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1章 婚約破棄したら負け
01.使用人と私
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恵み豊かな山を正面に眺めるステニウス子爵領。
王都から、3日ほどの距離にある子爵領は、気候の良い領地で農作物が豊かに実っていた。
コホコホ。
乾いた咳が止まらない。
「雨が降りそうね。 そろそろ山を下りましょう」
「え、こんなに天気なのに?」
そう告げるのは、今年12歳となりその身体能力の高さと、頭の良さから領主屋敷に仕える事になった領民の1人。
「空気がそんな感じですから」
コホコホ
「疲れてサボりたいだけなんじゃないですか? 咳、わざとらしいですよ」
嫌味っぽいのは、子爵家の人間、屋敷に仕える使用人達、その全てに祖父が亡くなってから1年ほど節制を強要し続けたため、ガッツリと嫌われたのが原因。
金が無ければご飯が食べられないし、温かな布団で眠れない。 そんな常識は分かってはいるけれど、私は祖父のように子爵家の者達に贅沢をさせるためアヤシイ仕事に手を染めるなんてする気はない。 祖父が亡くなった後、薬を求めて人が度々来ていたが、私は知らないで通していた。
本当は、祖父がいない時は、私が手入れしていたのだけど……。 でも、真夜中に顔を隠して大金をちらつかせながら、薬を求めに来る人って大抵アヤシイじゃないですか?
コホコホ
「別に、私は、それで構いませんよ。 では、アナタは頑張ってね」
私は湿気を帯びた落ち葉を踏み、山を下り始める。
農耕用の作業着の上下に大きな籠を背負い、秋の味覚を収穫している私は、これでもステニウス子爵家に代々仕える執事なんですよね。
「暑くもなく、寒くもない、いい季節よね」
誰に言うでもなく、言いながら枯葉を踏み、山を下りる。
コホコホ続く咳は乾いたもので喉が痛い。
「フォル様、お客様がおいでになっております」
オシャレな制服に身を包み、息を切らせながら山を登ってきた侍女が言う。
彼女が呼ぶフォルと言う名は私の名を一切文字ってはいない。
フォルと言うのは、子爵家の跡取り息子、私の婚約者である男『ナターナエル』が私を嘲笑うためにフール(馬鹿、愚か者)を揶揄って幼い頃につけた呼び名。 ソレが屋敷内での通り名として使われ、今ではもう誰もがソレを私の本名だと思っているのだから、彼女を責める事は出来ない。
侍女が客人だと連れてきたのは、品の良いドレスに身を包んだ華やかな印象の美少女だった。 私は彼女のような人を、領民の中にも見た覚えがなく、仕事上の付き合いもない。
「山に行っていたので、こんな格好で申し訳ありません。 それで、ステニウス子爵家の執事宛ての用でしたら、今は別の者がその仕事を王都で引き受けているはずですよ」
「い、いえ、アナタに用事なんです」
「そうですか……」
山向こうからモクモクと雲が生まれ、雷が光っていた。
「雨が降りそうですね。 彼女を応接室へとお通ししてください。 私は着替えてきますんで」
「話は直ぐに終わります。 そのままで、いえ、この場でも構いません」
「はぁ」
コホコホ
「申し訳ございません。 夏の終わりから少しばかり体調を崩しておりまして」
「本当、あの方がおっしゃっていた通り、地味で、ガサツで、女性としての魅力に欠けた方ですわね」
「ですねぇ~」
ニッコリ笑って言い、そして、コホコホと咳き込む私と美女の頭上に、パラパラと小雨が落ち、そして稲光が光った。
王都から、3日ほどの距離にある子爵領は、気候の良い領地で農作物が豊かに実っていた。
コホコホ。
乾いた咳が止まらない。
「雨が降りそうね。 そろそろ山を下りましょう」
「え、こんなに天気なのに?」
そう告げるのは、今年12歳となりその身体能力の高さと、頭の良さから領主屋敷に仕える事になった領民の1人。
「空気がそんな感じですから」
コホコホ
「疲れてサボりたいだけなんじゃないですか? 咳、わざとらしいですよ」
嫌味っぽいのは、子爵家の人間、屋敷に仕える使用人達、その全てに祖父が亡くなってから1年ほど節制を強要し続けたため、ガッツリと嫌われたのが原因。
金が無ければご飯が食べられないし、温かな布団で眠れない。 そんな常識は分かってはいるけれど、私は祖父のように子爵家の者達に贅沢をさせるためアヤシイ仕事に手を染めるなんてする気はない。 祖父が亡くなった後、薬を求めて人が度々来ていたが、私は知らないで通していた。
本当は、祖父がいない時は、私が手入れしていたのだけど……。 でも、真夜中に顔を隠して大金をちらつかせながら、薬を求めに来る人って大抵アヤシイじゃないですか?
コホコホ
「別に、私は、それで構いませんよ。 では、アナタは頑張ってね」
私は湿気を帯びた落ち葉を踏み、山を下り始める。
農耕用の作業着の上下に大きな籠を背負い、秋の味覚を収穫している私は、これでもステニウス子爵家に代々仕える執事なんですよね。
「暑くもなく、寒くもない、いい季節よね」
誰に言うでもなく、言いながら枯葉を踏み、山を下りる。
コホコホ続く咳は乾いたもので喉が痛い。
「フォル様、お客様がおいでになっております」
オシャレな制服に身を包み、息を切らせながら山を登ってきた侍女が言う。
彼女が呼ぶフォルと言う名は私の名を一切文字ってはいない。
フォルと言うのは、子爵家の跡取り息子、私の婚約者である男『ナターナエル』が私を嘲笑うためにフール(馬鹿、愚か者)を揶揄って幼い頃につけた呼び名。 ソレが屋敷内での通り名として使われ、今ではもう誰もがソレを私の本名だと思っているのだから、彼女を責める事は出来ない。
侍女が客人だと連れてきたのは、品の良いドレスに身を包んだ華やかな印象の美少女だった。 私は彼女のような人を、領民の中にも見た覚えがなく、仕事上の付き合いもない。
「山に行っていたので、こんな格好で申し訳ありません。 それで、ステニウス子爵家の執事宛ての用でしたら、今は別の者がその仕事を王都で引き受けているはずですよ」
「い、いえ、アナタに用事なんです」
「そうですか……」
山向こうからモクモクと雲が生まれ、雷が光っていた。
「雨が降りそうですね。 彼女を応接室へとお通ししてください。 私は着替えてきますんで」
「話は直ぐに終わります。 そのままで、いえ、この場でも構いません」
「はぁ」
コホコホ
「申し訳ございません。 夏の終わりから少しばかり体調を崩しておりまして」
「本当、あの方がおっしゃっていた通り、地味で、ガサツで、女性としての魅力に欠けた方ですわね」
「ですねぇ~」
ニッコリ笑って言い、そして、コホコホと咳き込む私と美女の頭上に、パラパラと小雨が落ち、そして稲光が光った。
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