離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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五章『悪の組織編』

第五十三話『勝利の後の敗北』

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 ルル―ディーを倒した後、タイミング良く冒険者が来た。
 おかげで、わざわざ能力を使って移動しなくても、冒険者の転送機を使って戻ることが出来た。
 転送先が別のギルドだったから、ギルド本部を通じて大都市メディウムのギルドに帰った。

 魔王軍幹部アンソス.ルル―ディーの死体と、殺された冒険者の遺品を証拠に、僕ら三人が称えられたのはその後の話だ。
 ギルドに戻って最初にしたことは、ヴェンディとホアイダを病院に運んだことだった。
 二人とも命に別状は無かったが、長期入院は避けられないとのことだ。
 正直生きているのなら何でもいい……玩具が壊れなくて良かったといったとこだ。

「魔王軍幹部を倒したって本当か?流石に嘘だろ?」

 帰ったその日のこと。
 ギルドの中で一番静かな料理店でステーキを食べてる時、おっさん冒険者が噂を聞いて僕の元に訪れて来た。

「本当だよ。その魔物の死体が回収されたから、明日にも新聞に載ると思うよ」
「すげえなマレフィクス!お前歴史に残るレベルだぜ?二度も魔王軍幹部を倒した奴なんて英雄アーサー以来だよ!」
「今日は飲め!わしらがおごってやる!」

 おっさん冒険者三人は勝手に席に着き、次々と料理と酒を注文した。
 そして、当然のように未成年の僕と飲み会を始める。

「また勝手に……。それはそうとさ、英雄アーサーってあのアーサー.ヒカイト.ディレン?」
「おうよ!奴はかつて仲間達と共に魔王の幹部を六匹仕留め、ボスである魔王ウルティマを奇跡の島に封印した。当時は今以上に魔王軍の力が強くて、人類滅亡寸前だったが英雄アーサーのおかげで世界は救われたのだ!」

 おっさんの一人が、自分のことのように自慢げに言った。

「バカ!アーサーは大量虐殺をした大悪党だ!功績はでかいが褒めていい奴じゃねえ!」

 しかし、もう一人のおっさんがその自慢話を否定した。
 アーサー反対派の様だ。

「あんだと!犠牲はつきものだ!アーサーを悪だっていう奴の気が知れねえ!」
「てめえ!それカタラ人の墓の前でも同じこと言えんのか!」

 静かだった料理店は、数分もせず酔っぱらいの闘技場になった。
 僕は一番年上のおっさん冒険者と一緒に、酔っぱらい二人の殴り合いを眺める。
 ステーキを味わうようにかじりながら、酒を口から零れるくらい勢いよく飲む。

「うんまい!惨めなケンカ見ながら食べるステーキとお酒は最高だね」
「坊主の言う通りだな。しかしお前は本当に凄い。性格こそ酷いが、お前は多くの才能に恵まれている。きっと才能を持つのに相応しい人間だからこそ、天がお前に味方してくれてるのだな」
「まだまだ凄いことするから楽しみにしてよ」

 この一番貫禄のあるおっさんは、人を見る目がある。
 長年冒険者をしているからか、そういう能力に長けている。
 よく酒に酔いながら、このおっさんの話を聞かされるが、聞いてて苦になるような内容はほとんどない。
 それは、この世界の情報だったり、共感できる内容だったりするからだろう。
 僕の仲間にもこのおっさんに似たような連中が何人も居るが、そういう奴の話を聞くのは結構楽しい。
 単純に、僕の実年齢が80歳以上だから、おっさんと気が合うのかもしれない。

「俺が生きてる間に見せてくれよ」
「そんなに長生きしたいなら飲みすぎるのを止めな。健康第一よ」
「健康の為に飲むんだ」

 だが、こういうおっさんは頑固な奴が多い。
 照れないツンデレみたいな連中だ。

 * * *

 その日、家に帰るとセスターが倒れていた。

「お爺ちゃん!セスターの爺ちゃん!おい!」

 セスターと暮らし始めて四年以上、僕はセスターをお爺ちゃんと呼ぶようになっていた。
 体を揺さぶるが、セスターの反応はない。

「うぅ……」

 息はある。
 こういう時、普通救急車を呼ぶのだろうが、僕の行動は違った。
 セスターは前々から一人で生活できない程体が弱っていた。
 面倒を見るのが大変だと思っていた頃だし、こいつはもう必要ない。
 そう思ったのだ。

