離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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八章『救世主編』

第八十六話『絶望』

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 仲間が二人死に、残された者はベゼを前にして体が硬直していた。
 そんな中、最初に立ち向かったのはヴォルフだった。
 ベゼの攻撃を避けながら、手にしている槍を振り回す。

 その背後で、フロールがベゼの背後に結界の壁を作り、ベゼの邪魔をする。
 おかげで、ベゼは何度も攻撃をくらい、動きが鈍くなる。

「行けるぞ!」
「おぁぁ!」

 しかし、ベゼは槍を交わし、ヴォルフの懐に潜り込む。

「なっ!」
「無意味だ。君の行動は何も生まないよ」

 ヴォルフはベゼに首を掴まれ、羽根で体を突き刺されそうになる。
 しかし、ベゼの体は転移したかのように、ヴォルフから少し離れた場所に移動する。
 代わりに、ヴォルフの目の前には枕が現れる。

「これは!?イワンの能力!」

 ホアイダに胸を治療されたイワンが、息を乱して能力を使用した。

「意識が吹き飛ぶまで援護する!」
「私もです」

 イワンはベットの後ろに隠れ、能力で援護出来るようにベゼとその周りに目を向ける。
 ホアイダも右腕だけを治してヴォルフの元へ行く。

 その瞬間、フロールの影から現れた死神がフロールの首を切り落とした。
 突然のことに、一同は固まってしまう。

「嘘だろ……」
「影だ!影に気を付けろ!」

 フロールが死んだことで、部屋に張られていた結界が消えてなくなった。

「影を操り、彼の影と僕の影を繋げといた……残りの三人も残酷に殺してやろう」

 ベゼがゆっくりと歩み寄って来る。
 残された三人は、震えながらも勇気を振り絞る。

 ヴォルフとホアイダは走り、ベゼを挟むように立ち回る。
 ヴォルフは槍を、ホアイダは銃を使ってベゼに攻撃する。
 だが、ベゼはすました顔で攻撃を避ける。

「なっ!」

 イワンがベゼとホアイダの位置を入れ替えたことで、ベゼの体勢が崩れた。
 その隙をついたヴォルフが、ベゼに槍を突き刺す。

「なんてね」
「こいつ!!やりやがったな!」

 ヴォルフが突き刺したのは、ベゼが鏡から取り出したイワンだった。
 腹に槍が刺さり、イワンは血を吐いてその場に倒れた。

「がはぁ!」

 イワンが倒れたと同時に、ベゼの羽根によってヴォルフの腕が吹き飛ばされる。
 同時に、ホアイダが紙になって壁の中から飛び出し、ベゼの不意をつこうとする。
 だが、ベゼに腹を蹴られ、両足を折られる。

「ああぁ!」
「うぁぁ!」

 ベゼによって勇者達が鎮圧され、絶望的な状況に立たされる。

「あぁぁ!風魔法!ウィンド.フリー!」

 ヴォルフは悪あがきをするように、風の刃を飛ばす。
 しかし、余裕で交わされ、ベゼが指から放った銃弾によって体を何度も撃ち抜かれる。
 ヴォルフは大量に血を流し、目から光を失って死んで行く。

「あぁ!ああああぁぁぁ!!」

 ホアイダは目の前の光景に絶望し、詰まったような声を上げた。

「結構強い方だったな。まぁ、本気出せば一分もせず蹴散らせたけど」
「何故ですか!何故貴方はこうも簡単に人を殺せるのです!何が貴方をそうさせているのですか!」

 ホアイダは涙を流して怒りの言葉を放った。
 ベゼはそんなホアイダを見下ろし、不思議そうに首を傾げた。

「ヴェンディはなんて言ってた?」
「……は?」
「ヴェンディも簡単に人を殺してたろ?何百何千にも……。ヴェンディには信念があったから、簡単に人を殺せてたんだ。僕も彼と同じ、自分らしく生きて幸せになろうと言う信念がある……だからかな」
「ふざけるな……ヴェンディは貴方と違います!」
「同じさ」

