離縁は計画的に、恋は衝動的に、本当は愛していたんだと言われましても困ります

迷い人

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番外 元さや【R-18】

03.邪念

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 無防備に眠るシアを背負い酒場で教えられた場所へと向かい歩く。 今いる国では決して珍しくない背の高い建物。 4階建ての集合住宅で、酒場の女性は2階の一番左が入口だと教えてくれた。

 グリフィス伯爵家の娘で、公爵夫人となるはずだった女性が……。 ワズは自分が司祭として質素な生活をしていることを忘れて、シアの生活に哀れみを覚えた。

 もし……私が上手くできていたなら……そう思っても、何も持たない今の自分では彼女のためにできる事など思いつかない。 小さな溜息、そしてなるべく穏やかに優しく背中のシアに声をかける。

「シアさん、家につきましたよ」

 ん~~~。

 寝ぼけた声が聞こえてきたかと思えば、その手が戸口に伸ばされた。 カチャリと音を立てて鍵が開く。

 魔鍵?

 扉を開けば、中はよくあるタイプの単身者用の部屋に思えたが、歩いて2歩半、扉は正面と右に2つ。 彼女を寝かせるなら正面に進むのが正解だろうと思いつつ、それでも彼女に聞いた。

「シアさん、部屋につきましたよ。 歩けますか?」

 同じように寝ぼけて正面を指さされる。

「……寝室まで、お届けしろとおっしゃるのですか……」

 大きな溜息をついた。

 指さされた正面の扉を開けば……そこは廊下だった。 外見は集合住宅だが、中の部分は全て彼女の所有となっているのだと分かる。

 そうですか……彼女を哀れむ必要等なかったのですね……。

 シアが悪い訳ではない……だけど彼女がいなくなってからのクルール家は酷かった。 今のクルーク公爵家は、余りにも惨めだった。

 お爺様によって無暗に振りまかれた慈悲。

 存在するのに使えない土地と建物と言う資産。 それらは金銭を生み出さず、むしろ管理費と修繕費等の出費ばかりがかさみ領地からの税収は何もせずとも消えていった。 ワズと呼ばれている彼が、ワイズ・クルールを名乗っていた頃は、親衛隊としての給与があり、質素ながら日々の生活を送れてはいたが、今は……世間からの非難を避ければ、領地の切り売りが必要だと、戻ってくるようにとの連絡が耐えない。

 深い溜息をつき最も近い扉を開けば、道具ばかりは揃えられ全く使われた様子の無い台所があった。

「どちらにお連れすればいいですか?」

「アッチ……」

 言われるままにシアを寝室に運べば、寝ぼけた彼女は小さく呟く。

「喉が、乾いた……」

「仕方のない方ですね」

 ワズが周囲を見回せば、水の加護縫いが施されたピッチャーがあった。

 なんて、贅沢な……。 ソレ一つあれば、神殿の食費1年分が補えるだろう。 等と考えるが、自分だってかつてはそんな生活をしていたのだと、自嘲気味に笑っていた。

 魔力を通し水を湧き出させグラスに注ぐ。

「シアさん、お水ですよ」

「ありがとうございます」

 両手を差し出すが、その手は明後日の方を向いていた。

「「……」」

 強引にグラスを持たせれば、そのまま居眠りを再開して、グラスを傾け水をこぼしそうになる。

「ちょ、シアさん。 お水いらないんですね」

「いる」

「なら、シッカリと飲んでください」

 身体を支えて、口元までグラスを運ぶ。 唇に流れる水を近くで見た、唇から零れ落ちる水が……。

「シ、ア、さ……ん……」

 舐めとってもいいのでは? そう邪念が過り、慌ててハンカチで拭った。 鼓動が早かった、呼吸が荒くなる、身体が熱い。 ボンヤリとした目でシアがワズを見上げている。

「司祭様……お風邪をめされたのですか?

 伸ばされる手が頬に触れた。

「へ、平気です!! もし、子供のことをまだ引き取りたいと言う気持ちがあるなら、私も協力します。 一緒に考えます。 だから……また、神殿に顔を出してください……」

 聞いていないかもしれない。
 明日には忘れるかもしれない。

 それでも、終わりにしたくないと言う思いから、ワズは言い残し神殿へと帰ろうとした。

「ぇ……」

 服が引っ掛かったような……。

 振り返れば、司祭服を引っ張るシアがいて。

「いかないで……一人は寂しいよ」

「シア!!」

 そして、耐えきれなかった私は、シアの身体を抱きしめてしまい……彼女は腕の中でガッツリと私の服を捕まえ再び深い眠りについた。





 次の日、シアは何時も通り日の出とともに目を覚ました。

 昨日出かけたまま寝ている様子を見れば、酔い潰れたのは想像できた。 飲みなれない酒を飲み懺悔したところは覚えている。 自分は子供を預かれるような人間ではないのだと自覚したのも記憶にあった。

 とは言え……。

「なぜ?」

 両手に抱えている大きな司祭服だけは、理解の範疇を超えていた。

 朝食、シアは酒場に務める女性ミアと食事をとるのが日課となっている。 というか、家事能力の低いシアが、家賃替わりに面倒を見てもらっている形になっている。

「昨日は面倒かけたわねミア」
「あぁ、昨日は連れの司祭様に頼んだのよ」
「ぇ?」
「だって、私の細い腕でシアを運ぶのは大変だし?」
「男性を、部屋に招いてしまうなんて……」
「この間、配送業者にテーブル運んでもらっていたじゃない」
「それは違うでしょう」
「そう? いえ、そうね。 配送業者は、服を剥き盗られ泣きそうな顔をしながら逃げ去って行かないものね」
「……」
「謝った方がいいと思うわよ。 酒場でもかなり絡んでいたし」
「それは、申し訳ない事をしてしまったわ……お詫びをするべきかしら?」
「一般的な寄付でいいんじゃない?」
「一般的とはいかほど?」

 そんな会話の結果、私は先日までお勤めしていた会社の1月分の給与と、取り上げてしまった司祭服……あと、

「菓子?」
「あら、大勢の子供達がいる事を配慮し肉の方がいいわよ」
「菓子の方が喜ぶものでは?」
「変わった者を与えれば喜ぶのは確かでしょうけど、一時の贅沢で嗜好が歪むのは良くないと思うわ」
「菓子で、嗜好が歪むだなんて、菓子職人が泣きますわよ」
「なら、菓子は大人になってから、今は成長に必要な栄養をですわ」
「わかりましたわ。 でも、どれぐらいの量がいいのかしら? というか、生肉を持っていくよりもそれこそ寄付の方がよろしいのでは?」
「寄付であれば本殿に一度戻し、そこから再度支給がされるって聞いたから言ってんの。 荷物を面倒がらない」

 まぁ、そのあとも色々と話し合い。

「もう、グズグズと言うぐらいなら、司祭様についてきてもらえばいいじゃない」
「お手を煩わせるのも……」
「私のお手を煩わせるのは、良い訳?」

 洗い終わった包丁が向けられる。

「イエス、マム」

 シアは両手をあげて、苦笑した。
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