクの方が戦闘経験値が高い。
剣術についてギールとリアクに稽古をつけてもらってはいた。だからこそ分かる、圧倒的な修練の違い──。
パキン!!
後方で水の障壁が割れる音がした。
大剣の切っ先が俺の衣服に触れている。完全に死角からの攻撃だった。
「かってーな、ルナのバリアは」
自動防御のおかげで、隙だらけの後方をルナのネックレスが守ってくれていた。
ダンケルクは剣を引き抜いて、一旦俺との距離をおいた。
「ははっ、弱くて一人じゃ勝てねーから、他人の力に頼るのか。恥ずかしくないのか?」
……恥ずかしいだって?
ルナやギール、リアクの手助けを受けて恥ずかしいと思ったことは1ミリもない。
たしかに俺は、魔力が膨大なだけで使い方もろくに分からない高校生だった。けれど、たくさんの人たちが助けてくれたし、今ダンケルクと戦えるほどになった。
それは、俺が正しいと思う道がたくさんの仲間の道と繋がっていたからだろう。
俺は一人じゃない。だからダンケルクを倒すことができる。
「ダンケルク、俺は仲間から託されたものを恥ずかしいと思って使うことはない。仲間の手助けも恥ずかしいとは思わない。……恥ずかしいことは仲間を見捨てること、同じ願いを叶えられないことだ!」
光の剣をもう一方の手に握る。
「うるせーっ!」
怒りにまかせた攻撃をパリィして払いのける。そしてもう一方の光の剣を前にして踏み出した。
消えたダンケルクの姿をかすめ、わずかにダンケルクの腕を傷つけた。
「クソッ! 何が仲間だっ!」
傷口を見て額に血管を浮かべ、ギリギリと大剣のグリップを握り締める。
また姿を消すと、水の障壁に無数の斬撃が叩きこまれた。
出鱈目に打ち込まれた嵐のような剣閃。火花が散り、ダンケルクの姿が残像と実体とで入り乱れる。
時操騎士と風の装具の力をランダムに使い、どこから攻撃するのか分からない。自動防御の弱い箇所を探っているのか。
だとすれば──
「上だっ!!」
俺は水のネックレスの能力を知るため、ギールの依頼で色々と試していた。そして気づいた、ネックレスの障壁は上部が薄いことに。
両方の光の剣をクロスさせて、上空に向かって構える。
案の定、頭上が陰り、巨大な剣先が落ちる──首元まで迫る刃の腹を、二つの光の剣で挟んだ。
大剣を握っているせいなのか、ダンケルクは瞬間移動をしない。
「クソッ、放せっ!」
「おりゃーーッ!!」
渾身の力で光の剣を交差させる。
ガキィィン!
炎の裂け目が大剣の悲鳴とともに刃を走る。
「な、なんだとっ! 俺の最強武器が……」
大剣は横から真っ二つに千切れた。
断面は生々しい血のような閃光を噴く。
「諦めて武器を置け!」
ダンケルクは距離をとると、横たわっていたギールに壊れた大剣を向ける。ギールを手当していた者たちを蹴散らして、息を切らしながら喚いた。
「武器が違いすぎるんだっ! はぁはぁ……その光の剣は特殊な魔道具なんだろ……? 分かってるんだ……! それを俺に寄越せっ」
脇腹を抑えるギールの首に折れた断面を押し当てた。
「うぐぐっ!」
「……分かった」
俺は剣を装備解除して、炎のブレスレットを外した。
装備品になったままのエンバーを床へ転がし、ダンケルクに渡した。
ダンケルクはそれを受け取る。
「ハハハッ! これだこれだっ! これこそが隠された最強武器だったか!」
「……」
火の魔法を唱えれば、ダンケルクの手には煌々と輝く光の剣があった。
──喜ぶ顔が苦痛に歪み始めるのは、割と早かった。
「あ、がっ!?」
ダンケルクは白目を剥いて、膝をつく。光の剣はダンケルクの魔力を目一杯放出し続ける。
「あガガガッ……」
やっと放出がおさまるころ、ダンケルクは痙攣して顔面を床に打ち付けた。
王宮を脱出したとき、俺もこうなってたのか……?
ダンケルクは自分がもつ以上の魔力を放出して、魔力切れを起こしたのだった。風の魔法による瞬間移動や、火の魔法による光の剣。これらは、莫大な魔力が必要だ。
「なんか、おいしいところをもっていって、悪いナ」
イグアナの姿になったエンバーが、ペロペロと舌を出しながら俺の元に歩いてきた。
ギールの配下がすぐに手当にもどってくる。どうやら傷は浅いようだ。
「はぁ……」
俺は全身の力が抜けて、疲弊しきった体を大の字にしてステージの壇上に寝転がった。
終わった……。
そこに、ふわりとした布が頬に当たる。
「タクト様、本当にありがとうございます」
「ふぇ……?」
目を開けるとルナを下から見上げていた。
「おわっ、ルナ王女!」
慌てて座り直した。
周りを見れば、客席の大勢の人が喜びとともに拍手を送っている。
ルナが安堵の笑みを浮かべると、俺も自然と笑みがこぼれた。
ダンケルクは拘束されて壇上から退場させられる。評議会の老人とルナ王女が俺の目の前で向かい合った。
「本当にそのままでいいんですよ」
そう俺に言って、ルナは戴冠式を続ける。
司祭と思われる老人だけは相変わらず緊張した面持ちで、帝国の王冠をルナ王女に戴冠した。俺は本当に疲れていて、その様子を見届けると壇上で眠ってしまった。
61
あなたにおすすめの小説
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる