離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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八章『救世主編』

第八十七話『決戦前の一週間』

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 *(ホアイダ視点)*

 ベゼに完全敗北した私は、ヴェンディから受け継いだ転移魔法で、イワンと三人の死体を連れてじんの土地に戻っていた。

 ベゼに仲間を殺され、死体を操られ、ヴェンディの死体まで弄ばれ、身体的にも精神的にもダメージを負った。
 あともう少しでベゼに勝てたのに、私がそれを失敗させてしまった。
 悲しみと悔しさと罪悪感で、押しつぶされてしまいそうだ。

「イワンさん、大丈夫ですか?」

 手当し終えたイワンを起こし、声を掛ける。
 しかし、反応がなく、呼吸音もない。

「イワン?」

 私が再び声を掛けたその時、イワンの頭が小さく爆破した。
 イワンは頭から血が出て死んでしまう。
 最終的に仲間を全員殺された私は、どうしようもない気持ちに苛まれた。

「生かして返すって言った癖に……嘘つきめ……」

 一週間後、奇跡の島でベゼとの戦いがあると言うのに、私の心はズタボロで、戦う前に敗北を認めていた。
 自分の弱さと、残酷な真実の数々に心を痛める。

 父の居る街に戻った時には朝になっていた。
 私はポム吉を抱き締めてホテルで一眠りした。

 その日の昼からは、死んだ仲間の家族に死体を渡しに行った。
 仲間の遺族に見せる顔がなかったが、それでも責任を持って顔を見せて話をした。
 涙を流す者は勿論、怒りのあまり私に手を上げる者も何人も居た。

 街の人々は、皆いつも通り何事もないように笑顔で過ごしていた。
 今日も、ベゼによって世界のどこかで多くの人々が苦しんでるとも知らずに。
 私から見たその光景は、残酷で痛ましい光景だった。

「最低な気分……」

 虚ろな目と乾ききった心で、途方に暮れながら街を歩いた。
 何も考えれなかった……全て奪われた。
 ヴェンディも、共に戦ってくれる仲間も、生きる希望も、勝利も奪われた。

「ホアイダじゃねぇか!久しぶりだな!」

 そんな私の前に、若い男四人が現れる。
 私より一回りも大きく、見覚えのあるような顔をしている。
 彼らは初級クラスの時、学校で私を虐めていた男達だった。
 だが、心を失っていた私は、男達を素通りしてその場を去ろうと一歩進む。

「待てよ。マレフィクスの正体はベゼだったな?やっぱあいつは人間じゃなかったんだよ。それと……仲良くしたヴェンディも死んだよな?」

 男達は私を引き止めて、マレフィクスとヴェンディをバカにするような口調で言った。

「だから何です……」
「お前、二人に守られててずるかったよな~」

 男四人は、私を人気のない通路のような場所まで連れ込み、私の両手両足を掴んだ。
 体格が違く、力も強い彼らに、少しも抵抗出来なかった。

「魔法に気を付けろ。しっかり手の平を伏せて掴んどけよ」

 腕を痛いほど掴まれ、腹を一発殴られた。

「うぅっ」
「やっぱお前女だったんだな?随分可愛い女になったじゃねぇの?相手してやるよ」

 男達は、私の服を乱雑に引っ張り、ズボンを脱がそうとする。
 私はその時初めて自分の危機を感じた。

「止めて……離して下さい……」
「うっせえな!」

 だが、男達は私の頬を平手で叩き、躊躇なく上着を脱がせる。

「やめて下さい……本当に、やめて……」

 辛さと苦しさの限界がきたその時、私の目の前に大きな鷹が現れ、男達を羽根やクチバシで攻撃した。

「何だこいつ!?」
「バカ!やめろ!」
「逃げろー!」

 鷹は男達を追い払うと、弱々しい私に寄り添うように肩に止まった。
 その時初めて分かった……鷹は、ヴェンディの鷹――ボブだと。

「ヴェン、ディ……あぁぁん!!」

 捩れた服を上に引っ張り、泣いてボブに抱き着いた。
 ボブが私を助けてくれて、ヴェンディを思い出してしまった。
 死んでも尚、ヴェンディは私を守ってくれた。
 少なくとも私は、そんな風に感じた。

「会いたいよぉ……ヴェンディ……私も、そっちに行きたいです」

 ヴェンディのペットだったボブに、情けない表情で弱音を吐いた。

「あああぁぁん!!ヴェンディ!」

 雨が降り始めた街を泣きながら走った。
 だが、足がもつれて転けてしまう。
 膝を擦り、孤独に苛まれる。

「私に……勇気を下さい……」

 その日、泣き喚いて再び眠りに着いた。
 早く寝たというのに、目を覚ましたのは朝の二時だった。
 まだ外は暗く、体が重い。
 体を起こし、腫れた目を擦る。

 数分ボッーとした後、何か思い出したように紙とペンを取り出し、紙にかぶりつく勢で、ペンを走らせた。
 紙にベゼの新しい能力を纏め、奇跡の島での戦いを想定しながら作戦を練る。

「やらなきゃ……私がやらなくては、誰も報われない……」

 この二日間で、私は戦う覚悟が決まった。
 絶望して、泣いて、助けられて、泣いて、また泣いて、そうして心を取り戻すことが出来た。
 ヴェンディのことを考えると、尚更勇気が湧いてくる。
 彼の死が、私を強くしている。

 * * *

 六月十二日の夜、父が居る病院に訪れていた。
 病気の父に別れを告に来たのだ。

「私は明日死んでしまうかもしれません。なのでお別れに来ました」
「……」

 父は鼻と口に呼吸器が付いてあり、いつも通り虚ろな目をしている。

「私は友達が二人居ました。ですが、一人の友達にもう一人の友達を殺され……もう色々最低な気持ちです……。これから、その友達を倒しに行くのです。それでは、お元気で」

 私がそう言って立ち上がろとした瞬間、父はベットの下に手を伸ばし、隠していたワインを手にした。
 そして、呼吸器を取り外し、口を開いた。

「立派になったなホアイダ……このワインはお前が大人になったら母さんと三人で飲もうと思っていたワインだ」

 呼吸器がない以前から、今までほとんど口を開かなかった父が、流暢に話した。

「お父様、口を開けたのですか?そっ、それよりも呼吸器を外しても大丈夫な――」
「今までのこと、全部話してくれないか?」

 父は二つのグラスにワインを注ぎ、グラスを持って乾杯を持っている。
 私は全てを悟り、父とグラス同士を軽くぶつけた。

「そうですね……四学期の話しからします。とっておきの面白い話があるんですよ。マレフィクスとヴェンディの病院での話です」

 朝日が登るまで父と話をした。
 今まで話していなかった青春を、得意げに全部話した。
 父は眠くなっても、呼吸が苦しくなっても、嫌な顔を一つせずに微笑みを見せたまま聞いてくれた。
 結局、私が病院を去ったのは六月十三日の朝4時だっだ。

「それでポム吉がマレフィクスに蹴られたんです!けど肝心なボールはゴールに入ってて――」

 私が全てを話終える時には、父は安らかに息を引き取っていた。
 おかけで、父の優しい笑顔を見て、安心して病院を去り、奇跡の島に向うことが出来た。

 * * *

「良くぞ来たね、ホアイダ」

 奇跡の島には、既にベゼが居た。
 岩にヴェンディの死体を座らせ、戦いが待ちきれないという表情だ。

「全てを返してもらいに来ました……。私が知るマレフィクスも返してもらいます」
「そうかい……なら、始めよう」

 ベゼの服が白い羽根に変わり、その羽根が軽い風を起こした。
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