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22.懲罰房 02
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ブラームが戸惑い、困惑しながら問うたのも仕方がない。
懲罰房の廊下の床にはマットが一面に敷かれ、壁にも布地が滝のように波打ち、幾つも置かれた大きなクッションは森の緑を彷彿とされる深い色ムラのある緑で、全体に一枚の立体絵のように見えたから。
そして、壁際に置かれた棚は背が高く幅は広く厚みは薄い、両サイドに花柄を掘られる事で繊細な愛らしさが生み出されていた。 とは言えソレは完璧ではなく、どこか中途半端。 子供のオママゴト用の棚を大きくしたような愛らしさはあるが、やり過ぎ感もあった。
棚に置かれているのは、流行りのカップではなく、どこまでも愛らしく可憐な花、果物、小鳥、小動物が描かれた物が、装飾品のように並んでいる。 時折、謎の生物や植物が並んでいるのを見れば、マティルには絵心は備わっていなかった事を思い出した。
床に並べられたクッションとヌイグルミは、色ムラがあるものが多かった。
どんな高価なものでも手に入る立場でありながら、流行とは無縁の可愛らしいものに囲まれた思い人が、自分を見つめる表情は驚きの中に喜びが垣間見え、自分を見つめた瞳は無邪気に笑う。
そんな笑顔は、もう何年も見たことが無くて、愛おしい反面……この笑顔を引き出したのが自分ではない事に嫉妬を覚えてしまう。
そして、ブラームはもう一度問いかける。
「何をしているんだ?」
「えっと、レース編み?」
編んでいる途中のモノを両手で見せつけてくる。
「上手く、できないの」
へろへろとしているが、それでも花の模様は出来ている。
「可愛らしいと思うが?」
「本当?」
「まぁ、レース編み自体良く分からないが、作りたい形があれば錬金術でしたらどうだ?」
「違います!! ブラーム様は分かってないわ。 私は、こうふわふわで柔らかくて、抱きしめると幸せになれるものがいいの」
表情がころころと変わり、笑いながらも拗ねたように言うから、それにもブラームは困惑した。
「そうか」
「ブラーム様、お茶でもいかがですか? こんな場所ですが、お茶と菓子は良いものを揃えていますの」
キッチンカーには、お茶セットと菓子が乗っていた。
「いただこう」
そう言ってカーテンの内側に入ろうとすれば、慌てた声がブラームを制止する。
「あぁ、ブラーム様。 靴は脱いでください」
「ぇ、あぁ、そうなのか?」
「そうなの。 ここはね、そういうルールなの」
マティルは壁に立てかけてあったテーブルを取り出し、お茶の準備を始めながら、部屋の中へと声をかけた。
「バウマン様。 ブラーム様がお戻りですわ。 ご一緒にお茶をしましょう」
そう声をかければ、2つ目の懲罰房の扉が開いた。
「懲罰房とはなんだ?」
呆れた声でブラームが言えば。
「バウマン様が大人しくしているから、外に出ないなら好きにしていいと鍵を開けて下さいましたの。 王太子殿下が」
部屋の中は、紙の山にうずもれているのでは? と、思っていたが中には布地が幾重にも重なり触れ合わない距離で天井から下がり揺れている。 部屋には家具もなく、ただ布地が下がり薬草めいた匂いが漂っていた。
「アレはなんだ?」
ブラームが聞いたのは、中から出て来たバウマンに。
困ったように、だけど照れたように笑いながら、バウマンは答える。
「布地の色付けを手掛ける事にしたのです」
「なぜ」
それは庶民の仕事だ。
「以前、打ち合わせしたブラーム様の服は完成しましたが、どうにも満足がいかなくて……。 なら、いっそ自分で染めてみようかと考えたんです」
嬉しそうに、本当に嬉しくて楽しそうにバウマンはブラームに笑って見せ、それが悪戯好きの子供にしか見えずに、ワシワシと頭をかき混ぜながらブラームはもう一度言った。