「殺すか」

 何の躊躇もなく決断した。
 死体は部下であるヴァルターの能力で消すことができる。
 証拠は残らなし、行方不明になったとこで問題はない。
 警察には、『僕に迷惑が掛かるのが嫌で一人で死ぬことを選んだのかも』……そう話せば納得してくれるだろう。

 動物の猫は死期が近くなると、飼い主の前から姿を消すと言う。
 それは迷惑を掛けたくないから……セスターも猫と同じと思わせればいい。

「お爺ちゃん」
「マレフィクス……」

 セスターは辛うじて僕に気付く。
 病気なのか、単純に具合が悪いのか分からないが、今にも死んでしまいそうだ。

 どうやって殺してくれよう。
 今までの思い出がたくさんあるし、思い出の詰まったこの家は殺すのに最適の場所だ。
 取り敢えず、この爺の気持ちを上げてから、地獄に叩きつけてやろう。

「どこが悪いの?」
「マレフィクス……うぅ……」
「もう大丈夫だよ。ほら、僕が居るから」

 そう言ってセスターを優しく抱き寄せる。
 セスターからしたら、かわいいかわいい孫のような存在から抱きしめられて幸せだ。
 だからこそ、ここから絶望を見せるのが楽しい。
 そう思い、爪を尖らせてセスターの背中に手を伸ばす。

「え?」

 セスターを残酷に殺そうとしたその時、僕の殺す気持ちが失せてしまった。
 その理由として、能力番号13『周りの死を感じる能力』でセスターの死を感じ取ったからだ。
 僕が殺そうとした直前、こいつは勝ち逃げをするように寿命で死んでいったのだ。

「こいつ……」

 その時のセスターは、清らかで穏やかな優しい表情をしていた。
 今まで見たことのない死に顔だ。
 まるで天国に居るかのような幸せ絶頂の表情だ。

「くそっお!」

 屈辱だった。
 結果的にセスターを喜ばせて終わっただけになったのだ。
 今ここにあるのは、セスターの形をしたただの死体。
 これで遊んだところで、セスターが泣きわめく訳でも、絶望する訳でもない。
 異世界に来てここまで敗北感を味わったのは初めてだ。
 どうにもならない悔しさが僕を襲う。

「僕が一番苦手な人間の武器……それはこの誠実さだ。誠実さは僕が最も苦手な武器だ」

 結局、セスターは死んだあとも丁寧に葬式が行われ、何の損もなく人生の幕を閉じた。
 良く考えてみれば、このセスターとは実年齢が同い年……僕に精神的に初めて勝ったのが、こんな爺だとは予想もしなかった。

 * * * * *

 暗闇に何匹もの魔物が潜んでいる。
 その奥には、顔がはっきり見えない魔王が堂々と椅子に座っている。

「ルル―ディーが倒されました。倒したのは、オルニスを倒したマレフィクスです」

 魔物の一匹が、魔王の前で頭を下げて報告する。
 すると周りがざわめきだした。

「またマレフィクス?」
「幹部連中が近年に二人も倒されるとは……」
「大丈夫なのかよ」

 魔物のほとんどが、マレフィクスの存在を知っていた。
 それは、三年前に幹部オルニスを倒したのもマレフィクスだからだ。

「静まれ」

 魔王の一言で魔物同士のひそひそ話が無くなる。

「マレフィクスを見つけた場合逃げろ。そして一刻も早くべゼを見つけ出すのだ」
「しかし魔王様、べゼは神出鬼没。現れたかと思えば嵐のように立ち去ってしまいます。きっと転移の魔法、あるいは魔道具を自由に使用しているかと……」
「見つけ出すのが難しいことは承知している。その上で言っているのだ……できない理由は要らない。必要なのは行動と結果だけだ」
「分かりました……我々魔王様の手足として全力でべゼを探し出します」

 勘違いの上に勘違いを重ねている魔物達は、一つの目的の為に動き出す。
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