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最終章『結末』
第八十八話『最終決戦』前編
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*(マレフィクス視点)*
六月十三日、この日は僕の誕生日だ。
この誕生日の日に、ホアイダと一体一の戦いをする。
ホアイダがヴェンディの能力や魔法を引き継いでいたのは驚いたが、それと同時に嬉しかった。
もしかしたら、新たなセイヴァーとなってくれるかもしれないからだ。
まぁ、僕が負けるはずはないし、気楽に遊ぶことにする。
「勇気を出して良くぞこの奇跡の島に来たね。一体何が君を突き動かしているの?」
分かっていながらも聞いてみる。
やはり、相手が何者だろうと、挑発して怒らせるのは楽しいからね。
「殺された人の無念を晴らす為、今生きてる人々を守る為、ヴェンディの安らぎの為、そして……マレフィクスを思い出の中に封じる為……貴方を、ベゼを倒します」
「フフッ、君らしくない。まるでヴェンディに取り憑かれたかのように薄っぺらな言葉ばかり口から吐き出す。ホアイダ、君は自分らしくしてればいいんだよ?いつも通り僕やヴェンディの影に隠れて笑ってればいい……ほら、復讐に囚われないで」
ホアイダに手を差し伸べ、ニコッと笑う。
勿論、分かっていて挑発しているのだ。
憎しみと怒りによって歪んでいくホアイダの表情を見たい。
「貴方は、自分の行為を深く理解していながら、開き直って心の弱さに負けた……誰かと共に何かを見出そうとしない……救いようがない悪です」
しかし、ホアイダは鋭く真剣な眼差しを真っ直ぐと僕に向けた。
「救いようがない悪?違うね……悪こそ救いだ!少なくとも僕にとっては悪こそが救い……それ以外は僕にとっての悪。悪こそが最も純粋で強大な正義だ」
両手と羽根を広げ、正面からホアイダの言葉を否定する。
すると、ホアイダは少し虚しい表情を浮かべ、僕を哀れむような視線を送った。
「そうですか……嫌なことに目を瞑り、自分を正当化する弱い心の持ち主ってことですね。だからヴェンディのような嫌なことに立ち向かい、変わり続けることの出来る人間に憧れて居たのですね」
「は?僕が弱いだって?ヴェンディに憧れてるだって?何寝ぼけてんだよ……」
片目が痙攣し、心の底から不快感が沸いた。
「他人の気持ちを理解出来ても、自分の気持ちは違うようですね」
ホアイダはそう言ってすぐに森の方へ逃げて行く。
目の前の僕から逃げて、森へ避難した。
「あぁ?あのチビの弱虫……言うだけ言って逃げるのか?僕のことを分かった気でいるなんて何様だ?一気に気に食わない奴になったな。ホアイダ.ルト.ユスティシー、お前の心に敗北感を植え付けてやる」
僕は森へ逃げて行くホアイダを追いかけず、その場で地面に触れた。
――能力番号43『土を綿に変える能力』。
一瞬にして、前方の地面が茶色い綿のようになり、地面に生えていた木が埋もれる。
そして、その地面に足を着けていたホアイダも、地面の中に落ちて行く。
地面が柔らかい綿になったから、重い物は全て沈んでしまうのだ。
「さっきの言葉を取り消させてやる」
空を飛び、地面に落ちたホアイダの元へ足を付ける。
瞬間、その地面から大きな鷹が飛び出して来た。
「あれは!?ヴェンディの鷹か!」
鷹――ボブは、ホアイダの左手をがっちり掴んでおり、再び森の奥へと逃げて行った。
ホアイダが小柄で軽いから、機動力もヴェンディの時以上にある。
それに、ほんの少しだがボブの体も成長している。
「隠れんぼのつもりなら、それは独りよがりの遊びだよ」
――能力番号35『物を透かして見る能力』。
ホアイダが逃げた先は、草木が複雑に生えているジャングルのような場所だったが、僕には全てが見えていた。