「懲罰房とはなんだ……」
懲罰房の廊下の床にはマットが一面に敷かれ、壁にも布地が滝のように波打ち、幾つも置かれた大きなクッションは森の緑を彷彿とされる深い色ムラのある緑で、全体に一枚の立体絵のように見えたから。
そして、壁際に置かれた棚は背が高く幅は広く厚みは薄い、両サイドに花柄を掘られる事で繊細な愛らしさが生み出されていた。 とは言えソレは完璧ではなく、どこか中途半端。 子供のオママゴト用の棚を大きくしたような愛らしさはあるが、やり過ぎ感もあった。
棚に置かれているのは、流行りのカップではなく、どこまでも愛らしく可憐な花、果物、小鳥、小動物が描かれた物が、装飾品のように並んでいる。 時折、謎の生物や植物が並んでいるのを見れば、マティルには絵心は備わっていなかった事を思い出した。
床に並べられたクッションとヌイグルミは、色ムラがあるものが多かった。
どんな高価なものでも手に入る立場でありながら、流行とは無縁の可愛らしいものに囲まれた思い人が、自分を見つめる表情は驚きの中に喜びが垣間見え、自分を見つめた瞳は無邪気に笑う。
そんな笑顔は、もう何年も見たことが無くて、愛おしい反面……この笑顔を引き出したのが自分ではない事に嫉妬を覚えてしまう。
そして、ブラームはもう一度問いかける。
「何をしているんだ?」
「えっと、レース編み?」
編んでいる途中のモノを両手で見せつけてくる。
「上手く、できないの」
へろへろとしているが、それでも花の模様は出来ている。
「可愛らしいと思うが?」
「本当?」
「まぁ、レース編み自体良く分からないが、作りたい形があれば錬金術でしたらどうだ?」
「違います!! ブラーム様は分かってないわ。 私は、こうふわふわで柔らかくて、抱きしめると幸せになれるものがいいの」
表情がころころと変わり、笑いながらも拗ねたように言うから、それにもブラームは困惑した。
「そうか」
「ブラーム様、お茶でもいかがですか? こんな場所ですが、お茶と菓子は良いものを揃えていますの」
キッチンカーには、お茶セットと菓子が乗っていた。
「いただこう」
そう言ってカーテンの内側に入ろうとすれば、慌てた声がブラームを制止する。
「あぁ、ブラーム様。 靴は脱いでください」
「ぇ、あぁ、そうなのか?」
「そうなの。 ここはね、そういうルールなの」
マティルは壁に立てかけてあったテーブルを取り出し、お茶の準備を始めながら、部屋の中へと声をかけた。
「バウマン様。 ブラーム様がお戻りですわ。 ご一緒にお茶をしましょう」
そう声をかければ、2つ目の懲罰房の扉が開いた。
「懲罰房とはなんだ?」
呆れた声でブラームが言えば。
「バウマン様が大人しくしているから、外に出ないなら好きにしていいと鍵を開けて下さいましたの。 王太子殿下が」
部屋の中は、紙の山にうずもれているのでは? と、思っていたが中には布地が幾重にも重なり触れ合わない距離で天井から下がり揺れている。 部屋には家具もなく、ただ布地が下がり薬草めいた匂いが漂っていた。
「アレはなんだ?」
ブラームが聞いたのは、中から出て来たバウマンに。
困ったように、だけど照れたように笑いながら、バウマンは答える。
「布地の色付けを手掛ける事にしたのです」
「なぜ」
それは庶民の仕事だ。
「以前、打ち合わせしたブラーム様の服は完成しましたが、どうにも満足がいかなくて……。 なら、いっそ自分で染めてみようかと考えたんです」
嬉しそうに、本当に嬉しくて楽しそうにバウマンはブラームに笑って見せ、それが悪戯好きの子供にしか見えずに、ワシワシと頭をかき混ぜながらブラームはもう一度言った。
「懲罰房とはなんだ……」
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