離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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五章『悪の組織編』

第四十六話『四学期』

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 四学期になって三ヶ月が経ち、六月の誕生日が過ぎた僕は16歳になっていた。
 声変わりをして、より深く、より美しい声になった。
 前より低くなったのは勿論だが、少し貫禄のある声だと思う。

 それに、身長が伸びて筋肉も付いた。
 ちなみに、身長168cm、体重50kg。
 相変わらず、中性的で幼い顔立ちだが、美しさとかっこよさは増していくばかりだ。

 無論、声や身長が変わったのは僕だけでは無い。
 ヴェンディとホアイダも成長している。

 ヴェンディは僕よりほんの少し身長が高く、僕よりガタイが良い。
 身長174cm、体重60kg。
 美少年だった顔付きは、見爽やな美青年のものとなった。

 ホアイダは、僕とヴェンディに比べてチビだ。
 身長155cmの体重40kg、女疑惑が高まる一方だ。
 体付きは男性には見えず、明らかに女性よりだ。
 小顔で、まつ毛が長く、綺麗な唇だが、胸やお尻は一般の女性程ではないものの、膨らんでるように見える。
 相変わらず性別不明だが、ヴェンディはホアイダを女の子扱いしている。
 声も顔も体も中性的だが、学校の皆は薄々ホアイダが女の子だと気付き始めている。

「このバカ共、夏休み前のテストで良い点取れなきゃ今年も危ういぞ」

 三学期では、ホアイダが一クラス上がり、僕とヴェンディとホアイダの三人が、同じ特級クラスになれた。
 しかしこのバカ共、所詮自分を制御出来ないガキだった。
 四学期になって学力を維持出来なくなったのか、ヴェンディは上級クラス、ホアイダは中級クラスまで下がった。
 僕だけが特級クラスに置いてかれる形となってしまった。

「お前が俺をサボらせるからだろ!お前のせいで授業のサボり癖がついた!」
「私はポム吉のせいですね。ポム吉のバカが伝染りました」

 おかげで、夏休み前のテストまで毎日、放課後図書室でお勉強だ。
 僕、ヴェンディ、ホアイダ、ポム吉の、三人と一ポムで教科書や問題集を広げ、頭を悩ませるのが最近の日課だ。
 あくまでも勉強するのはヴェンディとホアイダの二人、僕は勉強を教えるだけ。
 ポム吉に関してはマジで邪魔でしかない……ホアイダの隣で馬鹿面してるだけのぬいぐるみだ。

「人やクマのせいにするな~!黙って脳みそ働かせろ!」
「ちっ」
「んっ」

 二人の頭に手を強く置くと、二人共黙って鉛筆を持ち、勉強に取り組んだ。

「分からない。ポムちゃん分かる?」
「ん~、僕も分かんないよ」

 人前だろうとお構えなしにポム吉が出てくる。
 しかし、ホアイダが分からないことをポム吉が分かる訳ない。
 世界一バカな自問自答と言っても過言ではない。

「バカに聞くなバカ。僕に聞けよ」
「そんなぁ」
「これです、分かりますか?」

 ホアイダが頭を悩ませていたのは『母語』だった。
 母語は、この世界の国語だと捉えてくればいい。

「母語が一番簡単だろ」
「これ、言葉を使えって命令されたのですが……まず読めません」
「どれどれ……」

 ホアイダが見せてきた問題は、(『離愁』という言葉を使って一文を作れ)という内容だった。

「これは離愁りしゅうと読むの」
「なるほど……りしゅう」
「あ!その問題俺も分かんなかった!離愁りしゅうってのは読めたんだけど、意味が分からなくて」

 社会の問題を解いていたヴェンディが、食い気味に話に入ってきた。

「離愁ってのは、別れの時の悲しみのこと。離愁の思いとか、深い離愁とか、そういう使い方をするの」
「お前勉強してないのに良く分かるな」
「勉強はしてるさ。勉強ってのは分からないことを分かるようにすることだよ?時間掛けて惨めに必死こいて机の前に座ることじゃないの」