木を透かし、奥まで逃げているホアイダもしっかり見えている。
「こそこそと隠れるのが好きだなぁ。ならば、炙り出そうではないか」
――能力番号12『スライムを作る能力』。
手の平に、まん丸いスライムを作り出す。
この丸い形が必要になる。
――能力番号45『球体を太陽に変える能力』。
丸いスライムは、一緒にして燃える手の平サイズの太陽に変わる。
手の平に太陽があるが、僕自身は決して熱くない。
だが、破壊力はただの炎とは訳が違う。
太陽をホアイダが居る森に放つ。
太陽は太い樹木を何本も貫通し、周りの草木を燃やした。
透けて見えているが、ホアイダの片腕を掠った様だ。
「逃げ場はない……自分でその地獄の釜に入ったんだ」
容赦なく、太陽を何発も放つ。
珍しい果実の樹木も、緑豊かな草木も、全てが火によって燃える。
ジャングルは一瞬にして地獄の炎で焼かれる。
ホアイダはその炎から逃げるように、地面を紙にして逃げた。
「丸見えだよ」
ホアイダは地面の中を移動している。
移動している方向は僕の方だ。
僕は気付いていないふりをしながら、ゆっくりと地面に足を付ける。
すると、ホアイダはまんまと罠に掛かり、僕の足元から体を出した。
「バカ」
ニヤッと笑い、ホアイダを蹴り上げ、太陽を腹に放つ。
「がはぁ!」
しかし、ホアイダは腹に当たる太陽に手を当て、太陽を紙にして、指から出した糸を僕の首に引っ掛けた。
糸を引っ張り、僕との距離を縮めたホアイダは、指を銃の形に似せる。
「うっ!?」
ホアイダがその指から雷を放った。
ヴェンディの雷魔法、グロム.レイだ。
動きが鈍ってふらつく僕に、ホアイダが蹴りを入れる。
しかし、能力番号46『骨を操る能力』で、体内から出した骨を使い、ホアイダの蹴りを受け止めた。
「なっ!?体の動きを止めたはず!」
「能力番号48『電気を纏う能力』」
さっきホアイダが放った雷魔法は、僕の体に防具として纏われていた。
僕の体に電気が走り、体を守っている。
「お返し」
その電気を指に集め、ホアイダに打つ。
ホアイダの体が痺れ、身動きが止まる。
「弱虫はどっちだ?君か僕か、返答次第では痛め付けない」
「ふっ……勿論貴方です」
「力の伴わないプライドは自分の身を滅ぼす……こんなふうになっ!」
ホアイダの腹を強く蹴る。
同時に、そこに現れたボブがホアイダの肩を足で掴み、近くを走っていた馬にホアイダを乗っけた。
「馬も居たのか……」
ホアイダはダメージを受けながらも、再び僕との距離を取る。
「能力番号30『他者の目と視界を共有する能力』」
馬との視界を僕の視界に繋がせた。
今、ホアイダを乗っけている馬は、僕の視界を目にしている。
僕はその場で目玉をぐるぐると回せる。
前方が分からなくなった馬は、なんにもない場所で転け、ホアイダを背中から落とした。
僕は転けた馬とホアイダに堂々と近付く。
「立って戦え弱虫!非力な力でこの状況を打開してみたらどうだ!」
「くぅ……」
ホアイダは腹を抑えてゆっくりと立ち上がる。
そして、再び左手から糸を出し、僕に引っ掛けようとする。
だが、僕は余裕で糸を掴む。
「がはぁ!?」
その途端、僕の背中がばっくりと深く切られた。
慌てて背後を振り返ると、そこにはホアイダのぬいぐるみであるポム吉が居た。
良く見れば、ポム吉には糸が付いている。
その糸は、ホアイダの右手に繋がっている。
「最初の糸は囮か!?ポム吉に糸が繋がっているから、ポム吉を通して魔法を放てるのか!?」
「そして貴方は、今挟まれている」
ホアイダが僕の耳元で囁くように言った。
僕は反応が間に合わず、ホアイダとポム吉に挟まれ、両方から攻撃を食らってしまう。
僕の胸と背中が深く抉れ、血が吹き出る。
「がはぁ!?」
追い打ちに、ホアイダのかかと落としをくらい、体が地面に落ちてしまう。
冷たい目をしたホアイダは、身動きの取れないまま血を吐く僕を見下している。
