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五章『悪の組織編』
第四十四話『アリア.ベゼ.ラズル』前編
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* * * * *
ベゼが世界中に姿を見せてから三年半が経つ。
マレフィクス、ヴェンディ、ホアイダの三人は16歳になり、時期は四月の秋を迎えていた。
三人は三学期を卒業して、四学期を迎えようとしていた。
一段階二段階と、歳を重ねる者が居れば学校を卒業する者も居る。
それは六年制の基礎学校も、同じく六年制の専門学校も同じことだ。
三人の住むエレバンは大国で、大都市メディウムもかなり大きい都市だ。
だが、エレバンの都市はまだまだ多く存在する。
大きな都市も、小さな都市も存在する。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
この小さな都市『ピリア』でも、卒業式が行われ、多くの者が嬉し涙と共に卒業していた。
「きゃぁぁぁ!!」
だが、この基礎学校の卒業式は、一人の少女によって地獄と化した。
何があったか分からないが、一人の少女がいきなり、男の子と女の子を一人ずつナイフで刺し殺した。
周りの者は慌てて、女の子から逃げる。
「アナベル……ちゃん。何やってんの……」
「もう、どうでも良いや。氷魔法、エイス.フモール」
少女は近くに居た友達にナイフを刺し、足元から出した氷で人々の足を凍らせた。
周りの人々は氷で身動きが取れなくなる。
少女は、手に隠し持っていた数十本のナイフを人々に投げた。
だが、そこに現れた警察の魔法により、ナイフは弾かれてしまう。
「囲め!」
警察は少女を囲まみ、地面に張られ氷を火魔法で温めた。
氷が溶けると人々が逃げて行く。
「あぁ!」
「無駄な抵抗はやめて跪け!」
少女がナイフを投げても、警察の使う守りの魔法を突破することは出来なかった。
少女は、悔しそうに泣きながら膝を着いた。
「今だ捕まえろ!」
警察の一人がそう言った瞬間、遠くから悲鳴と爆発音が聞こえてきた。
「きゃぁぁぁ!!」
「逃げろぉぉ!」
そして次の瞬間、警察が皆魂を抜かれたように倒れる。
少女には何が起きたか分からなかった。
「何があったのかな……」
「あぁ……ぁ……」
少女の目の前に現れたのは、今魔王以上に世界中を恐怖させているベゼだった。
先程逃げて行った子供達や大人の首を持って、血塗れになっている。
少女は目の前の存在に震えた。
「僕はベゼ……君がそこに倒れている三人を殺ったのを……見ていたよ」
「あっ……」
「君の名前は?」
ベゼは少女の顔を撫でるように触った。
そして、指で優しく涙を拭う。
「アナベル……」
「酷い名前だね。それで、何があったか教えてくれる?何であの三人を刺したの?」
「あっ……あの男の子は私と付き合っていたの。けど、あそこの女と付き合いたいからって、私を捨てた」
少女――アナベルは、不思議と言葉が詰まらなかった。
目の前の存在に恐怖していたはずが、妙な安心感を覚えてしまっていた。
「つまり、彼女への嫉妬かい?」
「いや……私は男の子を愛してなかった。ただ愛を知りたかった……好きって言われたから付き合ったのに、身勝手な彼に怒りが沸いた。好きなだけ私を愛して、飽きたら捨てる。私はその愛を知りたかっただけなの……」
アナベルは、ベゼに話を聞いてもらっているだけで、不思議と心が和んでいた。
周りでは人々が大勢死んでいるのに、不思議とベゼに魅了されていた。
「つまり彼への嫉妬だね。けど、それだけではないでしょ?」
「それだけではない?」
「辛かったのだろ?両親には虐待され続け、いつも自分でも分からない殺意に苛まれ、愛することを知らない。君の気持ちは痛い程分かるよ」
ベゼの知るはずのない真実だ。