 ホアイダはこれまで以上の怒りが湧いた。
 自分の大切な人間を侮辱されたホアイダは、手を震わせ、許せないという気持ちに襲われる。

「返して!殺した皆を!ヴェンディを返して下さい!」
「良いよ」

 ヴォルフとフロールとアムレートの死体が、ゆっくりと立ち上がり、ホアイダの元へと向かう。

「返したよ」
「ふざけないで……」
「あっ、ヴェンディね?」

 三人の死体が崩れるように倒れる。
 同時に、部屋の扉から見覚えのある男が現れる。
 見覚えのある男――ヴェンディは死体のままだったが、体は綺麗にされており、ゆっくりと瞼を開いた。
 目には光がなく、死んでいるような生きているような不思議な雰囲気だった。

「ヴェンディを返すよ。僕は優しいからね」
「嘘……ヴェンディの葬式は行われたのに……」
「燃やされる前に別の遺体と変えてきたの。ヴェンディは君の恋人だから、返すね」

 ヴェンディは少し駆け足になり、ホアイダの元まで来た。
 力が入ってない手を広げ、ホアイダとのハグを求めている。
 ホアイダはそれを受け入れてしまい、血に染った右手を伸ばす。
 しかし、ヴェンディはホアイダに抱き着く訳でもなく、ホアイダの頬を思いっきり殴った。

「かはぁ!」
「あれ?どうしたのヴェンディ?君の彼女でしょ?ん?うんうん……え?ホアイダが助けてくれなかったから死んだって?だからホアイダが嫌いって?あら~、お互い可哀想」

 ホアイダを殴ったヴェンディは、ベゼの元に駆け寄り、ベゼの耳に口を近付る。
 そして、ベゼはヴェンディの死体を使った一人劇場をホアイダに見せ付ける。
 ヴェンディが死体で、ベゼに操られていると分かっていても、ホアイダは苦しくなった。
 死んでまでヴェンディを弄ぶベゼを、ほんの少しも許せなかった。

「ふざけないでベゼ!ヴェンディは私を嫌ったりしないです!」
「そう?まぁ、どっちでも良いけどさ」

 ベゼは惚けた顔でそう言った。
 それと同時に、ヴェンディがベゼに抱き着いた。
 ベゼはヴェンディに抱き着かれたまま、ホアイダの方を見てニヤリと笑う。

「ヴェンディ、甘えちゃダメじゃないか……ホアイダが見てるよ」
「離れて下さい……」

 ホアイダはベゼを睨み付けた。

「彼は死体だよ?それでも男の僕に嫉妬しちゃった?まあ確かに、ベゼの姿は女ぽいけどさ」
「ベゼ!!」

 ホアイダは銃を取り出し、ベゼに向けて弾丸を放つ。
 しかし、ベゼはヴェンディを盾にして弾丸を防いだ。

「生かして返してあげる。大サービスでそのイワンとか言う男も連れ帰って良い」
「何ですって?」

 ホアイダは耳を疑った。

「その代わり僕と君で世界をかけて戦おう。一週間後の六月十三日、場所はかつて英雄アーサーと大魔王ウルティマが戦った奇跡の島だ」
「何でそんなことを?」
「楽しいから……もし君が勝ったら僕が死んでこの世界は救われる。けどもし、僕が君に負けを認めさせたら、君がセイヴァーとなってもらう」

 ベゼはセイヴァーのハーフマスクを手に持って見せた。
 それを見せつけ、ニコッと笑う。

「私を殺さないのです……か?」
「うん。新しいセイヴァーが欲しいと思ってたんだよ。奇跡の島には一人で来てね?まぁ、複数人来た所で命がドブに捨てられるだけだけど」

 ホアイダは考え込むように下を向いた。
 ベゼとホアイダの間には、数秒の沈黙が走る。

「はぁ、どうするの――」

 ベゼは溜息をつき、呆れたかのように横を見る。
 その一瞬を見逃さなかったホアイダは、弾丸をベゼの頭目掛けて放つ。

「無駄が好きなのか?」

 しかし、弾丸は豆を摘むかのようにベゼの指で摘まれた。
 そして、一歩二歩歩き、ホアイダの顔を蹴った。

「かっ!」
「命は大切にしようね」
「はぁ……はぁ……」
「じゃあ、一週間待っているから」

 ベゼは生き残ったホアイダと微かに生きているイワンを部屋に置いて、ヴェンディと共にその場を立ち去った。
 ベゼにとって二人は、敵ですらない……ただの玩具に過ぎなかった。

「ああああああぁぁぁ!」

 ホアイダはその場に蹲り、悔しさと苦しみに溢れた声を上げた。
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