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最終章『結末』

第八十九話『最終決戦』後編

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 ヴェンディの剣を手に取ったホアイダが、僕の両手を踏み付けた。

「チェックメイト」

 しかし、僕は能力番号49『影と闇を操る能力』で、周りの影を操り、ホアイダの剣を受け止めた。
 だが、ホアイダの表情は揺るがない。
 懐から折り紙を取り出し、それを僕の元へ落とした。
 折り紙は元の形――手の平サイズの太陽になり、僕の腹に当たる。

「かっ!?」
「さっき貴方が投げた太陽ですよ」

 太陽によって、周りが照らされて影がなくなる。
 おかげで、剣を受け止めていた影もなくなり、剣が僕の胸に当たる。

「くっ」

 しかし、剣が刺さった瞬間、胸から出た血を能力番号26『血を固める能力』で固定した。
 おかげで、剣は深くは刺さっていない。

 すかさず、ホアイダが剣を諦めて僕に手を伸ばす。
 だが、能力番号23『息を強風に変える能力』で、ホアイダを上空に吹き飛ばす。
 ホアイダは空中で体勢を立て直し、空で待機していたボブに糸を繋げ、空中に留まる。

「面白くなってきた」

 ホアイダに受けた胸と背中の傷を血を固めて塞ぐ。

「ホアイダ!右手に繋いでいた糸、違和感感じない?」

 ホアイダに聞こえるよう声を張った。
 すると、ホアイダは右手に違和感を感じ、何か探す素振りを見せる。

「探し物は、これかな?」

 僕は、ホアイダの大切なぬいぐるみ――ポム吉の頭を掴み、ホアイダに見せつける。
 ホアイダは露骨に顔色を変える。

「捕まっちゃったー!助けてー」

 裏声でポム吉の真似をして、ホアイダの心を揺らがせる。

「さっきこの子は僕の背中を攻撃したからね……ちゃんと痛ぶろうね」

 ポム吉の小さな腕を、鉛筆をへし折るようにもいだ。

「ほわぁ~!痛いよー!」

 再びポム吉の真似をし、ホアイダを煽る。
 ホアイダはぬいぐるみを人間以上に溺愛している。
 怒らずにはいられないだろう。

「やめろーー!!」
「あら、逃げないのだね?」

 ボブから離れ、地上に向かって降りて来たホアイダが、水魔法を僕に向けて放った。
 しかし、僕は手の平に張ったバリアで、意図も簡単に魔法を防ぐ。

 地上に足を着けたホアイダは、剣を振るい、折り紙の手裏剣を投げる。
 剣は僕の肩を掠り、手裏剣は爆弾に変わり、僕の手前で爆発する。

「残念」

 爆弾の爆発は、僕の影から出した死神が防いだ。
 爆破した一瞬の隙を付き、ホアイダの腹を蹴る。
 そして、ホアイダの頭を踏み付けた。

「くっ……ポム吉を離して……離して下さい」
「良いよ」

 手を離し、ポム吉が地面に落ちる。
 ホアイダは踏み付けられたまま、必死な表情でポム吉に手を伸ばす。

「フォティア.ラナ」

 しかし、僕の魔法によってポム吉に火が移る。

「ほわ~!苦しいよぉー!助けてホアイダァー!!ほわぁ~」

 ポム吉の全身に火が周り、布も綿も全て灰になっていく。
 ホアイダはそんなポム吉を目にし、ポロポロと涙を流した。
 唯一自分の手の元に残った宝物が、敵によって燃やされてしまったのだ。
 全て失ったホアイダは、無力そのものだった。

「可哀想なポム吉……そう思うだろ?」
「……」

 ホアイダは涙を流すだけで、何も出来ない腑抜けに成り下がった。
 そんな姿が酷く滑稽に見える。

「全て失ったねホアイダ、家族も恋人も友人も、心すらも失いかけてる。孤独は辛い……けど大丈夫、僕が永遠に君と遊んであげる……味方が居なくなっても、永遠の敵が居るよ」
「……」