しかし、ベゼが言ったことは、アナベル自身のことで、全て事実だった。
「何で知ってるの?」
「何でだろうね」
「貴方も、痛い思いをしたの?」
「したよ……けど今は幸せ。君にもこの幸せを分けてあげたいな」
「無理よ……私は幸せにはなれない」
「なれるさ」
ベゼがそう言うと、上空からゆっくりと白鳥のような美しい人型の魔物――オルニスが現れた。
オルニスは、二人の人間を生きたまま抱えている。
「え?」
その人間二人は、アナベルの実の両親だ。
アナベルが顔を上げた時には、街中は火の海になっており、人々の悲鳴が聞こえなくなっていた。
「この二人は君を苦しめてきた両親だ……生かすも殺すも君次第」
「アナベル!助けて!」
「この魔物を倒してくれ!」
アナベルの両親は、アナベルに助けを求めた。
しかし、この両親はいつもアナベルを虐待している親に値しない者。
決して、アナベルが助けたいと思うような人ではない。
「私が二人を殺しても、私を殺さない?」
「殺さないよ」
ベゼがそう言った瞬間、アナベルは迷うことなく両親の頭にナイフを突き刺した。
何回も何回も、憎しみと怒りに満ちた表情で刺した。
「あああぁぁぁ!!やめろぉぉアナベルゥ!!」
「ざっけんな!!都合の良い時だけ頼りやがって!!今日だって卒業式に来なかったくせにぃ!!お前ら死んで当然だ!」
頭や胸や腹を、容赦なくナイフで切り裂く。
両親が死んでも、憎しみと怒りを払う為だけに何度も刺した。
「どう、少しスッキリした?」
「しました……やっと殺せて、ほんの少しだけ気が楽になりました」
アナベルの震えはなくなっていた。
代わりにあったのは、情熱に満ちた表情だった。
そんなアナベルのその表情を見て、ベゼがニヤリと笑う。
「二つ選べ。犯罪者としてこの街に残るか、僕に忠誠を誓うか」
「貴方に忠誠を誓います。街に残っても、いずれ捕まってしまうので」
「賢い判断だ……では、君に名前を与えよう。新しい君に生まれ変わるんだ」
「名前を……下さるのですか?この両親が付けた名前を捨てれるのですか?」
「そうさ」
アナベルの死んでいた瞳は、徐々に輝き始めていた。
ベゼという存在に、知らず知らずの内に魅了され、感謝をしていた。
「今から君は、アリア。姓は……僕と同じ、ベゼ.ラズル。そう、君はアリア.ベゼ.ラズル……分かったかい?」
「アリア.ベゼ.ラズル……とても気に入りました。それに、貴方様と同じ姓を貰えるなんて……」
アナベル――アリアは嬉しそうに笑う。
アリアを撫で、ニコッと笑うベゼは、自分の正体をアリアに見せた。
「え?顔が……」
「こっちが本当の顔、マレフィクス.ベゼ.ラズル。つまるところ僕は、魔物ではなく人間さ」
ベゼの顔がマレフィクスの顔に変わる。
その変わりように、アリアも驚きを隠せないでいた。
「君は、僕の初めての仲間……君が忠誠を誓った今、僕は君の意見も尊重する。愛を知りたいんだよね?僕が少しずつ君に教えてあげよう。今まで辛かったね……これから幸せになろう。ちょっとずつで良いから、愛と幸せを学んでいこう」
甘い言葉を掛けながら、ベゼ――マレフィクスはアリアを軽く抱き締めた。
お互い血塗れになっているが、そこに拒絶はなく、あるのは愛情に限りなく近い温かみだ。
少なくとも、アリアの方はそう思った。
自分も他人も信じたこともなく、誰も愛したことない少女が最初に愛した者は、人々が悪魔と呼ぶ存在だった。
ドス黒い程の邪悪で、私利私欲の為にしか生きることをしない悪魔だ。
アリアは悪魔に魂を売ったのだ。
その代償は、人間であることを捨てること。
代わりにアリアが得たのは、愛と居場所だろう。
だがきっと、アリアは後悔しない。
だって、アリアにとってその悪魔は、ヒーローなのだから。
「うぅ……あぁぁ~ん!」
「よしよし」
アリアは、ずっと我慢していた苦しみの涙を流した。
そんなアリアをマレフィクスが赤子をあやすように撫でた。