そして、折り紙から出したヴェンディの剣を手に取り、それを僕に振りかざす。
六月十三日、この日は僕の誕生日だ。
この誕生日の日に、ホアイダと一体一の戦いをする。
ホアイダがヴェンディの能力や魔法を引き継いでいたのは驚いたが、それと同時に嬉しかった。
もしかしたら、新たなセイヴァーとなってくれるかもしれないからだ。
まぁ、僕が負けるはずはないし、気楽に遊ぶことにする。
「勇気を出して良くぞこの奇跡の島に来たね。一体何が君を突き動かしているの?」
分かっていながらも聞いてみる。
やはり、相手が何者だろうと、挑発して怒らせるのは楽しいからね。
「殺された人の無念を晴らす為、今生きてる人々を守る為、ヴェンディの安らぎの為、そして……マレフィクスを思い出の中に封じる為……貴方を、ベゼを倒します」
「フフッ、君らしくない。まるでヴェンディに取り憑かれたかのように薄っぺらな言葉ばかり口から吐き出す。ホアイダ、君は自分らしくしてればいいんだよ?いつも通り僕やヴェンディの影に隠れて笑ってればいい……ほら、復讐に囚われないで」
ホアイダに手を差し伸べ、ニコッと笑う。
勿論、分かっていて挑発しているのだ。
憎しみと怒りによって歪んでいくホアイダの表情を見たい。
「貴方は、自分の行為を深く理解していながら、開き直って心の弱さに負けた……誰かと共に何かを見出そうとしない……救いようがない悪です」
しかし、ホアイダは鋭く真剣な眼差しを真っ直ぐと僕に向けた。
「救いようがない悪?違うね……悪こそ救いだ!少なくとも僕にとっては悪こそが救い……それ以外は僕にとっての悪。悪こそが最も純粋で強大な正義だ」
両手と羽根を広げ、正面からホアイダの言葉を否定する。
すると、ホアイダは少し虚しい表情を浮かべ、僕を哀れむような視線を送った。
「そうですか……嫌なことに目を瞑り、自分を正当化する弱い心の持ち主ってことですね。だからヴェンディのような嫌なことに立ち向かい、変わり続けることの出来る人間に憧れて居たのですね」
「は?僕が弱いだって?ヴェンディに憧れてるだって?何寝ぼけてんだよ……」
片目が痙攣し、心の底から不快感が沸いた。
「他人の気持ちを理解出来ても、自分の気持ちは違うようですね」
ホアイダはそう言ってすぐに森の方へ逃げて行く。
目の前の僕から逃げて、森へ避難した。
「あぁ?あのチビの弱虫……言うだけ言って逃げるのか?僕のことを分かった気でいるなんて何様だ?一気に気に食わない奴になったな。ホアイダ.ルト.ユスティシー、お前の心に敗北感を植え付けてやる」
僕は森へ逃げて行くホアイダを追いかけず、その場で地面に触れた。
――能力番号43『土を綿に変える能力』。
一瞬にして、前方の地面が茶色い綿のようになり、地面に生えていた木が埋もれる。
そして、その地面に足を着けていたホアイダも、地面の中に落ちて行く。
地面が柔らかい綿になったから、重い物は全て沈んでしまうのだ。
「さっきの言葉を取り消させてやる」
空を飛び、地面に落ちたホアイダの元へ足を付ける。
瞬間、その地面から大きな鷹が飛び出して来た。
「あれは!?ヴェンディの鷹か!」
鷹――ボブは、ホアイダの左手をがっちり掴んでおり、再び森の奥へと逃げて行った。
ホアイダが小柄で軽いから、機動力もヴェンディの時以上にある。
それに、ほんの少しだがボブの体も成長している。
「隠れんぼのつもりなら、それは独りよがりの遊びだよ」
――能力番号35『物を透かして見る能力』。
ホアイダが逃げた先は、草木が複雑に生えているジャングルのような場所だったが、僕には全てが見えていた。
木を透かし、奥まで逃げているホアイダもしっかり見えている。
「こそこそと隠れるのが好きだなぁ。ならば、炙り出そうではないか」
――能力番号12『スライムを作る能力』。
手の平に、まん丸いスライムを作り出す。
