離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

文字の大きさ
27 / 92
三章『世界旅行編』

第二十六話『消えない危険信号』

しおりを挟む
 日が沈み初めた。
 船には僕とホアイダ、そして何故か居るヴェンディの三人が乗っている。

 さっきまで冷たい海に居た為、僕はブルブル震えていた。
 新しい服に着替え、毛布を被りながら、火を焚く。
 できるだけ暖を取るようにし、牛肉のステーキを食す。

「生きてて良かったです。コメモチもう一杯入りますか?」
「頼む。それよりヴェンディ、なぜ居るのか答えてもらおうか?いつから尾行してた?なぜ尾行してた?」

 ホアイダが過保護にもご飯の準備をしてくれた。
 そんな中、ヴェンディは暖を取りながら黙り込んでいる。

「お前ら二人だけなのが心配になって、旅の最初から尾行してた。すまん」
「なら隠れる必要無かっただろ?」
「行かないって言ったのにやっぱり来ましたっての、なんかダサいじゃん?気持ちの問題さ」
「ふ~ん、そうかい」

 嘘だな。
 燃やしたホテルに泊まって居た時、ニュースでセイヴァーが活動していたのは見ている。
 つまり、僕がホテルを燃やした日以降にこちらに来たのだ。

 なぜこの魔の土地の僕らが居た場所に来たのか?
 それを考えた時、セイヴァーとしての活動を理由として考えたが、偶然にも程が過ぎる。
 ヴェンディが僕=ベゼということに気付いているとは考えずらいが、気付きかけてる可能性はある。
 やはりヴェンディは、未知なる魔法を二つ以上隠し持っている。

「だからさ、言いづらいんだけど、俺腹ぺこなんだよ。水も全然飲めてない」

 ヴェンディは、情けない顔をして僕のステーキを見ている。
 よだれを垂らし、ボールを待っている犬のようだ。

「だから?」
「頼む!俺にもステーキくれ!その牛は能力で創った牛だろ?」
「いやだ」
「えー!?じゃあせめて水だけでも!」
「やだ」
「こいつ!!恩を仇で返しやがって!」

 やけになり、ヴェンディが強引にステーキにかぶりつこうもしたので、ヴェンディを蹴り飛ばした。

「うへっ!?」
「勝手に恩を着せるな。薄っぺらのカスの分際で調子乗りやがって」
「ひでぇ!お前やっぱ最低だ!悪い奴じゃないとか思っていた俺がバカだった!」

 ヴェンディはうつ伏せに倒れ、床を叩いて今にも泣きそうにする。
 しかし、そんなヴェンディにホアイダが水を差し出した。

「まず水を飲んで下さい。今お魚料理を作りますから」

 ヴェンディから見たホアイダは、まさに女神だった。
 キラキラ輝く宝石のような瞳をちらつかせ、水が入った瓶を開けて、ヴェンディに渡した。

「あっ……ありがとうホアイダ……あんたは俺にとっての女神――」
「フォティア.ラナ」

 ヴェンディがホアイダの手を取り、水を得た魚のような表情を浮かべたので、水を得る前に魔法を放ち、海に落としてやった。
 薄暗く寒い海のおかげで、ヴェンディは燃えずに済んだようだ。

「好きなだけ飲みな。海水だけどね」
「ぶはァ!?さみぃ!!早く上げて!うぉ!サメだ!サメが居る!ヤバいマレフィクス!サメサメサメメメ!!」
「ほんとだ、肉がさめてる」
「マレフィクスの冷めた人。海にサメが居るってことですよ」