その表情は、優しい笑みであったが、同時に事が上手く進んだような笑みでもあった。
ベゼが世界中に姿を見せてから三年半が経つ。
マレフィクス、ヴェンディ、ホアイダの三人は16歳になり、時期は四月の秋を迎えていた。
三人は三学期を卒業して、四学期を迎えようとしていた。
一段階二段階と、歳を重ねる者が居れば学校を卒業する者も居る。
それは六年制の基礎学校も、同じく六年制の専門学校も同じことだ。
三人の住むエレバンは大国で、大都市メディウムもかなり大きい都市だ。
だが、エレバンの都市はまだまだ多く存在する。
大きな都市も、小さな都市も存在する。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
この小さな都市『ピリア』でも、卒業式が行われ、多くの者が嬉し涙と共に卒業していた。
「きゃぁぁぁ!!」
だが、この基礎学校の卒業式は、一人の少女によって地獄と化した。
何があったか分からないが、一人の少女がいきなり、男の子と女の子を一人ずつナイフで刺し殺した。
周りの者は慌てて、女の子から逃げる。
「アナベル……ちゃん。何やってんの……」
「もう、どうでも良いや。氷魔法、エイス.フモール」
少女は近くに居た友達にナイフを刺し、足元から出した氷で人々の足を凍らせた。
周りの人々は氷で身動きが取れなくなる。
少女は、手に隠し持っていた数十本のナイフを人々に投げた。
だが、そこに現れた警察の魔法により、ナイフは弾かれてしまう。
「囲め!」
警察は少女を囲まみ、地面に張られ氷を火魔法で温めた。
氷が溶けると人々が逃げて行く。
「あぁ!」
「無駄な抵抗はやめて跪け!」
少女がナイフを投げても、警察の使う守りの魔法を突破することは出来なかった。
少女は、悔しそうに泣きながら膝を着いた。
「今だ捕まえろ!」
警察の一人がそう言った瞬間、遠くから悲鳴と爆発音が聞こえてきた。
「きゃぁぁぁ!!」
「逃げろぉぉ!」
そして次の瞬間、警察が皆魂を抜かれたように倒れる。
少女には何が起きたか分からなかった。
「何があったのかな……」
「あぁ……ぁ……」
少女の目の前に現れたのは、今魔王以上に世界中を恐怖させているベゼだった。
先程逃げて行った子供達や大人の首を持って、血塗れになっている。
少女は目の前の存在に震えた。
「僕はベゼ……君がそこに倒れている三人を殺ったのを……見ていたよ」
「あっ……」
「君の名前は?」
ベゼは少女の顔を撫でるように触った。
そして、指で優しく涙を拭う。
「アナベル……」
「酷い名前だね。それで、何があったか教えてくれる?何であの三人を刺したの?」
「あっ……あの男の子は私と付き合っていたの。けど、あそこの女と付き合いたいからって、私を捨てた」
少女――アナベルは、不思議と言葉が詰まらなかった。
目の前の存在に恐怖していたはずが、妙な安心感を覚えてしまっていた。
「つまり、彼女への嫉妬かい?」
「いや……私は男の子を愛してなかった。ただ愛を知りたかった……好きって言われたから付き合ったのに、身勝手な彼に怒りが沸いた。好きなだけ私を愛して、飽きたら捨てる。私はその愛を知りたかっただけなの……」
アナベルは、ベゼに話を聞いてもらっているだけで、不思議と心が和んでいた。
周りでは人々が大勢死んでいるのに、不思議とベゼに魅了されていた。
「つまり彼への嫉妬だね。けど、それだけではないでしょ?」
「それだけではない?」
「辛かったのだろ?両親には虐待され続け、いつも自分でも分からない殺意に苛まれ、愛することを知らない。君の気持ちは痛い程分かるよ」
ベゼの知るはずのない真実だ。
しかし、ベゼが言ったことは、アナベル自身のことで、全て事実だった。
「何で知ってるの?」
「何でだろうね」
「貴方も、痛い思いをしたの?」
「したよ……けど今は幸せ。君にもこの幸せを分けてあげたいな」
