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02.
11.技術力と営業力は比例しない
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やがて商業区へと到着する。
商業区では、王家に申請し許可を得た商売人達が支店を出店している。 職人や若手の育成を目的としていれば、出店費用は無料、販売利益に対する課税率が低くなる。 逆に熟練の商売人が店を預かる場合には、損失が出るギリギリの税率が設定されている。
ここもまた若手、見習いたちの促進を目的としているのです。
外部との出入りが制限される王立貴族学園で不便な生活を職人達が甘受するのは、貴族の目にとどめられ気に入られれば後ろ盾を得る事が出来るためだ。
「私がお勧めする針子達は、コチラの店におりますわ」
私がお勧めする店を見てバウマン様は顔をしかめた。 バウマン様は適当な事を言うなとでもいうように、怒気を必死に抑えようと耐えながら私を振り返った。
「ふざけているのですか?」
店に並ぶ衣類はドレも奇抜なものばかりなのだ。 今回に関しては、その怒りに対して苛立ちを覚える事も無かった。 だって、私も店先に並ぶ衣類を見れば、ふざけすぎと思いますもの。
でも……、
「それが、残念ながら真剣ですの」
「なら、私を馬鹿にしているのですか?」
「いいえ、違いますわ。 針子として優秀であっても、優れたデザインを生み出す事は別ですわ」
店に先導して入って見せるが、道化師のような衣類や装飾品が並ぶ店に、バウマン様もブラーム様もためらっており、私は振り返り2人を見返して手を差し出した。
「いらっしゃいませんの?」
怒りだそうとするバウマン様だったが、ブラーム様が一歩前に進み私の手をとった。
婚約者の前であり得ない行動。 だけど、ソレをスルーしてしまうほどのインパクトがある衣類な訳で、私は少し笑ってしまった。
そして、手が握られ、ひっそりと指が絡められ、私は戸惑い……ブラーム様は声を上げずに笑って見せる。
「バウマン様もどうかいらしてくださいませ」
「はぁ~?」
と不満をあらわにする音を発するものの、チリンチリンと言う呼び出し音と、先に入る私とブラーム様の後をバウマン様は頭をかきむしるような姿でついてくる。
その後、私は道化衣装のような商品を展示する店の製法技術の高さを説明したのですが……。
「布地も装飾も今一つです」
バウマン様の答えはコレで、私は事情を説明する訳なのです。
「このようなデザインですから、購入する者もおらず利益を得る事が出来ません。 そして利益が無いから使う素材も価格を抑えたものになると言う悪循環に陥っているのです。 機会さえ与えれば、バウマン様のデザインが提供されれば、ここの職人も一段階上のレベルへと昇る事が出来ると思いますの」
「なぜ、職人に気を使ってやらなければならないのですか!! それに、そんな考え無しに閣下の服を任せて大丈夫だと思っているのですか?!」
「そう、いちいち声を荒げるなと言っている」
反射的に不機嫌さを露わにするバウマン様だが、背後から声をかけてくるブラーム様を振り返れば、ハッとした様子で俯き謝罪の言葉を口にする。
「申し訳、ございません……」
この様子は、今後3人の関係において、お約束となるのですから、なんとも皮肉な事でしょう。
そして、何より大きな声を聞かずに済むようにしてくれるブラーム様に対する私の感謝は増し、頼りとし、思慕へと変化していく事になってしまうのです。
「マティルにも、思惑があるのだろう? 説明してはどうだ。 そしてバウマンは、マティルの言葉を無下にせず耳を傾けろ」
「「……はい」」
そして私は説明する。
「まずは、この製法技術を見て下さいませ。 この技術力の高さは、殿方であっても今着ている衣服と比べれば理解できるはずです」
「……なるほど、だが、他の、まともな品を取り扱っている店も同様のレベルかもしれないじゃないか」
バウマン様はチラチラとブラーム様の顔色を伺いながら、私に訴えてくる。
「では、他の店も回ってみましょう」
「呼び出しベルを無視してもいいのか?」
ブラーム様の疑問に、バウマン様はここぞとばかり腹立たしさを表していた。
「未だ出てこない不躾な店です。 客が帰っていても問題はないでしょう」
私もコレばかりは、バウマン様に同意せざるを得ません。 でも、最終的にはこの店に戻ってくる事になるでしょうからと、私はフォローの言葉を付け加えておくのです。
「その……人との対話が得意ではなく苦手とする者も多くて、技術力以外は少しばかり問題がありますの」
「それでは、作りたいものを伝える事も難しいのではありませんか?」
「いえ……彼等との付き合いは幾度かさせて頂きましたが、技術力が高く、妥協を知らない性格から、コチラが望む以上の技術で対応してくれるので問題ありません」
不満です。
そう、バウマン様の顔に書いてあった。
「では、先ほど言った通り他の店を見てきましょう」
そう前向きな意見が出たのは、腕を組みジッとバウマン様を見つめているブラーム様あってこそでしょうね……。
