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2章 新しい生活の始まり
08.男と白虎と私の縁 02
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ケセルさんが怪訝な顔をしてみせる。
「本当に記憶がないのか?」
どこかでぼろが出れば、信用問題となる。 頼るべき相手の信用を失うのは余り良い風には思えない。
「正確に言うなら、混濁していると言う状況でしょうか? 私は、ここにあるコレを、アヤシイ薬だと思っていたと言う記憶があります。 同時に、これが調味料として使われていた事を知る人格をはっきりと思い出すことができるんです。 言っている意味は分からないでしょうが、そう説明するしかありません」
「……了解した」
溜息と共にケセルさんが呟いた。
「嬢ちゃんの言っている事は否定しない。 その状況は俺にも覚えのある状況だからな。 でだ、嬢ちゃん話は戻すが、アンタ、死んだことになっている。 次期当主の婚約者が不幸な事故で亡くなったために、盛大な葬儀を開こうってな」
「……はぁ? 私のため盛大な葬儀ですか?」
私は、首をユックリと傾げていった。
もはや方がっていると言うのが正しいかも?
ステニウス子爵家の者達ならば、彼等の目の前で私が死んだとしても葬式等はあげずに、死亡確認のため神官を呼びに行くと同時に私を埋める墓を掘りだすだろうぐらいに考えて居たのですが……。
葬式?
たかが使用人に?
考え込んでいれば、白虎が私を慰めるように言う。
「自分が死人扱いになっているのはショックだろうけど。 君の周りの人は君が死んだことにこんなに悲しんでいるんだ。 まだ身体の調子が悪いだろうけど、ソロソロ生きていることを知らせてあげるのはどうかな? きっと喜んでくれるはずだよ」
優しい穏やかな口調だった。
だが、内容はいただけない!!
「ソレはないと思います。 私は、多分……殺されかけていたんだと思います」
「だろうな。 箱部分の大きさを考えても馬は二頭立て、その2頭ともが逃れて箱だけが流れているなんてありえない。 挙句、マイには自然死を偽るための毒が数種類盛られていたらしいからな」
流石に毒の件は、寝耳に水だ。
「ぇ? それは、知りませんが……」
コホコホ。
驚いた顔をしつつ咳き込む私に、白虎は頬を寄せて大きな金色の瞳で見つめてくる。
「横になる?」
白虎の声が本当に心配そうだったので、笑って見せた。
「大丈夫です。 話の続きをお願いできますか?」
そう言えば、ケセルさんは頷き、テーブルの上に重ねてあった紙の束、いわゆる新聞というものを3日分放って寄越してくれた。
1日目、濁流の中に馬車が落ちた事実が書かれている。 名前がフォル・レームとなっているあたり、若い使用人は仕方がないとしても、昔はセラと呼ばれていた時期もあるのに、誰も名前が憶えられていないのかと呆れた。 いえ、もしかすると……ナターナエル様の婚約者の名は『フォル』と広まっている事で、違った名前でもそうする必要があったのかな?
まぁ、それはともかくお爺様の孫であり、ナターナエル様の婚約者であったことが書かれ、私がいかに子爵家のために幼い頃から勤めたかを美談として語られていた。 そして婚約者であるナターナエル様とどれ程深く愛し合っていたかを、ナターナエル様の悲しみの深さと共に延々とつづられていた。
大切な婚約者であったと。
2日目には、存在しない美しい物語が掲載されている。
3日目には、葬儀の案内が書かれていた。
遺体も見つかっていないとなれば先に捜索をするものだが、それに関しては御者の証言によってきっと生きてはいないだろうと語られており、それが死亡の決め手とされたらしい。
「殺されるような、身に覚えは? 俺としてはせっかくの植物魔法の逸材をむざむざと殺させたくはないんだが?」
ステニウス子爵と、その息子ナターナエル様達であれば、私が死ねば良い思いが出来ると思っているでしょう。 というか、馬車を遣いに出した時点でどちらかが私を殺そうとしたのは確かなのだ。 だけど子爵も次期子爵も、私に毒を盛れる状況では……、でも、ナターナエル様の元恋人達なら、私を殺そうとするのかも?
