離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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五章『悪の組織編』

第四十五話『アリア.ベゼ.ラズル』後編

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 *(マレフィクス視点)*

 三学期が終わろうとしていた今日、素質のある人材を見つけた。
 アリア.ベゼ.ラズルと名付けた少女は、黒い髪が良く似合うどこにでも居るような普通の女の子だ。
 しかし、それは見た目だけの話。

 ちょっとした嫉妬と怒りで人を殺す決断を下し、それを実行してしまう大胆さ。
 理由と建前さえあれば、躊躇なく両親や友達をも殺せる邪悪さ。
 彼女に悪の素質を感じた。

 アリアはずっと助けを求めていた。
 両親からの虐待を受け、周りへ関心や好意が持てず、いつも理由のない殺意に苛まれていた。

 それはアリアに触れた時、能力番号34の『相手の記憶を見る能力』で確認した。

 そんな辛い時に、共感と肯定をしてくれる人が現れたら誰だって手を取って見たくなる。
 その心理を着き、アリアをものにした。

「君を苦しめたあの街はもうない……」

 能力番号2『行ったことある場所に転移する能力』で、僕とアリアは違う街に訪れていた。
 その街にあるレストランで、昼食を取りながら話をする。

 僕の位置は、ヴェンディに常に把握されているが、僕を追うなと念押ししといてあるから問題はない。
 それに、能力番号33の『遠くの出来事を知る能力』でヴェンディが今何をしているか分かる。
 今ヴェンディは、セイヴァーとして別の所で殺人犯を追っている。
 僕の元には来ないはずだ。

「ベゼ様……なぜ私を助けてくれたのですか?」
「人前では別の呼び名で呼びな」
「あっ、すみません。では何と呼べば良いでしょうか?」
「マレフィクスで良いよ」
「分かりました……マレフィクス様」
「……」

 記憶によると、アリアは勉強も運動も標準的の一見普通の少女。
 しかし僕には、この子には人にないような才能がある気がする。
 目を見れば、その人の隠れた才能が直感で分かるし、僕の感はほぼ当たる。

「僕も君と同じ歳に人を殺し、両親を殺した。共通点を感じて助けたのかもね」

 勿論嘘だ。
 しかし、共通点を上げることで、アリアは僕をより信頼する。

「そうですか……何か少し安心しました」
「実は僕、セイヴァーに正体がバレている。同時に僕はセイヴァーの正体を知っている」
「セイヴァー?ベゼさっ……マレフィクス様の敵ですよね?」

 アリアは、声を抑えてそう言う。

「そう。彼の正体は表面上僕の友達、ヴェンディという者だ。だが人質を取っているから、ベゼとして行動している時以外は攻撃してこない」
「ヴェンディ……そいつ、なぜ殺さないのですか?人質を取っているなら殺すのは容易い」
「わざと生かしている……彼は僕を常に楽しませてくれる存在だから」
「……世界征服に興味がないってのは本当だったのですね。マレフィクス様の目的は、ただ幸せに楽しく生きること……私と同じ」

 既にアリアには、僕が世界征服を目的としてない事を告げてある。
 しかしアリアは、僕の目的が何であろうと、何でも良いらしい。

「セイヴァーには僕の居場所が常にバレている。そこでアリアには、僕の代わりにある仕事をして貰いたい」
「居場所がバレている?仕事?」

 アリアのような、自分より僕の意志を尊重する者を最初の部下にしたのには、その仕事をさせる為だ。
 その仕事内容……それはセイヴァーに見張られている僕には難しいことだ。

「僕の代わりに、僕の手下を集めろ」
「実力のある仲間を集めろと言うことですね?一体何人程探せば?」
「一国を築ける人数……何万何億と言う人数だ」

 さっきまで(貴方の為なら何でもして見せます)と言ったやる気に満ちた目だったアリアも、流石に困惑の表情を見せた。

「本気ですか?」
「本気」

 期待に応えたいが、不安が上回る。
 それがアリアの表情と仕草に出ている。

「神を信仰する『宗教』という教えを知ってるかな?」
「えっ?宗教?勿論知っておりますが……」

 話を180度変えると、アリアの困惑と不安の表情は深くなった。

「宗教ってのは、それを信仰する信者が居て成り立つものだ。そこでだ、なぜあんなチープな教えに信者が大勢居るか分かるかい?」
「……皆、神を信じたいから、ですか?」
「違う。答えは心の拠り所だからだ」
「拠り所?」
「自分を必要としてくれる者が居なく、信じれる者がない人……彼らが救いや心の拠り所を求めた先が、存在するかも分からない『神』だ。神を信じて生きることで、自分に居場所があると思い、その教えや神が心の拠り所になる」

 アリアは、悟ったような表情を浮かべ、再び目を輝かせた。

「アリア、君は僕と言う神が居ることを、そういう者達に伝える宣教師になるのだ」
「分かりました……このアリア、貴方の期待に応えます」

 * * *

 僕とアリアは、街の外れにある人気のない森まで来ていた。
 今のとこ、近くに冒険者や危険な魔物は居ない。

「一日一人、僕が仲間に勧誘する者を指定する。そいつの場所まで転移させるし、危険な時はすぐに行くから安心して」

 能力番号33『遠くの出来事を知る能力』で、仲間にしたい者を探して、アリアを通してそいつを仲間にする。
 この能力があれば、世界のどこに居てもアリアの状況を確認できる。
 アリアが危険だと感じれば、それを察することも出来る。

 そして能力番号2『行ったことある場所に転移する能力』で、アリアの送り迎えが出来る。

「ありがとうございます」

 そう言いつつも、アリアは少し震えていた。
 仕事を熟せるのか、まだ不安なのだろう。

「意外と臆病だね君は……そう緊張しないの」
「すみません」
「仕方ない」

 僕は、大きな布を取り出し、その布を能力番号19『衣類を生物に変える能力』で、ある魔物に変える。
 頭から生えた白い羽根、鳥のような体と足、人の顔を持った魔物――オルニス.ルスキニアだ。
 理性と知性を持ち、言語を話せる魔物だが、問題なく能力で創ることが出来た。

「あっ、さっきの魔物……」
「彼はオルニス。人の血を舐める癖があるが、彼が君と共に行動してくれるよ。アリアもオルニスも、人々にはバレないようにフードを被ったりして対策しなよ」
「すっ、凄い……」
「どうぞよろしく」

 オルニスには、僕の意志を与えてあり、僕の命令に忠実だ。
 オルニスを通して、能力番号36の『遠くの生き物と会話する能力』で、コンタクトが取れるし、アリアを守るボーディーガードにもなる。

「血、舐める?」
「舐めませんよ」

 さっそく仲良くなったようだ。
 舐めないと言つつも、オルニスはアリアの腕に噛み付き、嬉しそうに血を吸い、出てきた血を舐める。

「可愛い……」
「確かに、仲間になると可愛いもんだね」

 オルニスに勝てる人間はそうそう居ない。
 オルニスを創れるようになったのは、正直大きな収穫だった。
 僕自身は、村一つを破壊する威力を持つ力はないが、オルニスにはその力がある。
 オルニスが本気を出せば、小さな街一つをも破壊できる。
 衣類さえあれば、オルニスの大軍を創って今すぐ世界征服をすることも可能だ。

「ベゼ様、改めて言わせて下さい」
「……何?」
「私、貴方に救われました。ありがとうございます」

 オルニスに腕と血を舐められながら、アリアがニコッと可愛らしい笑顔を見せる。
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