そして、その後何件か店を見て回るのですが、バウマン様は納得した上で最初の店に依頼する事になるのでした。
商業区では、王家に申請し許可を得た商売人達が支店を出店している。 職人や若手の育成を目的としていれば、出店費用は無料、販売利益に対する課税率が低くなる。 逆に熟練の商売人が店を預かる場合には、損失が出るギリギリの税率が設定されている。
ここもまた若手、見習いたちの促進を目的としているのです。
外部との出入りが制限される王立貴族学園で不便な生活を職人達が甘受するのは、貴族の目にとどめられ気に入られれば後ろ盾を得る事が出来るためだ。
「私がお勧めする針子達は、コチラの店におりますわ」
私がお勧めする店を見てバウマン様は顔をしかめた。 バウマン様は適当な事を言うなとでもいうように、怒気を必死に抑えようと耐えながら私を振り返った。
「ふざけているのですか?」
店に並ぶ衣類はドレも奇抜なものばかりなのだ。 今回に関しては、その怒りに対して苛立ちを覚える事も無かった。 だって、私も店先に並ぶ衣類を見れば、ふざけすぎと思いますもの。
でも……、
「それが、残念ながら真剣ですの」
「なら、私を馬鹿にしているのですか?」
「いいえ、違いますわ。 針子として優秀であっても、優れたデザインを生み出す事は別ですわ」
店に先導して入って見せるが、道化師のような衣類や装飾品が並ぶ店に、バウマン様もブラーム様もためらっており、私は振り返り2人を見返して手を差し出した。
「いらっしゃいませんの?」
怒りだそうとするバウマン様だったが、ブラーム様が一歩前に進み私の手をとった。
婚約者の前であり得ない行動。 だけど、ソレをスルーしてしまうほどのインパクトがある衣類な訳で、私は少し笑ってしまった。
そして、手が握られ、ひっそりと指が絡められ、私は戸惑い……ブラーム様は声を上げずに笑って見せる。
「バウマン様もどうかいらしてくださいませ」
「はぁ~?」
と不満をあらわにする音を発するものの、チリンチリンと言う呼び出し音と、先に入る私とブラーム様の後をバウマン様は頭をかきむしるような姿でついてくる。
その後、私は道化衣装のような商品を展示する店の製法技術の高さを説明したのですが……。
「布地も装飾も今一つです」
バウマン様の答えはコレで、私は事情を説明する訳なのです。
「このようなデザインですから、購入する者もおらず利益を得る事が出来ません。 そして利益が無いから使う素材も価格を抑えたものになると言う悪循環に陥っているのです。 機会さえ与えれば、バウマン様のデザインが提供されれば、ここの職人も一段階上のレベルへと昇る事が出来ると思いますの」
「なぜ、職人に気を使ってやらなければならないのですか!! それに、そんな考え無しに閣下の服を任せて大丈夫だと思っているのですか?!」
「そう、いちいち声を荒げるなと言っている」
反射的に不機嫌さを露わにするバウマン様だが、背後から声をかけてくるブラーム様を振り返れば、ハッとした様子で俯き謝罪の言葉を口にする。
「申し訳、ございません……」
この様子は、今後3人の関係において、お約束となるのですから、なんとも皮肉な事でしょう。
そして、何より大きな声を聞かずに済むようにしてくれるブラーム様に対する私の感謝は増し、頼りとし、思慕へと変化していく事になってしまうのです。
「マティルにも、思惑があるのだろう? 説明してはどうだ。 そしてバウマンは、マティルの言葉を無下にせず耳を傾けろ」
「「……はい」」
そして私は説明する。
「まずは、この製法技術を見て下さいませ。 この技術力の高さは、殿方であっても今着ている衣服と比べれば理解できるはずです」
「……なるほど、だが、他の、まともな品を取り扱っている店も同様のレベルかもしれないじゃないか」
バウマン様はチラチラとブラーム様の顔色を伺いながら、私に訴えてくる。
「では、他の店も回ってみましょう」
「呼び出しベルを無視してもいいのか?」
ブラーム様の疑問に、バウマン様はここぞとばかり腹立たしさを表していた。
「未だ出てこない不躾な店です。 客が帰っていても問題はないでしょう」
私もコレばかりは、バウマン様に同意せざるを得ません。 でも、最終的にはこの店に戻ってくる事になるでしょうからと、私はフォローの言葉を付け加えておくのです。
「その……人との対話が得意ではなく苦手とする者も多くて、技術力以外は少しばかり問題がありますの」
「それでは、作りたいものを伝える事も難しいのではありませんか?」
「いえ……彼等との付き合いは幾度かさせて頂きましたが、技術力が高く、妥協を知らない性格から、コチラが望む以上の技術で対応してくれるので問題ありません」
不満です。
そう、バウマン様の顔に書いてあった。
「では、先ほど言った通り他の店を見てきましょう」
そう前向きな意見が出たのは、腕を組みジッとバウマン様を見つめているブラーム様あってこそでしょうね……。
そして、その後何件か店を見て回るのですが、バウマン様は納得した上で最初の店に依頼する事になるのでした。
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