 僕の勉強は、教科書に目を通して終わりだ。
 それで瞬間的に全て記憶でき、永遠に覚えていられるのだから、パソコン顔負けだ。
 普通の人間共の苦労なんて分からないし、知りたくもないね。

「離愁……私達には、離愁の時が来て欲しくないですね」

 ホアイダが、下を向いて寂しそうに言った。

「そうだね」

 僕はすぐにそう答えたが、ヴェンディは何とも言えない虚しい表情をして黙っていた。

 恐らく、僕がベゼだと分かっているから、複雑な気持ちなのだろう。
 ホアイダの前ではこのまま友達ごっこをしていたいが、セイヴァーとしてはベゼを倒さなければならない。
 離愁の時が来るのは、ヴェンディにとって明白なのだ。

 だが、少なくとも離愁の時は二人にしか来ない。
 二人にとっての離愁は、僕にとっての喜びだからね。

 * * *

 マレフィクスとしての学校生活は順調だ。
 そしてベゼとしての活動も順調だ。

 三ヶ月前から育てているアリア。
 彼女が、一日一人仲間を増やしてくれてるので、僕の悪の組織作ろう制作は順風満帆だ。

 毎日アリアの元を訪れているが、これが結構大変だ。

 今後必要になりそうな知識を教えたり、魔法や能力の使い方を教えたり、格闘技や暗殺術を教えたりと、僕の右腕に相応しい部下になる教育をしている。

 他にも、その日の仕事報告だったり、今後一週間分の仕事を確認したり。

 仕事以外のアリアは、オルニスと共に魔物を狩ったり、パソコンで才能ある人材を探したり、ゲーセンや買い物に行ったり、自分で考えて行動してるらしい。

「今日はどうだった?」
「マレフィクス様が指定した者、他の者同様勧誘に乗りました。けどちょっと彼は……」

 毎日のように、アイスクリームを食べながら今日の仕事のことを確認する。
 だが、今日のアリアは少し困った表情をしている。

「何?言ってみなさい」
「彼が触れた物を消すって能力なのはご存知ですよね?」
「僕が調べたからね」
「マレフィクス様の言う通り、彼はその能力故、生きるのに困っていました。そして、私が貴方様のことを教えて勧誘した結果、彼は了承してくれました」
「何が問題なの?」
「彼は、彼自身が貴方様に恐れられることを恐れています」
「想像ついた……自分の世界しか知らないって感じだね、そいつ。直接会ってその不安を取り除いてやろうか」
「いつ会いに?」
「今から」

 僕はいつも、能力番号33の『遠くの出来事を知る能力』とパソコンを使って、どこのどいつを仲間にしようか決めている。

 見た目、性格、過去、現在の心情、隠された能力、何が出来るか、そういうのを見極めて人を選んでいる。

 今日勧誘した奴は、自身の能力に苦しめられ、生きるのに困っていた男だ。
 そいつはその能力故、僕に恐れられることを恐れてる。
 その不安は、僕の部下としての成長を妨げることになる。
 直接会いに行く必要があると見た。

 * * *

 目的地についた僕とアリアは、指定したカフェで優雅に待っていた。
 能力番号36の『遠くの生き物と会話する能力』で、このカフェを指定したので、もう少しで来るだろう。

「来ましたよ」

 カフェに入ってきた男は、モーニングコートを身に付けた顔と姿勢の良い20代後半の大人っぽい男だった。
 執事ぽいってのが第一印象で、右目は輝くダイヤのような白色、左目は光ある赤色のオッドアイ、そして黒髪短髪。

「僕マレフィクス」
「初めましてマレフィクス、ヴァルター.ナティージャです。アリアは今日振りですね」

 高身長の大人っぽい男――ヴァルターは、余裕のある雰囲気だった。
 そこには、自分の能力に苦しめられた面影なんてない。

「様は?私はともかく、マレフィクス様には付けて。分かった?」
「好きにお呼び」
「これはこれは、失礼しました……マレフィクス様」

 ヴァルターの表情は、常に泣きそうな薄い笑顔だった。
 そんな表情のまま、僕の目の前の席に着く。
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