離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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三章『世界旅行編』

第二十七話『竜の土地に到着』

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 俺の前世の話だ。
 小中高、俺は正義感がある男だった。
 真面目だった俺は、恋愛なんてものをしなかったが、大学では違った。

 一目惚れだった。
 相手は日本人とフランス人のハーフで、病気持ちのミステリアスな女の子だった。
 結局その子とは、良い関係を築き、告白し、恋人になった。
 大学を卒業し、警察官になった後は結婚をした。

 だが、仕事の方は最悪だった。
 初仕事で、俺のミスで強盗犯を逃がしてしまったのだ。
 仕事を辞めたくなるくらい精神がやられたが、妻の存在があって何とか気をしっかり持つことが出来た。

 けど、ミスってのは自分、あるいは自分の周りに帰ってくる。
 六年後、すっかり仕事に慣れた俺だったが、その日地獄を見ることになる。

 あろうことか、六年前に逃がした強盗犯が、俺の妻を殺したのだ。
 俺が憎悪を抱いたのは殺された理由だ。
 結論から言おう……強盗犯が運転中に彼女を轢いた。
 何か悪巧みをしていた訳でなく、トラブルがあった訳でもなく、ただ単純に運転ミスでタイヤを滑らせ、たまたまそこに俺の妻が居た。

 俺は自分を呪う。
 もし、俺が初仕事で強盗犯を逃がしていなかったら、妻は死ぬこと無かった。
 強盗犯も反省し、運転ミスなどせず社会復帰出来たはず。
 俺が原因……そう思わざるを得なかった。