この丸い形が必要になる。
――能力番号45『球体を太陽に変える能力』。
丸いスライムは、一緒にして燃える手の平サイズの太陽に変わる。
手の平に太陽があるが、僕自身は決して熱くない。
だが、破壊力はただの炎とは訳が違う。
太陽をホアイダが居る森に放つ。
太陽は太い樹木を何本も貫通し、周りの草木を燃やした。
透けて見えているが、ホアイダの片腕を掠った様だ。
「逃げ場はない……自分でその地獄の釜に入ったんだ」
容赦なく、太陽を何発も放つ。
珍しい果実の樹木も、緑豊かな草木も、全てが火によって燃える。
ジャングルは一瞬にして地獄の炎で焼かれる。
ホアイダはその炎から逃げるように、地面を紙にして逃げた。
「丸見えだよ」
ホアイダは地面の中を移動している。
移動している方向は僕の方だ。
僕は気付いていないふりをしながら、ゆっくりと地面に足を付ける。
すると、ホアイダはまんまと罠に掛かり、僕の足元から体を出した。
「バカ」
ニヤッと笑い、ホアイダを蹴り上げ、太陽を腹に放つ。
「がはぁ!」
しかし、ホアイダは腹に当たる太陽に手を当て、太陽を紙にして、指から出した糸を僕の首に引っ掛けた。
糸を引っ張り、僕との距離を縮めたホアイダは、指を銃の形に似せる。
「うっ!?」
ホアイダがその指から雷を放った。
ヴェンディの雷魔法、グロム.レイだ。
動きが鈍ってふらつく僕に、ホアイダが蹴りを入れる。
しかし、能力番号46『骨を操る能力』で、体内から出した骨を使い、ホアイダの蹴りを受け止めた。
「なっ!?体の動きを止めたはず!」
「能力番号48『電気を纏う能力』」
さっきホアイダが放った雷魔法は、僕の体に防具として纏われていた。
僕の体に電気が走り、体を守っている。
「お返し」
その電気を指に集め、ホアイダに打つ。
ホアイダの体が痺れ、身動きが止まる。
「弱虫はどっちだ?君か僕か、返答次第では痛め付けない」
「ふっ……勿論貴方です」
「力の伴わないプライドは自分の身を滅ぼす……こんなふうになっ!」
ホアイダの腹を強く蹴る。
同時に、そこに現れたボブがホアイダの肩を足で掴み、近くを走っていた馬にホアイダを乗っけた。
「馬も居たのか……」
ホアイダはダメージを受けながらも、再び僕との距離を取る。
「能力番号30『他者の目と視界を共有する能力』」
馬との視界を僕の視界に繋がせた。
今、ホアイダを乗っけている馬は、僕の視界を目にしている。
僕はその場で目玉をぐるぐると回せる。
前方が分からなくなった馬は、なんにもない場所で転け、ホアイダを背中から落とした。
僕は転けた馬とホアイダに堂々と近付く。
「立って戦え弱虫!非力な力でこの状況を打開してみたらどうだ!」
「くぅ……」
ホアイダは腹を抑えてゆっくりと立ち上がる。
そして、再び左手から糸を出し、僕に引っ掛けようとする。
だが、僕は余裕で糸を掴む。
「がはぁ!?」
その途端、僕の背中がばっくりと深く切られた。
慌てて背後を振り返ると、そこにはホアイダのぬいぐるみであるポム吉が居た。
良く見れば、ポム吉には糸が付いている。
その糸は、ホアイダの右手に繋がっている。
「最初の糸は囮か!?ポム吉に糸が繋がっているから、ポム吉を通して魔法を放てるのか!?」
「そして貴方は、今挟まれている」
ホアイダが僕の耳元で囁くように言った。
僕は反応が間に合わず、ホアイダとポム吉に挟まれ、両方から攻撃を食らってしまう。
僕の胸と背中が深く抉れ、血が吹き出る。
「がはぁ!?」
追い打ちに、ホアイダのかかと落としをくらい、体が地面に落ちてしまう。
冷たい目をしたホアイダは、身動きの取れないまま血を吐く僕を見下している。
そして、折り紙から出したヴェンディの剣を手に取り、それを僕に振りかざす。
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