 無邪気な笑顔でホアイダに言う。
 しかし、ホアイダは表情が固まったままで言葉を出さない。

「何か言ったらどうだい?」
「せめて――」

 ホアイダが小さな声でボソボソと呟いた。
 しかし、何を言っているのか聞き取れなかった。

「何だって?はっきり言ったらどうだ?」

 耳を近付け、挑発する。

「せめてマレフィクスだけは……返してもらいますから」

 ホアイダの目は力強く、僕を飲み込むような鋭い目付きだった。
 そして、ホアイダは睨んだと同時に僕の足を強く掴んだ。

「ほぉ?」

 ホアイダの顔を蹴るが、ホアイダは決して手を離さない。
 僕に三秒間触り、何がなんでも紙にするつもりだ。

「離せよ、てめぇのその白い顔、真っ赤に……染めるぞ」

 何度蹴っても、能力で体を痛め付けても、決して手は離れない。
 このままでは、三秒間経ち、僕の体が紙になってしまう。

「絶対!離さない!!」
「殺されたいのか?」
「それもまた、私の勝ちですよ」

 その瞬間、僕の体が紙のような質感になる。
 ペラペラでクシャクシャになり、僕の足がホアイダにクシャッと握り潰される。

「紙になったか」
「もう三秒間触れば貴方は折り紙になる!」
「安心しな、もう三秒間なんてない。僕は神となる」

 周りの地面が揺らぎ、空気が凍るような妙な感覚が走る。
 ホアイダもそれに気付くが、僕を離さまいとするのが精一杯だった。

 ――能力番号50『神の力を使用する能力』。

 僕の白髪の毛が伸び、赤く輝く目が紋章のようになった。
 紙のような体が元の体になり、全ての傷が治る。

「ふふっ……我にひれ伏せ……我こそ絶対悪、我こそこの世界の神だ」
「この禍々しい力のオーラ……この能力は?」
「ホアイダ、この姿は一日一時間しか使えない。しかし、もうこうなれば君に勝ち目はない」

 痛めた体を引きずるホアイダは、内股で座り込んで僕を見上げている。
 明らかに体の状態が変わった僕を見て、打つ手がないことを悟った様だ。

「最初に言ったね?僕が弱虫だって……その言葉を取り消すなら、この勝負僕の勝ちで切り上げよう。しかしだ……取り消さないなら、死にたくなるくらい君を痛め付ける。さぁ、どうする?」
「取り消しません……ベゼ、貴方は心の弱い人間……弱さを知る私が言うのです……間違いありません」

 しかし、ホアイダは全てを克服したかのように、清々しい程の笑顔を見せた。
 その笑顔は、太陽のような明るさで僕を照らした。
 それが何よりも気に入らなかった。

「そうか」

 容赦なく、ホアイダを蹴り飛ばす。
 ホアイダは必死になって立ち上がり、僕に水魔法を放つ。
 しかし、水魔法は僕の体に当たるだけで、何のダメージもない。

「今僕の体は神の体……そんな貧弱な力では傷一つ付かない」
「くっ……」

 ホアイダは魔法が無駄だと分かり、片腕を抑えて海辺の方へ走る。
 だが、近くで動いた影がホアイダを転けさせた。

「あっ!」
「逃げるなよ」

 僕がホアイダの近くに来た途端、空から現れたボブが瀕死の状態のホアイダの腕を掴み、空へと逃げる。

「逃がすか!」

 僕は羽根を広げ、空中に居るホアイダに追い付く。
 ボブを蹴り飛ばし、ホアイダの首を掴む。

「くっ!」

 ――能力番号28『物を浮かす能力』。

 ホアイダを空中に浮かし、その場でサンドバッグにする。
 ホアイダの顔は腫れ、腕や足の骨が折れ、目や鼻から血が流れ出る。

「はぁはぁ」
「まだ消えないか、その心の灯火」

 ホアイダは僕に殴られている状態で剣を取り出し、僕の心臓を突き刺した。

「この状態の僕を殺すことは出来ない」
「はぁはぁ……」

 ホアイダは絶望に叩き落とされた。
 曇った表情になり、震えた手で剣を離す。
 その剣は、僕の体から抜け落ち、地面へと落ちて行く。

「どう痛ぶろうか……」

 僕は再び、ホアイダの首に手を伸ばす。
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