 異世界に転生して第二の人生を送っている今も、俺は過去を呪い続けている。
 妻の優しい顔も、暖かい温もりも、苦しみと一緒に刻まれてる。

 * * *

 声がする。
 可愛くて優しい声……気持ちが晴れるような声だ。

「ヴェンディ!」
「……どうした?」

 ボッーとしていたようだ。
 ホアイダが大きな声で名前を呼ぶまで気が付かなかった。
 目の前には、もう竜の土地が見え始めている。

「大丈夫ですか?目が虚ろで、それに……涙が溢れていますよ」

 言われて初めて気付いた。
 俺の目から、大粒の涙が零れていた。

「本当だ……涙だな」
「何か辛いこと、あったのですか?」
「いや……辛いことなんて――」

 昔のことを思い出してしまい、涙が止まらない。
 なぜあんな古い記憶を思い出してしまったのか、自分でも不思議だ。

「ないさ」

 嘘を付いてしまった。
 とってもチープで分かりやすい嘘を。
 俺の嘘は、ホアイダを困らせただけだ。

「そうですか……辛いことあったらいつでも言ってください。ヴェンディの為ならできるだけのことはしますから」
「……ありがとな」

 なぜあんな辛い記憶を思い出してしまったのだろう。
 今じゃ何の役にも立たないような、辛いだけの記憶だと言うのに。

 * * *

「着いた!」

 竜の土地に着くと、キャラック船を能力で紙にして持ち運べるようにした。
 そして、大きめの都市に着くまでマレフィクスの馬を走らせた。

「着いたよ……都市ガルガット」

 世界番号『35』マニラにある都市『ガルガット』。
 ここは貧困差が激しく、治安の悪い場所もあると聞いたことがある。

「おっ!パフェがあるね。それも見たことないくらいカラフルで大きい……皆食べるよね?」

 睡眠不足の割に、マレフィクスは元気そうだ。
 食欲もあるみたいだし、機嫌も良さそうだ。
 それに、両手じゃないと持てないような大きなパフェに興味津々だ。

「あんなに食えるかよ」
「じゃあヴェンディは私と分けましょ」
「じゃあパフェ二つ頼んじゃうよ」

 そう言ったマレフィクスは、見たことのある高そうな財布を出す。
 良く見れば、俺が誕生日にあげた財布だ。

「マレフィクスお前!その財布!?」
「あ?」
「随分センスが良いじゃない?一体誰から貰ったんだい?」

 あまりの嬉しさに、ニヤニヤと笑いながらマレフィクスの肩に手を回した。

「君だろ。脳みそ溶けたのか?」

 表情には出さないが、こうやって大切にしていてくれるのを見ると、マレフィクスが悪い奴だと思えない。
 それに、正直めっちゃ嬉しい。

「マレフィクス、そのヘアピンと赤のイヤーカフ似合ってますね!一体誰から貰ったんですか?あっ、私でした」
「意外と君ってお茶目ね」
「ヘヘッ」

 ホアイダから貰ったプレゼントも毎日身に付けているし、やっぱりマレフィクスは憎めない。
 本当に悪い奴はこんなことしないはずだ。

「美味しい!」
「んまぃ!」

 俺ら三人は、パフェを食べながらしばらく歩く。

「ただ今15時過ぎ……僕がホテルの予約しとくから、18時まで自由でいいよ。このホテルのロビー集合ね」
「「はーい」」

 ホアイダは、大きな荷物をマレフィクスに任せ、俺と共に観光に向かった。
 正直この状況、ラッキーだ。
 今マレフィクスとホアイダは離れ離れになっている。

 もう少し離れた場所でここら辺の地図を見れば、どちらから危険信号が放たれているかが分かる。

「どこ行きます?」
「少し先に大型ショッピングモールがある。そこはどうだ?」
「良いですね」

 これくらいで良いだろう。
 そろそろ地図を開き、危険信号を確認すべきだ。

「えーと、確かこの方向であってるよな」

 自然に地図を開き、ホアイダとマレフィクスのだいたいの位置を確認する。
 結論から言う……危険信号はマレフィクスから出ている。

 となると、マレフィクスを一人にしたのはやばいかもしれない。
 どうにか建前を使って、マレフィクスのとこに戻らなくては。

「あっ!!」
「どうしました?」

 ホアイダを騙す形になるが、仕方ない。

「財布マレフィクスに預けたままだった!どうしよう……まだ間に合うかな?」
「まだホテルに居るかもしれませんね。急いで戻りましょう」

 * * *

 ホテルに戻り、受付人にマレフィクスのことを尋ねる。
 そして、マレフィクスが予約してくれた部屋まで急いで足を運ぶ。

 部屋のドアをノックをしても反応が無い。
 しかし、マレフィクスから出ている危険信号はまだこのホテル付近にある。
 仕方なく鍵を使い、部屋の扉を開ける。

「何だ?瓶が割れてるぞ?」

 何か妙な感じだった。
 床には割れた酒の瓶が散らかっており、酒で床が濡れている。
 そしてそのすぐ近くには、頭から血を流したマレフィクスが倒れていた。

「マレフィクス!」

 すぐにマレフィクスに近寄り、生きているか確かめる。

「息はある」
「今治療します」

 ホアイダの治癒魔法で、マレフィクスの頭の傷が治っていく。

「おい!マレフィクス!」
「……はっ!奴らは!」

 意識を取り戻したマレフィクスは、すぐに誰かを探す素振りを見せた。

「何があった?」

 ――生きててよかった。

 マレフィクスに起きる危機、今それが起きたのか定かでは無いが、何かが起きていることは確かだ。

「取られた……荷物全部取られた。貧乏のゴミカス野郎が、旅行者の僕を狙って計画的に荷物を盗んだんだ。背後から来た奴がその証拠だ」
「何だ、荷物取られただけか。無事で良かったよ」

 無事で良かったのは確かだが、マレフィクスは怒りを露わにして部屋のベッドを蹴り壊した。

「おっ、おい!」
「君らはここに居ろ。僕は荷物を盗んだんだ奴らを探しに行く」
「無理だ。もう近くには居ないだろうし、追える訳ない。俺やお前の能力や魔法で追跡は無理だ」
「黙ってろ。僕は僕に対して舐めた真似する大バカが大っ嫌いでね……見つけて仕返ししないと気が済まない」

 恐ろしく執念深い目をしている。
 血に染ったような赤い目が、悪魔そのものにしか見えない。
 その冷徹で憎悪に満ちた瞳は、俺とホアイダを動けなくさせる程だった。

「不愉快極まりない」

 マレフィクスは、上着を烏の羽根に変え、窓から飛び出して行った。
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