彼女達には、使用人である私から婚約破棄は出来ないのだと言っても、不思議にもその言葉が理解されず、それでは困るだと言い続けていたのだから、私さえいなければと思っていても不思議ではない。
コホコホ
余りショックではない。 むしろショックを受けていない、自分の人間関係の希薄さにショックだった。
「本当に記憶がないのか?」
どこかでぼろが出れば、信用問題となる。 頼るべき相手の信用を失うのは余り良い風には思えない。
「正確に言うなら、混濁していると言う状況でしょうか? 私は、ここにあるコレを、アヤシイ薬だと思っていたと言う記憶があります。 同時に、これが調味料として使われていた事を知る人格をはっきりと思い出すことができるんです。 言っている意味は分からないでしょうが、そう説明するしかありません」
「……了解した」
溜息と共にケセルさんが呟いた。
「嬢ちゃんの言っている事は否定しない。 その状況は俺にも覚えのある状況だからな。 でだ、嬢ちゃん話は戻すが、アンタ、死んだことになっている。 次期当主の婚約者が不幸な事故で亡くなったために、盛大な葬儀を開こうってな」
「……はぁ? 私のため盛大な葬儀ですか?」
私は、首をユックリと傾げていった。
もはや方がっていると言うのが正しいかも?
ステニウス子爵家の者達ならば、彼等の目の前で私が死んだとしても葬式等はあげずに、死亡確認のため神官を呼びに行くと同時に私を埋める墓を掘りだすだろうぐらいに考えて居たのですが……。
葬式?
たかが使用人に?
考え込んでいれば、白虎が私を慰めるように言う。
「自分が死人扱いになっているのはショックだろうけど。 君の周りの人は君が死んだことにこんなに悲しんでいるんだ。 まだ身体の調子が悪いだろうけど、ソロソロ生きていることを知らせてあげるのはどうかな? きっと喜んでくれるはずだよ」
優しい穏やかな口調だった。
だが、内容はいただけない!!
「ソレはないと思います。 私は、多分……殺されかけていたんだと思います」
「だろうな。 箱部分の大きさを考えても馬は二頭立て、その2頭ともが逃れて箱だけが流れているなんてありえない。 挙句、マイには自然死を偽るための毒が数種類盛られていたらしいからな」
流石に毒の件は、寝耳に水だ。
「ぇ? それは、知りませんが……」
コホコホ。
驚いた顔をしつつ咳き込む私に、白虎は頬を寄せて大きな金色の瞳で見つめてくる。
「横になる?」
白虎の声が本当に心配そうだったので、笑って見せた。
「大丈夫です。 話の続きをお願いできますか?」
そう言えば、ケセルさんは頷き、テーブルの上に重ねてあった紙の束、いわゆる新聞というものを3日分放って寄越してくれた。
1日目、濁流の中に馬車が落ちた事実が書かれている。 名前がフォル・レームとなっているあたり、若い使用人は仕方がないとしても、昔はセラと呼ばれていた時期もあるのに、誰も名前が憶えられていないのかと呆れた。 いえ、もしかすると……ナターナエル様の婚約者の名は『フォル』と広まっている事で、違った名前でもそうする必要があったのかな?
まぁ、それはともかくお爺様の孫であり、ナターナエル様の婚約者であったことが書かれ、私がいかに子爵家のために幼い頃から勤めたかを美談として語られていた。 そして婚約者であるナターナエル様とどれ程深く愛し合っていたかを、ナターナエル様の悲しみの深さと共に延々とつづられていた。
大切な婚約者であったと。
2日目には、存在しない美しい物語が掲載されている。
3日目には、葬儀の案内が書かれていた。
遺体も見つかっていないとなれば先に捜索をするものだが、それに関しては御者の証言によってきっと生きてはいないだろうと語られており、それが死亡の決め手とされたらしい。
「殺されるような、身に覚えは? 俺としてはせっかくの植物魔法の逸材をむざむざと殺させたくはないんだが?」
ステニウス子爵と、その息子ナターナエル様達であれば、私が死ねば良い思いが出来ると思っているでしょう。 というか、馬車を遣いに出した時点でどちらかが私を殺そうとしたのは確かなのだ。 だけど子爵も次期子爵も、私に毒を盛れる状況では……、でも、ナターナエル様の元恋人達なら、私を殺そうとするのかも?
彼女達には、使用人である私から婚約破棄は出来ないのだと言っても、不思議にもその言葉が理解されず、それでは困るだと言い続けていたのだから、私さえいなければと思っていても不思議ではない。
コホコホ
余りショックではない。 むしろショックを受けていない、自分の人間関係の希薄さにショックだった。
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