「無理よ……私は幸せにはなれない」
「なれるさ」
ベゼがそう言うと、上空からゆっくりと白鳥のような美しい人型の魔物――オルニスが現れた。
オルニスは、二人の人間を生きたまま抱えている。
「え?」
その人間二人は、アナベルの実の両親だ。
アナベルが顔を上げた時には、街中は火の海になっており、人々の悲鳴が聞こえなくなっていた。
「この二人は君を苦しめてきた両親だ……生かすも殺すも君次第」
「アナベル!助けて!」
「この魔物を倒してくれ!」
アナベルの両親は、アナベルに助けを求めた。
しかし、この両親はいつもアナベルを虐待している親に値しない者。
決して、アナベルが助けたいと思うような人ではない。
「私が二人を殺しても、私を殺さない?」
「殺さないよ」
ベゼがそう言った瞬間、アナベルは迷うことなく両親の頭にナイフを突き刺した。
何回も何回も、憎しみと怒りに満ちた表情で刺した。
「あああぁぁぁ!!やめろぉぉアナベルゥ!!」
「ざっけんな!!都合の良い時だけ頼りやがって!!今日だって卒業式に来なかったくせにぃ!!お前ら死んで当然だ!」
頭や胸や腹を、容赦なくナイフで切り裂く。
両親が死んでも、憎しみと怒りを払う為だけに何度も刺した。
「どう、少しスッキリした?」
「しました……やっと殺せて、ほんの少しだけ気が楽になりました」
アナベルの震えはなくなっていた。
代わりにあったのは、情熱に満ちた表情だった。
そんなアナベルのその表情を見て、ベゼがニヤリと笑う。
「二つ選べ。犯罪者としてこの街に残るか、僕に忠誠を誓うか」
「貴方に忠誠を誓います。街に残っても、いずれ捕まってしまうので」
「賢い判断だ……では、君に名前を与えよう。新しい君に生まれ変わるんだ」
「名前を……下さるのですか?この両親が付けた名前を捨てれるのですか?」
「そうさ」
アナベルの死んでいた瞳は、徐々に輝き始めていた。
ベゼという存在に、知らず知らずの内に魅了され、感謝をしていた。
「今から君は、アリア。姓は……僕と同じ、ベゼ.ラズル。そう、君はアリア.ベゼ.ラズル……分かったかい?」
「アリア.ベゼ.ラズル……とても気に入りました。それに、貴方様と同じ姓を貰えるなんて……」
アナベル――アリアは嬉しそうに笑う。
アリアを撫で、ニコッと笑うベゼは、自分の正体をアリアに見せた。
「え?顔が……」
「こっちが本当の顔、マレフィクス.ベゼ.ラズル。つまるところ僕は、魔物ではなく人間さ」
ベゼの顔がマレフィクスの顔に変わる。
その変わりように、アリアも驚きを隠せないでいた。
「君は、僕の初めての仲間……君が忠誠を誓った今、僕は君の意見も尊重する。愛を知りたいんだよね?僕が少しずつ君に教えてあげよう。今まで辛かったね……これから幸せになろう。ちょっとずつで良いから、愛と幸せを学んでいこう」
甘い言葉を掛けながら、ベゼ――マレフィクスはアリアを軽く抱き締めた。
お互い血塗れになっているが、そこに拒絶はなく、あるのは愛情に限りなく近い温かみだ。
少なくとも、アリアの方はそう思った。
自分も他人も信じたこともなく、誰も愛したことない少女が最初に愛した者は、人々が悪魔と呼ぶ存在だった。
ドス黒い程の邪悪で、私利私欲の為にしか生きることをしない悪魔だ。
アリアは悪魔に魂を売ったのだ。
その代償は、人間であることを捨てること。
代わりにアリアが得たのは、愛と居場所だろう。
だがきっと、アリアは後悔しない。
だって、アリアにとってその悪魔は、ヒーローなのだから。
「うぅ……あぁぁ~ん!」
「よしよし」
アリアは、ずっと我慢していた苦しみの涙を流した。
そんなアリアをマレフィクスが赤子をあやすように撫でた。
その表情は、優しい笑みであったが、同時に事が上手く進んだような笑みでもあった。
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