 すぐにホアイダが、指から出した糸で、ヴェンディを拾い上げる。

「へっぷ!?さみぃ!マレフィクスてめぇこの仮は必ず返す……へっぷし!」
「フフっ、そりゃ楽しみ」

 * * *

「んまぁい」

 結局ヴェンディは、ホアイダの作ったさんまの塩焼きやマグロのステーキを食べて機嫌を戻し、頬っぺたが落ちそうな笑みを見せた。

 僕の右手と腹部は、タラサの戦いで負傷していたが、ホアイダの治癒魔法でほとんど治った。
 そんなホアイダは、黄昏たように海を暗い眺めている。

「間違っても落ちるなよ。サメや魔物もそうだけど、どこの海が宇宙と繋がっているか分からないからな」
「宇宙?海と繋がってる宇宙とは?」
「宇宙ってのはこの世界の外側のことだよ。あまり発見はされてないが、場所によっては宇宙と繋がっている海がある。入口は小さいらいしいけど、落ちれば戻ることは出来ないって話だよ」
「なるほど……初めて知りました。帰ったら父様にも聞いてみます」

 この世界にも宇宙があるが、僕らが知るように空の上にある訳ではない。
 空の上に何があるか、この世界の人類はまだ知らないのだ。

 理由としては、単純な科学技術不足だ。
 宇宙船も無ければ、飛行機も無い。
 飛べる魔法もあるが、生身の人間が上がれる高さはたかが知れてる。

 話を戻そう。
 この世界の宇宙、この世界の宇宙は海の下に発見されている。
 古い写真が一枚残されていたり、画家の残した絵があったりするから、どんな感じかは分かる。
 前世の世界、つまり地球に居た頃の宇宙そのものだった。

 しかし、海の下全てが宇宙では無く、小さな入口が一つ発見されただけだ。
 他にも入口があると噂されているが、定かではない。

「ちなみにその入口、確実に発見されているのですか?」
「確実に発見されているのは奇跡の島の近くにある海だ。陸のすぐ近くにあるらしいよ」

 いつか宇宙に行ける技術か魔法、あるいは能力が身に付いたら行ってみたいものだ。

「少し興味ありますね」
「僕も、一度で良いか行ってみたいよ。永遠に宇宙に居るのもありかも」
「永遠は流石に嫌ですよ」
「冗談だよ」

 *(ヴェンディ視点)*

 マレフィクス達と合流した翌日。
 日が登り、目覚めの良い朝が来た。

 船の操作は、マレフィクスが一日中していたようだ。
 戦いもあり、負傷もある中の操縦だ。
 これでもかってくらいぐったりしている。

「代わるか?俺操縦できるぞ」
「それ早く言えよ。もう死にそうだ」
「お疲れ様」
「地図通り行けよ。任せたからね?ほわぁ~」

 そう言って、マレフィクスは奥の部屋に入ってた。

「あと二時間で着くな……ちっ、この地図もってことは……そういうことなのか」

 マレフィクスが持っていたここら辺の海辺の地図。
 それと俺が持ってる世界地図、竜の土地とその付近の地図、計三つの地図全てがドス黒い赤い危険信号を放っている。
 それも、俺らを中心に。

 つまり、マレフィクスとホアイダに訪れる危険は『タラサ.ウェルテックス』の襲撃では無かったということだ。
 これ以上の危機が二人に、またはどちらかに起こるということ。
 いや……もしかしたらもう既に、起こっているのこもしれない。

 二人に姿を見せることはしたくなかったが、マレフィクスを助ける為だったので仕方ない。
 今俺がすべき事は、危険信号がマレフィクスとホアイダのどちらから放たれているか明確にすることだ。
 その為に、二人を一旦離さなくてはならない。

「ヴェンディ!」

 ホアイダが気配もなく、考え込んでいた俺の肩を軽く叩いた。

「うひょい!ビックリした~」
「おはようございます」
「……おはよう」

 ――こいつほんと可愛いな……笑うと尚更だ。

「マレフィクスはどこに?」
「さっきまで操縦してた。今は疲れて船室で寝ている」
「そう……ですか」

 浮かない顔だ……あれだけ戦い疲れてたマレフィクスを心配してるのだろう。

「心配するな……寝ればいつもの憎たらしいマレフィクスに戻る」
「それもそうですね」

 再び明るさを取り戻したホアイダは、俺のそばをゆっくりと立ち去る。

「どこ行く?」
「朝ご飯作ります……まだ食べていませんよね?」
「あぁ、ありがとう」

 いつも思う。
 ホアイダと二人で話すのは、何だか懐かしい感じがする。
 何故だが暖かい気持ちになるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...